畔蒜泰助の発言 (資源エネルギーに関する調査会)

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○参考人(畔蒜泰助君) ありがとうございます。御紹介ありがとうございます。笹川平和財団の畔蒜泰助でございます。
 私の方からは、私はエネルギーの専門というよりはむしろ外交、安全保障の専門ですので、今回のウクライナ軍事侵攻の背景と日本を取り巻く地政戦略環境への影響という形で御報告をさせていただければと思っております。
 まず、幾つか背景あると思うんですけれども、まず最初の背景ですが、やはり冷戦終結後のアメリカ主導の欧州の安全保障秩序の在り方、特にNATOの東方拡大問題をめぐるやはり米ロの関係の確執が、やはりロシアによる対ウクライナ軍事侵攻のまず背景にあるということなんだと思います。
 この問題が非常に明確に表面化したのは二〇〇七年二月ですね。プーチン大統領がミュンヘンの安全保障会議のサミットで初めて、要するに反対であるという、アメリカの政策を明確に非難をするということがあったのがこれ二〇〇七年二月ですね。言ってみたら、それ以来、ウクライナのNATO加盟というのはロシアにとってレッドラインであるということがこの時点で既に明確に示されていたということですね。
 なおかつ、それにもかかわらず、これはアメリカとロシアの戦略上の綱引きということなんでしょうけれども、二〇〇八年四月ですね、ブカレストのNATOサミットの首脳会議でアメリカが、このウクライナとジョージアですね、のNATO加盟へのプロセスを開始するということを提起するわけですね。これ、実際、最終的にはドイツとフランスがこれに反対したことでこのプロセス自体が始まらなかったわけですけれども、ただ、将来、両国がNATO加盟国になることに同意するという文言が残った。これが今日のウクライナのゼレンスキー政権がある時期まで、今ちょっとスタンスを変えていますけれども、NATO加盟を一生懸命努力をした背景にあったということですね。
 そんな中、二〇一四年に最初のウクライナ危機が勃発するということで、これ、クリミアの併合、それからウクライナ東部への波及とあったわけですけれども、この問題は実は二〇一五年の二月にミンスク2合意という形で一旦収まりました。このミンスク2合意というのは、停戦をしてウクライナ東部に特別な自治権を与えることで、事実上この問題、まあロシアからすると、そうすることでウクライナのNATO加盟に対して事実上の拒否権を確保するという形のこの解決方法だったわけですけれども、結局、この問題は、ミンスク2を、合意を土台とした停戦和平の交渉というのはずっと膠着状態に陥って前に進まなかったということですね。
 そんな中、二〇二一年の三月と十月にロシア軍がウクライナ国境に大規模集結をすると。これを受けてバイデン政権は、昨年の六月、それから十二月、米ロ首脳会談を行うと。特に十二月の首脳会談を受けて、欧州方面におけるロシアの安全保障上の脅威を議論する枠組みの立ち上げというのを実はこの時点で合意をしていました。
 それに対してプーチン政権は、NATOの更なる東方拡大を行わないなどの法的拘束力のある保証を求めるなどの条約案を公表し、今年の一月から二月にかけて協議を行ったわけですが、結局、バイデン政権から出てきた回答というのは、ロシアの西側方面の安全保障に一定の配慮した回答だったわけですが、ただ、冷戦後の欧州安全保障秩序の根幹に関わるNATOの更なる東方拡大を行わないとの法的拘束力のある保証、つまりこれロシアが求めている保証ですね、これは拒否をしたと。
 それに対して、二月の十七日、今度はプーチン政権がバイデン政権に対して、米国とその同盟諸国はロシアの安全保障に関する確固とした法的拘束力のあるギャランティーに関する同意が、関して同意する用意がないことから、モスクワはある軍事技術的な措置の実施を含めて対応する必要があると回答したということで、そして二月の二十四日、この軍事作戦が開始するに当たって、プーチン大統領は、年々西側諸国の無責任な政策によりNATOが東方に、そしてその軍事インフラがロシア国境に接近し、我が国に本質的な脅威を与えていると、これは我が国にとって生と死に関わる問題である、これは我々の国家の存在自体、その主権を脅かす現実の脅威であり、もはやレッドラインを越えたんだと、こういう形の説明をしてロシアは今回の軍事作戦を開始したということですね。これが背景一ですね。
 実は、それだけではなくてもう一つ背景があって、やはりこのプーチン大統領の歴史観というのもこれ見逃せない点だと。
 二〇二〇年の六月にプーチン大統領は第二次大戦に関する論文を書いている。で、二一年の七月にウクライナに関する論文を書いているわけですね。
 前者は、近年、実は欧州で、一九三九年の独ソ不可侵条約を第二次大戦の事実上の始まりとする歴史観、これ主にポーランドを中心に東欧、中欧諸国が要するにプロモートしている歴史観なわけですけれども、が徐々に有力になって、これ二〇一九年の九月にEUで決議をされるということがありました。それに対してロシア側は、ソ連は約二千七百万人もの犠牲を払ってナチス・ドイツを打倒して多くのユダヤ人を救済したんだと、そういう歴史観をかねてから主張しているということですね。
 それから、後者の論文に関しては、ロシアとウクライナの歴史的な一体性を主張するとともに、現キエフ政権が、これはロシア側が言っているんで、私が言っているんじゃないんですけれども、過激なナショナリストとネオナチ主義者による違法なクーデターによって成立した政権であり、その正統性に疑問を呈する内容だったということで、実際に二月二十四日の軍事作戦の開始のプーチン大統領の演説を読むと、NATOの主要国によって支援された過激なナショナリストとネオナチ主義者から成るキエフ政権は、ウクライナ東部において数百万人の人々に対するジェノサイドを実施していると、その特別軍事作戦の目的は八年間キエフ政権からジェノサイドに遭ってきた人々の救済なんだと、そのためにウクライナの非武装化と非ナチ化を目指すんだと、ただしウクライナの領土の占領が目的じゃない、こういう説明をするということだったわけですね。
 このように、二月二十四日のプーチン大統領の特別軍事作戦の演説は、このプーチン大統領の第二次大戦に関する論文とウクライナの論文の内容が色濃く反映されたものだったということですね。
 それから、もう一つの背景ですね。実はこれも非常に大きいんだと思うんですけど、実はプーチン政権のやっぱり意思決定メカニズムが実は機能不全に陥っているんじゃないかという指摘、それが大統領の情勢判断を誤らせたんじゃないかということですね。
 先ほどの二つの理由があったとしても、仮にそれをやったとしても、今回の実は軍事作戦、全然うまくいっていないわけですよね。じゃ、何でこんなうまくいかない軍事作戦を開始したんだということは非常に疑問に残るわけですけれども、これに関しては、一つ参考になるのが、二月二十一日に実はドネツク、ルガンスクの国家承認の是非が議論されたロシアの安全保障会議というのが開かれて、これ公開の場で、映像も公開されたわけですけれども、メンバーのやり取りを見ると、プーチン大統領が一人一人に下問をして、メンバーがもうおっかなびっくりで答えるというような状況が世界中に放映されたわけですけれども、もはやプーチン大統領の決定に誰も反論できないような様子が示されたと。
 これに関して、実は、バイデン政権、アメリカのですね、ウィリアム・バーンズCIA長官はこう言っています。プーチン大統領自らがつくり上げたシステムにおいて彼のアドバイザーの輪がどんどん狭くなっており、さらに、コロナの影響でそれは更に狭くなっているんだと、また彼の判断に疑問を呈したり異議を唱えたりすることは更に難しくなっているんだということで。
 こういう状況の中で、プーチン大統領は、彼自身がそれを必要だと思っても、実際にやるかどうかはやはりいろんな問題、いろんなプラスマイナスを総合して最終的に判断するものだと思うんですけれども、恐らく今のプーチン大統領の周りには、プーチン大統領がこうしたいということに対してそれを反論をすると、それを総合的に検討して、ロシアにとって何が一番ベストな選択なのかということですね、意思決定をするメカニズムが今どうやら機能していないんじゃないかということ、これが非常に背景としてあるんじゃないかということだと思います。
 実際、じゃ、実際この問題起こってしまったということで、じゃ、その地政学的な影響というのはどういうことなのかということで、これ、三つここでは指摘させていただきたいと思っています。
 まず、今、小山先生の話にもありましたけれども、やはり中長期的な欧州とロシアの相互依存関係は今後やはり希薄化の方向に向かっていくんじゃないかということですね。
 一四年のウクライナ危機以降、アメリカとEUはロシアに経済制裁を科してきて、今回のロシアによるウクライナへの全面侵攻を受けて、両者はロシアに更なる経済制裁を科しているわけですね。御案内のとおり、ドイツも、ガスプロムが主導するロシアとドイツをバルト海で直結するノルドストリーム2の天然ガスパイプラインプロジェクトも停止を発表していると。
 ただし、もちろん、EUの経済制裁には今のところエネルギーは含まれていない。今後、石炭が入るか入らないかという今議論が行われているようですけれども、特に、当面、やっぱりロシアからの天然ガスの輸入はこれは継続せざるを得ないということなんだと思います。ちなみに、二〇二一年ですね、EUはロシアから千五百五十億立方メートルですか、の天然ガスを輸入していると。これはEU全体のガス輸入の四五%、それからガス消費の四〇%弱ということで、相当やっぱり大きいわけですね。ただ、いずれにせよ、EUはやっぱり中長期的にはロシアへの天然ガス輸入依存度を大きく下げていくということになるんだろうと思います。
 そうなってくると、ロシアは、次、そういう状況の中で、歴史的にロシアはEUとの関係がずっと、まあヨーロッパですよね、ロシアというのは元々ヨーロッパの国なわけで、ヨーロッパとの関係非常に深いわけですけれども、やはり今後、やっぱりロシアの中国への戦略的、経済的な依存度がこれ上がっていかざるを得ないという状況なんだと思います。
 二〇一四年のウクライナ危機以降、アメリカとEUから経済制裁を受けて、ロシアは中国との戦略的、経済的な関係を深めてきたわけですね。今回のロシアによるウクライナへの全面侵攻を受けて、アメリカが、EUや、ロシアに更なる経済制裁を科したことで、ロシアは中国への戦略的、経済的な依存度をこれもう一層高めざるを得ないという状況なんだと思います。
 アメリカやEUは中国に対してロシアと距離を取るようにということを働きかけているわけですけれども、御案内のとおり、ロシアは今のところ、中国に対して、あっ、中国はですね、ロシアに対してウクライナへの軍事侵攻を直接非難することもしていませんし、国連の非難決議でも一貫して棄権をしているということですね。もちろん経済制裁も科していないということで。
 これ、中国、もちろん中国としてみると、アメリカによるロシアに対する経済制裁のもちろんとばっちりは受けたくないでしょうから、そこは非常に慎重にやっているということは間違いないと思うんですけれども、ただし、中国のやはり中長期的な戦略を考えると、やはりアメリカとの大国間競争というのがやはり中国にとっては、特に今の習近平政権にとっては非常に大きな優先順位だと考えると、やはりアメリカ中心の世界秩序の変革という共通の目標を持つロシアとの戦略的関係は維持していく可能性が高いということだと思います。
 そうなってくると、この最後なんですけれども、実は、日本とインドというのが今この問題でどう対処するのかというのはある種問われていると。ここで実は対応が微妙に今分かれてきているというのがその状況だと思います。
 というのも、実は二〇一四年のウクライナ危機以降、ロシアは先ほど申し上げたとおり中国との戦略的経済関係を深めていったわけですけれども、ただし、同時に、実はロシアというのは、米中の対立時代の到来を見据えて、インド、特にインドの場合は武器の取引が非常に重要で、例えば、これよく言われますけれども、実はインドはロシアに原子力潜水艦をリースを受けています。ですから、インドに対して原子力潜水艦をリースする、できる国というのは恐らく今の時点でロシアしかないんだと思うんですね。これアメリカはできない、やらないと思います。あるいは、S400という地対空ミサイル、非常に性能のいい地対空ミサイルを、これは二〇〇〇年の末に、あっ、二〇〇一年ですね、ごめんなさい、去年ですね、去年の末に購入をしています。
 これ、実は今のアメリカの、二〇一七年にできたアメリカのCAATSAという対ロ制裁の法律があるんですけれども、これによると、アメリカはロシアから武器を購入した国に対して制裁を掛けなきゃいけないという法律があって、実はトルコは、ロシアからそのS400を購入したことを受けて実はアメリカから制裁を受けているんですね。ところが、今のところアメリカはインドに対して実は制裁を、S400の購入に関して実は掛けていない。その最大の理由は、インドが中国との関係の中でロシアから武器を購入をしていると、中国に対抗するというか、中国との軍事バランスを維持するためにロシアから武器を購入している。そういうことを総合的に考えて、今のところですね、今のところバイデン政権はインドに対して制裁を掛けていないわけですけれども、そういう関係があるんですね。
 日本もエネルギーなどで協力関係を強化を通じて、アメリカはもちろん、中国にも過度には依存しない戦略的自律性を維持した大国としての生き残りを目指してきたわけですね、ロシアは。ただ、我が国は、平和条約問題も加えて、ロシアへの中国の過度な接近は回避したいとの思惑から、我が国も、我が国もロ中が過度に接近するということは嫌なので、同様の戦略観を持つインドとともにロシアに戦略的関与を行ってきたという。安倍政権の対ロ政策というのは、私の理解ですけれども、領土問題、平和条約交渉ももちろんあったと思うんです。そのやはり対中問題というのも非常に戦略的な背景としてあったということだと思います。
 ただし、今回のウクライナへ、あの軍事侵攻を受けて、我が国はアメリカやEUとともにロシアへの厳しい制裁を科したと。それに対してインドは、ロシアへの経済制裁を科していないのみならず、むしろロシアとのエネルギー、特に石油ですね、の取引を今増やしているという状況ですね。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という想定外の事態を受けて、インドは、対中に、中国に念頭置いたクアッド、日米豪印のですね、と、クアッドの枠組みとロシアとの間で微妙なバランス外交を今展開をしていると。
 我が国は、G7の枠組みの中で米国や欧州と並んでロシアに厳しい経済制裁を科したわけですけれども、これに対してロシアは平和条約の条約交渉の打切りを通告してきたということで、ロ中関係の更なる深化と相まって、日ロの二国間関係、恐らく今後長期的に低迷期に入っていく可能性はやっぱり高いんだと思うんですね。
 ただし、ただしですね、さはさりながら、現在その制裁対象に含まれていないエネルギー分野におけるロシアでの権益については、日本がこれらの権益を手放したとしても、今言ったように、もう中国との関係は接近している、さらにインドも今ロシアとの関係を、彼らは彼らの戦略観でロシアとの関係を維持していくという方向性を打ち出していますので、これらを日本が手放したとしてもやはり彼らが取得していくという可能性が極めて高いと。そうだとすれば、ロシアへの経済制裁の効果というものは極めて限定的になる可能性が高いので、やはり我が国エネルギー安全保障の観点からこれは維持すべきなんじゃないかと私も考えております。
 以上でございます。

発言情報

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発言者: 畔蒜泰助

speaker_id: 34552

日付: 2022-04-06

院: 参議院

会議名: 資源エネルギーに関する調査会