白石隆の発言 (内閣委員会)

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○参考人(白石隆君) 今日は、お招きいただきまして、ありがとうございます。
 大きく三点申し上げたいと思います。一つは、経済安全保障というのはどういうことかと。それから二つ目に、なぜ経済安全保障というのは重要なのか。それから三つ目に、私、衆議院、参議院での議事録を全て拝見いたしましたけれども、非常に実質的な議論が行われておりまして、先生方に本当に敬意を表しますが、同時に、私として、もっと強調をされてしかるべきではないかという点について申し上げたいと思います。
 まず最初に、経済安全保障ということはどういうことなのかということでございますが、ごく簡単に申しますと、経済安全保障の目的というのは、経済的手段によって国家と国民の安全を守るということと、国民経済に極めて重要な機微情報・技術、ここで一つ言葉落ちておりますけれども、産業を守るということ。それから三つ目に、いわゆる自由主義的な国際秩序、これが第二次大戦以降の日本の安全と繁栄、それから自由を保障してきたわけですけれども、この自由主義的な国際秩序を守るために信頼できる国々と連携する。この三つが私は経済安全保障の目的だというふうに考えております。
 英語では特に定訳はございませんが、経済的な手段によって国策を達成すること、時に、ですから経済国策という訳が最近使われておりますが、そういう意味でエコノミック・ステートクラフトという言葉が使われますけれども、これよりは随分範囲の狭い言葉として経済安全保障という概念が使われているというふうに考えております。
 当然のことながら、経済安全保障に関わる政策というのはいろいろございます。ですから、現在、先生方が議論されて、審議されておられる経済安全保障推進法案というのはそういう政策手段の一つであって、私の理解では、日本の経済安全保障を確保するための政策の手段、これ私は道具箱というふうに言っておりますけれども、この道具箱を充実させるためのものだと。それ以外にも、エネルギー外交だとか食料外交、あるいはエネルギー安全保障、食料安全保障、あるいは外為法にあります安全保障貿易管理、さらには安全保障上の政策的なインプリケーションを持った国際開発協力プロジェクト、こういうものも実は全て経済安全保障に関わる政策ですが、その中で今まで余り注目されていなかったところを今回は経済安全保障推進法案という形で道具をもう一つ充実させていくというのが今回の狙いであろうと私は理解しております。
 それでは、なぜそういう意味での経済安全保障への関心が高まっているかと。これはもう先生方よく御存じだと思いますけれども、やはりこの十五年ぐらいでしょうか、経済制裁ということが多用されるようになってきて、それがちょうどグローバル主義が力を失っていくのと軌を一にしているということだろうと思います。
 例えば、これは日本が経験し、オーストラリアが現在も、二〇二〇年以来経験していることですけれども、中国あるいは中華人民共和国は、ウイン・ウインの経済協力といいながら、この経済協力はいつでも経済制裁になり得るというのがこれ現状でございますし、アメリカも、もうこれは随分長い間、エコノミック・ステートクラフトということで経済制裁を使っております。
 ですから、こういうことを全部合わせまして、現在、特にアメリカの政治学、国際政治学のあるいは政治経済学の分野では、これまではエコノミック・ステートクラフトという概念を使っておりましたけれども、概念として、私はこれは日本発だと考えておりますけれども、エコノミックセキュリティーという概念も使われるようになってきておりまして、その場合、特に明確に定義について合意があるとは思いませんけれども、一般的に申しますと、経済、科学技術における安全保障上の外部性をコントロールすること、ちょっと難しい言い方になりますけれども、経済、科学技術の安全保障上の意味合いが非常に大きいものについて、それをコントロールすることをもってエコノミックセキュリティーと言っているというふうに私は理解しております。
 それでは、なぜ経済安全保障が重要なのか。第二点目のポイントでございますけれども、ごく一般的に申しますと、安全保障というのは、平和と安全、人権と民主主義、自由と公正、生命と健康、こういうこと全てに関わりますけれども、ネットワーク中心の世界が生まれることで戦争と平和の境界が非常に二十一世紀になって曖昧になっているというのがやはり一番大きな理由ではないかと思います。
 これがいつから始まったのかというのは、これはなかなか言い難いことでございますけれども、例えば、新しい戦争ということが生まれたのは、これは一九九一年の湾岸戦争でございまして、このときに初めてネットワーク中心の戦争ということが言われ、それで二十一世紀に入りますと日本でもソサエティー五・〇のようなことが言われるようになり、現在では全てのものがネットワークにつながっているというのは、これはもうごく当たり前のことになっている、これが一つ大きい理由だと思います。
 もう一つは、先端技術あるいは先端新興技術が二十一世紀の安全と繁栄の鍵だということが世界的に広く理解されるようになったということだろうと思います。
 実際、アメリカも欧州諸国も日本も中国も、あるいはオーストラリアもインドも、先端新興技術について非常に大きな投資をやっておりますけれども、その分野がどこかということを見ますと、ほぼ全て一致しております。ですから、その上、その意味では、世界のあらゆるところで投資の能力のある国はあるいは企業は、こういう先端新興技術のところに投資していると。理由は、当たり前のことながら、これからの安全と繁栄、そして、ビジネスの場合にはその成功の鍵はこれにあるからだということだろうと思います。
 二十世紀と比べますと、幾つか非常に大きな変化がございます。
 一つは、基礎研究から技術開発までの時間が非常に短くなっていると。場合によったら、科学技術的な知見がそのまま技術になるという時代に来ております。
 二つ目に、先端新興科学技術におきましては、いわゆるデュアルユースという概念がもう既に妥当でなくなっていると。つまり、あらゆるものが事実上デュアルユースに、両用になっておりまして、しかも、誰かが、あるいはある企業が、科学技術を開発しているのとは全然関係ないところでその技術を見て、何かそれの、例えば元々は民用の技術を開発していても、それをほかの人たちが見てそれを軍用に使うなんということはごく当たり前のことになっております。
 という意味で、実はエンドユースとエンドユーザーというのが分からなくなってきていると。技術の分野で考えても、なかなかこれがどう使われるか分からないというか、何にでも使われると。しかも、技術のレベルを考えても、どのレベルでコントロールすればいいのかも分からなくなってきている。そうすると何をするかというと、エンドユース、ユーザーのところで、ひょっとするとこれは危険なところで使われるかもしれないという企業あるいは団体をコントロールするということが一つの考え方としてあります。それが、例えばアメリカ政府が現在多用しておりますエンティティーリストでございます。
 三つ目に、これは日本だとかアメリカだとか欧州の場合で、中国は違いますけれども、科学技術開発のイニシアティブが国の研究所から大学と企業に大きく移ったということでございます。例えばアメリカの例ですと、国防産業が使う技術開発の額とGAFAが使う額だと一桁違います。GAFAの方が大きい額を使っております。
 四番目に、これは、いわゆるグローバル化の中で研究者も学生もお金もサプライチェーンも全部国境を越えて広がりましたけれども、これを国によっては自国の軍事、産業、技術力の強化に使う国が出てきたと。そういう国が自由主義的な国際秩序に挑戦しているということもございます。また、その中で、非国家主体、テロリストグループのようなものがやはり登場して、本当に新興技術を自分たちのための目的に使うということも起こっていると。
 それから最後に、こういう先端新興技術の、あるいは産業の頭脳には基盤がございます。その基盤というのは例えば半導体でございまして、半導体がなければその新興科学技術というのはそもそも動かないということになっております。
 こういう中で、政策的には、当然のことながら、これ二枚目に移ります、先端新興技術産業の基盤を守るということが非常に重要になります。私は、今回の法案でサプライチェーンを守るといったときに常に半導体、電池が出てくるというのは、そういう意味で非常に適切なことであろうというふうに考えております。
 それから二点目に、現に存在するネットワーク中心のインフラを守るという、これも当然のことでございまして、恐らく戦争においても、仮に何かあのウクライナのような状況がアジアで起こった場合にも、まず最初に起こるのはインフラのどっかが動かなくなるということだろうと思いますので、これを守っておくというのが極めて重要だろうと考えております。
 それから三番目に、当然のことながら、先端新興技術が重要になりますと、あるいは二十一世紀の安全と繁栄の鍵になりますと、それに投資をする必要がございます。これが言わば産業政策と科学技術政策を結合した二十一世紀の新しい産業政策だろうというふうに私は考えております。
 それから四つ目に、当然のことながら、そうやって投資してつくった、あるいは得た知見、あるいはその技術というのは守らなければいけない。これが、私は基本的にこの経済安全保障推進法案の組立ての基礎にある考え方ではないかと理解しております。
 最後に、それじゃ、これを、経済安全保障政策をこれから考えていくわけで、重要なのは何かと。四点だけ、もう大分時間来ましたので急いで申し上げますと、一つ目は、やはり道具箱というのはこれで全部そろったというわけではございませんので、これから先また必要になればどんどんつくっていただきたいというのがこれ第一点です。
 それから二点目に、先ほども、これ繰り返しになりますけれども、先端新興技術というのはエンドユース、エンドユーザーの分からない技術でございまして、重要なことは、使う側、これは多くの場合起業家ですけれども、使う側の想像力の問題なんだと。こんなものはできないかなというふうに考えてつくったら、それが勝ちなんですね。ですから、その意味で、科学技術政策では時々シーズとニーズのマッチングという言い方しますけど、でも実はニーズがまだ分かっていないんだと。分かっていないようなものをどうやって言わば種をまき、育てていくかというのが重要なんだということでございます。
 それから三番目に、鍵になるのは、これは、自由主義、国際秩序というのを守る上で鍵になるのは信頼という言葉だということでございまして、サプライチェーンの再編におきましても、信頼の上に新しいサプライチェーンをつくると。ほかの国からの投資だとか技術導入する場合にも、信頼できる国、信頼できる企業から導入する。共同研究も、信頼できる国の研究チームと一緒にやるということが重要だろうと思います。
 それから最後に、特にこの議事録を拝見しておりますと、経済安全保障における、知る、守る、育てるということでシンクタンクの役割ということがよく触れられておりますけれども、私自身は、シンクタンクについては二つ違うタイプのものが要るんではないだろうかと考えております。
 知るは、当然のことでございまして、先端新興技術に関わる技術者あるいは研究チームがどういう機関あるいはどういう企業にいて、どんな研究をどこの誰と一緒にやっているかと。それのデータベースを作って、ネットワークがどういうふうにできているかということを見付けるのは間違いなく重要ですが、それを守るためには、こういう技術あるいは経済の安全保障上のインプリケーションをきちっと理解するシンクタンクが要ります。
 同時に、育てる、つまり人材を育成し、科学技術を振興する、そこで日本がこれから伸ばせるだろうところを見付けて投資するという、そういうシンクタンクも要ると考えております。
 これが、今日、私が申し上げたいことでございます。
 少し時間を超過しましたけれども、どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 白石隆

speaker_id: 23532

日付: 2022-04-21

院: 参議院

会議名: 内閣委員会