国府泰道の発言 (法務委員会)
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○参考人(国府泰道君) じゃ、発言させていただきます。
まず最初に、自己紹介を申し上げたいと思います。
私は、大阪で弁護士をしておりまして、弁護士登録三十八年になろうかと思います。今から十年前には、日本弁護士連合会の消費者問題委員会の委員長もやらせていただきましたが、三十八年の弁護士生活ずっとわたって、消費者や生活者のための訴訟活動であったり、それから制度の改革提言であったり、さらには中小零細企業者の法律紛争の支援、そういったことを中心にやってきた、普通、町にいる弁護士の一人であります。
今日、私は、今回の民事訴訟法の改正法案の中で、法定審理期間訴訟手続を新設するという提案がされておりますので、これに対する反対の立場から意見を申し上げたいと思っております。
まず最初に、この手続の問題点として三点申し上げたいと思っております。
この期間限定裁判というのが近代裁判の原則にない、そういった制度ではないのかということであります。
この法定審理期間訴訟手続というのは、裁判における審理期間、つまり主張を立証をする期間、これを六か月に限定しようという、そういった訴訟手続です。法務省は、裁判の迅速化と期間の予測可能性を高めるための制度だと説明しています。この二つが立法目的だというわけですね。
これまで、訴訟といいますのは、判決に熟したとき、つまり主張、立証が尽くされたときに判決をするということになっています。これが近代訴訟の原則でもあります。諸外国でも同様です。期間を定めて、期間が到来したから判決するんだといった制度は諸外国にはないわけです。これは裁判の本質を根底から変えてしまうものではないのかと、そういった危惧を持っております。
裁判を受ける権利、これは憲法で定められた権利です。その中には、裁判所が当事者の言い分をしっかり聞いて、審理を尽くして判決をするというものが内容として含まれています。国民は、裁判所に事実を解明してもらいたい、そういったことを求める権利も持っているということであります。それで正しい裁判をやっていただく、これが国民の権利であります。
第二点目として、この制度では不十分で粗雑な審理になる危険性があると考えております。
この手続では、審理期間が限定されるということのために、事実上、主張や証拠が制限されてしまいます。不十分で粗雑な審理がなされる危険性があるんです。その結果、裁判にとって不可欠である事実の解明が不十分になったり、正しい裁判ができなくなってしまうおそれがあるわけです。
もちろん、迅速な裁判、これは誰もが望むところではありますが、どういった方法によってそれを実現するかが問題であります。利用者は、裁判は証拠に基づいて適切な事実認定がなされることがまず大前提であります。そして、それが早く行われることを望んでいるわけです。
実際の裁判では、そう単純なものではなくて、裁判というのは生き物だというふうに言われることもありますが、思い掛けない相手の主張や証拠が出てくることもありますし、それから、期間を制限されたことによってそういったものに対する反証が準備できない、そういったこともある。その結果、思い掛けなく敗訴するリスクもあります。この手続には元々そういったリスクがある、そういった手続であります。
こういったリスクがあることについては実は法務省も認めておられまして、そのためにはいろんな手当てを講じているんだということの説明がなされています。それについては後ほどまた詳しく述べたいと思いますが、それらの手当てを継ぎはぎしたとしても、この手続は粗雑な認定がなされるリスクを解消したとは言えないというふうに考えております。
三つ目の問題点としては、立法事実の検討ができていないことであります。
立法事実といいますのは、制度の必要性、それからそれを根拠付ける事実、社会的事実、そういったことをいいます。
立法提案者は、争点が少ない簡単な案件では本手続の需要があると言いますけれども、そのような事件は実は現行制度下でも短期間に判決ないし和解で終了しています。そもそも、このような手続を必要とするような事件類型が明らかになっていません。どんな場合に本手続の需要があるのか、そういったことが必ずしも明らかになっていないのです。立法事実が極めて不十分な提案であると言わざるを得ません。
この制度に賛成する方でも、せいぜい、あってもいいのではないの、選択肢が増えるからいいんじゃないのといった程度の賛成理由です。しかし、リスクが懸念されるのですから、その程度の必要性ならば立法は見送られるべきではないでしょうか。
次に、衆議院での審議を通じて明らかになった問題点について申し上げたいと思います。
今述べましたような問題点が指摘されてきたことに対しまして、法務省は、衆議院の法務委員会の審議の中で、予想される弊害については様々な手当てを講じていますという説明をされてきています。果たしてそうかという点について、以下六点にわたって述べたいと思います。
第一点目は、IT化の法案と同時に審議すべきテーマではないという点です。
期間限定訴訟といいますのは、そもそも民事裁判のIT化と直接関係のない提案であります。今述べましたようないろんな問題があって、裁判制度の根幹に関わるようなこの手続の問題をIT化の問題と併せて議論すべきではないというふうに考えています。
IT化は裁判実務に劇的な大変化をもたらすものです。様々な懸念があります。そういったものについての慎重な検討が必要です。そういった、日本の裁判にとって大変革となる大きな課題に取り組むときに、それと直接関連しない制度を導入して、それを一緒に審議させようというのはこそくなやり方ではないでしょうか。本手続は、期間制限というこれまでなかった制度、外国にもないような制度ですので、他の迅速化のための課題とも併せて別の場で堂々としっかり議論されるべき課題ではないでしょうか。
第二に、調査が不十分だという点であります。
衆議院の審議では、最高裁がこの手続の提案をした際には論文や調査報告書のなかったことが明らかになりました。海外にもないような制度なので、これについて書かれた論文もなく、研究はなされていないテーマであります。事前の調査研究が余りにも不十分で、生煮えの提案だったのではないかというふうに思います。
第三に、訴訟代理人の要件が付いていない点であります。
この制度をどんな場合にどんな事件に利用するのか、これを適切に判断するためには弁護士などの訴訟代理人が付いていることが不可欠です。法務省は、期間限定裁判は訴訟代理人が付いているような場合でないと認められないという説明をしましたが、しかし、実際の条文にはそのようなものは存在しません。条文を設けなかった理由について、法務省は、法務部を設けている企業が当事者になるような場合は、訴訟代理人が選任されていなくても期間限定裁判の使用を認める、認めていいんではないか、まあそれはそうでしょう、そういった説明をしました。
しかし、果たしてそのような企業が弁護士を訴訟代理人に選任しないで本人訴訟の形式を選択するでしょうか。本人訴訟というのは、法人の場合は社長若しくは支配人が裁判所に出頭しなければできないんです。そのために代理人に委任するわけですから、立派な法務部を設けている企業がそんなことは到底想像できないものであります。
それから、法務省は、訴訟代理人が選定されていなくても、適正な審理の実現を妨げると認められるときという条文に該当するとしまして、この手続の利用をさせないという決定を裁判所がすることができると言って説明しています。
しかし、そのような抽象的基準で適用除外されるでしょうか。ちょっと考えていただきたいんですが、本人訴訟の当事者がこの手続の利用をしたいというふうな申出をしてきたときに、裁判所が、あなたは代理人が付いていないから適正な審理の実現を妨げる場合に当たりますよ、この手続は利用できないんですよと果たして決定できるでしょうか。
結局、法務省の説明は、この手続には弊害とリスクのあることは認めながら、訴訟代理人が選任されている場合に限ることを明文化せず、裁判所の判断次第の抽象的な規定を設けるにとどまっております。これではリスク回避の制度的保障にはなっていません。
第四に、適用除外の類型が不十分だということです。
消費者契約に関する紛争、それから個別労働紛争、そういったものについて除外すると言っていますが、除外されるべきはそれだけではありません。労働者といっても、コンビニの店長や料理のデリバリー配達員や偽装請負のように形式的労働者でない場合もあります。そういった人たちも保護されるべきではないでしょうか。
第五に、通常訴訟への移行の点であります。
この手続は、粗雑な判決になってしまう、裁判になってしまうというリスクがあることから、途中で一方当事者が通常訴訟への移行申立てができる制度案に変更されました。つまり、乗り降り自由になったわけですが、これはそういったリスクに対応しようというものです。しかし、その結果、通常訴訟に移行することによって、当初、訴訟期間が予測できる制度だというふうに言われていたものが、とんでもないものに変わってしまいます。
そういったことで、私たちは、この訴訟手続には様々な問題があるので別の場でじっくりと御検討いただけないかと思って、今回の民事訴訟法の改正法案の中からは除外して、IT化の問題だけで改正法案を実現して進めていただきたいというふうに思って、意見を述べさせていただきました。
以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。