森信茂樹の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(森信茂樹君) 皆さん、おはようございます。東京財団政策研究所の森信でございます。
 私からは、我が国の経済財政の課題として、経済の現状認識、必要な政策、財政に関する見方の三点をお話しさせていただきたいと思います。
 最初に、我が国経済の現状認識です。
 図の三ページをお開きいただきたいんですが、この三ページの図は、総務省の家計調査、二人以上世帯で、我が国の所得と資産の分布の変化をアベノミクス期以前とアベノミクス期に分けて比較したものです。
 これを見ますと、黒塗りのアベノミクス期には、四百万円から七百万円の収入階級の分布が、これ減少しております。一方、七百万円超と三百万円以下の収入階級が増加しており、中間層が二極化したことが明確に見て取れます。
 それから、次の四ページの図ですが、これは貯蓄残高、資産の変化で、これを見ましても、中間層の割合が減少し、右と左に二極化していることが見て取れます。さらに、オレンジ色の部分ですが、これはコロナ禍の時期です。これは、二極化の動きが加速しているというふうに考えております。
 以上のことは、これは私の認識ですが、アベノミクスの描いたトリクルダウンというストーリー、つまり、政府が円安や金融緩和により大企業の業績を改善させれば、その成果が市場メカニズムに沿って中小企業や国民全体に及んでいくということが生じなかったことを示していると言えましょう。民間や市場メカニズムに任せただけでは国民全体の格差は是正できないということでもあります。
 一方で、安倍政権は八年に及ぶ長期政権となり、若い世代を中心として国民の支持率もそれなりに高いものがありました。アベノミクスによるトリクルダウンが機能せず、中間層の二極化が生じたにもかかわらず長期政権となったことには、それなりの理由があったと考えております。
 それは、アベノミクスの持つもう一つの側面で、私が意図せざるリベラル策と呼んでいるものでございます。安倍政権は、二度延期しながらも消費税率を八%、一〇%と引き上げ、十数兆円の財源を活用して、子ども・子育て支援や幼児教育の無償化、待機児童解消などを進め、高齢者に偏っていた社会保障を全世代型に切り替えました。
 大和総研の研究成果で、三十代四人世帯の実質可処分所得が、二〇一九年から施行された幼児教育無償化の恩恵が二度の増税による可処分所得の減少を上回り、増加したという分析があります。
 このような社会保障の政策転換が子育て世帯を中心として安倍政権への評価につながったというふうに考えておりまして、それが長期政権を続けることができた原因であったというふうにも捉えております。
 以上から言えることですが、トリクルダウン、つまり、企業行動や市場メカニズムに任せただけの分配の効果は低いということ、一方で、国家が自らの権能である税制や社会保障を見直す再分配を行っていくことが重要だということです。
 我が国経済がいまだデフレ脱却できずにもがいている最大の原因は、個人消費の低迷にあります。国民の間には医療、年金、介護、子ども・子育てなどに対する将来不安が根強く残っており、これが消費者の財布のひもを締めさせ、勤労世代が安心して子供を産まず、少子化につながっています。
 この国民の不安を解消するには、信頼のできる社会保障の将来像を示すことだと考えています。賃上げを促進しても、不安がある限り分配と成長の好循環はできないと考えます。先ほどのアベノミクスの事例は、国民は、増税や社会保障負担の増加により国民負担が高まったとしても、それが自分たちに還元され、将来不安やリスクを軽減すると実感すれば負担増を受け入れる素地を持っているということを示しているのではないでしょうか。
 次は、国民の安心を高める具体的なセーフティーネットについてお話をしたいと思います。
 コロナ禍を機に政府部内でデジタルガバメントに向けた対応が進められています。しかし、デジタルガバメントというのは、行政サービスを効率的、効果的に進めるための手段にすぎません。二〇一六年一月から始まったマイナンバー、この制度の目的は、公平な課税、つまり正確な所得把握とそれを基にした効果的、効率的な社会保障制度の構築、この二つです。この原点に立ち返って、マイナンバー制度を活用したデジタル時代のセーフティーネット、つまりデジタルセーフティーネットを構築することが国民の不安の解消につながると考えております。
 働き方改革やコロナ改革で、ネット上のプラットフォームを介して単発の契約で労務やスキルを提供して所得を得るギグワーカーが増加し、ギグエコノミーが広がっています。これは、新たなライフスタイルとして期待される一方で、ギグワーカーなどフリーランスの所得は一般的に不安定です。また、オンライン飲食配達代行サービスの配達人などは、プラットフォーム企業から業務内容について指示を受けるなど労働者と同じ働きをしているにもかかわらず、個人事業者となるので、様々なセーフティーネットから抜け落ちてしまいます。さらに、彼らの収入の管理、記帳は十分でなく、例えば持続化給付金の申請に手間取るなどの問題が生じています。
 彼らのセーフティーネットを考えるには、まず収入を正確に把握することが大前提になります。そのためには、業務の発注主や契約を仲介するプラットフォーム企業から労務を提供する者のマイナポータルに収入情報の提供をさせることが必要です。マイナポータルは、e―Taxや社会保障と連携しているので、個人事業者が各種給付金の申請や正確な給付に役立てることが可能になります。
 このことを示したのが十一ページの図でございます。
 ちょっと十一ページは見にくい図かもしれませんが、真ん中にこの国民全員が保有するマイナポータルが書いてあります。ぴったりサービスとかお知らせとか書いてあります。これは国民の一人一人に設置されているものです。左側に民間のいろんな企業があります。本人の同意に基づき、様々な情報をこの民間の企業から今情報を入手することが可能になっています。この仕組みに、一番左の下に書いてあるんですが、プラットフォーマー、プラットフォーム企業から、そこで働くギグワーカーの収入情報を提供、連動させるようにすれば、このギグワーカーたちの、あるいはフリーランスの税務申告や社会保障の早期受取につながっていくと思います。
 さらには、このようなシステムを構築すれば、広く欧米で導入されている給付付き税額控除制度も可能になります。この制度は、税と社会保障を連動させることにより、低所得の勤労者に減税や給付が与えられるもので、労働インセンティブを供与したり、フリーランスの不安定な収入の安定化につながります。
 英国では、あらゆる社会保障給付と税負担が一体的に捉えられ、勤労に応じて給付が増加するユニバーサルクレジット制度があり、職業訓練、人的資本の向上策と組み合わされて、人的資本の向上に役に立っております。類似の制度はオランダ、スウェーデンなどの北欧、欧州諸国や韓国にも存在し、低所得者のセーフティーネットになり、またコロナ給付金の早期給付にもつながっております。
 是非、我が国でも、デジタルを活用して収入や所得をリアルタイムで把握しつつ、必要な給付に結び付ける制度を検討していただきたいと思っております。国民の将来不安を軽減する大変有効な経済政策というふうに言えましょう。
 三番目に、MMTについて申し上げたいと思います。最後に、このMMT、つまり現代貨幣論について私の考え方を述べたいと思います。
 MMTは三つのパートに分かれます。第一は、政府と中央銀行の勘定を一体とみなし、財政赤字拡大に伴う国債の増発分は、それに見合う国民の資産増加となるので、公的債務の増加は将来世代の負担にはならないという考え方です。第二に、したがって、自国通貨を発行する権限のある政府は、中央銀行が財政赤字分の国債を買い続けることによって、国民負担なく財政支出が可能になるとし、経済に需給ギャップがある限り、これを埋め合わせる財政出動を行うべきだとしております。第三に、積極財政の歯止めはインフレ懸念で、インフレ率が上昇し始めたら増税や歳出削減によって対応する、そのルールをあらかじめ決めておけばいいとしています。
 金融政策が機能不全になり、デフレ脱却にもがく我が国の現状に対して、財政赤字を気にすることなく、コロナ対応も含めた経済政策の実行を主張する論者や政治家の方々の主張を正当化する文脈で用いられています。
 筆者はこのような考え方に対して、インフレ、ワイズスペンディング、国家の信任という三つの観点から疑問を呈しております。
 第一点目は、インフレの問題で最大の課題です。我が国財政については財政破綻の危機が言われますが、財政破綻というのはどのような形で発生するのか、定説があるわけではありません。また、日銀が財政赤字をファイナンスをしている状況下では、直ちに財政破綻が生じる可能性は高くないと言えましょう。むしろ、懸念すべき問題は、国の目指す二%をはるかに超えるインフレの発生です。
 インフレは、耐えられる富裕層と耐えられない貧困層との格差を拡大し、社会に大きな亀裂を招きます。MMT論者も、財政拡大策の唯一の歯止めはインフレとして、インフレ率が上昇し始めたら増税や歳出削減により対応する必要がある、あるいはそのための具体策をあらかじめ決めておけばいいとしています。
 しかし、あらかじめインフレ懸念が出始めれば財政拡大をやめ、緊縮に向かうということを法律で決めることが現実的でしょうか。事前に決める増税は所得税なのか、消費税なのか、あるいは新税なのか、歳出削減は社会保障か、公共事業か、どの程度の規模なのか、これらの事項を我が国の国会であらかじめ議論し、立法化できるでしょうか。
 安倍元首相は、消費税一〇%の引上げの時期をめぐり、法律で実施時期が決まっているにもかかわらず、二度も延期をしております。
 また、インフレ懸念が生じたら増税や歳出削減をという主張は、タイムラグを考慮しておりません。
 筆者が経験した例ですが、我が国が土地バブル対策として導入した地価税が挙げられます。
 高騰する土地価格が社会問題化し、対策の必要性が議論され始めたのが一九八九年で、地価税の導入は九二年、この間、三年が経過しております。導入された九二年には既にバブルが崩壊し、地価は下がり始めており、地価税の対象となる百貨店やホテルなどの経営を更に苦しめる結果となりました。インフレ懸念が生ずれば増税、歳出削減で機動的に対応すればいいというMMT論者の主張は、実現性が低いと思います。
 次に、ワイズスペンディングからの問題です。
 需給ギャップがある限り、それを埋め合わせる財政追加をすべきということになれば、ワイズスペンディング機能は機能せず、果てしない無駄な政府支出や政府投資が行われ、それが更に経済の停滞の長期化につながるという問題です。
 一つだけ例を申し上げますと、投資されたが有効活用されず、維持費だけがかさむ、国の資産価値が、これは資産価値が毀損しているというふうに見ることができまして、したがって、国民の借金は国民の資産だというふうには言えないというふうに私は思います。
 最後に、国家、通貨の信認の問題があります。
 際限なく国債発行を続ければ、国家に対する信用は落ち、通貨への信頼、信認も消え、国債の買手がいなくなります。国内でファイナンスできるから大丈夫というこのMMTの大前提は崩れてしまいます。二〇二五年には、団塊世代が全て後期高齢者になり、国債を国内の貯蓄でファイナンスする力が大きく衰えてくることも念頭に置く必要があります。財政をめぐる新しい見解としてのMMTは、様々な課題や疑問を抱えています。
 一方、米国では潜在GDPを超える膨大な財政支出やエネルギー価格の上昇などから急速な物価上昇が生じており、欧州でもインフレの兆候が見え始めています。
 このように見てくると、今必要な経済政策は、インフレにつながるような財政運営を避けつつ、あわせて、国民に受益と負担のリンケージあるいは選択肢を含めた社会保障の将来像を示しつつ、国民の将来不安を軽減させることではないでしょうか。
 以上でございます。

発言情報

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発言者: 森信茂樹

speaker_id: 2819

日付: 2022-03-08

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会