桐原尚之の発言 (厚生労働委員会)
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○桐原参考人 全国「精神病」者集団の桐原です。
全国「精神病」者集団は、一九七四年に結成した、精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。結成当初から、精神障害者への保安処分や精神衛生法に基づく入院制度の撤廃を求めてきました。
この度の束ね法案は、障害者を分断するものです。
難病の仲間にとっては、待ちに待った改正であり、我々、精神障害者にとっては、参議院先議でありながら廃案という前代未聞の末路をたどった精神保健福祉法改正法案の五年ぶりの出し直しということになります。参議院先議の法案が廃案になるのは憲政史上初のことであり、前代未聞の出来事でした。私たちは、難病法改正を否定したいなどとこれっぽっちも思っていないのですが、仮に法案に反対しようものなら、難病の仲間からはそのように見られてしまうことになります。まさに、当事者間の評価が真逆の法案を束ねて、障害者同士の分断を誘発するものでした。
全国「精神病」者集団は、唯一、賛否を決める基準として、障害者権利条約の総括所見に基づく法制度の見直しの検討を附則で担保することを示し、それをしなければ反対すると主張してきました。しかし、附則には、障害者権利条約の実施について精神障害者等の意見を聞きつつ検討するとあり、ここで言われている障害者権利条約の実施が総括所見を含み得るのかどうかは、条文上からは分からないようになっています。先日の加藤大臣の答弁で初めて、総括所見を踏まえることが明らかになりました。ただ、附則第三条の、精神障害者などの意見を聞きつつの部分は、病院団体側からの意見も含まれるのだと思います。結局、総括所見の内容や精神障害者、障害当事者の意見よりも、最終的に病院団体側の意見が優勢になってしまうのではないかと憂慮します。
この度の参考人でさえも、当事者の数は少ないです。障害者権利条約の監視機関とされる内閣府障害者政策委員会の中にも、精神科病院を代表する団体の構成員が入っているのに、精神障害や知的障害の当事者は構成員として入っていません。厚生労働省の地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会は、当事者の構成員が数の上では増えましたが、常に病院団体側の意見が優位との印象を拭えませんでした。
特に日本精神科病院協会は、与野党の国会議員に影響力を持っています。省庁からの提案は、政党の政調部会や総務会において反対意見が出ると白紙になると聞きます。それを恐れて、省庁は忖度します。国会議員の中には日精協から献金を受けている者もいるため、立法府内も病院団体の優位に陥りやすい構造があります。
私は、検討会において、当事者としての立場に依拠しつつも、病院側も含めた他団体とのコンフリクトを回避できるように論理を組み立てて意見を出したのに、日精協から、全くかみ合ってもいない、根拠に基づかない意見によって議論の蓄積を全否定されました。
具体的には、医療保護入院について、将来的な廃止が、誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるようへと大幅なトーンダウンをしたことが挙げられます。
私は、同検討会において医療保護入院の廃止を主張した際に、非同意だから廃止すべきなどとは一言も言いませんでした。あくまで、精神保健指定医と家族等という二者に負担が集中した現行の医療保護入院制度のたてつけの困難さを廃止という形で乗り越え、同意によらない医療開始の手続を一般医療と同質にしていくことを当面の方策として望んでいるのだと意見しました。
すなわち、非同意の入院が必要であることと、医療保護入院が必要であることを切り分けた上で、非同意の入院自体は必要だが、医療保護入院は廃止すべきであると主張したわけです。
しかし、日精協は、非同意の入院が必要だから医療保護入院が必要であるとし、医療保護入院が廃止されたら精神医療が崩壊すると言いました。このことは新聞誌面でも取り上げられました。
当事者は、医療保護入院が廃止されても医療が受けられなくなる不安は感じていません。むしろ、医療保護入院によって医療不信になり、かえって医療保障が遠ざかると感じています。改めて医療保護入院の廃止に向けて検討することを確認してほしいと思っています。
身体的拘束の告示改正の検討では、事前に日精協と調整した新要件案が事務局案として出されました。その内容には多くの構成員が反対し、修正を求める意見が出ましたが、検討の中で形を変えて残り続けました。不透明なところで不透明な形の合意が図られ、その内容が公開された検討会の中で覆らないことに対し、当事者の無力さを感じました。
精神科病院における虐待についてです。
精神科病院における虐待事件は、神出病院事件を始め、枚挙にいとまがありません。精神保健福祉法の枠組みでは自浄作用が働きにくく、明るみになっていない虐待も数多く存在するものと思われます。
私は、二〇一八年から二〇一九年にかけて厚生労働省が行った障害者虐待防止法附則第二条に基づく検討について納得していません。
検討の結果、二点の理由で法改正をしないこととなりました。一つは、障害の有無に関係なく利用する機関においては、障害者への虐待のみが通報対象となる不整合が生じるということ、もう一つが、各機関における虐待に類似した事案を防止する学校教育法や精神保健福祉法等の既存法令と重複する部分の調整の必要性が生じることでした。
しかし、現行の使用者による虐待は、障害の有無に関係ない職場を対象とした制度なので、現行の法律と検討結果の間に深刻な矛盾が生じています。また、医療機関には通報義務こそありませんが、通報自体はできることとされているため、通報義務に伴って新たに重複する部分の調整が必要になるはずもなく、現行の法律との間に深刻な矛盾が生じています。
精神保健福祉法に精神科病院における虐待の通報義務が設けられたことで、障害者虐待防止法の改正が行われなくなることがないよう、障害者虐待防止法附則第二条の再検討を求めます。
私は、当事者も病院団体も立法も行政も、知性に基づく論議によって解決しようとする姿勢を見せる必要があると思います。いかに強い立場の人であったとしても、当事者の意見をないがしろにした知性によらない要望は堂々とはねのける勇気がなければ、この社会を変えることはできません。
障害者権利条約に基づく日本政府への勧告には、精神保健福祉法に基づく非自発的入院や身体的拘束を含む行動制限、医療観察法の廃止、精神保健福祉法の廃止を含む精神医療の一般医療への編入、成年後見制度の廃止などが書かれています。国連が廃止を勧告している政策は、障害者と他の者を分け隔てる考え方の上に成り立っているものであり、これらを廃止して、障害者を包摂する社会モデル的な政策へと抜本的に見直す必要があります。
精神保健福祉法の場合、精神障害者が病状のために治療の必要性を判断できないという病気の特性があるという医学モデル的な前提に立ち、その上で、医療保護入院、措置入院、任意入院という精神障害者だけを別の枠組みに位置づけた入院制度と病床の位置づけ、そして報酬体系があります。
精神障害者は、池田小学校事件や津久井やまゆり園事件のような事件が起きると、度々、犯罪素因者のような扱いを受けて、医療観察法や退院後支援ガイドラインといった制度がつくられてきました。偏見が助長されないようにするためにも、退院後支援の警察参加は、全国に不安を抱える仲間がいるので、警察は参加しないようにしてほしいです。医療観察法は、長期入院の問題が指摘されている中、当初予定されていた以上の病床が整備されていることから、病床整備を凍結させるとともに、法律の廃止に向けた検討を開始してほしいです。
医療計画には、非自発的入院を縮減できるよう、指標例を実数で補足してほしいです。
この社会における精神障害者を取り巻く問題の根本は、精神障害者と関わろうとせず、病院に入れておけばいいのだという市民の意識にこそあります。精神科病院は、こうした市民の意識を引き受けて精神障害者を入院させていきます。すると、地域から精神障害者がいなくなっていき、地域の人々が精神障害者と関わり合いを持たなくなっていきます。精神障害者との接し方が分からない中で長期入院者を受け入れていこうとはならず、現状の問題を帰結しています。私たちは、先に市民の理解を得てから、それから地域移行を進めるという順番ではなく、病床を減らすことで入院者を減らし、地域で精神障害者と実際につき合っていくことを通して、包摂に向けた創意工夫が実践されていくことになると考えています。
精神科病院が市民の要求に応えているのは事実だと思います。しかし、そのようなところに自信を持ってほしくはないです。そうではない社会を目指すための議論を共にしてほしいです。
本日は、貴重な場を設けてくださったことに感謝を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)