池原毅和の発言 (厚生労働委員会)

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○池原参考人 本日は、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。
 最初に、お配りしてある資料について確認をさせていただきたいと存じます。
 資料一は、本年十一月九日付で日本弁護士連合会会長が発出いたしました精神保健福祉法改正案の見直しを求める声明でございます。
 資料二は、日本精神神経学会の委員会が医療保護入院の市区町村長同意制度を中心に調査、分析した報告でございます。
 資料三は、精神医療審査会による医療保護入院の定期病状報告の審査の資料ですけれども、衆議院調査局厚生労働調査室が作成された、先生方お持ちの白表紙の参考資料の二百七十六ページと同じ内容ですので、そちらを御覧いただきますとよいかと存じます。
 資料四は、日本が批准しております市民的及び政治的権利に関する国際規約、いわゆるB規約、それから拷問等禁止条約、そして障害者権利条約などにつきまして、各条約の委員会から日本に対して出された勧告の中から、精神保健福祉法に関するものをまとめたものでございます。
 そこで、まず最初に御覧いただきたいのは資料四でございます。
 国連の障害者権利委員会は、本年九月に日本に向けた総括所見で、強制入院は障害を理由とする差別的な自由の剥奪になるとして、強制入院を廃止することを要請しております。この総括所見に法的拘束力はないからそれに従う必要がないというような考え方は、国連の意義をないがしろにし、その機能をおとしめるものでありまして、法の支配を基本的な価値とし、国際社会で名誉ある地位を確保することを目指す日本が取るべき考え方とは言えないと思います。
 また、B規約については、非自発的入院の要件が極めて広範であると指摘をされています。強制入院を最小限の期間にすべきことも求めています。
 拷問等禁止条約については、医療保護入院の決定を民間の私立病院が行えること、そして、長期入院が続いていることに懸念が示されています。
 日本の精神科病床数はOECD諸国の三七%を占めていると言われまして、大量の入院者がおり、その約半分が医療保護入院を中心とした強制入院者です。白表紙の資料の二百六十四ページ、これを御覧いただきますと、医療保護入院者の約六三%が一年以上の長期入院者で、五年以上の入院者が三〇%以上もいらっしゃいます。
 他国に例を見ない長期で大量の入院者と強制入院を多用しているということについて、B規約の委員会は、強制入院の要件が緩過ぎるということ、それから、必要最小限度を超えた入院を許しているということに原因があるというふうに見て、改善を求めているわけです。
 拷問等禁止条約の委員会は、大量の強制入院者と入院の長期化の要因として、裁判所でも行政機関でもない民間の私立病院が医療保護入院を行えることに問題があると見て勧告をしています。
 そして、障害者権利委員会は、精神障害のある人だけを対象にする強制入院がそもそも差別的であるということを指摘しているわけです。自傷他害の危険性があっても一般の人は強制的に収容されませんし、内科や外科の患者さんを判断能力がないとして本人の意向に反してでも入院させてしまうという制度はないわけですから、障害者権利委員会の総括所見も、その意図を私どもは真剣に受け止める必要があるというふうに考えます。
 これらの条約は、批准によって国内法になっておりまして、法律より上位の法規範になっているということも忘れてはいけないと考えます。
 以上のように、日本が批准している各条約は、強制入院を少なくとも最小化すること、本来であればなくしていくことまで求めています。こうした大きな方向性から、今回の精神保健福祉法改正を検討していくことが必要だと考えます。
 そこで、資料一の日本弁護士連合会の会長声明を見ていただきたいと思いますが、第一に、医療保護入院の期間を限定しながらも、何度でも更新できるという点を問題にしております。問題は、更新の判断が公正かつ厳格に行われるかどうかにかかっています。
 現行法では、精神医療審査会が、十二か月に一度、各病院からの定期病状報告を審査して入院継続が不要であると判断すれば、都道府県知事等が退院命令を出すことになっております。その手続の流れは、白表紙の資料の二百七十三ページを御覧いただくと分かりやすいと思います。
 しかし、この二百七十六ページの表から分かるように、精神医療審査会が入院継続不要と判断した事例は、毎年、何とゼロ%ということになっています。精神医療審査会は、独立性に問題があるとされていますが、それでも病院とは別の機関です。その機関でさえも入院継続不要の判断をほぼしていないのに、改正法による入院期間の更新は、患者さんを入院させている病院が自ら行うわけですから、ほぼ自動更新になってしまうということが予想されます。少なくとも更新回数を一、二回に限定するぐらいの工夫をしなければ、強制入院の縮小化、長期入院の解消という効果は期待できないというふうに考えます。
 第二に、家族が医療保護入院の同意若しくは不同意の意思表示を行わない場合に、市区町村長の同意で医療保護入院を行えることにしてしまう点にも問題があります。
 資料二を御覧いただきますと、市町村長が同意して医療保護入院をさせた患者さんについて、本人への支援や主治医との連携、その他の担当者との連携を半年に一回以上はしたとする市町村は一、二%にとどまっています。適切な入院判断ができていない、形式的で形骸化しているという市町村担当者の回答が多く見られます。精神医療審査会の委員からは、市町村の担当者が入院後全然関わっていない、同意が形式化して無責任、制度そのものが形骸化しているなどが多かったとされています。
 市町村長同意の実態について十分な立法資料を集めずに、家族の同意が得られない場合に市町村長同意で代用するという改正は、形式的で形骸化した同意によって医療保護入院を拡大してしまい、入院をさせたまま放置して、長期入院を更に増やしていくという作用を果たすことになります。以上のような法改正の方向性は、強制入院の縮小化の方向性に逆行するものです。
 第三は、虐待防止についてです。
 問題点の第一は、障害者虐待防止法では市町村が虐待通報の窓口になっているのに対して、法改正案では都道府県だけが窓口になって、市町村の役割が抜けている点です。
 市町村は、身近で小回りの利く機関として、障害者福祉の第一線を支えており、障害者虐待についても第一次的な役割を果たしています。法改正案が、医療保護入院については市町村長に同意権限を拡張するということにしていながら、入院患者に対する虐待については市町村の権限を認めないというのは、制度的矛盾と言うべきだと考えます。
 問題点の第二は、都道府県等が指定する指定医に病院への立入りと診察の独自の権限を付与している点です。
 虐待の立件は、虐待の法的構成要件に該当する事実の確認が必要になります。その認定作業は、本来法的なものが、司法的なものが典型的になりますが、行政機関の職員も法的素養を備えて同様の対応をすることが期待できます。しかし、医師は、司法的な事実認定について専門性を有する職種ではありません。ですから、ここで指定医に独自の権限を与えるのは見当違いであり、むしろ同僚審査の弊害を招くおそれがあると思います。医学的所見が必要であれば、担当職員が医師を補助者とすれば足りるのであって、医師の所見は司法的、行政的事実認定の一つの要素になるにとどまると理解すべきです。
 障害者権利委員会への次回の日本からの報告は二〇二八年とされております。本年九月の総括所見の勧告について、二〇二八年までにどれだけ誠実な努力をしたのかが問われることになります。現在の法改正案では、残念ながら、強制入院をなくしていくべきであるとする障害者権利委員会の要請には全く届きません。強制入院の要件を厳格化し、強制入院は必要最少限度のものに縮小し、長期入院をなくしていくべきだとするB規約や拷問等禁止条約の委員会の要請にも応じることができていません。むしろ国連からの要請に逆行していると批判を受けることになってしまうでしょう。
 今回の法改正が小さな一歩であるとしても、それが向かっていく方向を誤ることがないように、市町村長同意の実態調査なども実施して、多くの国民の納得を得られる法改正を行っていただきたいと思います。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 池原毅和

speaker_id: 16565

日付: 2022-11-16

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会