辻本哲士の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(辻本哲士君) 本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。辻本哲士と申します。全国精神保健福祉センター長会の会長をしております。法改正に全体として賛成の立場から意見を述べます。
まず、私自身についてです。
滋賀県立精神保健福祉センター所長として勤務しています。精神保健福祉センター、以下精保センターと略します、は現行の精神保健福祉法第六条に規定された精神保健福祉に関する中核的総合技術センターです。企画立案、技術指導、教育研修、普及啓発、調査研究、資料提供、精神保健福祉相談、組織育成、自立支援医療、精神障害者保健福祉手帳判定と、後述する精神医療審査会の審査に関する事務等を業務としています。
最近では、統一教会やコロナ禍の心の相談窓口、コロナ感染症施設等の患者、支援者のメンタルヘルス対応など、地域の実情に応じ、精神保健福祉分野の技術的中枢として必要な活動をしています。精保センター以外に、県立の精神科病院、小児科病院、総合病院で外来当直その他をし、県庁では技監の立場にあります。
今回、行政機関の精保センター所長、医療機関の一臨床精神科医、さらに、令和三年十月に設置された、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会、以下検討会と略します、の構成員の一人として、今回の改正案に関して八点お話しさせていただきます。
一点目、精神保健医療福祉と地域包括ケアシステムについてです。
実は、私は、平成二十九年の改正案提出時の参議院厚生労働委員会でも参考人として発言しております。その場でも、法改正が進まなくても、精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築、地域共生社会の実現、いい町づくりをしていく、精神障害者の孤立を防ぐ、退院後支援は続けていく旨お話ししました。このときの改正案は廃案になりましたが、確実に地域包括ケアシステムは進んでいます。
入院患者の地域移行、地域定着に資する継続的、包括的な支援のイメージが医療、保健福祉機関の間に広がり、精神科措置入院退院支援加算等、診療報酬によるインセンティブもあり、多職種、多機関による共同指導、相談指導は包括的支援マネジメントとして実践されています。
今回の法改正の大きな意義の一つとして、都道府県だけでなく市町村を中心に、地域で保健、医療、福祉、住まい、就労等の包括的支援を確保する旨の責務が明記された点が挙げられます。市町村は、自殺や介護、生活困窮者対策等で既に責任主体となっています。精神障害者は、心の病のみで困っているわけではありません。精神障害者の多くが、自殺や生活困窮に困っています。その他、引きこもりや依存、感染症を含めた災害弱者としても困っているのです。
現状、市町村はサービス利用等の窓口にはなっていますが、法令上、精神保健に関する相談業務の規定がなく、専門職が配置されていないところもあります。実際は、自殺や生活困窮者対策として精神障害者と関わりを持っているのですから、今回の法改正で責務が明文化することにより、より適切で包括的な支援体制が確保できます。
専門的な技術支援、バックアップの在り方、人材、財政的な裏付け等の課題に対しては、技術支援や人材育成などの精保センター、保健所等の業務の明確化、人員配置や予算措置などの手当て、診療報酬改定等が必要です。さらに、対象を精神障害者のほか、精神保健に課題を抱える者と広げているので、医療にかかる前のより早期の支援が実践できます。今回の法改正で、更に力強く、より早く、精神障害者の希望やニーズに応じた支援、心身の状態に応じた適切な包括的なアプローチが約束されます。
二点目、医療保護入院に関してです。
検討会では、医療保護入院の抜本的な見直し論から始まり、入院医療を必要最小限にするための予防的取組の充実に関しては早期から合意されていました。その上での医療保護入院の在り方検討として、精神障害としての判断能力、入院医療へのアクセス、人権擁護等様々な課題、意見が出されました。現実的な落としどころから、医療保護入院から任意入院への移行、退院促進に向けた制度、支援の充実の具体的な方策の一つとして医療保護入院の入院期間を定め、期間ごとに医療保護入院の要件の確認を行うとなりました。
今回の法改正は、医療保護入院の適正化につながると考えています。医療保護入院の在り方は、精保センターが事務局を持つ精神医療審査会にも大きく影響します。
三点目は、その精神医療審査会についてです。
初めにお話ししたように、精保センターは、精神医療審査会、以降審査会と略します、事務局を担っています。全国六十九精保センターについてざっくり言うと、国民百八十万人に対し、精神科医一人、保健師三人、精神保健福祉士一人、心理職二人、事務職四人、一センター当たり十四人の人員で、最初に説明した多種多様な業務をこなしています。精保センター状況調査で、業務遂行に対応するために最も優先されるべきは人員体制の強化となっています。
滋賀県の審査会の年間審査状況について、これもざっくり言うと、医療保護入院者の入院時届出千八百件、医療保護入院者の定期報告八百件、退院請求三十件、処遇改善請求十件です。審査会は、医療委員十五名、法律家委員五名、有識者委員五名で、事務局正規担当職員一人、補助職員三名とともに審査いただいています。審査会への合議体の出席は年六回、一回当たり、書面審査約百件プラス再審査約三十件で九十分程度掛かります。
退院請求、処遇改善請求等に関してです。審査会事務局として、一、入院病院への担当者紹介と候補日の確保、二、各審査会委員と病院、家族等の面談日程調整、三、本人、病院、家族等の申請意見書受理、四、面談日程確定後、面接調査の実施通知書作成、郵送、五、調査に参加する委員会委員への資料郵送、六、面談日に面談同席、七、面談終了後、委員会委員と調査書の作成、委員会へ送付、八、審査会への審査同席、九、審査結果の県庁、本人、病院、家族への通知と流れます。
審査会の退院請求等の調査は、年間約六回、九十分程度の面接で、毎回審査会委員二人によって行われています。一件当たり、精保センター職員の稼働時間は、勤務日約一日分となります。患者の権利擁護のためには、適切かつ迅速な審査会運営が求められます。審査期間の短縮は命題で、日程調整に関しては、各関係者に無理強いしながらも実施しています。審査会委員は専従ではなく、本来業務をこなしながらであり、日程調整は困難極まりない状態です。医療委員は精神保健指定医になります。私も指定医なので、本来業務と審査会業務、審査会委員業務のバランスの難しさは実感できます。審査会委員の確保は喫緊の課題です。
今回の法律改正で、精保センター業務への影響についてです。定期病状報告書は廃止されますが、六か月以内に入院時の届出と同じ手続を踏むことになります。一年以上の入院になると、単純に書類枚数として二倍になります。審査においても入院時と同等の審査をするため、審査会の開催時間も二倍になります。措置入院も審査会での審査が求められ、医療保護入院以上に審議の時間を要することが想定されます。審査会委員に多大な負担と労力を掛けることが予測されます。
対応として、審査会委員の増員、予備委員の活用、事務局の体制強化等が考えられます。審査会委員確保に、より積極的な協力、協力いただける体制をお願いします。事務局体制の強化についても、人件費、事務費の予算措置は必須です。
四点目、家族が意思表示を行えない場合に、市町村長の判断により医療保護入院が可能になる点についてです。
DVや虐待疑い等、運用上課題が多かった家族等同意に関して、市町村長同意の方向性が更なる検討として報告書にも明示されました。家族の精神的な負担や疎遠な状況などから、家族同意そのものを外してほしいという意見もあります。精神科救急の現場では、医療的にも患者の権利擁護のためにも、一刻も早く治療を始めたいところです。
適切な医療が提供できるよう、家族等が同意、不同意の意思表示を行わない場合には、適切な運用を前提に、市町村長の同意による医療保護入院を行うことを可能とすることが望まれます。市町村として、次に話す入院者訪問支援事業を活用した患者への関わり、人員体制等の検討をお願いしたいです。
五点目、その入院者訪問支援事業についてです。
患者の退院促進、権利擁護に向けた体制整備は、最初にお話しした精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築のおかげで進みつつあります。精神科病院外部の人、空気が病院に入る機会が増えているのです。このことは、患者、病院、地域支援機関、全てに良い影響を与えています。個人、組織、全てにおいて、孤独、孤立感や自尊心の低下を防ぎ、地域づくりにも役立っています。入院時からそのような効果を生むであろう入院者訪問支援事業に期待します。しっかりとした体制整備をお願いします。精神科病院に対する地域援助、事業者との連携義務化も同様です。
六点目、精神科病院における虐待防止のための取組についてです。
精神科病院における虐待防止のための取組を、管理者のリーダーシップの下、組織全体で推進することは当然必要です。市町村長、都道府県等の指導、監視の強化も当然図られるべきです。実効的な制度となり、虐待防止に資することになると思います。
七点目、不適切な隔離、身体的拘束をゼロとする取組についてです。
不適切な行動制限が虐待の温床ともなるため、今回の法改正により虐待防止が確実に進むと考えています。必要な医療行為を行うための身体固定について、一定のルールの下行うこととすべき、精神病床以外の病床における身体拘束の現状や取扱いを含め幅広い観点で検討すべき、介護分野における取組を参考にするべき等の報告書意見も大事だと思います。
八点目、附則第八条についてです。
今回の法改正は、精神障害者の権利擁護に向けた第一歩を踏み出すものと考えます。更なる制度の改善に向けて、精神障害者やその家族の意見を聞きながら、精神保健医療福祉に携わる幅広い関係者による議論の継続が重要です。
検討会では、様々な関係者が同じ場に集まり、昨今の重要課題について議論できたことは本当に有意義でした。参加した構成員は、賛成、反対の意見はあるものの、良い議論をしようとする姿勢は共通しており、話合いを重ねる中で、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に関し、おおむね同じ方向性を持てたように感じました。毎回構成員のほぼ全員が発言するため、一人五分でも、二十四人で二時間掛かります。十分に討議したとは言いづらいところはあります。今回の法改正を含め、今後も幅広く熱意ある議論が続くことを望みます。
非同意入院について世界的に検討が進んでいると聞いております。身体科では、従来から、薬剤や手術、検査等、海外の多くの知見を取り入れて発展してきました。新型コロナ感染症対策も同様です。精神科においても、薬物療法、心理療法に関しては海外の知見が蓄積されていますが、制度、仕組みといった分野についてはいま一つだと感じてきました。他国にも非同意入院が必要な精神病状態にある患者は必ずおられます。精神科の様々な制度、仕組みについて、世界の情報をもっと取り入れるべきです。
終わりに、検討会では、参考資料として全国精保センター長会から提言を出しました。その中には、精保センターは行政機関において多職種を有する専門的機関であり、かつ保健所との重層的支援を行う役割を持つ機関、退院後支援及び地域生活支援、権利擁護について幅広い知識と経験を備えていると書かれています。
今回の法改正を通して、今後の地域精神保健福祉の機能の強化と精神保健指定医が福祉的な視点を持って精神医療を行えるよう、精神保健福祉指定医の人材育成と認定を望みます。
以上です。ありがとうございました。