安冨潔の発言 (法務委員会)
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○安冨参考人 御紹介をいただきました安冨でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
この度は、参考人として意見を述べる機会を頂戴いたしましたこと、誠に光栄に存ずる次第でございます。
私は、慶應義塾大学名誉教授でございますが、法務大臣の私的懇談会である第七次出入国管理政策懇談会の座長代理を務めましたときに、送還忌避、長期収容問題の解決策を検討するために令和元年十月に政策懇談会の下に設置されました収容・送還に関する専門部会の部会長を務めておりました。
今回の入管法等改正法案は、現行入管法下で生じている送還忌避、長期収容問題の解決などを目的として、収容・送還に関する専門部会の提言を受けて立案されたものと承知しております。
専門部会では、私のほかに、様々な分野から選ばれた有識者である九名の委員に加え、当時のUNHCR駐日事務所副代表にもオブザーバーとして御参加いただき、幅広い観点から御議論をいただいた上で、令和二年六月に、送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言を取りまとめました。
専門部会では、基本的な考え方として、送還すべき者と在留を認め又は庇護すべき者を適切に判別すべきであること、送還すべき者については送還を促進すべきであること、長期収容を解消するための方策を講ずるべきであること、そして、被収容者の処遇は人権に配慮して適正に行うこと、この四点について委員の間で認識が共有されました。
本日は、時間の関係もありまして、専門部会における議論の全てを御紹介することはかないません。主に、送還すべき者についての送還の促進と長期収容を解消するための方策に係る議論を中心に御紹介させていただきます。
専門部会では、送還すべき者の送還促進のため、現行法下で問題となっている送還回避を目的とする難民認定申請に対処するための措置について議論がなされました。
現行法上、難民認定申請を行った場合、申請の理由や回数を問わず一律に送還が停止されることから、送還忌避者の中には、その手段として繰り返し難民認定申請を行う者が相当数存在しており、速やかな送還を実現するに当たって重大な支障となっております。
そこで、専門部会では、このいわゆる送還停止効に一定の例外を設けることを提言するとともに、難民条約上、送還が禁止されている国への送還を行わないことに十分配慮すべきことを併せて提言しました。
改正法案では、専門部会の提言を踏まえ、難民認定申請中の送還停止効に例外を設けることとしています。
具体的には、三回目以降の難民等認定申請者、無期若しくは三年以上の実刑に処せられた者、外国人テロリスト等は、難民等の認定申請中であっても送還することを可能としています。
他方で、立法論としては、二回目の申請者についても送還停止効の例外とし、あるいは再申請自体を制限することもあり得るところではありますが、法案では、二回目の申請者については送還停止効を認めています。そして、三回目以降の申請者についても、難民等の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した場合には、送還を停止するということとしています。
このような送還停止効の例外は、送還すべき者を速やかに送還する必要性と難民等認定申請者などの法的地位の安定を図る必要性のバランスを取る制度となっており、妥当なものと考えます。
専門部会では、送還すべき者の送還促進のため、我が国から退去しない行為に対する罰則の創設についても議論いたしました。
送還を忌避する者の送還を実施するには、送還先国の協力が必要でありますが、限られた国ではありますが、送還忌避者の受入れを拒否する国があり、また、送還忌避者が、送還に使用する民間航空機の中で大声を出すなどの送還妨害行為をすることにより搭乗を拒否され、送還の実現に至らない事例というものも存在いたします。現行法下では、そのような送還を忌避する者については、送還を遂げることが不可能又は著しく困難であります。
そこで、専門部会では、こうした現行法下の課題を踏まえて、正当な理由なく送還を拒む者に対し、一定の期日までに我が国から退去することを義務づける命令を発し、この命令違反に対する罰則を設けることが相当である旨の意見が述べられ、多くの意見がこれを支持いたしました。
他方で、退去が困難な事情は様々であります。命令や罰則の対象範囲を適切に定めることが困難であるなどと反対する意見や、退去しない者に一律に罰則が適用される制度は好ましくないなどとする指摘もございました。
そこで、専門部会としては、この反対意見があったことを明記した上で、多数の委員が支持した内容として、退去の命令制度やその違反に対する罰則の創設を検討することを提言するとともに、命令や罰則の対象者を適切に限定することも提言いたしました。
これを踏まえて、改正法案では、退去強制を受ける者を送還先に送還することが困難である場合に、その者の意見を聞いた上で、相当と認めるときは、その者に対し、我が国からの退去の命令を発して退去を義務づけることを可能とし、この命令に違反した場合の罰則が設けられています。
加えて、改正法案では、命令や罰則の対象者を適切に限定するという提言における指摘を踏まえまして、退去の命令を発することができるのは、退去の意思がない自国民の送還に協力しない国を送還先とする者、送還を妨害したことがあり、再び同様の行為に及ぶおそれがある者のいずれかにより送還が困難な場合に限られており、命令の対象者が適切に限定されております。
また、難民等の認定申請により送還が停止される場合や、退去強制の処分の効力に関する訴訟が係属し、かつ、当該訴訟で執行停止決定が裁判所によりなされた場合などには、命令の効力が停止するということとされています。
このように、退去の命令制度は、専門部会の提言を踏まえ、命令や罰則の対象者が厳格に限定され、適切な制度となっていると考えます。
なお、この退去命令違反の罪は、送還忌避罪などと、あたかも送還忌避者であればおよそ処罰されるかのような誤解を生じさせかねない形で批判が展開されているようですが、実際の命令や罰則の対象範囲は、今申し上げたとおり限定されたものとなっていますので、正しい前提に基づいて御議論をいただくことが重要であるというふうに考えます。
次に、収容の長期化を解決するための施策について申し上げます。
現行法では、退去強制令書の発付を受けた者は原則として送還可能のときまで収容することとされており、送還を忌避する者について収容が長期化しかねないということが問題となっております。
収容の長期化は、被収容者の健康上に問題を生じさせたり、仮放免許可を求めて集団で拒食するなどの収容施設内において生ずる様々な問題の原因となるだけでなく、現場の職員が処遇業務を行う上でも大きな負担となっています。
そこで、専門部会では、こうした収容をめぐる実情を踏まえて、新たな収容代替措置、例えば、第三者の支援などにより、当該外国人が違法な就労に及ぶことなく生活手段を確保することが可能となることを前提に、逃亡防止や出頭確保を図りつつ、収容施設外で生活することを認める措置の導入を検討すべきことを提言いたしました。
改正法案では、この提言を踏まえまして、収容に代わる監理措置制度を創設するとしております。
具体的には、逃亡等のおそれや本人が収容により受ける不利益の程度等を考慮して、監理人の監理の下で、収容せずに退去強制手続を進めるという措置になっております。
監理措置制度では、監理措置に付される者が監理措置条件に違反して逃亡等した場合の罰則の整備や、監理人に、必要な場合に限り主任審査官の求めに応じて報告することなどとしていますが、これらは監理措置の目的に照らして必要不可欠であると考えます。
監理措置に付される者は、強制退去事由に該当しており、基本的に我が国から退去しなければならない者であります。監理措置により収容しないで手続を進めた結果、その者が逃亡するなどし、送還ができなくなるということは、公正な出入国在留管理という入管法の目的に照らし、許容できるものではありません。
収容の長期化を解消しつつ、収容施設外における外国人について、適切な在留管理を行い、逃亡等を防止するため、改正法案により創設される監理措置制度は必要な仕組みであると考えます。
以上のほか、専門部会では、収容制度の在り方についても議論いたしました。一部の委員からは、外国の立法例などを踏まえ、退去強制令書による収容について、収容期間の上限を定めることを提案する意見が示されました。
しかし、これに対しましては、長期収容を可能な限り解消するという問題意識自体は異論はありませんでしたが、上限を定めると、逃亡のおそれが否定できない者であっても収容を解かれることになり、確実な送還の実現が困難になる、必ずしも諸外国の立法例が一致を見ているわけではなく、国際標準と言える状況にはないことなどから、その提案に従って制度を導入することは困難であるという意見が多数となりました。
また、一部の委員からは、収容の開始前又は継続中に司法審査を経ることを提案するという意見も示されました。
しかし、これについても、現行法上、退去強制令書は行政手続として慎重な事前の手続を経て発付されるものであり、事後的にも行政訴訟制度による司法審査の機会が確保されており、事前の司法審査の導入が必要と考えることは困難であること、退去強制令書による収容は、円滑な送還の確保及び在留活動の禁止を目的としてなされるものであり、刑事手続における被疑者、被告人の身柄拘束に求められる要件がそのまま妥当するものではないこと、必ずしも諸外国の立法例が一致を見ているわけではなく、事前の司法審査などを導入することが国際標準と言える状況にはないことなどを理由に、提案に従って制度を導入することは困難であるとする意見が多数となりました。
そこで、専門部会では、収容期間の上限や事前の司法審査の導入を提案する意見が一部の委員から示されたことを明記しつつ、多数の委員の支持があった内容として、一定期間を超えて収容を継続する場合にその要否を吟味する仕組みを設けることなど、行政手続の一層の適正確保を図るための方策を検討することを提言いたしました。
一定期間を超えて収容を継続する場合にその要否を吟味するという仕組みは、令和三年の法案では特段規定が設けられていませんでした。しかし、今回の改正法案では、新たに、退去のための計画として三か月ごとにその進捗状況を確認して、収容の要否を必要的に見直し、監理措置に移行する仕組みが導入されており、この点は、提言を一歩前に進めていただいたものと評価しております。
このほか、改正法案では、第六次出入国在留管理政策懇談会の下に置かれた難民認定制度に関する専門部会の提言を踏まえ、補完的保護対象者の認定制度を創設することとしています。
補完的保護対象者の認定制度は、昨年来続くロシアによるウクライナ侵攻を受けて、いわゆる紛争避難民を保護する制度として社会的にも注目されるようになっておりますが、紛争避難民は、補完的保護対象者ではなく、そもそも難民条約上の難民として保護すべきという御主張もございます。
この点につきましては、私は、確かに、事情によっては難民条約上の難民の定義を満たす場合があること自体は否定いたしませんが、紛争避難民は直ちに難民条約上の難民の定義を満たすとは言えないと考えており、そのため、補完的保護対象者の認定制度を創設し、この制度により紛争避難民を保護することの意義は大きいと考えております。
改正法案は、送還停止効の例外規定や罰則つきの退去命令制度など、送還を促進するための施策が注目を集めがちですが、今御説明申し上げました補完的保護対象者の認定制度の創設や、本日は時間の都合で御紹介できませんでしたけれども、在留特別許可制度について、考慮事情を明示する、そしてまた申請手続を創設するなどの手続保障の充実も図られており、保護すべき者を確実に保護するための施策を含んでいて、全体としてバランスの取れた法案であると評価しております。
出入国在留管理行政というのは、他の様々な行政分野と関連し、我が国の在り方に関わる重要な国家作用の一つであると言っても過言ではありません。今回の改正法案により、我が国の出入国在留管理行政がより一層よいものとなるよう、充実した御審議をお願いして、私の意見とさせていただきます。
どうもありがとうございました。(拍手)