滝澤三郎の発言 (法務委員会)
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○滝澤参考人 この度は、参考人として意見を述べる機会をいただき、誠に光栄に存じます。
私は、国連パレスチナ難民機関に始まり、国連難民高等弁務官事務所、UNHCRの本部財務局長、それから駐日代表を務めるなど、二十八年間にわたって国際機関で働きました。その後、大学で移民、難民問題、特に日本の難民政策について研究する傍らで、第六次と第七次の出入国在留管理政策懇談会にも関わりました。
本日は、こういった経験に基づいて、本改正案について、やや俯瞰的なコメントをさせていただきます。
まず、国際的な難民の状況ですが、二〇一五年から、シリア人など百万人を超える移民、難民が欧州に流入し、いわゆる欧州難民危機が起きました。二〇一七年にはロヒンギャ難民問題、二〇二一年にはミャンマー国軍のクーデター、それからアフガニスタンのタリバン制圧によってたくさんの難民が出ました。昨年にはロシアのウクライナ侵略によって七百万人以上の避難民が出ました。このほかにも、世界各地で紛争が続き、移民や難民の数が一億人を超えるという人道危機が続いております。
他方で、難民、避難民の流入が一挙に、時として無秩序に起きる中で、国家の安全保障上の懸念が受入れ国の政府や国民の間に広がり、欧州各国では極右政党が勢力を伸ばしました。先進国では難民を受け入れる政治的意思は低下し、難民締め出しの動きが強まっています。
例えば、難民保護の先進国とみなされてきたイギリスは、ボートでフランスから不法入国した者が昨年は四万五千人を超え、政府は先月、これらの者の難民申請を認めず、出身国又はルワンダなど第三国に送還できるとする法案を議会に提出し、現在審議中です。
最大の難民受入れ国であるアメリカでは、昨年半ばまでの一年間で、二百三十八万人に上る中南米諸国からの不法入国者が国境で拘束されました。彼らは難民申請も許されないまま国外退去となっています。
ウクライナ避難民を七百万人以上受け入れたポーランドですけれども、北部のベラルーシとの国境では壁を造って、中東、アフリカからの移民、難民の流入を阻止しています。
スウェーデンは、受け入れたシリア難民を本国に送還しようとしています。
これらは難民条約のノン・ルフルマン原則の明確な違反です。このような先進国の難民排除の流れの中で、近年の日本は逆に難民、避難民の受入れに前向きです。
今回の改正案の難民受入れに関する部分は、第六次出入国管理政策懇談会の下に設けられた難民認定制度に関する専門部会が二〇一四年に出した提言を反映しています。私もこの専門部会の委員でしたが、同専門部会は四つの提言をしました。提言の履行状況を見ていきましょう。
第一の提言は、補完的保護の明確化による的確な庇護であり、それは補完的保護対象者という制度で今回の法案に組み入れられています。
補完的保護とは、難民条約上の難民には当たらないものの、紛争避難民など不特定多数に対する無差別暴力に直面した人々を保護することです。補完的保護の制度は、EU諸国、アメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国など数十か国に広まっています。今回、法改正がなされれば、ウクライナ避難民を始めとして、紛争地域からの避難民などが救済されることになります。
第二の提言は、難民該当性に係る判断要素の明確化です。この提案は、入管庁がUNHCRの難民認定ハンドブックや先進国の事例などを調査して先月に公表した難民該当性判断の手引によって実現されました。
同手引は、迫害の定義に、人権の重大な侵害や差別的措置、例えば生活手段の剥奪や精神に対する暴力も迫害を構成し得ると明示されている点や、性的マイノリティーであることを理由とした迫害も明記するなど、多様化する迫害の形態に対応しており、難民認定判断の要素は先進国と並ぶようになります。
手引は、日本の難民認定制度の基盤をなすものであり、百名を超える難民調査官の判断の一貫性、透明性、信頼性の向上に役立ちます。それは申請者による不服申立てや裁判での根拠になるほか、ホームページで英語でも閲覧が可能なため、これから日本で庇護を求めようとする人にとっては予見可能性を増し、今後、難民認定制度の濫用、誤用は減り、また、救われるべき者は救われるようになることでしょう。
第三の提言は、手続の明確化を通した適正迅速な難民認定であり、その中心は難民制度の濫用、誤用対策です。
そもそも難民認定制度には、ただ乗り問題、つまり難民でない者が難民制度を利用する問題があります。国際的にも、就労目的の経済移民によって難民認定制度が利用され、難民の迅速な保護が難しくなることは三十年ほど前から問題となり、UNHCRの執行委員会もこれを何度か取り上げてきました。
この問題に対して、先進諸国は、複数回申請を制限する又は重大な前科者など公共の安全に危険がある者は送還するなどの方策を取っています。
この点、今までの日本の手続は特異なものでした。理由がいかなるものであろうとも、前回と同じ内容であろうとも、何度でも難民申請ができました。さらに、二〇一〇年に難民認定申請から六か月後には就労を一律に認める運用が開始され、難民性が低いと思われる申請者が急増し、二〇一七年には二万人近くになりました。これは制度の運用に支障が出る結果となりました。
その後、入管庁が就労を一律に認める運用を改めるなどした結果、濫用、誤用的申請は減り、申請総数も四千件ほどになるなど、制度の正常化が進んでいます。
しかし、難民不認定とされても送還停止効によって送還忌避をする者は逆に増え続け、今日では四千二百人になるなど、残された課題があります。現行法の送還停止効には例外がなく、殺人などの重罪を犯した者であっても退去を強制できないといった定めは他の国に例を見ないものですし、また、遵法精神に富む多くの日本国民には納得のいかないものでしょう。
私は、難民認定制度を申請者の人権保障と国家の安全保障のバランスを取った適正なものとするため、送還停止効に例外を設けることは必要と考えます。ただし、例外の適用は、真にやむを得ない場合にのみ、慎重になされるべきことは言うまでもありません。
第四の提言は、認定実務に携わる者の専門性の向上です。
制度、手続が効率的、効果的に運用できるか否かは、運用を担うスタッフの人権意識、難民認定の知識と経験、そして出身国情報の収集、分析体制にかかります。この点は、入管庁は、UNHCRの協力も得て、研修体制を年々充実しつつあると理解しています。
このように、専門部会の四つの提言は実施されつつありますが、日本の難民受入れ数が少ない又は認定率が低いという指摘は今も続いています。これをどう考えるべきでしょうか。
まず、日本に逃れてくる真の難民は多くありません。日本は、難民が多く発生する中東やアフリカ、中南米の国々から遠く離れており、日本までたどり着くには、航空運賃や生活費のみならず、パスポートやビザが必要で、空港でのチェックが厳しい今日、日本まで来るのは容易ではありません。
例えば、今混乱の続くスーダンのハルツームから日本に逃げてくる又は来れる人はどのくらいいるでしょうか。さらに、内外メディアが日本は難民を受け入れない国といった報道を繰り返してきました。そのような評判を持つ日本を難民があえて選ぶ合理的理由は乏しいと考えます。難民には避難できる国が身近に幾つもあります。難民も逃げる国を選ぶのです。
もちろん、日本にまで来ても、日本の難民認定制度の壁があります。それについては、まさに本委員会で今議論がなされているところでございます。このほか、国民の難民に対する姿勢も絡んでくるなど、難民受入れは極めて複雑な問題です。
このような中でも、日本政府は昨年、ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナからの難民や避難民を約一万三千五百人受け入れました、又は国内で庇護しました。これは、一九七八年から二〇〇五年までの二十八年間に受け入れられたインドシナ難民一万千三百十九人を上回ります。また、日本が二〇二一年までの四十四年間に受け入れた人々の総数が一万五千七百十七人であったことを見るならば、昨年の受入れ一万三千五百人は画期的であり、いわゆる日本の難民鎖国は終えんしたと言うべきでありましょう。
では、難民認定率が一%以下という指摘はどうでしょうか。他国との比較のために、難民認定数を分子、その年の処理人数を分母とし、一次審査で比較しますと、二〇二二年でいえば、認定数が百八十七人、取下げを除いた処理人数が五千六百五ですので、認定率は三・三%となります。
ただ、EU諸国では、補完的保護も分子に加えた数字を難民認定率としています。UNHCRはそれを庇護率と呼びます。昨年の日本では、本国事情などによる在留許可が千四百八十一件あり、実質的にはほとんどの者が補完的保護対象者となるので、これを入れて計算すると、庇護率は約三〇%になります。
注意すべきは、昨年三月から受け入れられている二千二百三十八人のウクライナ避難民のほとんどや、ミャンマー特別措置によって特定活動資格で在留するミャンマー人の多くは難民認定申請をしていないため、庇護率の計算には入っていません。これらの人々を考慮するならば、昨年の庇護率は五〇%を超すでしょう。資料一を御覧ください。日本の難民認定率は一%以下というのは、今では誤りです。
ちなみに、日本よりずっと高いと言われる欧米諸国の難民認定率については、国境で難民申請も許されないまま追放され、そういった数十万人の人々が入っていません。彼らは実質的には難民不認定とされたのであって、欧米諸国の本当の認定率は公表数字よりも低いと考えられます。
次に、国際機関からの指摘について述べます。
UNHCR駐日事務所は、二〇二一年に提出された入管法改正案の送還停止効の例外規定に懸念を示しました。これをもって、改正案は国際法違反、国際人権法違反であるといった意見が見られましたが、これは正しいとは言えません。
難民条約上、加盟国がどのような難民認定手続を採用するかについては各国に委ねられています。UNHCRの役割は条約の適用を監督することであって、この監督とは、情報収集や評価をして意見を述べることです。UNHCRは難民の定義や解釈について意見を述べることはできますが、加盟国が従わなければならない最終的な解釈権限はUNHCRにはありません。自由権規約委員会は解釈権限を有していますが、その解釈に基づく勧告についても同様に拘束力はありません。
また、いわゆる国際基準というものは曖昧なものです。各国はそれぞれの事情に応じて国内法を定めており、全ての国を拘束する統一的な国際基準はありません。また、仮にそのような国際基準があったとしても、さきに述べたように、主要先進国がそれを守っていません。日本の制度を評価するには、抽象的な国際基準だけでなく、各国の政策実行の実態も視野に入れた複眼的な評価が必要です。
各国の難民政策は、難民の人権を中核に、国家の安全、経済的必要性、そして、重要ですが、社会の支持といった複数の事情に目を配りながら実施されます。資料二を御覧ください。
難民政策は、具体的には、難民の受入れと、多数の難民を受け入れる途上国の負担を分担する資金協力の形を取ります。日本の資金協力について議論されることはほとんどありませんので、一言触れますと、日本は官民合わせてUNHCRに毎年二百億円近い資金協力を行い、ドナーランキングは四番前後にいます。この日本の資金によって、大ざっぱに言って三百万人近い難民や国内避難民が助けられています。資料三を御覧ください。
このような日本の最近の難民政策は注目を集めています。日本に対して批判的だったUNHCRも、昨年十二月に来日したトリッグス副難民高等弁務官が日本の難民政策は大きく変わっていると再評価しています。資料四を御覧ください。
また、難民研究の世界的権威であるオックスフォード大学難民研究所の所長、アレクサンダー・ベッツ博士も、先日、次のようなメッセージを私に送ってきました。日本は、今、難民政策において極めて重要な時期にある。日本国内での庇護へのアクセスを広げる一方で、海外での人道支援や開発支援を継続している。世界の難民制度が脅威にさらされ、改革を必要としている今、日本は重要な指導的役割を果たすことができると。
最後になりますが、私がUNHCRに入って二十年、この間、日本の難民政策は非常に大きく変わりました。また、余談ですけれども、一九七六年から一年間、私は入管局にいました。四十七年前、先生方にはまだ生まれておられない方もいらっしゃると思います。その頃の入管局と今の入管庁はほとんど別の組織です。入管庁は大きく変わりました。
今回の法改正は、日本的な、規律ある人道主義に基づくものと言えます。それは、効果的な国境管理ができず、難民や移民をめぐって政治的な分断が進む先進諸国にとって、一つの方向性を示すものと言うことができましょう。
以上のような理由から、私は改正案に賛成いたします。
御清聴ありがとうございました。(拍手)