橋本直子の発言 (法務委員会)
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○橋本参考人 この度は、重要法案の参考人として招致していただき、光栄に存じております。
私は、現在は一橋大学で教鞭を執っておりますけれども、以前は、外務省、UNHCR、IOM、国際移住機関の職員、また法務省入国者収容所等視察委員会の西日本委員、そして現在も難民審査参与員として、過去約二十五年間にわたり、国際難民法、庇護政策を中核的専門として、実務と研究の双方で研さんを積んでまいりました。
それらを踏まえつつ、完全に個人的な見解として、今国会に再提出された入管法改正案について、具体的な修正案を時間的な制約もございますので三点に絞って提案させていただきます。配付資料も五点ございます。併せて御参照ください。
一点目が、三回目以降の複数回申請者に対する送還停止効の解除の問題です。相当の理由がある資料を新たに提出していないと判断された三回目以降の申請者に対して直ちに送還停止効を外してしまうのではなく、代わりに迅速簡易手続を通じて難民申請を審査するのが、現時点では妥当ではないかと考えます。
確かに、全く同じ状況、主張、証拠に基づいて何度でも申請できるというのが一般的な法原則に照らしておかしいという指摘は分かります。けれども、日本の難民認定基準が諸外国と比べて大変厳しい、だから条約上の難民が日本では保護されていない危険がある、また、複数回申請後に裁判を経て難民認定された者がいるというのも事実です。
実は、私は、難民該当性に関する規範的要素の明確化を通じて、もし日本の難民認定基準が大幅に見直される、改善されるのであれば、複数回申請者で新たな事情が一切ない者に対しては、そもそも申請自体を受理しないこともやむを得ないのかもしれないと先月までは考えておりました。そのような可能性も視野に入れて、難民審査参与員の一人として、明確化作業には多くのコメントを提出させていただきました。
去る三月二十四日に公表された難民該当性判断の手引を拝見したところ、確かに、入管庁による解釈が明確になった、部分的には改善されたところもあります。しかし、法務大臣がおっしゃったとおり、従来の解釈を大幅に変更、緩和するものではありません。特に、難民申請審査上、肝となる、迫害のおそれの概念について、難民条約の解釈としては不適切、不正確と私は思う点がまだ幾つかあります。
複数回申請者の排除と難民認定基準の見直しはセットで行われなければなりません。現状においては、送還停止効を解除するのではなく、迅速簡易手続を導入するのが適切と考えます。
なお、迅速簡易手続については、EUの手続指令でも既に十年前から導入されており、また、UNHCRが二〇二一年四月に公表した旧法案に対する見解においても、一定の条件下で許容されています。また、入管庁御自身も、二〇一八年から、難民申請書類を受理した直後の振り分け作業において、ある意味で実質的に迅速手続を既に実施しています。したがって、全く新たな手続を提案するものではありません。
確かに、迅速簡易手続の導入では、送還停止の対象となる難民認定申請期間が短くなるだけで、必ずしも出国、帰国につながらない、根本的解決にならないという反対意見も出るでしょう。
確かに、原則論に立ち返れば、在留資格のない外国籍者で、本国に迫害や拷問等、また強制失踪のおそれも一切なく、さらに、日本での在留を特別に認めるべき人道的事情も全くない方については、速やかに帰っていただくのが原則です。実際、入管庁の資料でも、退去強制令書が発付された方のうち約九割は自発的に自費で出国しています。
と同時に、日本での生活が長くなり帰国後の生活が心配で帰国に踏み切れない方や、そもそも帰国費用が賄えない人もいます。
非正規滞在者は強制送還しろと威勢よく唱えるのは簡単ですけれども、そう唱える方々は、日本政府が物理的、強制的に退去強制を執行する際の費用は、日本の納税者、外国籍を含めてですね、納税者の税金で賄われていることを御存じなのでしょうか。
税金を使っての強制送還者や被収容者をできる限り減らすために、手前みそでございますけれども、私が国際移住機関勤務中に、当時の入国管理局警備課の方々との丁寧な協議に基づき、自主的帰国支援・社会復帰事業というのを立ち上げました。この事業も種々の批判があることは承知しておりますけれども、ヨーロッパ諸国では既に一九七〇年代から実施されており、世界では毎年約五万人以上の方々がこの形で穏便かつ比較的安価に帰国しています。
要するに、難民認定基準がしっかりと見直されるまでは、送還停止の解除ではなく、迅速簡易手続を導入し、その間に自主的帰国支援を使って自発的に帰っていただくのが、日本政府にとっても、納税者にとっても、御本人にとっても最も合理的な方策と考えます。
二点目が、犯罪者や入管法二十四条の幾つかの条項に該当する疑いがある方に対する送還停止効の解除です。
この条項は、難民条約三十三条二項、つまりノン・ルフールマン原則の例外規定を国内で実施することを可能にする趣旨と理解します。難民条約三十三条二項は、実際に迫害を受けるおそれがある方、命の危険が待ち受ける者ですら送還を可能にしてしまう条文ですから、その趣旨に鑑みて極めて限定的に解釈することが重要です。配付資料二を御覧いただけると、実際、諸外国の法令でも極めて限定的な規定となっていることをお分かりいただけると思います。
ところが、今回の法案では、無期若しくは三年以上の拘禁刑全てとしており、日本の刑法では、通貨偽造罪、詔書偽造罪、虚偽詔書作成罪、虚偽詔書行使罪なども入ってきてしまい、それらは難民条約三十三条二項に言う特に重大な犯罪とは言えません。
よって、下段に、かつ本邦の社会にとって危険な存在となった者として法務大臣が認定する者と限定することにより、難民条約三十三条二項の趣旨を直接的に反映させるとともに、配付資料にもありますとおり、他のG7諸国などの事例を参考にすることを提案いたします。
また、入管法二十四条四号のオ、ワ、カのうち、ワには、「密接な関係を有する」という曖昧な文言が含まれており、また、カには、単なる印刷物の頒布や展示なども入っています。
例えば、余り日本社会に慣れていない難民がだまされて好ましくない集団の一員と友人関係になってしまうことや、日本語がまだ不自由な難民が内容を理解せずチラシ配りのアルバイトをしてしまうこともあるでしょう。そのような間接的関与や軽微な活動は、難民条約三十三条二項の趣旨にはそぐわないと世界的難民法学者も明確に否定しています。
よって、ワとカは削除を提案いたします。
さらに、二十四条三号の二は、公衆等脅迫目的の犯罪行為等の予備行為や実行を容易にする行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大臣が認定する者を含んでおり、それ自体の範囲が広過ぎます。
それに加えて、法案第六十一条の二の九第四項の第二号の末尾で更に、そのような者に該当すると疑うに足りる相当の理由がある者としており、要するに、二十四条と六十一条で疑いが二重にかかっています。
その結果、究極的には全ての難民や庇護申請者の送還停止効の解除が可能となるような文言となってしまっています。
そこで、配付資料のとおりの文言修正を提案いたします。
なお、二及び四の末尾に法務大臣による個別認定を挿入したのは、難民の追放、送還は、場合によっては死刑執行と同じ効力を持つ行為であるため、法務大臣までお諮りすることが重要と考えるからです。
ここで一つ基本的な事実確認ですけれども、毎年警察庁や法務省が発表している統計資料によれば、来日、在留外国人の数は、コロナ禍や東日本大震災直後を除いて、過去約七十年にわたってずっと増加しています。その一方、近年の刑法犯外国人検挙人員数は、ほぼ横ばい、ないし微減しています。要するに、難民などの外国人が増えると治安が悪くなるというのは、単なる妄想にすぎません。また、警察庁のデータに基づけば、日本国籍者よりも外国籍者の方が凶悪犯罪を起こしやすいという結論を導き出すこともできません。
ただし、今後もし日本の安全にとって危険となるような難民が万が一出てきた場合に、重要になってくるのが送還先の問題です。既に、入管法五十三条三項において、送還可能な対象国は限られています。拷問等や強制失踪のおそれがある国にはいずれの場合でも送還できません。
よって、法案六十一条の二の九第四項に更に新たな号を追加して、ただし、送還先については、第五十三条第三項に従って定めると再確認することを提案いたします。
これにより、民意に基づいて日本が締約国となっている国際難民法や国際人権法に規定されている原則を、過不足なく実施することができるようになります。
ただし、現行法五十三条三項一号の下段、括弧内にある、日本国の利益という概念は、例えば財政的利益や文化的利益なども含まれるので、広過ぎます。
よって、括弧内については、法務大臣が第六十一条二の九第四項の第二号から第四号のとおり認める場合を除くと修正することで、全ての関連条項の内容を合致させることができます。
三点目が、いわゆる補完的保護についてです。
法案二条三号の二において、迫害を受けるおそれが難民条約上に規定する理由であること以外の要件を満たす者となっています。
しかし、日本政府は迫害の定義を狭く解釈しているので、武力紛争下における無差別暴力や副次的被害を逃れた方が、現在提案されている条項によって補完的保護を受けられるようになるのか定かではありません。
また、配付資料三にもお示ししましたとおり、G7諸国では全く違う規定を採用しています。確かに、日本は主権国家ですので外国の国内法をそのまま採用する法的義務はありませんが、ウィーン条約法条約三十一条、三十二条の趣旨にのっとり、他の当事国間の合意については考慮することが妥当と考えます。
よって、私の提案イにおいては、EUの資格指令を参考に、日本語としての表現を整えた文言を提案しています。
なお、入管庁が二〇一二年から毎年発行している事例集、難民申請者に対する人道配慮による在留許可の事例では、既に紛争待避機会ですとか武力衝突という言葉が使われています。よって、私の修正提案は、既に入管庁御自身が実施している実務を踏まえたものと言えます。
また、ロは、既に日本が民意に基づいて締約国になっている拷問等禁止条約、また市民的、政治的権利に関する国際規約の条文を反映させたものです。新たな義務を創設するものではありません。
一部には、補完的保護の導入は、特にウクライナ避難民を確実に保護するために必要という説明があります。けれども、ウクライナ避難民は、官邸主導の下、既に一年以上にわたって、一切何の法改正もなく、極めて速やかに例外的に寛大な措置がつつがなく実施されています。
配付資料四にもお示ししましたとおり、ウクライナ避難民は条約難民よりも優遇されている面まであり、ウクライナ避難民のためであれば、入管法を急いで改正する必要はありません。
また、去る火曜日に議論がありました、反戦派のロシア人、良心的兵役忌避者については、条約難民としての保護の検討がなされるべきで、補完的保護の対象にはなりません。補完的保護は、むしろ、ウクライナ以外の国の同じような無差別暴力状態から逃れてきた方々に、ウクライナ人と同じような支援と保護を差し伸べるためにこそ、必要と考えます。
最後になりますが、与党又は賛成派の議員におかれましては、この法案をこのまま通すということは、最悪の場合には、無辜の人間に対して間接的に死刑執行ボタンを押してしまうことに等しいということを是非御理解ください。
特に、自民党の委員におかれましては、御子息様がいらっしゃる前で恐縮ではございますけれども、奥野誠亮議員がこの国会の場で一九七八年二月十四日に行われたすばらしい演説を是非思い出していただきたいです。
また、野党、反対派の議員におかれましては、現在の国会の勢力図に鑑みれば、数の論理で無修正採決という最大のリスクがあることを思い出していただきたいです。
その上で、全ての委員に何とか修正の可能性を探っていただきたく、そのために私の拙い提案が何らかの一助になれば幸いでございます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)