山本潤の発言 (法務委員会)
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○山本参考人 おはようございます。
二〇二〇年から開始された性犯罪に関する刑事法検討会、法制審議会に委員として参加しました、一般社団法人Spring幹事の山本潤と申します。
本日は、今回の改正の私から見た意義と積み残された課題、また、今後、国として実施していただきたいことについてお話ししたいと思います。私の資料はこちらにありますので、見ていただければと思います。
今回の、同意しない意思という言葉が文言に入ったことは、非常に評価すべきことだと思いますし、是非改正を進めていただければと思います。また、法制審議会でも、被害者が同意していない性的行為は処罰の本質であるということに関して異論はありませんでした。
しかし、昨年十月に出された試案においては、拒絶の意思を形成し、表明し又は実現させることが困難との文言が出されていました。これを聞いたときに、なぜ、これだけの議論を重ねても、拒絶という文言が出てきて、言っても言っても伝わらないのかと非常に絶望感を覚えたことを覚えています。
これは、被害者に拒絶の意思、抵抗の義務を課すかのように受け取られる可能性があること、また、被害者の立場からすると、拒絶の意思をあなたは形成できましたか、表明できましたか、実現できましたかというふうに言われても、私の場合もそうですけれども、自分が本当に嫌で拒絶したかったんだというふうに思い至るまでには非常に長い時間が必要なわけですね。私の場合は二十年間ぐらいかかりました。
ですので、拒絶の意思を形成の段階で処罰することが可能ということは、ノーという意思が形成される前も処罰できる範囲なんですよということは説明されましたけれども、非常に分かりづらいということと、また、被害の実態を正しく捉えられていないということで、被害者側の委員からも反対の意見、また社会からも反対の意見が示されたと思いますけれども、それで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難というふうになったことは非常によかったなというふうに思っています。
この意味合いについては先ほど橋爪さんが説明していただけたと思いますけれども、この八つの例示列挙で、同意がない行為、場面が明確になり、同意しない意思が文言に取り入れられることにより、同意の有無を中心に処罰対象が考えられるようになることを今後期待したいと思います。
また、これについて、括弧二のところなんですけれども、今までは、著しく抵抗困難なほどの暴行、脅迫がなければなかなか罪に問えない、警察に行っても、あなたの暴行や脅迫の程度は激しくないから、なかなか裁判に行っても難しいと思うよというふうに言われて、諦めてしまうということが多かったわけですね。それを、法制審議会の議論において、程度は問わないということを確認しましたし、これは有形力の行使があればそれでオーケーなんだということを、是非、司法職員、警察官、検察官にも周知していただければと思いますし、私たちも認識する必要があることだと思います。
また、そのほかの列挙されている行為や事由も、それ自体の程度を問う構造になっていないということなので、この行為があったということをまず明確に確認し、その上で、同意しない意思を評価していただければと思います。
一方、処罰範囲については懸念しているところもあります。
同意がなく、対等性がなく、強制性がある性的行為は性暴力です。しかし、様々な社会的な認識が異なる状況において、そして、対等性についてなかなか理解されていない現状において、この法律で正しく捉えることができるかなということは懸念しています。
例示列挙の一つに、経済的、社会関係上の地位に基づく不利益の憂慮が挙げられました。しかし、高校生と教師、児童養護施設などに入っている入所者と施設職員という、明らかに対等でない地位、関係性を利用した性的行為が性犯罪として認められるのかということについては疑問が残ります。法制審議会においてもこの点を指摘しましたが、個別に判断すると伝えられるものでした。
しかし、同じ学校の教師と生徒であれば、教師は生徒の個人情報を一方的に把握し、成績を評価する立場にあり、決して対等ではありません。また、児童入所施設においても、入所者の待遇や環境を左右することができるのが職員です。そのような影響力の下での被害者が同意していない性的行為が十分に処罰対象になるとは、これまでの裁判例や運用を見る限り、とても思えません。
資料の方の、資料二にある刑法改正市民プロジェクトの附則案の、附則のところの二項にあるんですけれども、やはり、教師と生徒、施設職員と入所者など明らかに対等でない地位、関係を利用した性行為を処罰するための検討を加え、必要な措置を講じてほしい、附則に入れてほしいという要望になっております。
ほかにも、レジュメに戻りまして、アメリカの方で、対等でない、黙示の強要がある例として挙げられているのが、医療関係者と患者、宗教関係者と信者、刑務所、矯正機関職員と受刑者、雇用者と被雇用者などの明らかに対等でない立場についてはこのような例があるということを示されているわけですから、更なる改正を地位、関係性においても検討してほしいと思います。
また、二に移りまして、障害児者であることによって他者の援助を必要とする立場の方は、相手の意思に反する表明をできにくい立場にあります。齋藤さんからも説明されましたけれども、そのような依存的な状態にある人に対し、施設職員、援助者という立場を利用して性暴力を行うことは、被害当事者にとって性的搾取でもありますし、親や親族などと同じように信頼する立場の人から加害を加えられるわけですから、非常にダメージも大きく、心身に有害です。
このような被害に関しても、心身の障害や、虐待に起因する心理的反応や、地位、関係性の不利益憂慮などの例示列挙で個別に対応するというふうに伝えられましたけれども、障害のレベルや反応というのは非常に様々ですし、日常的に障害者に接している施設職員であったり援助者であってもなかなか分かりにくいというところもあるわけですね。そのような人たちでも分かりにくいことを、司法職員が適切に判断できるのかなということを思います。
しあわせなみださん、資料四の、最後のページの要望書にもありますけれども、対人援助職も含めた地位、関係性規定を要望されています。附則につけて検討していただければと思っております。
次に、性的同意年齢についてお伝えしていきます。
中学生でも成人と真摯な恋愛ができるというような言説がはびこっていましたので、少なくとも、五歳以上の年齢差があれば対等な意思決定ではないという認識が法制審議会で得られたのはよかったと思っています。国会答弁の中でも、例として、十五歳の高校一年生と二十一歳の大学生が性交した場合、高校生の同意があっても罪になるのはどうなのかというふうな議論がありました。
様々な意見や、また、ちょっと誤解しているところもあるのかなというふうに思うんですけれども、法制審議会で佐藤陽子委員が、性的行為をするかどうかに関する能力、一、行為の性的な意味を認識する能力、二、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、三、性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力が備わっている場合、性的行為をするという能力があるというふうに考えて、進めてきたというところがあります。
私としては、やはり段階的に発達するのではないかということをお伝えしていまして、一については中学生レベルであれば理解できるようになることもあるのかなと思うんですけれども、二の自己に及ぼす影響を理解する力や、性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力に関しては、それ以上の認知能力の発達や社会的経験が求められるかと思います。
年少者が同意だというふうに思っていても、年長者からそのように手懐けられたり、仕向けられたり、思い込まされている場合もありますし、性交すれば起こる、性感染症や、妊娠したり、また、妊娠して、継続が難しいから人工妊娠中絶をしなければいけないというような、そういう影響についても理解して的確に判断する能力が備わって初めて真の同意と言えるのではないでしょうか。
このような状況が、意思決定が必ず対等性を欠く年齢差として、先ほど五歳差になったということを説明いただいたと思うんですけれども、被害者支援側の委員からは、三歳差が妥当であるという意見も出されていました。カナダにおいては、成人、十八歳なんですけれども、これに対して十六歳未満というふうに、二歳差であるという国もあります。
自由な意思決定、対等な意思決定ができる年齢は何歳なのかということは、今後、調査結果を踏まえて検討していただきたいと思いますし、私の意見としては、日本においても、成人、十八歳以上から中学生年齢、十六歳未満に対する性的行為は処罰の対象ではないかと思っています。そこは最低限守らなければいけないところなのではないかという理解をこの日本社会で共有できるのではないかと思っていますが、いかがでしょうか。
次に、公訴時効について述べたいと思います。
公訴時効は五年の延長であり、これについては非常に不満を持っています。
海外の調査報告書で、こちらに座っております齋藤さんが法制審議会でも説明していただいていましたけれども、ドイツでは千人以上の生存者を対象とした、十八歳未満の子供に対する児童性的虐待を被害者が報告したときの平均年齢が五十二歳だった、また、アメリカの男性の児童性的虐待の生存者を対象とした調査ですと、最初の暴露まで、最初に誰かに話すまでの平均期間が平均二十一・四五年だったという調査があります。これは、五年延長でとてもカバーできるような年齢ではないと思います。
日本の臨床現場において被害者治療を行っている委員の方たちからも、三十代はせめてカバーしてほしいというふうに伝えられていましたけれども、このままでは三十三歳ということになります。
括弧三のところですけれども、ほかの方も言われていましたけれども、被害から五年が経過するまでの間に被害が外部に表出されているという内閣府の調査を根拠として今回の改正になりましたけれども、これは、相談できなかった約六〇%の人、この調査において、女性の五八・四%、男性だと七〇・六%が、そのときまでに誰にも相談していないわけですね。この被害に遭ってから相談までの期間についての質問は、相談した中で取った数字であって、大多数の人が五年以内に相談できたわけではないということを踏まえていただいて、しかも、それを回復してから言える、それは相談できた年代ですから、司法機関に言えるようになるまでにはすごくまた時間がかかるわけです。
長期的な被害の影響、人生への損傷、そしてそれを回復するまでにかかる時間ということを考えていただくと、公訴時効の方は更なる検討が必要だと思います。
スイス刑法においては、十二歳未満の児童に対しての性犯罪がなされた場合には、これは時間がたったから決して許される罪ではないということで、時効を撤廃したということです。ドイツ刑法も、三十歳まで停止して、残り二十年間訴えられるということで五十歳までになっています。フランス刑法も、強姦については、未成年者に対して行われた場合、成人に達して三十歳から時効。四十八歳までが時効ということになっています。
そのような諸外国の例も踏まえまして、日本でも、証拠がある、DNAがある、撮影などが残っている、そういうケースにおいてきちんと加害を、罪を問うことができるようにしていただければと思います。
性犯罪加害と治療教育についての書籍の中にありますけれども、加害者治療教育の研究では、一人の性犯罪者は生涯三百八十人の被害者を出す、これは露出やわいせつ電話を含むデータですけれども。やはり、その一人一人をきちんと対応して処罰していくということは、将来の被害を減らす意味でもすごく大事なことだと思います。
次のページに移りまして、運用への懸念についてお伝えいたします。
法務省の性暴力実態調査ワーキンググループの取りまとめ報告書にあるんですけれども、この中で、被害者が性交に同意していた可能性を排斥できないが百八十件あり、それが嫌疑不十分と判断されて不起訴になりました。これは、危機的状況に置かれた人間の心身反応を理解しての判断なのかということに関して、疑問が残ります。
過去には、警察官が通りかかったのに助けを求めなかったから、同意の可能性を否定できないとして無罪になった裁判例もありました。しかし、今まさに被害を受けている最中に助けを求めるということがどれだけ難しいのか。そのことで、刺されるかもしれない、もっとひどい目に遭うかもしれないと思っても、思わなくても、やはり体は固まって、フリーズして、人は動けないわけです。そのような危機的状況に置かれた人間の心身反応に基づいて、同意のない意思の有無が、あったのかということを判断していただければと思います。
次に、被疑者の誤信の問題があります。
二〇一九年の福岡の無罪判決においては、一審で、飲酒によって意識がない状態の被害者に性交したことに対し、加害者が、被害者がうめき声を上げたから、身じろぎをしたから同意していると思ったということが裁判で認められて、無罪になりました。その後の高裁判決では、加害者の主張は認められず、有罪になっています。
被疑者は、性暴力加害者は、向こうも望んでいた、嫌だと言わないのは同意のサインだ、嫌だと言っても言葉の上だけで本当は嫌がっていないのだという認知のゆがみを生じさせて、性加害を行っているわけです。このような加害者の思い込みを誤信というふうな形で判断していただかないでほしいと思います。
また、加害者が持っているそのような認知のゆがみは、この社会が共有しているところでもあります。レイプ神話と事実におきまして、女性のノーはイエスという意味である、見知らぬ者がレイプをする、レイプは直ちに警察に届ける、セックスへの欲求がレイプの第一の動機であるというような誤解がやはりはびこっていて、そのことにより、そのようなものなのだということを受け取って、加害者はそれを利用しているというところがあります。
しかし、先ほどSHELLYさんからも伝えられたように、ノーはノーなんです。だから、ノーの意味はノーで、女性の希望、被害者の希望は尊重されるということを、性暴力は同意のない性的行為であり決して許されないということを社会で共有していただければと思います。
そのほか、性的撮影罪、また、司法面接、性的な面会についても、様々実態調査が必要ですので、改正を検討していただきたいと思います。
最後に、今後の運用についてお伝えしたいと思います。
ほかの方からも述べられましたけれども、包括的性教育を実施して、性的同意についての認識を社会全体で共有していただければと思います。
また、関係機関、警察官、検察官、裁判官等の司法職員には研修と周知を行い、この新しく変わる改正が必ずその意図を実現できるようになるように取り組んでいただければと思います。
また、括弧三の被害者支援の拡充と社会復帰支援ですけれども、このような、被害者が救われる司法運用になるためには、被害者支援機関と警察との緊密な連携が必要ですが、なかなか今それがはかどっていると言えない状況にあるのではないかなということは、私は個人的には感じています。
もっと被害者支援機関を活用して、被害者が受けられるサービスを充実するようにしていただければと思いますし、長い間、時によっては何十年も被害の影響に被害者は苦しみます。学業を遂行することや、仕事に出ることや、生きがいのある暮らしを送ることも難しいわけですよね。そういう人に対しての支援、また経済的支援もお願いできればと思います。
そのためにも、被害者や被害者家族、パートナーなどが御自分たちで話し合い、そして自分たちの状況を理解して前に進んでいくような自助グループについても、とても求められるところですので、そのような体制整備もお願いしたいと思います。
以上です。ありがとうございました。(拍手)