尾上定正の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(尾上定正君) おはようございます。
 本日は、このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。また、日本の防衛力のそのものである防衛生産・技術基盤の強化のための法律について、このように真摯に御議論をいただけますことに、心から感謝を申し上げます。
 私は、二〇一七年の八月に航空自衛隊補給本部長を最後に退官いたしましたけれども、当時から、防衛産業の抱える様々な問題について強い危機感を持っておりました。その一番の理由は、航空自衛隊の運用を支える主要装備品の可動率が著しく低下し、平時の重要な任務である対領空侵犯措置と錬成訓練に提供するF15戦闘機の確保すら困難な状況が常態化していたからです。
 装備品の価格が上昇するにもかかわらず、修理用部品を購入する予算が増えず、その負担は、部品の共食い作業を強いられる部隊はもちろん、少額の契約で生産ラインや技術者、インフラを維持しなければならない防衛産業にも大きくのしかかっていました。まさに、部隊運用に直結する防衛産業は崖っ縁に追い込まれていました。その後、防衛産業から撤退した企業の数がそれを象徴しており、危機的状況は今も続いています。
 現在、御審議いただいている防衛生産・技術基盤強化法は、そのような危殆に瀕している防衛産業を立て直し、新たな国家安全保障戦略等に基づいて、我が国を防衛するための生産技術基盤に発展させるために不可欠な第一歩であると確信し、早期の成立を期待しております。
 さらに、ウクライナ戦争の様相や我が国周辺の厳しい軍事環境を踏まえると、自衛隊が想定する新たな戦い方に必要な能力を優れた両用技術を用いて短期間で装備化し、かつ実際の作戦で持続的に運用できる体制を構築しなければなりません。
 このような観点から、目指すべき防衛生産・技術基盤の実現に必要な三つの視点を御説明いたします。
 まず第一は、自衛隊の作戦運用の専門知識の活用という視点です。
 防衛生産・技術基盤の強化には、まず自衛隊が想定する将来の戦い方、これには、平素の情報戦、サイバー戦からグレーゾーンのハイブリッド戦、そして本格的な領域横断作戦、これらの戦い方を明確に示す必要があります。これは、作戦運用の当事者である自衛隊にしかできません。
 この将来構想に基づき、防衛産業は集中投資する分野や研究開発の方向を定めることができるのですが、これまでの防衛装備品開発は、各自衛隊が既存の装備体系の中で旧式化したものを新規装備品に換装するという考え方を基本にしてきたため、新たな戦い方に必要となる斬新な装備要望や運用要求は余り出てきませんでした。企業の側も、自衛隊が要求する以上の革新的な性能を有する全く新しい装備品を、自らリスクを取って開発する機運には乏しかったと思います。
 今後は、具体的な脅威に対する運用要求に基づく研究開発、短期間の試作と試験を経た装備化、そして、部隊が習熟して実効的な防衛力と転化する仕組みが必要です。さらには、将来戦構想に応用できる可能性のある両用技術や汎用装備品を運用に習熟した目で積極的に発掘する制度も必要です。
 アメリカには、DIU、ディフェンス・イノベーション・ユニットという組織があります。DIUは、国防省全体の組織と提携し、各軍種や戦闘司令部、機関等が抱える国防上の課題に対し、先進的な民間ソリューションを迅速に試作、実用化する仕組みであり、参考になります。
 また、防衛生産・技術基盤強化法と経済安全保障推進法は別建てとなりますが、防衛分野と民生分野の垣根を取り払うことは今後の重要な課題です。防衛省・自衛隊は、将来の戦いの鍵を握る民間の科学技術研究や企業の先端技術開発に能動的に関わり、優れた両用技術を軍事力として実装化していく必要があります。防衛産業側も、スタートアップや民生部門、あるいは海外企業等と積極的に連携し、運用者たる自衛隊との対話に臨む姿勢が求められます。
 二点目は、自衛隊の運用に関わる戦略的自律性の確保です。
 防衛は安全、安心を提供する国の基盤インフラであり、防衛装備品は国や国民の生存に甚大な影響のある物資です。
 経済安保推進法では、基幹インフラの重要設備が我が国の外部から行われる役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されることを防止するため、重要設備の導入、維持管理等の委託の事前審査、勧告、命令等の措置が必要とされています。また、重要物資の安定供給の確保を図るため、特定重要物資の指定、民間業者の計画の認定、支援措置、特別の対策としての政府による取組等の措置が規定されています。いずれも、所管大臣が基本方針や計画を定め、法に基づく措置として監督指導し、必要があれば勧告、命令する体制となります。
 翻って、防衛及び防衛装備品は、防衛省と企業の契約によって企業の秘密保全義務や遵守事項が規定され、それが現状です。防衛省の契約は、通常、プライム企業と交わされ、プライム企業はサブプライム、サブプライムはその下請ベンダー企業へと民間契約の鎖がつながり、防衛省・自衛隊の役務や製品の供給網が形成されているのですが、秘密保持等の特約条項が供給網の末端まで徹底しているのか、重要設備の導入時に適切な審査が行われているのか、現場で作業する工員の適格性は確認されているのか等、その実態は必ずしも明らかではありません。逆に言えば、民間企業に対し契約関係のみでこのような措置の確実な履行を求めることには限界があると言わざるを得ません。
 この防衛生産・技術基盤強化法によって、経済安保推進法と同じく、法に基づいて防衛大臣が監督指導、勧告、命令する体制となることを期待します。
 また、防衛装備品の多くは、技術や部品、構成品を輸入に依存しています。アメリカの国防省は国防に不可欠なサプライチェーンの確保という報告書を公表していますが、自衛隊のC4ISRシステムや主要装備品、防衛技術のサプライチェーンを見える化し、戦略的自律性を確保するためのチョークポイントや脆弱点を洗い出すことが必要です。防衛産業のサイバーセキュリティー体制の強化は、言うまでもなく、一刻の猶予も許されません。
 最後に、余り議論されていない有事の後方支援についてです。
 三文書でも防衛生産・技術基盤は防衛力そのものとの認識が示されているとおり、装備品の整備、製造のみならず、維持整備においても防衛産業のサポートなしには自衛隊は戦うことができないのが現状です。装備品の維持整備の中核的部分を民間に依存しており、装備品の高度化に伴い、この傾向は一層顕著になっています。
 典型的な例としては、インド洋補給支援活動やソマリア沖海賊対処活動において、派遣先で海自艦艇に故障が発生した場合には、企業に要請し、技術者である社員を日本から現地に派遣してもらい、修理を行っています。自衛隊と企業の長い関係の中で、企業は、派遣される可能性のある社員に海自からの具体的要請がある前に予防接種を行い、即応体制を取ってくれました。
 しかし、これは、平時ゆえに協力を受けることができたものです。有事には、可動時間の増加や戦闘による修理所要の増加が見込まれる一方、自衛隊が展開している作戦地域、例えば南西諸島方面まで企業が要請に応じて任意に社員を派遣してくれることを前提とすることはできないと考えます。その結果、艦艇や戦闘機などの装備品は不可動になり、自衛隊の戦力発揮に大きな支障が生じる、あるいは、艦艇や戦闘機などの装備品を修理のため後方に下げることになり、戦力ダウンとなるといった事態が考えられます。今回、維持整備に必要な経費は大幅に増えましたが、民間に依存している維持整備作業を、安全確保が十分でない地域においていかに実施するかについては未解決です。企業を含めた国を挙げての検討が必要であると考えます。
 以上、三点、防衛産業が防衛力そのものとして機能するために必要な作戦運用の視点で御説明いたしました。法案には、装備移転円滑化措置や製造施設等の国による保有など重要な施策が盛り込まれておりますが、これらについては質疑でお答えできればと思います。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 尾上定正

speaker_id: 24799

日付: 2023-05-30

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会