伊藤元重の発言 (経済産業委員会)
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○参考人(伊藤元重君) 伊藤でございます。よろしくお願いします。
お手元にレジュメがあると思いますので、それに従ってお話をさせていただきたいと思います。私は経済学者でございますので、経済学的な視点からお話をさせていただきたいと思います。
改めてというか、今更言うまでもないことだと思いますけど、気候変動問題というのは、壮大な規模の市場の失敗というんですか、人々の行う経済活動がいろいろな形でほかのところに影響を及ぼすと。壮大な規模というのは、二百年前から始まっているわけですし、それから全ての人がこれに関わっているわけですし、そして今後の人たちにも影響が及ぶと。既に存在する人だけではなくて、これから出てくる企業だとかイノベーションだとか、あらゆるものがそこの影響を受けると。
これくらいの規模になってくると、なかなかそれを是正するってそう簡単じゃないわけで、理論的に見ると是正する方法は三つありまして、一つは、政府による強烈な規制だとかあるいは管理によって動かしていくと、二つ目は、企業だとかあるいは個人の自主的な努力の中でそれを是正していくと、そして三つ目、これが今日のお話の中心になるわけですが、三つ目の方法は市場の力を利用してそれを是正するということで、全てもちろん大事でございますから、どれかが必要ないというわけではないんですけど、この規模になりますと、結論から申しますと、市場の力を借りることなくこの気候変動の問題を解決するということは難しいということをまず申し上げておきたいと思います。
具体的に市場の力を借りるってどういうことかというと、人々が普通に行う経済活動、これは消費や生産だけじゃなくてイノベーションだとかあるいはいろんなものが入ってくるわけですけど、そこにこのいわゆる気候変動によって発生する外部性のコストがしっかり織り込まれていくという流れだろうと思います。これがいわゆるカーボンプライスという考え方で、今回そのカーボンプライスについてどこまで踏み込んだかということはいろいろな方の御意見あると思いますけれども、ここまで今、案が出てきているということはすばらしいことだろうと思います。
そして、このカーボンプライスのもう一つ重要なことは、将来何が起こるかということが分からないという中で、いろんな可能性に対して柔軟に対応できるということだろうと思います。一つ例を挙げますと、例えばCO2を減らすときに、じゃ、省エネが好ましいのかあるいは再エネが好ましいのか、じゃ、再エネの中で太陽光が好ましいのかあるいは風力が好ましいのか、はたまた原子力が必要なのか、いろいろな議論があると思うんですね。
これは、どれを選ぶかということももちろんいろいろな議論をしなきゃいけないんですけれども、その都度その都度のやっぱり技術的な環境とか政治的な環境とかいろいろな問題があるときに、やはり重要なことは、よりどころとなるいわゆる価格というものがあると、その価格に照らして一番社会的に望ましいものをその時点その時点で選べるということが重要だろうと思います。
二つ目の項目で、今回のこの議論のもう一つの重要な、重要というのは、気候変動の対応をするために巨額の投資が必要であるということです。これは、水素あるいは再生可能エネルギー、電気、自動車の電気化ですね、住宅の断熱等々いろいろ考えられるわけですけど、こういうことに対する投資をきちっとやっていかなきゃならない。もちろん言うまでもないことで、投資の主たる担い手は民間企業であるわけですから、民間企業をして必要なだけの投資をきちっとやってもらうということが非常に重要になってくるわけで、今日の話と直接は関係ありませんけれども、今、国会でもいろいろ議論されていると思いますけど、この二十年日本の経済が、非常に経済が停滞していると、賃金が上がらないと、あるいは日本のGDPも非常に低いということのいろいろな原因の中に、非常に重要な要因として日本の国内での投資が非常に弱かったということがあるわけで、別に投資を増やして経済を活性化するために今回のGXをやるわけじゃありませんけれども、ただ、まあGXというこの大きな流れの中で投資がどうなってくるかということは日本経済全体の成長のパスを考える上でも極めて重要であるということで、国内投資を拡大させなくては気候変動問題に対応できないだけでなくて、国内投資が拡大すれば経済活性化のシナリオも見えてくるということだと思います。
カーボンプライスについては余り詳しく今日お話しする時間ありませんけど、一言だけ申し上げたいことは、カーボンプライスと言われているものの中には極めて多様なものがあるということで、これをどういうふうにうまく使い分けていくのかと。
後でカーボンタックス、このカーボンタックスは日本で言う炭素税という意味ではなくて、炭素税も賦課金も含めるわけですけど、いわゆるカーボンタックスについても、実は、後で申しますように極めて多様なアプローチがあるということですけど、それに加えて、ここに書いてありますように、排出権取引だとかカーボンクレジットだとか、あるいは企業が自主的に企業内炭素価格を決めて行動するとか、いろんなものがあるわけで、社会から見たら、これをどういうふうにうまく使い分けていくのかと、あるいは多数のものをうまく利用していくのかということが重要だろうと思います。
今日はそのお話余りしませんけど、経済学の世界ではその数量か価格かということで膨大な研究がありまして、このカーボンだけじゃなくて為替制限もみんな同じなんですけれども、カーボンでいうといわゆる排出権取引で、量でコントロールするのかあるいは価格でコントロールするのかでそれぞれ一長一短がございまして、そういう意味では、そのカーボンプライシングの中の中身についてきちっと議論する必要があるだろうと思います。
その上で、今日は特に、いわゆる経済学者がカーボンタックスと呼んでいるもの、これは炭素税というよりは今日のコンテクストでいうと炭素賦課金の話になるんですけど、これについて是非申し上げたいことがあるわけで、それは、このダイナミックな構造が非常に重要だということ。つまり、カーボンタックスを何%にするのか、カーボン賦課金を何%にするかという議論だけじゃなくて、じゃ、今どうするのか、あるいは五年後どうするのか、十年後どうするのか、十五年後どうするのか、あるいはそういうことに対する見通しをどういうふうに付けていくのかということが非常に重要で、今回のこの法案とか我々GX実行会議で議論した中でも、このダイナミックカーボンプライス、これは私が勝手に付けた名前ですから別に定着した名前じゃありませんけど、ダイナミックな構造が非常に重要であるということであると、まずはその長期的なトレンドをきちっと明示すると。
つまり、今、いつそのカーボンタックスを上げるかということだけじゃなくて、これから先どういう見通しになってくるかということを今、これまで以上に明確にして、それを社会全体に広げていくということが重要で、それに加えて足下で必要なのは、カーボンタックスを大幅に引き上げて人々の行動を一気に変容するということよりも、まずは投資が必要になる、あるいはこういうことを対応しないと将来大変なことになるという意識を企業にも国民にも持ってもらうということで、それで、そういう意味で見ると、足下で少し低めのところから始まって次第に上げていくというこのダイナミックな構造って非常に重要な話だろうと思うんです。
ちょっと話がすごく飛んでしまうんですけど、まあ私の中では非常に重要な論点だと思うんでちょっと比較に話させていただきたいんですけど、自動車に関税を掛けて産業を育成するというのは多くの国がやっていたんですね、アメリカも日本も。あっ、アメリカやっていませんけど、日本もオーストラリアもインドも。で、何が起こったかというと、関税を掛けて守ると、守ってもらえるということで企業なかなかその投資しないものですから、オーストラリアもインドもブラジルも保護がずっと続いて結局成果出なかったんです。
で、日本はなぜ関税で保護したのに自動車産業伸びたのかというと、戦後一番重要な論点の一つが、ガットのメンバーとしっかりして行動すると。つまり、五年後、十年後に自由化をしなきゃいけない、関税を下げていかなきゃいけないというコミットメントがあった。したがって、自動車業界にとってみると、今は関税で保護してもらえるということが一方でありながら、五年後、十年後には関税がどんどん下がっていくということで、それに対応して投資をしなきゃいけないんだと。
これが結果的に日本の産業の活性化に非常に活躍したということを経済でよく言われるわけですけど、この論点は何かというと、価格、関税とか、その今の炭素税もそうなんですけど、ただどういう税を掛けるだけじゃなくて、どういうものが将来起こり得るのか、今はどうなのかという、このダイナミックな構造が極めて重要です。特に、この脱炭素の話というのは一年、二年で決着が付く問題ではありませんし、プレーヤーが非常に多いわけですから、そういう意味では今回のこの法案ってなかなかうまくできてるなというふうに思います。
そして、更に申し上げると、この脱炭素の非常な問題は、経済学の古典的な議論では、炭素税というのは要するに価格を是正する制度ですから、そこから生まれる税収は何に使ってもいいと。これはアカデミックな議論なんです。
ただ、この議論は非常に限界がありまして、なぜかというと、炭素税だけじゃないんでしょうけど、要するに脱炭素の行動を取るということは企業に行動変容を求めるわけで、比較的容易に行動変容ができるような例えば金融業界みたいなところはそんなに難しくないと思うんですけど、例えば鉄鋼業界とかあるいは化学だとか、そういうところは、やっていることを本質から見て相当大きなコストを掛けないとなかなか変化できない。しかし、やってもらわなきゃいけないと。
つまり、その変化のコストみたいなものが産業とか業界によって違うときに、そのバランスをどう考える、これ所得分配という問題と言うかどうかは別の問題として、そういう業界ごとの違いみたいなものをうまくこの炭素税の将来の税収の中で賄っていくという形になってくると、初期の段階ではその賦課金についても、あるいは量的緩和の排出権取引についても緩いところからやっていくということが重要だろうと思います。
次のページ行きまして、GX経済移行債について、これはもう異論のないことで、何もしないでレッセフェールで投資が生まれるわけはない、残念ながらそんな簡単な話じゃありませんので、やはり政府の活動が重要だと、そのための基金ということだろうと思うんですけれども。
重要なポイントは、産業構造、先ほども言いました産業構造転換の費用を社会全体でどういうふうに賄っていくかということになろうと思うんです。これは最後のマクロ経済的な視点でも非常に重要な論点になるわけです。
これも今日の話と関係ありませんけど、日本はこれまで二十年間ずっと金融緩和一辺倒で経済を刺激してきたわけ。これがいいか悪いか、ちょっと今日議論する予定はありませんけれども、この流れは大きく変わってくるんです。別に、金融はこれからどうなるかということについては、政策はどうなるかということについてはいろんな論点があると思いますけど、経済全体を活性化するときのマクロのポリシーミックスということで見ると、やっぱり財政の持っている意味は非常に重要な意味を持ってくると。ただ、財政というのはなかなか難しいのは、ただでさえ債務が多い中でどうやっていったらいいだろうかと。
そのときの一つの大きなポイントというのは、経済学者が、均衡財政乗数というもので、つまり、税金あるいはその他の方法で財源を確保しながら、それをその財政支出に使っていくという形によって赤字を出さないような形の財政にどこまでできるかと。ある意味で見ると、GX経済移行債って、そういうものをここに書いてあるとおり非常にうまくやったとすると大変優れた先行的な事例になるかもしれない。
別に毎年毎年で財政がバランスする必要はありませんけれども、いわゆる管理をきちっとしながら、将来の言わばその税源、財源でそれをカバーしていくという形で、これは別にこの気候変動問題だけじゃなくほかの、例えば半導体の支援だとかあるいはバイオ産業の育成だとかそういうところにももし使えるんであれば、こういう手法というのは是非広げておいていただきたいと思います。
これは別に日本だけがそう思い付いているわけじゃなくて、御案内のように、むしろアメリカとか欧州ではそういう流れが非常に激しくなってきていて、私はこれを産業政策プラス財政政策というふうに呼んでおりますし、欧米ではこれをニュー・サプライサイド・エコノミクスと言っているわけで、つまり何かというと、財政で経済を刺激するというのは、その公共事業をやって需要をつくるとか、あるいは補助金で需要をつくるとか、そういうことが意味がないと言っているわけじゃありませんけど、ではなくて、あくまでもポイントは民間投資を促すと。その民間投資を促す、動かすためにどれだけで、どういう形で最低限の予算の中で最少でやるのかという形で、そういう意味で見ると、今回のこのGX経済移行債というのはきちっとやれると大変有効なケースかもしれないということになると思います。
ちょっと話が余分のことになりましたけど、時間になりましたのでこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。