杉尾秀哉の発言 (憲法審査会)
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○杉尾秀哉君 立憲民主・社民の杉尾秀哉です。
参議院の緊急集会についての過去二回の討論を踏まえまして、今回私からは改めて、緊急事態における議員の任期延長などのための憲法改正は不要であり、むしろ危険ですらあるということを申し述べます。
そもそも、参議院の緊急集会の制度導入の経緯たる立法事実とは、当時の日本政府が、自然災害大国である我が国の実情を踏まえて、GHQ草案にはなかった衆議院議員不在時の緊急の立法措置の仕組みが必要だという問題提起を行い、これにGHQ側が内閣の国家緊急権で対処すればよいと応答したところ、最終的にこれに対して日本側が、それでは憲法に緊急権の定めが置かれていた明治憲法以上の弊害の原因になると反論して制定に至ったという事情があります。
こうした経緯に鑑みれば、参議院の緊急集会は、明治憲法下での緊急勅令や緊急財産処分を認めず、国会中心主義の立場から、緊急時においても国会が対応しようとする制度であるということは明らかです。
これについて、橋本公亘元中央大学教授は、日本国憲法は、国会中心主義を確立するため、明治憲法にあった緊急勅令や緊急財産処分のような権限を行政府に一切認めないこととしたと解説し、また、小林直樹元東大教授も、参議院の緊急集会はあくまで国会中心主義を貫こうという趣旨であり、現行憲法下では緊急時においても議会的コントロールなしに立法や予算などの重要決定をなさしめないように考慮されていると、このように述べておられます。
こうした観点から、緊急政令などとセットで議論をされている緊急事態における議員の任期延長論を考えますと、数々の疑問点が浮かんできます。
まず、衆議院の任期延長は、議院内閣制の日本の場合、内閣総理大臣の任期延長、つまり延命を意味するということです。例えば、近年でもロシアや中国などで憲法改正によって最高権力者の任期が延長される例が起きています。これらの国々は民主的と言い難いとはいえ、日本のような民主国家においても同様のことは起こり得ます。こうした権力持続化の危険性を私たちは十分に認識する必要があります。
また、改憲五会派は、二院制の枠内で設けられた参議院の緊急集会について二院制の例外だとの根拠のない主張をしていますが、先ほども述べましたように、緊急集会は緊急事態に際しても国会中心主義や国民主権を貫くために設けられた制度であり、もし例外だから問題だというのであれば、議員の任期延長は国民主権の例外であることや、緊急政令を可能にする緊急事態条項が立憲主義など近代法の基本原理の例外であることこそ問題にすべきではないでしょうか。
さらに、選挙権の制約という観点の重要性も指摘せざるを得ません。
在外邦人選挙権制限違憲訴訟で最高裁大法廷は、議員を選挙で選定するという国民の権利は議会制民主主義の根幹を成すもので、国民の選挙権を制限することは原則として許されないと明確に述べた上で、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合も憲法違反である、このように断じています。
つまり、選挙困難事態という定義も要件もあやふやな事態を掲げておきながら、大災害等であっても一日も早く選挙を実施可能とするための投票環境の整備等の議論は行わず、任期延長の改憲議論ばかりを進めようとするのは、最高裁が指摘したのと同じであり、かかる状況で選挙権の制約の議論を先行させることは、自ら国会議員の存在自体の正統性の根拠を失わせることにもつながりかねません。
なお、憲法制定時に金森大臣も、国会議員の任期をその会期延長の形式をもって自ら延ばすということは甚だ不適当であろうと思います、ゆえに、憲法において正確に四年というふうに任期をつくりまして、それによって自発的に会期の伸長はできない、そのときには必ず選挙に訴えて、果たして国民が国家と表裏一体化しているかどうか現実に現さねばならぬ、このように答弁をされています。
ここまで述べてまいりましたように、緊急時における衆議院の任期延長は、憲法制定時の経緯や国民主権、基本的人権の尊重、そして国会中心主義のいずれの観点においても重大な問題をはらむものと言わざるを得ません。また、明治憲法下での緊急勅令を想起させる緊急事態下での緊急政令も、これと同様であることは論をまちません。
私からは以上です。