菊池馨実の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(菊池馨実君) 早稲田大学の菊池でございます。よろしくお願いいたします。
私は、法学、法律学の研究者でございまして、社会保障法という分野を専攻しております。また、社会保障審議会介護保険部会の部会長、医療保険部会の部会長代理、そして内閣官房全世代型社会保障構築会議の構成員を拝命してございます。
これらの会議では、これまでのような世代別、年齢別ではなく、全ての世代で負担能力に応じて、増加する医療費を公平に支え合う仕組みを強化するための改革の必要性、そして、地域における質の高い医療、介護の体制構築の必要性について指摘されており、医療保険制度固有の改革と、医療、介護の両制度にまたがった改革の双方が求められております。
今回の法案のキーワードは、一つは全世代対応型の社会保障制度の構築でありますが、同時に、持続可能な社会保障制度の構築ということでもあります。全ての世代が負担能力に応じて社会保障制度を支えていく仕組みを構築するとともに、個人のニーズに応じた良質な医療・介護サービスを効率的に提供できることで、将来にわたって持続可能な社会保障制度を構築することが期待されます。
以下、時間の許す範囲で、個別論点について若干述べさせていただきます。
まず、医療保険ですが、全世代対応型というのは全世代で支え合うこと、すなわち、支える側と支えられる側を年齢による区分で分けるのではなく、全世代で支え合うことを前提に負担能力に応じて負担するという考え方です。高齢者と現役世代のバランスが大きく変化し、昨日も人口推計出ましたけれども、現役世代を中心に人口減少の局面に突入している現在、不可欠なコンセプトです。
その中で、孫の世代に当たる世代の出産を後期高齢者制度が支える仕組み、そして、介護保険と同様、後期高齢者の保険料の伸びと現役世代の支援金の伸びをそろえる見直し、以上二つは世代間の公平を図る仕組みです。そして、所得の高い被用者保険の保険者とそうでない保険者で公平な負担としていく前期財政調整制度の見直し、こちらは現役世代における世代内の公平を図る仕組みです。これらの仕組みを通じて、世代内及び世代間の公平に着目した医療保険制度としての基盤が一定程度強化され得ると考えております。
その調整手法はいささか技巧的であると言えなくもありませんが、年金と異なり、保険者が多数存在し、後期高齢者医療制度も存在する医療保険の分野では、これら多数の制度間の微調整を図りながら全体としての公平な制度構築を行っていかざるを得ないという面がございます。
以下、幾つかまた個別に述べさせていただきますと、まず出産関係ですが、後期高齢者医療制度導入以前、後期高齢者自身の拠出も含め、出産育児一時金の財源が賄われておりました。今回、再び以前と同様、後期高齢者にも出産育児支援金という形で支援をしていただくということです。
後期高齢者医療制度では、現役世代から後期高齢者に対する一方的な財政支援の仕組みしかなかったのを、給付の性格に応じて双方向で支え合うということで、望ましい方向性だと思っております。こうした医療保険の被保険者全体の負担を財源とした出産育児一時金の増加は、評価できると思ってございます。
ただ、その費用自体が増加しておるんですが、その費用の実態について本格的な分析はなされていません。その意味で、子育て世代が安心して出産できる環境の整備を進める観点から、徹底した出産費用の見える化に取り組んでいくことが不可欠となります。
通常分娩の保険適用については、医療保険部会においても、その方向で検討を進めるべきという立場から、私は積極的な意見を述べさせていただいております。サービスの標準化や安全性の向上が期待されることからも、今後の方向性として保険適用には賛成でございますが、その前提としても、見える化によって出産費用の地域差や病院間の差などを十分に分析する必要があると考えてございます。
それから、高齢者負担率の見直しですが、二〇二五年までに全ての団塊世代が七十五歳以上となる。その後、支え手の中心となる生産年齢人口の減少が更に加速する、加速化していく中で、後期高齢者の保険料が、後期高齢者医療制度創設以来一・二倍の伸びにとどまっている一方で、現役世代の負担する支援金が一・七倍になってございます。他方、現役世代は、後期高齢者支援金という形で後期高齢者医療の約四割強を負担しています。
こうした状況を踏まえると、後期高齢者医療制度における現役世代の負担上昇の抑制も課題であることから、今回、介護保険の仕組みに合わせて後期高齢者負担率の設定方法について見直すのはやむを得ないものと考えます。
他方、こうした見直しを行うに当たっては、負担増となる保険料額の大きさや個々の高齢者の負担能力に十分配慮し、負担能力に応じた負担という今回の改革の基本的な考え方を徹底することも必要です。また、急激な負担増にならないよう、言わば期待的利益に対する十分な配慮も不可欠と思います。この点から、後期高齢者の保険料負担の見直しについても、激変緩和のための経過措置の導入など、十分配慮していただきたいと思います。
それから、医療・介護制度改革ですが、これも重要な柱になると思っています。医療と介護の連携です。
全世代型社会保障構築会議での改革の方向性の柱は四つあります。子ども・子育て支援の充実、働き方に中立的な社会保障制度の構築、医療・介護制度の改革、そして地域共生社会の実現です。報告書で明記されているわけではありませんが、私としては、医療と介護の連携を深めることは地域共生社会の実現にも深く関わるものと考えています。
医療・介護分野に関して言えば、真の意味での地域包括ケアの推進のためには、医療ニーズの大きい在宅の高齢者や、急性期に入院が必要になった後で自宅に戻る高齢者などを地域でどう支えるかについては、医療と介護が連携することで可能性は大きく広がっていきます。
他方、地域包括ケアの上位概念は地域共生社会であると捉えられています。高齢者に限らず、地域の様々な支援者や支援機関のネットワークの中で、地域住民同士の支え合いも含め、人のつながりの中で生活を送っていけることがこれからの社会保障が目指す方向性と考えております。
こうした観点から、今回のかかりつけ医機能の報告制度は、長年法律に位置付けることができなかったかかりつけ医療機関の担うべき機能を法律に盛り込んでおり、評価できると考えております。
なお、今回の改正はあくまでかかりつけ医機能を対象としたものであります。先ほど三原参考人の御発言で、なるほどなと思って興味深く伺っておったんですが、保険診療における経済的ニードにとどまらず、いわゆるゲートキーパー的な、イギリス的なかかりつけ医を我が国の医療提供体制の中に位置付けることは、イギリス的な制度を持ち込むというのは、それ自体、私は賛成できないと思ってございます。ただ、先ほどいろんな選択肢があるよというお話を伺って、なるほどと思った次第でございます。
法案では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備について、国民、患者がかかりつけ医機能を有する医療機関を適切に選択できるよう情報提供を強化する、そして、都道府県と地域の関係者との協議の場で、必要な機能を確保する具体的方策を検討し公表するとされています。地域によって住民のニーズや専門職人材などの資源の状況が大きく異なることを前提に、不足している機能を把握した上で、それぞれの地域がその特性に応じて課題の解決の手法や仕組みを主体的に考えていくことが必要です。
これまでも、医療計画や地域医療構想の設定、地域包括ケアシステムや地域共生社会の構築など、それぞれの地域において必要な体制整備が進められてきています。確かに、ここでいう地域は、医療分野の場合、都道府県というやや広い圏域が想定されることが多く、介護や地域福祉でいう基礎自治体、更に狭い小中学校の圏域など、分野ごとに想定される様々な地域をどう重層的に組み合わせつなげていくかは今後の重要な課題と思います。しかし、いずれにせよ、かかりつけ医機能の制度整備を通じて医療と介護が一層つながり、地域で住民を支える仕組みが更に深化していくことを期待しております。
それから、情報基盤の整備ですが、かかりつけ医機能の確保を中心として、身近な地域における医療、介護の連携体制を強化し、地域包括ケアシステムを深化、推進させ、ひいては地域共生社会の構築に資するという観点からは、医療機関と介護事業者のみならず、自治体、そして何より利用者も含めた関係者間で、利用者の医療・介護情報を電子的に共有するための情報基盤の整備も大変重要な改正事項であります。
今後、後期高齢者の大幅な増大に伴い、医療、介護双方のニーズを有する高齢者が大幅に増加していく中で、医療と介護が有機的に連携することにより、本人の状態に合ったより質の高い医療・介護サービスを提供することが可能になることが期待されると思います。
今回の改正は、こうした取組を介護保険法の地域支援事業に位置付けるものであります。地域包括ケアの推進が地域支援事業の取組を通じて行われていることから、これは適切とは思われますが、地域支援事業自体、非常に種々雑多なものが置かれておりまして、今回改正とは別に、全体的な整理をすべき時期に立ち至っていると私は考えております。
それから、経営情報の調査、分析ですが、医療・介護政策を取り巻く環境変化を踏まえ、必要な経営情報を毎年継続して報告し、蓄積したデータを分析する新たな制度を導入することで、例えば、現在の物価高が医療・介護分野の経営に及ぼす影響や、コロナ感染症のような新興感染症の発生に際し、経年のデータを分析できることで的確な医療機関の支援策を講じることに道が開かれると考えます。
さらに、一昨年来議論されている医療・介護従事者の処遇改善を検討するに当たっても、医療機関、介護サービス事業所、施設における職種別の給与の状況についても、今は任意で報告を求めるとされております。そこが機能することを期待しておりますが、このデータベースの活用は、そうした処遇改善に際してのよって立つ根拠を提供すると考えられます。任意での、まずは任意での報告ということから始めて、それがどの程度実効的なものかというのを検証していく、よく見ていく必要があると思ってございます。
各論的な、駆け足で恐縮ですが、以上でございますが、社会保障というのは、当たり前のことですけれども、個人の力では備えることに限界があるという課題、そして、リスク、不確実性に対して、社会全体での支え合いによって個人の幸福追求を図るために存在するものと考えてございます。日本国憲法でいうと、憲法十三条に関わる価値を実現するものと考えてございます。そうした社会保障制度が存在することで、個人と社会が共に豊かになるという面があります。
ただし、現在、そうした社会を、財源の制約、人口減少社会の到来、家族の単身世帯・高齢世帯化、地域社会における人と人のつながりの希薄化といった非常に難しい局面の中で再構築していく必要性に迫られております。とりわけ、拠出と給付で成り立っている、戦後以来、日本の社会保障制度の中核として機能してきた社会保険の仕組みをどのように維持していくのか。連帯や支え合いといった社会保障、社会保険を基礎付ける人々の意識が私は希薄化していると見ておりますが、ともすると、負担は少なく給付は削ってはいけない、こういう意識が広がっているように私は見られるのですが、そうした中で、連帯や支え合いというこれまで存在していたものを所与とするのではなく、そうした意識をもう一度この制度改革を通じて涵養していく、そういった方向での改正を望みたいと切に思ってございます。
以上でございます。ありがとうございました。