小西聖子の発言 (法務委員会)

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○参考人(小西聖子君) よろしくお願いいたします。
 皆様、おはようございます。武蔵野大学の副学長を務めております小西聖子と申します。
 精神科医で、専門はPTSDの治療及び研究です。被害者のお話を伺うようになって三十年になります。前回の二〇一七年の改正のときの法制審議会、それから今回の検討会及び法制審議会に委員として参加してまいりました。現在、東京都の性暴力被害者支援ワンストップセンターと連携を持って精神科の外来をしております。また、裁判、特に刑事裁判における被害者の精神状況について鑑定を行うこともございます。
 本日は、私の臨床経験と内外の研究に基づき、改正案について幾つか意見を申し上げたいと思っております。
 性暴力は、もう皆様がおっしゃっているように、被害者の心身に大変深刻な影響を与えます。
 最初の資料一を御覧くださいますか。
 これは、WHOの行った国際的なメンタルヘルスの疫学調査です。七万人近くを対象に行われた調査ですが、トラウマ体験の影響が調べられています。
 例えば、資料の二番目の黒ポツのところ、トラウマ体験の後、最もPTSDになりやすい被害は、全てのトラウマの中で、レイプが一九%、DVが一一・七%、その他の性暴力一〇・五%で、これが最も高い、例えば戦争とか事故とか災害を抑えて一番高い値になっています。それでもこの値は低めであると、有名な疫学者なんですけれど、この論文を書いた人も言っていて、大体これまでの先行研究では、性的な被害を受け、レイプの被害を受け、PTSDになる値というのは大変高くて、二〇%から五〇%辺りにあります。
 それから、四番目のポツのところですが、レイプとその他の性暴力はいずれもPTSD診断の平均持続期間が百十か月を超えており、長期にわたって存在する。事故や災害の平均が四十一・二か月ということになっています。この百十という数字を考えてみると、平均で十年近いということになります。学校に行けなかったり仕事ができなくなるような期間が十年が平均だとしたら、日常生活、社会生活は崩壊することが容易に想像できます。
 そういう意味では、PTSDは重い疾患です。自殺リスクを増やすことも分かっていますし、貧困や医療費用の増大などとも関わりがあります。さらに、身体的な慢性疾患とも関わりがあることが分かっています。性犯罪の被害を受ける方の四分の一から半分近くがこのような状態にあるというふうに考えてみると、これは大変なことであることが分かります。
 実際に私が自分の臨床で被害の様子を聞いたり患者さんの状態を見ますと、法律がこれまでモデルとしてきた被害者像は余りにも現実と懸け離れているということは、これはもうずっと思ってきました。二〇一九年の名古屋地裁岡崎支部で無罪判決の出た事例などもそうです。
 私は、このケースについて一審後に精神鑑定を行い、実際に被害者の話を聞きました。詳細は避けますけれども、性的虐待の被害者によくある感情や行動がありました。しかし、第一審の司法の関係者にはその特徴は見えていなかったのだと思います。虐待の下での被害者の行動を、普通の人の普通の場の感覚で考えて終わりにしているように見えます。法律家には、この一審判決は抗拒不能の解釈が偏っていることが問題であるというふうに感じられているようですが、私にとっては、虐待される人、性的にトラウマタイズされる人の心理、行動について余りにも無知で、関心がないというふうに感じられました。
 性的虐待を長時間にわたって受ける子供は、深刻な被害を受けているにもかかわらず、表面上は明るかったり何にも気付いていないように、傷ついていないように見えることが多いです。被害を受けた人の心理がどのように被害者の意思形成や行動に結び付いているのか無視されたまま司法の場で評価されるというようなケースもあったことをこの裁判は示していますし、このような状況をほかの被害者の例でも私は繰り返し経験してきました。
 性的虐待の被害者は抵抗できないのが普通です。今回の法案の中にその項目が明示されるようになったということについては安堵しています。
 今ちょうど性的虐待の話をしましたので、公訴時効の延長について簡単に述べたいと思います。
 性的虐待の被害者が自分で被害を被害だと認識できるまでに、三十代ぐらいまで掛かることもあります。子供の時期の被害なのに、医療に受診される方の年代は性暴力被害者の中でも高く、三十歳前後が普通ですし、四十歳過ぎて初診ということもあります。治療は時効はありませんから、二十代の方と変わらず治療ができますが、これまで、臨床の中で複数の患者さんが弁護士等に相談したが、もう時効だったので何もできなかったというふうに言われていました。いずれも性的虐待の被害です。そういう意味では、公訴時効の延長は是非必要なことだったと思います。
 ただ、今回の延長案は、公訴時効については最大で三十三歳ということになるんだと思うんですが、これは平均的な方には何とか間に合っても、更に時間の掛かる人もかなりいらっしゃいますので、もう少し延ばすべきだと私は考えています。
 次に、不同意性交等罪について意見を述べます。
 被害者の同意のない性交は犯罪であるということが基本であるということについては、法制審議会でも確認されました。私も、以前の強姦罪という名称、それから強制性交等罪という名称が不同意性交等罪という名称になったことには賛同します。特に、今回の八項目の例示は、私は今の日本社会においては是非必要だと考えています。明示的に、具体的に書かないと、社会の中に多くの偏見がある状態では様々に異なった解釈が繰り返されるおそれがあります。
 例えば、恐怖に突然さらされるときに人がどんな反応をするかについても、これは近年、生物学的な解明が進んできています。詳細は資料の二を御覧ください。
 いろいろな説明が可能ですけれども、例えば、体が凍り付くように動かなくなったり、フリーズですね、感情が麻痺したりという反応は、生存に役に立つ、動物の段階では生存に役に立つ適応的な反応だったからこそ、進化心理学的に今の人類まで残ってきているものです。このような事実に基づいた法律にするべきです。
 ただし、この八項目は例示列挙であって、網羅的な分類ではなく、同意を示せないこれ以外の状況がないわけではないということも確認しておきたいと思います。医学的に言えば、急性期の解離などもその一つになると思います。この書き方が最善かどうかは将来にわたって検証し、より良い方向に改正していく必要があると思います。
 それから、いわゆる性交同意年齢の引上げに関して意見を述べます。
 法制審議会の議論の中でも、何歳までが同意できないのか、発達科学的にそのことが実証されているのかという御質問を、多分、心理学や医学の専門家に向かっていただきました。しかし、人の発達に関することで、ある誕生日から突然誰でもできるようになるということは当然ながらありません。発達は連続的なものです。さらに、人との関係性の理解の能力や対応能力も人によって実は様々です。
 こういう状態の中でどうやって条文を作るのが一番適切に罰するべきケースを罰し、不適切なケースを罰しないで済むのか、議論がなされたと思います。
 私は、ちょっと、法律家ではないので、表現が正確ではない点は御寛恕いただきたいと思いますが、年齢差要件というのは、外から見て分かりやすく、これで全ての罰すべきケースを拾えるわけではないですが、子供と成人との非対等な関係性を利用した性犯罪のある部分については適切に罰することができると考えます。
 十六歳以上あるいは十七歳以上、この辺りをいわゆる性交同意年齢の下限とすることは、ほかの多くの国でも行われています。生物学的な脳の発達からいっても、思春期の被害者に一定の同意能力の限定があると考えることは妥当だと思います。
 今回、新たな法案が対象としているのはほぼ中学生の年代ですけれども、例えば、SNSを使った、子供に成り済ました成人からの誘いによって中学生が性的被害に遭うというようなことが頻発していると。そういうこと一つから考えても、この年代が、性行為に関する理解はあるとしても、知識、判断力などの不足、制御力の不足、感情の不安定などから、危険な事態に対応する能力に欠けるところがあると言えると思います。それでも個人差があったりすると思います。この事態を解決するために、不適切な刑罰を防ぐという刑法上の観点も含めて、これだけ違えば明らかに対等ではないという年齢差を切り取るということは仕方がないことかなと思っています。
 もちろん、これは決して子供の性被害についての完璧な解決とは言えません。この条文だけではやや年齢差の近い罰すべきケースを見逃す可能性があります。例えば、性的いじめのケースなどでは年齢差がないことも多いですが、実際には不同意なのに周囲の圧力でそれを示せないというケースもあります。年齢差だけが非対等な関係をつくる原因ではないからです。
 ここで、このような切取りにすると対象から漏れてしまう被害がある可能性は残念なことですけれども、それでも、前より適切に罰するという方向に一歩進むと思います。その漏れるケースは、百七十六条、七条の一項の八項目の方で考慮されるというふうに理解しています。
 この分野でも日本の実証研究は十分ではありませんから、運用し、また検討する必要があります。衆議院における附帯決議もこのことに言及しており、賛同するものです。
 また、この法律を有効に活用するためにも社会の啓発や学校での教育が是非とも必要です。もう今の状態をかなり超える教育が必要だと思います。施行後の調査研究、法律の検証も必要だと思います。
 こういう性交同意年齢の問題が大きく取り上げられるのは、思春期も含めた子供の被害が非常にクリティカルであるということを示してもいます。
 次の資料の三ですが、これは内閣府の調査をそのまま持ってきたものですけれども、被害に遭った時期を見ますと、未成年者が大変に多いです。女性で約七〇%が二十代まで、男性はもっと多いですね。男性の被害者の絶対数がまだ少ないので、数字が信頼できるというところまで行っていないかもしれませんが、女性よりも更に若い被害が多い可能性があります。ちなみに、海外では、男性被害は女性被害のほぼ一〇%ぐらいという研究が多いです。
 最後の資料四に関しましては、これはSARC東京の昨年と今年の相談数、SARC東京というのは東京の性暴力被害者支援ワンストップセンターですけれども、そこの相談数を示していますが、これで見ますと、男性被害も内閣府の調査と類似した割合となっています。社会がこのような被害について認めるようにならないと調査にも出てこないということがあるので、男性の被害の数は今後更に伸びてくる可能性もあると思います。
 例えば、性的虐待と非行の関連、性被害と非行の関連は有名です。日本でも矯正施設等における研究で繰り返し示されています。子供や若い年代の人々を性犯罪から守るということが社会の将来にとっても大事なことです。
 ちょっと司法面接についてお話しする時間がなくなったのですが、供述が汚染されやすい子供のケースなどで是非必要だと思います。話を何回も聞くことができない状況の最初の時点で注意深く取られた資料を裁判官が判断の材料にできないのは不合理だと思いますし、大人の性被害などでも元々障害があったりして尋問に対して脆弱な人がいますので、そのような場合にそれを証拠として使用できるということには賛成します。一方で、被告人の権利も当然守られる必要があり、反対尋問の確保は必要だと思います。
 ただ、一つ、私がこれをやるためには条件があると思っていまして、どのような場合でも十分な技術を持った専門家が行うことで、その専門性を担保するべきであると考えています。司法専門家が行う場合でも、その中で更に司法面接の専門家の育成に努める必要があるのではないかと私は思っています。
 衆議院での附帯決議には全面的に私は賛成します。法制審議会の会議中にも、今このように説明があっても実際に施行されたときにどのように運営されるのか、大丈夫かということで不安になることもありました。司法過程で様々な異なる判断が出されていることが現実だからです。五年後の見直しと、そこに至る調査も是非必要だと思っております。
 社会の変化を感じる現在ですが、それでもまだ日本は特に性暴力に関しては根強い偏見が残り、法律的にも更なる検討が必要な国だと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上で終わります。

発言情報

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発言者: 小西聖子

speaker_id: 9384

日付: 2023-06-13

院: 参議院

会議名: 法務委員会