中西寛の発言 (政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会)

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○参考人(中西寛君) 本日お招きいただきまして、ありがとうございます。十五分間ということで時間限られておりますので、早速、報告、陳述に入らせていただきたいと思います。
 お手元に骨子の二ページのものがあるかと思いますので、そちらを御覧いただきながら聞いていただければと存じます。
 私、本日は、先ほど委員長からも御案内ありました開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会の座長としてお招きいただいたものと思っておりますが、その内容につきましてはこちらの参考資料の私の部分の二ページの方に骨子があります。また、本文の方もその後続いておりますので、御覧いただければと思います。
 これについては後ほど触れさせていただきまして、本日の陳述は、まず、私個人の観点で現在の国際情勢をどういうふうに見るか、そして日本外交、とりわけ開発協力に関する課題ということをまずお話しさせていただいた上で、先ほどの有識者懇談会、あるいは現在検討中の大綱について後半で触れさせていただくという形でお話をさせていただきたいと思います。
 まず、現在の国際政治の現状についてどう見るかということでありますが、言うまでもなく、昨年二月に始まりましたロシアのウクライナ侵攻によって国際状況は大きく変わりまして、日本外交もそれに伴って大きな変化を経ているということは改めて申すまでもないかと思いますが、もう少し長期的に国際政治構造の変化というのを見ますと、大体、過去四十年ほどの変化の中で位置付けることができると私は考えております。
 一九八〇年頃から二〇〇〇年頃、本格的に今我々が見ておりますようなグローバリゼーションが始まり、深化、拡大をしていったというふうに思いますが、そのときにはアメリカを中心とした西側主導のグローバリゼーションというふうに言うことができたと思います。その中で、アメリカは非常に強力な、政治、軍事、経済、文化、技術、あらゆる面で世界を圧倒する覇権国というふうにみなされていたわけであります。
 しかし、二十一世紀に入りますと、そうした状況は次第に変わってきて、現在に至っているというふうに言えるかと思います。とりわけ、二〇〇一年に御記憶の九・一一事件がありまして、アメリカがテロとの戦いでアフガニスタン、イラクで戦争を行うという辺りから西側の主導性は徐々に後退をし始めまして、二〇〇八年に、いわゆるリーマン・ショックで、アメリカ発の世界経済危機の危険が大きくなる。そういう時代に、西側は自らの力でグローバリゼーションを維持することが次第に困難になりまして、いわゆる新興国、中国、ロシアを含めた新興国の力に頼るということからG20の首脳会議も発足させたという流れであったかと思います。
 しかし、二〇一〇年代に入りますと、そうした新興国の中の一部は西側と価値観を共有しないというふうに認識が強まりまして、次第に大国間競争が強くなってくる。とりわけ、二〇一六年、イギリスがEUを離脱を決定するとか、あるいはアメリカでトランプ政権が、トランプ大統領が当選をして、西側主導の秩序そのものに批判的な姿勢を取るといったようなことが起きましたし、また、アメリカ、イギリス、その他の国々で激しい政治的亀裂が外交にも影響を及ぼすようになってきました。
 他方で、地球規模課題と呼ばれるような、気候変動あるいは感染症対策といったような問題が深刻化をしていったわけであります。今回のウクライナ侵攻の前に世界の大きな関心を集めていました米中の対立ですとか、二〇二〇年の初頭から始まりましたコロナパンデミックはそうした現象の端的な例でありまして、昨年始まりましたウクライナ侵攻は、大きな変化の契機ではありますけれども、こうした一連の流れに位置付けて考えるべきだというふうに考えます。
 実際、昨年二月から今年二月、ロシアのウクライナ侵攻一年を期して国連総会で何度かロシア非難決議がなされたわけですけれども、大体百四十か国ぐらいの国は賛成するけれども、反対はロシアを含めた五から六、棄権、欠席は五十というような数字は変わっておりません。そして、西側を中心にロシアに対しては厳しい経済制裁を掛けているわけですが、そうした制裁に参加しているのは世界の中で四十か国程度という状況も変わっておりません。また、昨年四月に国連の人権理事会でロシアの資格停止決議がなされたわけですが、ここでは、賛成は九十三、反対が二十四、棄権が五十八というような状況でありました。まあ最後の数字辺りが、恐らく現在のロシアに対する世界的な反応という平均値を表しているのではないかと思います。
 すなわち、国際政治は、そのロシアの侵攻が法の支配に反する違法なものであるという点では大多数の国が認めているけれども、だからといって、この問題に全て集中してロシアを非難し、ロシアに対して圧力を掛けるというようにはなっていない。とりわけ制裁については、いわゆる制裁逃れといいますか、抜け穴があります、存在するわけです。
 それは、対ロシアに圧力を掛けるという点からするとマイナスであるということなんですが、昨年の世界経済の状況を見ていましても、中国やインドにロシアからの石油、天然ガス、エネルギーが流れていたということが世界経済に与えたショックをソフトランディングさせたという面も否定できないのでありまして、そういう意味で、法の支配の正当性と同時にグローバルな交流が現在の世界にとっては必要であって、西側の自由民主主義国と権威主義、専制体制の国の分断というのは必ずしも世界全体の利益にはなっていないということが確認されたかと思います。
 そういう中で、昨年十一月にG20のバリ首脳宣言がなされたわけですが、これは、議長国インドネシアと今年議長国になりましたインドを中心にしてロシアも参加する中で取りまとめた内容ということで、取りまとめられたこと自身が一定の成果であったというふうに言えるかと思います。
 その内容については、五十二の段落の中で、ウクライナ戦争に関する言及、これはロシアに対する一定の非難を含んだものですけれども、それは二段落のみでありまして、それ以外は食料、エネルギー、気候変動、生物多様性、SDGs、金融、デジタル化、WTOといったような諸問題について触れられているということであります。
 これは、G20の、とりわけいわゆるグローバルサウスを代表すると考える国々からすると、こうした問題の方が率直に言ってウクライナの戦争よりもより喫緊の深刻な課題であるということでありまして、インフレ、それから気候変動による干ばつによる食料難、そして生活苦難ということが政治にも大きな圧力を掛けていたわけですので、そうした問題をアドレスするという点では、G20は取りあえず一致したということを示しているというふうに言えるかと思います。
 そういう観点からしますと、日本を取り巻く国際情勢についても、二重性といいますか、多層的に考える必要があるというふうに考えます。
 政治、安保面では、日本は、言うまでもなくアメリカの同盟国であり西側の一員でありますから、対ロシアに対する圧力を掛ける、そういう立場にあるということは正当で、アメリカやヨーロッパ諸国と関係を強化する、そうしたことも当然であろうかと思います。
 とりわけ日本は、御案内のように、大国間競争の第一正面として米中対立、北朝鮮の軍事的脅威、そしてロシアの脅威といったようなものに直面しておりますから、日本外交が、昨年十二月に政府が閣議決定した国家安全保障戦略その他の文書を中心として、防衛力、抑止力を強化していくということは必要であろうかと思います。
 しかし、抑止力を強化するのは目的ではなく手段でありまして、その最も重要なことは、抑止と対話によって東アジアの安定を維持し、大国間の戦争を招かないということであります。
 そのためにも考えるべきことは第二の側面でありまして、地球規模の経済社会において日本がどういう役割を果たすかということでありまして、この点では、二〇一〇年代からインド太平洋という枠組みを日本が主唱してきたということは世界的にも高く評価されていることであろうと思います。今日の国際情勢は、このインド太平洋という地域、あるいは地球の中の重点としての重要性が高まっているということでありまして、世界的な競争と協力の焦点にインド太平洋がなってきているということであります。
 その点で、日本外交の役割と任務は、先ほど言いましたように、大国間の競争の戦争化を回避するとともに、自由で開かれたインド太平洋を維持するということでありまして、具体的には、来月広島で開催予定のG7のサミットのような枠組みと、それからグローバルサウス、G20のようなグローバルサウスの諸国の間の架橋をするということをどういうふうに実現していくかということであろうと思います。
 その点で、日本の開発協力政策は非常に重要な役割を持っていると思います。日本の開発協力の特徴として、専門機関、JICAのような組織を持っているということが一つ挙げられると思います。とりわけ、アングロサクソン、アメリカやイギリスはODAについては民間の組織に委ねるという方針を取っているわけですが、日本やドイツは一定の組織を持っていると。そうした組織を持つことによって対象国の関係組織と密接かつ長期的な関係を築くということが一つあります。
 さらに、日本の場合は、インフラ開発もやっているわけですが、社会福祉や教育、医療など非常に多様な側面の開発をやっております。
 二ページの上の方の表に、こちら、政府の政府開発援助白書から引用しているものですけれども、見ていただければ分かりますように、日本の援助、二国間援助は、社会インフラ、経済インフラ、その他の部分についてかなり幅広くバランスよく行われているということで、とりわけ経済インフラについては、西側の中では突出しているという特徴があります。そうした援助は、時には日本の中では、日本の顔が見えていないのではないかというふうに言われることがありますが、少なくともミクロな現場レベルでは、受入れ国からはかなり感謝や評価をされているというふうに思います。
 もちろん、たくさんやっていますので、個々のものについて問題があるものもないとは言えませんが、そうしたミクロのレベルでは一定の意義があると思いますが、問題は、全体として、日本がどういう開発協力をどういう理念の下で行っているのかということが日本人にも外国にも必ずしも明確でないということと、とりわけ日本の中では、ミクロなレベルでどういうことをやっているのかというのが必ずしも認知されていないということだと思います。そういう意味で、私は、今回の大綱改定に向けて、今申し上げたような点を特にアドレスする必要があるというふうに考えておりました。
 冷戦が終わった後、日本は初めてODA大綱というものを出しまして、日本のODA供与の理念というのを示そうとしました。そのとき、日本は世界最大のODA供与国だったわけであります。しかし、その地位は二十一世紀になると失われまして、その中で日本の開発協力をどういうふうにするかということで見直したのが前回、二〇一五年の開発協力大綱でありまして、援助形態やパートナーの多様化といったような状況に対応するものだったというふうに考えております。
 今回の大綱改定も基本的には前回大綱の大きな流れの上に沿っていると思いますが、有識者会議としては、とりわけ日本が打ち出すべき理念としては、人間の安全保障という言葉を改めて重視すべきではないかと。そして、それは日本の国益と国際的な公益、地球規模の課題というものが長期的に一致するという観点をより重視するべきではないか。そして、インド太平洋という地域を中核とする自由で開かれた秩序を推進する、いわゆるFOIPというような考え方を新たにこの大綱にも反映させるべきであると。
 それから、開発援助というのは、かつて二十世紀のある時期までは豊かな国が貧しい国を助けるという垂直的な援助というイメージがありましたけれども、むしろ、今日ではグローバル課題に取り組む水平的な協力関係としての側面が強くなっている。そして、日本として長期的に二〇三〇年までのSDGsを超えた長期ビジョンを考える必要があるし、その中で、十年程度で国際目標であるGNI比〇・七%を実現すべきであるというようなことを含みました。
 今回、新大綱案が出されまして、私の観点から申しますと、おおむね有識者会議の内容を反映していただいていると思いますが、幾つか問題があるというふうに思っております。
 一つは、やや総花的で長文になってしまっているということで、私は、個々の政策についてはより下位の文書によってまとめるべきで、全てを入れるべきではないと思っているんですけれども、なかなかいろいろな都合で長文になってしまっているということで、一読してはっきりしたイメージを持ちにくいということ。
 それから、新たに日本が始める安全保障協力とのすみ分け、とりわけ平和国家として日本が持ってきたイメージと新しい安全保障協力、これは、これ自身は私は一定の必要性はあると思っておりますが、その中でのバランスということが必要だろうと思います。
 最後に、援助規模について、残念ながら大綱では有識者会議の〇・七%を明示的に何年までに達成するという目標は入れられなかったんですけれども、いろいろな財政事情が当然あることは承知しておりますが、ほぼ日本と同規模の経済規模になっているドイツやイギリスやフランスでは、〇・七%や〇・五%は達成しております。日本は〇・三四%です。それらの国との関係、それから、とりわけ中国を始めとする新興ドナー国との交渉力においても、やはり日本が一定の量を出す必要はあるというふうに考えておりますので、この点、具体的な予算において配慮をお願いしたいと思います。
 済みません、私からは以上でございます。

発言情報

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発言者: 中西寛

speaker_id: 18801

日付: 2023-04-28

院: 参議院

会議名: 政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会