浅田正彦の発言 (外交・安全保障に関する調査会)

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○参考人(浅田正彦君) 浅田正彦と申します。
 本日は、お招きいただきまして、どうもありがとうございました。時間の関係ありますので、早速冒頭発言をさせていただきます。
 レジュメ一枚とそれから若干の資料を付けたものを配付させていただいております。
 昨年の二月二十四日に始まりましたロシアによるウクライナ侵攻は、疑いもなく国際法上の武力行使禁止原則の違反であり、侵略行為であります。しかし、プーチン大統領は、侵攻当日に行った演説で、自らの行為を法的に正当化する論を展開しております。それは、第一に個別的自衛権、第二に集団的自衛権、第三に在外自国民の保護、第四に人道的干渉、第五に要請による武力行使。まあ可能な全ての正当化事由を網羅したかのようでありますけれども、事実に照らすと、そのいずれも正当化は不可能ないし困難であります。その理由については、レジュメの方の一、①から⑤まで掲げてありますので、御参照いただければと思います。
 ロシアによるいずれの正当化も困難であるとしますと、問題は、国際法のルールにあるのではなくて、主としてロシア、プーチン大統領の遵法意思あるいは国際政治的な要素にあったというふうに言えます。
 国際法の観点からは、国際法が違法な武力行使、侵略に対して何ができるかという、こういった点についてお話ししたいと思います。その観点から、国連と、それから国連外の対応を見ることにしたいと思います。
 まず、国連について言いますと、武力侵攻に対応する第一義的な責任というのは安保理にあります。しかし、ロシアの拒否権のために安保理は機能しなかったわけであります。大体の概要は資料の一のところに年表の形で出してあります。
 拒否権による安保理の機能不全の場合には、問題を国連総会の方に移して総会が集団的な措置を勧告できるというふうなメカニズムがあります。これは一九五〇年の平和のための結集決議という決議に示されております。今回も、その平和のための結集決議を用いて緊急特別総会というものが開かれまして、安保理で拒否権のために否決されたものとほぼ同内容の決議がそこで採択されております。その中で、ロシアによる侵略というものが認定されています。これは、資料の二の方の決議のES―11/1というのがありますけれども、この11というのは第十一回の緊急特別総会の決議一という意味ですけれども、この中で侵略という文字がパラグラフの二のところに書かれていますけれども、こういった形の認定がなされています。
 総会はロシアに対して制裁を決議することも当然可能であったわけですけれども、制裁は含まれていません。したがって、今回のロシアの侵略について、拒否権を有する国による侵略なので国連集団安全保障が機能しなかったというよりも、むしろ国際社会が国連による制裁を希望しなかったということではないかと思います。やろうと思えばできたものをしていないということですから。というのも、ロシアに対する制裁というものが国連の外において独自制裁の形で行われているからであります。
 そこで、こういった独自制裁というものが国際法上どのように考えるべきかということを次にお話ししたいと思います。
 独自制裁、制裁というのは多義的な用語ですけれども、そもそも国際法上適法な措置であれば問題にする必要はありません。したがって、本来は違法であるけれども制裁として行うという場合ですね、これが問題となります。こういった、本来は違法な行為であるけれどもその違法性が阻却されるというふうなルールとして、国際法上、対抗措置というふうな概念があります。
 国際社会というのは主権国家が併存していますので、相手国の違法な行為をやめさせるためには被害国の側が対抗措置として違法な行為をするのを認めると、そういった制度があるわけですね。そういった対抗措置、これが言わば制裁になるわけですけれども、そういった対抗措置、制裁を行うことができるのは、基本的には当初の違法行為の被害国だというふうにされています。
 もっとも、侵略とかあるいはジェノサイドといった国際社会全体の利益に関わるような義務の違反の場合には、被害国に限らず国際社会の全ての国が対抗措置、制裁をとるということもできるという考え方があります。その場合には、直接の被害国以外の言わば第三国も違反国に対して対抗措置、制裁をとれるというふうなことになります。これが第三者対抗措置、まあちょっと難しいですけれども、第三者対抗措置というふうに言われるものであります。
 で、直接の被害国でない国が行う独自制裁、今回でいいますとウクライナ以外の例えばG7とかですね、そういった国が行う制裁を法的に正当化する唯一の論理というのがこの第三者対抗措置であります。この第三者対抗措置というものが適法かどうかということについては争いがあります。国連国際法委員会が二〇〇一年と二〇一一年に作成した条文の中でも玉虫色のよく分からない規定になっているというのが現状であります。
 しかし、国際社会で第三者対抗措置の実践がますます増加しておりまして、とりわけ今回のロシアによるウクライナ侵攻に対して行われた第三国、ウクライナ以外の国による独自制裁に対しては、これを国際法上違法だというふうな主張はほとんど聞かれません。ロシアによるあからさまな侵略行為に対する措置として批判しにくかったという点はあるかと思いますけれども、第三者対抗措置というものが合法であるという方向へ、一つの重要な先例になるというふうに思っております。
 こういった傾向が続くと、有志国による協調的な独自制裁で侵略に対しては対抗するというふうなことが、今後、違法な武力行使への一つの在り方として期待されると、そうした体制づくりというのが重要ではないかというふうに思います。第二の安保理をつくるというわけじゃありませんけれども、そういった協調的な体制というものをつくるということは重要であるというふうに考えます。
 それから、侵略に対するもう一つの措置は、戦後における賠償であります。戦争賠償は伝統的には平和条約において行われてきておりますけれども、平和条約以外にも、裁判の判決によって侵略に対する賠償というのが命ぜられる、これは昨年行われたICJの判決がありますけれども、そういったものがありますし、あるいは、安保理決議によって侵略への賠償のメカニズムというのがつくられることもあります。これは湾岸戦争の際のイラクに対するものでありまして、安保理決議で国連補償委員会というものを設置した例があります。
 今回のウクライナ戦争についても、昨年の十一月に採択された緊急特別総会の決議五というのがありますけれども、これは資料の④に付けてありますが、ここで、侵略、人道法違反を含むあらゆる国際違法行為について賠償のための国際制度を構築するという必要が言及されております。
 これが賠償実現への第一歩でありまして、今後、いかなる範囲でこういった賠償というのを認めるかという詰めの作業と、それから具体的なそういった賠償メカニズムをどうするかと、その創設の問題というものが出てきますけれども、六千億ユーロ、八十六兆円というふうに言われています損害、これはまだ数字としては古いものですからどんどん増えておりますけれども、そういったものについて賠償が行われるとなると、将来の侵略行為への一定の歯止めといいますか、抑制効果はあるかというふうに思います。
 その際の問題は、賠償資金をいかに確保するかということであります。先ほど言いました湾岸戦争のときの国連補償委員会の場合には、イラクの石油輸出の代金を割り当てるというふうなメカニズムが創設されていましたけれども、ロシアの場合にどうするのかという点が問題であります。ロシア中央銀行の凍結資産というのが現在二千億ユーロありますけれども、これを充てるという提案もありますけれども、そういったことが国際法で許されるかという点が問題としてあります。
 中央銀行の資産を凍結するということは、基本的に、国際法上は、国家の資産に与えられております免除ですね、に反するというふうに考えられますけれども、これも、先ほども申し上げました対抗措置という観点からしますと、違法であるけれども違法性が阻却されると。先行する違法行為があると、それをやめさせるために違法行為を行うという対抗措置の概念を用いますと違法性が阻却されるということが言えるわけですけれども、しかし、それで終わるわけではなくて若干問題が残りまして、対抗措置というのは、その目的は先行する違法行為をやめさせるということにありますので、相手国が違法行為をやめれば対抗措置もやめなければならないというふうな制度ですね。
 したがって、一時的な措置であれば、つまり、凍結というふうな一時的な措置であれば問題ないんですけれども、没収というふうになりますと、これは一時的ではないですよね。没収してしまうと、相手国が違法行為をやめても、こちらとしては違法行為がもうやめれないと。ですから、没収というのは対抗措置として認められないというふうな考え方もあるわけで、こういった辺りは少し問題があるかと思います。
 ただ、立法論的に言いますと、国際刑事裁判所、ICC、まあ最近少しよく知られていますけれども、ICCにおいては、単なる戦争犯罪者の処罰だけではなくて、戦争犯罪の被害者に対する賠償を命ずるというふうな制度もあります。そういうことを想起すれば、国家のレベルにおいても同様に賠償という制度を少し制度化するということが考えられるかと思いますけれども、ただ、国際社会の構造からしますと、こういった制度をつくるにしても、条約か、あるいは安保理決議か、あるいは国際司法裁判所の判決、こういったものが必要になってくるわけで、いずれもロシアとの関係でいいますとなかなか想定しづらいというふうに思っております。
 侵略国への制裁の対極にある措置としまして、侵略の犠牲国への支援というのがあります。ウクライナ戦争でも、アメリカを始めとして、NATO諸国の軍事支援というのがその帰趨に大きな影響を与えておるところですけれども、こういった、たとえ侵略を行われても外からの支援で反転攻勢できるというふうな体制があれば、侵略の抑止にもなるというふうに思います。これが、本来であれば集団安全保障というのはそういう制度であったわけですけれども、そういった反転攻勢ができる体制というものが必要だろうと思います。
 したがって、有志国が協調して支援を行うという事実上の体制というものをどのようにつくるかということが重要になるわけですけれども、こういった軍事支援についても国際法上問題がないかといいますと、ないわけではないということをお話ししたいと思います。
 伝統的な国際法の下では、戦争が発生した場合には交戦国以外の国には二つの選択肢があります。一つは一方の側に立って共同交戦国になるということで、もう一つは中立の立場に立つということ、いずれかを選択することになります。
 中立国になった場合には当然中立義務を負うことになりますけれども、中立義務の中に公平義務というのがあります。中立国は両交戦国を公平に扱うということが求められまして、一方の交戦国に対して武器弾薬等を提供するということは禁止されているというのがこの中立義務の一部であります。
 ただ、この中立義務、伝統的な中立義務は、特に戦争が違法化されて以降は動揺することになります。侵略国と侵略の犠牲国を公平に扱うということは、基本的に戦争を違法化するということとは両立しないと。そして、もっと言えば、侵略国を利するということになる。したがって、侵略の犠牲国に対する支援は許されるというふうな考え方が出てきております。これが限定中立と言われる考え方であります。
 こうした考え方を明示的に採用している国としまして、アメリカがあります。アメリカは、軍事マニュアルにおいて、限定中立というものを採用しているということを明記しております。
 ただ、侵略の犠牲国に対する支援といっても、誰が侵略国かということが認定されないとそういったメカニズムは働かないわけでありまして、侵略の認定というのが必ず行われるとは限らないと、むしろ行われるのが例外的だというふうなのが現実であります。
 こういった限定中立の立場の採用において、国連による侵略国の認定が必要なのかということについては、これもまた争いがあるのが現実でありまして、ただ、今回のウクライナとの関係でいいますと、少なくとも、冒頭言いましたように、緊急特別総会の決議においてロシアの侵略が明確に認定されていますから、この点に問題はなく、軍事支援というのは限定中立として正当化できるというふうに思います。
 今後も、安保理の常任理事国による侵略において、安保理が拒否権によって機能しない場合には速やかに緊急特別総会を開催して侵略国の認定を行うということが犠牲国に対する支援としては極めて重要ではないかというふうに思います。
 残りの時間で、核兵器に関連する問題と、それから、昨年の十二月に発表されました日本の国家安全保障戦略について一言ずつ申し上げたいと思います。
 国連体制の下で常任理事国、安保理の常任理事国が武力行使を行ったということは、これまでもなかったわけではありません。が、ウクライナ戦争において注目すべきは、核保有国が核の使用をほのめかしつつ侵略を完遂しようとしている点であります。ロシアが核の使用を何度もちらつかせているということは周知のとおりですけれども、これが現在のNATO諸国によるウクライナ戦支援に対して大きな足かせとなっております。
 これはある意味では、核抑止が実際に機能することを示しております。しかし、逆に、そのことは将来における核保有国による同様の核の脅しを助長するということもありますし、あるいは、核保有国が核兵器放棄の可能性、五大国といいますか、P5の、NPT上のものは別にしまして、それ以外の国ですね、そういった国が核兵器を放棄するという可能性が更に遠のくということもありますし、さらには、核拡散の危険というのも高まるというふうに思います。
 ですから、今後は核不拡散の取組とそれから核兵器不使用の取組がますます重要になってくるのではないかというふうに思います。この不使用については、日本の安全保障上の核抑止に頼るというところとどう整合させるかということはかなり難しい問題だと思いますけれども、こういった問題も議論する必要があると思います。
 それから、もう一つの国家安全保障戦略との関係ですけれども、日本は侵略の犠牲にならないために何をすべきかという観点からしますと、国家安全保障戦略において表明された反撃能力の保有というのが重要であるというふうに思います。
 北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上、昨年、物すごい数の実験、発射を行っていますけれども、それから、中国も千基を超える、千から二千の中距離、準中距離ミサイルを保有しております。これに対して日本の迎撃態勢というのは、イージス・アショアの頓挫を始めとしまして心もとない限りでありますし、今回のウクライナ戦争を見ますと、一〇〇%の迎撃の保証がない限り、いかに悲惨な結果が待ち受けているかということを如実に示しているというふうに思います。
 そういった現実を前提にしますと、いかに弾道ミサイル攻撃そのものの発生を回避するかということを考えるべきだというふうに思います。もちろんそのためには外交も重要でありますけれども、究極的には、相手方に対して、もし対日攻撃を行えば大変なことになるというふうなことをあらかじめ知らしめるということが重要だと思います。その一つが反撃能力であります。
 反撃能力の保有というのは、現に反撃を行うということも、まあ望ましくはないですけれども、そういう可能性を示すと。それから、それを示すことによって攻撃を抑止するというためにも必要でありますが、それだけではなくて、将来あり得べき東アジアにおけるミサイルの削減交渉というものを考えた場合に、そういったものとの関係でも重要であります。
 一九七九年のNATOの二重決定に言及するまでもなく、削減交渉の対象となるべき兵器を持たない国が、私は持っていませんけれどもあなたの国のミサイルを廃棄してくれませんかと言って、分かりましたと言う国はないと思います。したがって、そういった将来の削減交渉を考えた場合にもこういった反撃能力の保有というのは重要であるかというふうに思っております。
 最後に、ウクライナ戦争の推移に関連してもう一言だけ申し上げますと、侵略を受けた国が世界から支持と支援を得るには、その国が必死に抵抗しているということを示す、それに加えて、その国のトップの政治家がそういった気概を明確に示すということは極めて重要であるというふうに感じております。
 この点を申し上げまして、私の冒頭の発言を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 浅田正彦

speaker_id: 10796

日付: 2023-02-08

院: 参議院

会議名: 外交・安全保障に関する調査会