戸崎洋史の発言 (外交・安全保障に関する調査会)
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○参考人(戸崎洋史君) ありがとうございます。
御紹介いただきました日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、本当にありがとうございます。
本日の私の報告それから発言ですけれども、全て個人の見解ということで、所属先などを代表するものではないということをあらかじめお断り申し上げたいと思います。
冒頭の報告でございますけれども、軍備管理といったものがどのように考えられて扱われてきたのか、それから更なる軍備管理、そして最終的な目標である核兵器のない世界に向けて進んでいくためにどういったことを考えなければならないか、考える必要があるのかといったようなところを中心にお話しさせていただきたいと思います。
まず、軍備管理ですけれども、最も基本的な定義は、軍事における敵対国間の協力でございます。
現在の国際システムの中では、自助、セルフヘルプ、それから自衛のために抑止力を持つということが必要になっておるわけですけれども、そうした抑止力の維持それから強化がもたらし得る安全保障ジレンマの緩和であったり、それから抑止バランスを安定化させたり、抑止関係にある中でも、敵対関係にある中でも、信頼醸成、それから透明性、そして将来の予見可能性、こうしたものを与えるというのが軍備管理の重要な役割だというふうに位置付けられてきました。核の秩序という言葉がありますけれども、それは抑止とこの軍備管理の二つの柱で成り立ってきたということが言われております。
その軍備管理でありますけれども、パワーであったり抑止力であったり、それをめぐる外交的手段によるせめぎ合いとしての側面というのも非常に強いというのがこれまでの歴史であったかと思います。
軍備管理は、最終的には、他方の抑止力に対する管理であったり制限であったり低減であったりと、そういったようなものを企図したもの、目標としたものであるということで、優位にある国、劣位にある国、それぞれがいかにこの自分の国に、自らに有利な合意をつくり上げていくか、そうしたゲームがその軍備管理交渉の中で行われてきたという側面も少なくなかったのではないかと思います。
最終的に合意が成立するためには様々な譲歩が必要になってきますけれども、譲歩ということは最終的には不完全なものあるいは不満足なもの、そうした合意が成立してしまう可能性もあるということで、あるいは合意したときには満足できたけれども、その先、将来、不満足な状況が生まれてしまうということもあるということで、そうした中で、敵対国が例えば欺瞞であったり違反であったり、そうしたことを行う可能性があり、それに対して効果的に対応できなければ自分たちの国が不利益を被ってしまうという、そうした側面も軍備管理には強かったということであります。
特に、マルチ、多国間の軍備管理について特有の難しさということも一言申し上げておきますと、当然その関係国が増加すればするだけ様々な中でのバランスを見出して維持していくということは難しくなってきますし、譲歩の幅も大きくならざるを得ないということで、そこに不満の種が出てくると。とりわけ、核兵器のように国家安全保障上重要な兵器だとみなされるものについては、そうした不満というものが蓄積してしまう可能性もあるということですね。
そして、核の問題ではコンセンサスで合意を図っていくということも少なからずあるわけですけれども、もちろんそのコンセンサスで合意することによって、全ての国が履行する、それを守るというようなことになる可能性はありますけれども、他方で、交渉の中では一つの国が拒否権を持ってしまうということもあってなかなか合意ができない、これは先ほど佐野大使の話にもあったことではございますけれども、そうした側面もあるということでございます。
続きまして、現在の核軍備管理の状況でありますけれども、二〇一二年から一三年、新START条約ができたのが二〇一〇年、発効が一一年でありますけれども、その後、既に核軍備管理の停滞、そして現在の逆行というものは始まっていたのだろうというふうに思います。
最も重要な要因は現在進行中の戦略的競争でありますけれども、その中で当然その競争には力というものが必要になってくると。その一つの要素として、核兵器というものが様々な国によって重視されている、核抑止力の重要性の高まりということが一つあると思います。
現在の戦略的競争は、既存の国際秩序を修正したいと考える国と維持したいと考える国、そのせめぎ合いという側面があるわけですけれども、修正したいと考えている国は、今現在自分たちは力を伸ばしているんだと、で、この伸ばしているところで止められたくない、軍備管理のような措置によって力の増大、抑止力の強化というものを抑制されたくないと、そういったインセンティブといいますか、抑制要因が働くということになるかと思います。
他方、現状維持勢力、西側、日本も含めてですけれども、当然その抑制要因としては、そうした修正主義の国々が抑止力を高める中で自分たちも抑止を高めなければならない、対処力を必要とするというようなところが軍備管理に少し後ろ向きになってしまうところもありますけれども、他方で、そうしたその現状を修正しようとする国々の力の台頭というものをこの軍備管理によって少しマイルドにしていくと、抑えていくということができるのであれば、それは軍備管理の非常に、彼らにとっての重要な役割になるということになるということで、そこにインセンティブが働いているのだろうというふうに思います。
そして、現在最も懸念すべきは、戦略的競争の最前線にある地域、北東アジアもそうですし、ヨーロッパ、中東などもそうですけれども、そうした地域問題ですね、ここでの非核、核のエスカレーションの可能性が強く懸念されていて、実際に勃発してしまったのがウクライナであったわけですけれども、そうした中でその抑止力の強化のインセンティブが非常に高まってしまっており、これも軍備管理が進むことを妨げている要因になっているのだろうというふうに思います。
もう一つの要因は、国際システムと戦略関係、抑止関係が変容しているということで、抑止が非常に複雑になっているということなのだろうというふうに思います。
既存の核軍備管理・不拡散体制はおおむね冷戦期の二極構造に起源を持つものでありますけれども、これがまあ多極、世界は多極に向かっているという中で、その中でどのようにバランスを取ったらいいのか、協力を図ったらいいのかということがなかなか考えにくくなっていると、難しくなっているということ。
それから、これも冷戦期には基本的にはその戦略核というものが中心になって考えられていたわけですけれども、それが戦略核だけではなくて、それ以外の戦術核も含めた非戦略核、それから、核兵器だけではなくて核兵器と通常戦力の問題、とりわけ戦略的インプリケーションを持つような兵器、こうしたものが重要になってきているということで、これらを軍備管理の文脈の中に落とし込むにはどうしたらいいのかということ、これまで我々が経験したことのなかったことをやらなければならないということ。
そして、様々な国がある中で、能力であったり、利益、決意、そうしたものへの非対称性が大きいという中で、この辺りのバランスをどうするのかということですね。
既存の核軍備管理・不拡散体制ではなかなかカバーし切れない多くの課題があると、で、カバーするために核軍備管理、軍備管理の在り方について現状では合意がないと、あるいはその合意を図っていくことが難しい、あるいはどういったアイデアでこれを進めていったらいいのかというのがまだ国際社会には合意がないということなのだろうというふうに思います。
続いて、既存の軍備管理の現状については少し手短にお話ししたいと思いますけれども、NPTの第十回運用検討会議については、先ほど佐野大使がお話しされたとおりで、私もおおむね同じ考えを持っておりますけれども、一点だけ。
こうしたその核をめぐる非常に厳しい状況にある中で、最終文書の採択に向けて、締約国、マイナス一ですね、ロシア、の取組というのは、やはりそのNPT体制というものが重要でこれを堅持すべきだという意識に支えられたものだったのではないかというふうに思います。結果として文書は採択できませんでしたけれども、それまでの過程で各国が採択に向けて一生懸命取り組んだという現実、事実と、一応文書の形でドラフトはできたというところは一つ留意すべきなのかなというふうに思います。
もちろん、その会議の中で核兵器国間の亀裂がこれまで以上により目立ったということ、それから中国が非常にアグレッシブに対応したというところは今回の会議の特徴であったかというふうに思います。
続きまして、ポスト新STARTですね、新START後の核軍備管理をどうするかというところで、なかなかそのアメリカとロシアのそもそも折り合いが付いていないと。アメリカは全ての核兵器を対象にすべきだと言っているのに対して、ロシアは攻撃、核兵器だけではなくてミサイル防衛も含めるべきだと、それからアメリカがヨーロッパに配備している戦術核、これも軍備管理に含めていくべきだというところで、二〇一二年、一三年ぐらいからもうずっとこの議論が続いて、折り合いが付いていないという中で現在まで来ているということであります。
で、二〇二六年の二月に新START条約が失効しますけれども、合意できなければ一九七二年以来続いてきた二国間の核軍備管理条約というのが全くなくなってしまうという状況になりますので、私もこれをどうにかして何らかの形で続けていくということは重要なのだろうというふうに思います。
ロシアのウクライナ侵略の話については、もう繰り返しになるかもしれませんけれども、もう様々な形で、核の恫喝であったり偽情報を乱発したりなどですね、そうしたそのロシアの行為というのが軍備管理・不拡散体制の根幹に関わる重大な挑戦なんだということは改めて強調しておきたいと思います。
そして、やはり今後鍵になっていくのが中国ということで、積極的な核戦力の近代化を図っていると、十年後までには少なくとも千発の核弾頭を保有するのではないかという見方がアメリカの核態勢見直しでも示されていますけれども、その中国はNPT上の五核兵器国の中で唯一核兵器をこれまで削減したことがない国ということで、実質的な核軍備管理には非常に消極的な態度を取ってきた国でもある。こうした国をいかにして軍備管理の枠組みの中に取り込んでいくかということが重要な課題になってくるのだろうというふうに思います。
核兵器禁止条約につきましては、様々議論があるところですけれども、二点だけ課題を挙げさせていただくとしますと、一つは、禁止規範の受容度というものがなかなか広がっていかないというところですね。ここはやはり、その秩序あるいは安全保障が維持される程度の中でのみ規範であったり禁止規範というものが国際社会に受容されていくという厳しい現実を示してしまっているのではないかというふうに思います。
もちろん、核兵器の廃絶が実現するためには、規範の要素というのはとても重要だというふうに私も思っておりますけれども、そのために、実現するために何をしなければならないかということを併せて考えなければならないのと、それとの関連では、ロシアの今回のウクライナ侵略と核恫喝に際して、この核兵器禁止条約の、まあ一部ではありますけれども、締約国が必ずしも十分に非難したわけではないということで、規範を主張している国、核についての規範を主張している国が、他方でその国益との関係で、そこにその相克というものが見られたというところも一つ留意しておく必要があるのかなというふうに思います。
そして、こうしたその核兵器をめぐる問題の、核兵器の使用可能性というのが高まる中で、核リスクの低減であったり、それから核兵器、役割の重要性が高まっているということは、繰り返しになるかもしれませんけれども、現在の国際安全保障環境、核をめぐる状況の厳しい状況を逆に反映しているのかなというふうに思います。
最後に、今後どのように核軍備管理を進めていくべきなのかというところ、なかなかその具体的な提案というのは難しい状況でありますけれども、考えなければならない課題ということで、時間軸に沿って少し挙げてみたいと思います。
まず、日本それから世界の最終的な目標が核兵器のない世界であるとすれば、これを実現するための安全保障環境であったり、ナラティブであったり、論理であったり、規範であったり、そうしたものを構築していく必要があると、現在はないということなので、それを構築していく必要があるということなのだろうと思います。現在の世界マイナス核兵器が核兵器のない世界、安全な核兵器のない世界ではないということですので、その点。
そして、これは前回の核軍縮の実質的な進展のための賢人会議の議長レポートでも示された困難な問題ですね、核兵器の大幅削減であったり、核なき世界のために解決しなければならない、そして、現状では答えが出せない、出せていない問題に取り組まなければならないということで幾つか挙がっておりますけれども、これらの問題に答えを出していかなければ最終的な目標には到達し得ないということで、この部分しっかり考えていく必要があるということであります。
次に、短期的といいますか、より中期的な目標としては、核軍備管理のその新たな枠組みというものを模索していかなければならないのではないかということで、既存の枠組みももちろん活用しつつではありますけれども、今後の世界が直面する多極化、多様化、そして非対称性といったようなものを適切に織り込んでいくと、そして、その中にやはり中国をいかに取り込んでいくかということが最も重要で難しい課題になってくるというふうに私も考えております。
中国を核軍備管理に取り込んでいくためには、当然その中国が参加したいと思うようなインセンティブというものも与えなければならないのかもしれませんけれども、他方で、それが中国に対する宥和、アピーズメントであってはならないというふうに思いますし、その中で、どこまでの、どのようなインセンティブを与えるのか、あるいは、逆に日本なりアメリカなりが抑止力をしっかり持つ中で、中国に対して、そのお互いの関係の中での安定性というものを日本あるいはアメリカなどとともに働きかけていくということが、なかなかこれも難しい問題ではありますけれども、進めていかなければならない課題なのだろうというふうに思います。
そして、最後に、短期的な目標でありますけれども、これ以上核軍縮、核軍備管理、核をめぐる状況が悪化するのを防ぐということが直近の目標になってくるのだろうというふうに思います。
核兵器不使用の歴史の継続というのは最も重要だと思いますし、それと並行して状況悪化の押さえ込みを行っていくと。大きなステップはなかなか取りづらいと思いますけれども、その小さなステップを一つずつ積み重ねていくことで、より先の目標へと近づいていくと。
それから、核兵器を、現在数の削減というのは難しい状況にありますけれども、その中では、まずその行動、核をめぐる行動というものに対する管理であったり制限であったりと、そうしたところを模索していく、あるいは各国が自制に基づいて行動するよう求めていくと、そういったことも考えられるのかなというふうに思いますし、核リスクの低減のところでは、やはり戦略対話ですね、話をする時間、機会がなかなか少なくなっているという中で、まずは対話を進めていく、そして、危機管理であったり危機コミュニケーション、信頼醸成、透明性というものを高めていってほしいというところであります。
最後に、この調査会の一つの柱といいますか、それがマルチラテラリズムということでありましたので、その問題を少しお話ししたいと思いますけれども、マルチというのは難しいところもあるということは先ほどお話ししたとおりでありますけれども、多極化なり多様化、それから非対称性という中で、やはり多層的な取組というものが必要で、その中にマルチラテラリズムの重要性というものもあるのだろうというふうに思います。
今後、新しい枠組みやあるいは核兵器のない世界を可能にするためには、国際社会、まさにマルチですね、そこでの合意というのが絶対的に必要でありますし、マルチで合意した、議論して合意したからこそ履行可能性というものは高まっていくわけですし、そうしたその議論、具体的な措置をマルチで着実に積み重ねていくということが将来的な確固とした国際規範の確立ということになってくるということで、もちろんマルチだけで全てがうまくいくわけではないと思いますけれども、単独、二国間、それから小規模の国家、そして地域、そしてマルチというような多層的な取組で軍備管理を進めていくということがますます重要になっているのではないかと思います。
最後に、マトリックス、この会合の事前にいただいたものがありましたので、それに、私が思い付く限りではありますけれども、少し当てはめてみたということで、完全ではございませんけれども、御参考までに付してみました。
ということで、私の御報告は以上でございます。御清聴ありがとうございました。