酒井正の発言 (国民生活・経済及び地方に関する調査会)

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○参考人(酒井正君) 法政大学の酒井と申します。
 本日は、意見陳述の機会をいただき、ありがとうございます。(資料映写)
 私は、雇用保険を中心とした雇用のセーフティーネットについて研究しておりますが、特に最近は第二のセーフティーネットと呼ばれるものの一つである求職者支援制度をウオッチしているところです。本日は、コロナ禍が始まってからの雇用の状況について見た上で、雇用のセーフティーネットの在り方について私の考えを述べさせていただきたいと思います。
 まず、二ページ目なんですが、最初に確認したいこととして、失業率の推移を見たいと思います。リーマン・ショック時はこのように失業率が非常に跳ね上がったということがございましたが、実は二〇二〇年、コロナ禍が到来しましたときは、失業率、まあ上がりましたけれども、それほど高く上がったわけではないということがございます。それはなぜかといいますと、取りも直さず雇用調整助成金、これによるものが大きいと考えております。雇調金の特例措置が大規模に発動されることによって、失業の増加というものが抑えられてきたということが言えると思います。
 その一方で、三ページ目になりますが、実質賃金の方は、先ほどからもお話ございますけれども、長らく停滞しているというような状況にあるわけです。
 それで、私としましては、こういった雇用の情勢、やはり雇用形態別に見たいというものがございまして、この四ページ目のグラフは、非正規雇用の割合の推移を見たものです。
 雇用者に占める非正規雇用の割合というのは、コロナが始まった頃にやはり一旦低くなったわけですけれども、現在ではまた戻してきていて、傾向としてはその非正規雇用の比率というのが以前のような状態に戻ってきている、少なくとも大幅に下がってそのままというようなことはないということが言えるかと思います。
 もう一つ、五ページ目にお示ししたのは、雇用形態別の雇用者増減というものを、ちょっとイレギュラーなんですが、対前年ではなくて、コロナ前と比較するために二〇一九年の同月と比べた雇用者数の増減を表しております。これを見ると一目瞭然かと思いますけれども、正規雇用というのはコロナ禍でも基本的には減っていないということなんですね。それに対して、非正規雇用というのはコロナの中でやはり減っていたということが言えるかと思います。すなわち、そのショックに対する非正規雇用というのは、非正規雇用の減少というのは大きいということで、これは昔から言われていることですけれども、非正規雇用の調整弁としての側面がやはり浮き彫りになったのではないかという気がしております。
 こういうようなボラティリティーの大きい雇用としての非正規雇用ということなんですが、一方で、先ほど見たように、企業あるいはその経済全体としての非正規雇用への依存というのは、長い基調としてはこのまま続いていくんじゃないかというふうに思われるわけです。したがって、いろいろな対策ということに関しても、この経済が非正規雇用に依存していくんだということを前提にした上で行っていくべきだと考えております。
 コロナ禍の雇用のセーフティーネットというのは、今見ましたように、大規模な雇用維持策、すなわち雇調金の特例措置によって担われてきたわけですけれども、この雇調金の大規模な発動というものは、労働需要自体が減退してしまったような状況では求職者にいろいろと支援を行うよりも即効性あるいは包括性といったものがある、そういう意味で有益なものだったというふうに考えます。
 しかし、これはよくいろいろなところで言われることですけれども、雇調金、三年近くにわたって続けたことによって、その弊害、副作用というものを指摘されたということです。特に、労働移動を阻害しているんじゃないかということが言われるようになったわけです。実際に、コロナ禍では、入職率、離職率共に停滞していたという現状がございます。
 七ページは、雇調金の支給実績を示したものですけれども、現在、実質的に終了の段階に来ているということです。
 八ページにお示ししたものは、これ、失業のバスタブモデルと言ったりしますが、今の状況を見るのにいいかなと思って示しました。今の状況を説明するならば、その雇調金という失業への入口を塞ぐ施策から、失業からの出口を広げる施策に重点を切り替える時期に来ているということだと思います。これは政府も既に表明しているところです。また、この失業への入口を塞ぐ施策というのは主に企業に対する支援だったかと思いますけれども、それに対して、失業からの出口を広げる施策というのは、もちろん企業に対する支援ということもあり得るんですけれども、どちらかといえば個人への支援と解釈できるかと思います。後に述べる求職者支援制度という制度についても、失業からの出口を広げる施策の一つとして数えることができるかと思います。
 それで、九ページになりますが、私は常々、その雇用のセーフティーネットというものを考えるに当たっては、労働者の立場からすれば、例えば雇用維持策であるとか、あるいはその失業給付であるとか職業訓練であるとかですね、まあいろいろとあるとは思うんですが、労働者の立場からすれば、そのセーフティーネット全体として見たときに穴がないこと、これが重要なんではないかというふうに思っております。ですので、例えば、ある状況においては雇用維持的な政策というものが労働者にとって一番有益なセーフティーネットになり得るんだけれども、別の状況では労働移動した方がよっぽどその労働者にとってはそれがセーフティーネットとして機能するんだという可能性もあるということです。
 ということで、今現在、その労働移動への施策へシフトしつつあるというのが現状かと思いますが、一方で、少し懸念するところは、その労働移動施策といいますと職業訓練ということが常に挙がるわけですけれども、その職業訓練だけで労働移動が進むのかというような不安、心配もしております。また、誰にとってどのような職業訓練が必要なのかといったような議論ももう少し深めるべきなのかなというふうに感じております。
 それから、これ後でちょっと説明しますが、経済にとって望ましい労働移動とは何だろうかと、それが個人にとっての、個人が望むような労働移動と本当に整合的なんだろうかというようなことも重要かと思います。
 ところで、十ページになりますが、人々が仕事を失ったような場合、この雇用のセーフティーネットとして最初に想起されるものというのは、本来は雇用保険の失業給付です。ただ、この雇用保険の失業給付というもの、実は余り機能していないんじゃないかという指摘が以前からなされていました。その理由は、非正規雇用として働く人々たちが雇用保険から漏れ落ちがちだということがあります。
 十一ページ目に、失業者に占める失業給付を受給している人たちの割合の推移、かなり長期的なものですけれども、これを示しました。これはよく知られているものですが、長期的に失業者のうち失業給付を受給している人たちの割合というのは低下傾向にあるということです。
 そして、十二ページ目になりますが、この傾向というのはコロナ禍以降も変わっておりません。相変わらず失業者に占める失業給付受給者の割合というのは三割を切っているという状況です。
 十三ページになりますが、そうしますと、この失業給付の受給者割合が低いのは何でなのかという議論が出てくるかと思います。それはもちろん失業保険、ごめんなさい、失業給付の受給資格を持っていないということで受給できていない人がいるということなんですが、その典型が非正規雇用だというわけなんですね。
 そうすると、非正規雇用には雇用保険適用されていないから受給できないんだというふうに言われたりするわけなんですけれども、もちろん、非正規雇用に対する雇用保険の適用率、正規雇用に比べれば低い状況です。ただ、それでも、契約社員、嘱託社員の八割、パートタイムの労働者の六割には雇用保険が適用されているということで、全く適用されていないわけではない。にもかかわらず受給できないとすると、何があるかというと、例えば非正規雇用では、断続的な就業を繰り返しているということで、雇用保険が適用されていても例えば受給に必要な被保険者期間を満たせていないといった可能性が出てくるわけです。そうすると、保険料拠出を条件に給付を行う社会保険の枠組みでは、根本的に非正規雇用に対してセーフティーネットを提供するということが難しいという面があります。
 そこで出てくるのが、保険料拠出を必ずしも前提としない、条件としない給付の必要性です。
 ちょっとそれを見る前に確認しておきたいグラフは、十四ページになるわけですけれども、今、離職失業者のうち約半数が非正規雇用からの失業者です。正規雇用と非正規雇用、数でいえば二対一くらいだというふうに考えますと、非正規雇用の失業確率というのは極めて高いということが言えるかと思います。つまり、非正規雇用は雇用保障の面においても弱いわけですし、セーフティーネットの方も脆弱であるという意味で、これを最近、二重の脆弱性といった言葉で言ったりします。
 先ほど申し上げましたように、保険料の拠出というところがネックとなって、雇用保険ではなかなか非正規雇用に対してセーフティーネットを提供しにくいということでございますので、必然的にこの対策としては、保険料拠出を前提としないような、保険料拠出を必ずしも条件としないようなセーフティーネットというものが考えられるわけです。それが第二のセーフティーネットという発想なわけですけれども、これを具現化した一つの施策が求職者支援制度というものであります。
 これは、私、最近、中間層にとっての安全網だというふうに、そういう側面で捉えておりますが、制度の具体的な中身としては十六ページに書きましたが、これは釈迦に説法なので細かいところまで説明いたしませんが、基本的に雇用保険から漏れ落ちた人たちが職業訓練を受けることができる、条件によっては所得保障も受けられるという制度になっております。二〇一一年十月からスタートしました。
 そして、この非正規雇用ということに関しては、もう一つ、この十七ページにお示ししましたが、その職業訓練、あっ、ごめんなさい、訓練機会ですね、企業内における訓練機会が乏しいという側面がございます。能力開発基本調査のデータを示しておりますが、ほかの調査でも、正規雇用、正社員に比べて非常に訓練機会が乏しいという面がございます。その観点からも、非正規雇用にとって職業訓練機会というのは非常に重要かと思います。
 したがいまして、今、これから求職者支援制度というものについてもう少し掘り下げて見ていくわけですけれども、この求職者支援制度というのは、第二のセーフティーネット、すなわち保険料を前提としないような、保険料の拠出を前提としないようなセーフティーネットという側面と同時に、職業訓練としての顔もあると。この二つの側面、二つの顔それぞれに対してその期待があり、また同時に二つの側面から考察する必要があるのだろうというふうに考えるわけです。
 求職者支援制度、二〇一一年にスタートしたわけですが、経緯申し上げますと、その後、労働市場、非常に空前の人手不足ということで労働市場堅調だったため、実はつくってはみたものの余り利用されないで来ました。そういう中で二〇二〇年にコロナが到来したわけです。
 ということで、コロナが到来したことによって、この求職者支援制度、第二のセーフティーネットを具現化するものとしての求職者支援制度、ようやく真価を問われるはずだったんですが、コロナ禍に要件を大幅に緩和しました。しかし、爆発的な利用拡大というのには至らなかったというふうに考えております。
 二十ページは、その求職者支援制度の求職者支援訓練、この受講者数の推移を示しているものですが、二〇一二年以来減り続けていて、コロナ前まで、コロナ前の段階で最低を記録していたんですが、コロナに入ってから少し増えてきています。ただ、ピークほどではないということで、増え方は低調なんじゃないかなというふうに思います。
 そうしますと、なぜコロナ禍でも、この第二のセーフティーネット、私は非常にいい仕組みだと思いますけれども、求職者支援制度、利用は低調だったのかという議論になるかと思います。
 その一番単純な答えは、先ほどから言っていますように、雇調金の特例措置によって失業への流入自体が抑えられていた、すなわち求職者自体がそれほど増えていないということが一番単純な答えになるかと思います。
 しかし、それだけではないのかなというふうに思うのは、困窮者、やはり全く増えていなかったわけではない。特に、第二のセーフティーネットと呼ばれるものの中には、今は生活福祉資金貸付制度ですとか住居確保給付金といったほかのものも、ほかの制度もございます。こういった制度に関しては利用がかなり拡大していたという現状がございます。
 といいますのも、例えばパート、アルバイトといった人たちがシフト減によって非常に収入が少なくなっているということで利用が増えていた。しかし、求職者支援制度に関しては、先ほどから見ているとおり、余り利用者が増えていないというのが現状だったというふうに考えられるわけです。
 そうすると、やはり制度、まだまだ何か課題があるんじゃないかというところも思い当たるわけです。
 コロナ禍において、要件緩和という形で様々な特例措置が導入されました。これらの特例措置、収入要件の緩和ですとか出席要件の緩和ということで大規模に行われました。細かいことをちょっと見ている時間がないので重要なところだけ示したいと思いますけれども、緑色の丸で囲ったところなんですけど、実は、再就職、転職を目指す人のための制度ということだったんですが、これが、必ずしもその再就職目指さなくても、スキルアップするということのためにも使えるようになったわけなんですね。これは私としては非常に画期的なことだったというふうに考えているんですが、これ残念ながらこの利用者数非常に限られています。
 何でこういうことになっているのかといいますと、求職者支援制度というのは、多くは、ハローワークに来た人たちに対してこういう制度がありますよということで、一般求職者に対して、ハローワークを訪れた一般求職者に対して誘導するということが主に行われるわけなんですけれども、ハローワークにすら来ない人たちについては、この求職者支援制度というものがあって利用できたとしてもそれを周知できないということがあって、これ在職者に対するスキルアップの機会というのは非常に私重要だと思うんですが、この辺り、アウトリーチどうしていくのかということが課題としてあるのではないかなということは考えております。これを書いたのが二十三ページの一番下のところということになっております。
 二十四ページ以降、もう時間もないので少し速めに話していきたいと思いますけれども、今、求職者支援制度という枠組みで職業訓練見たわけですけれども、もう少し広い観点から職業訓練ということ、あるいは訓練への支援という点で私の思うところを述べてみたいと思います。
 もちろん、実証研究では職業訓練、就職に一定の効果があるというのが通説になっておりますけれども、例えば現場、実態を見ますと、例えば同業種、同職種で早期に再就職したいと思っており職業訓練は必要ないと考えるような人も多いということで、職業訓練というのはあくまで再就職の支援のパーツと認識してやっぱり支援というものが構築されていくべきであろうというふうに考えるわけです。
 ちょっと二十五ページは飛ばさせてもらいます。
 もう一つ、先ほど申し上げましたけれども、求職者支援制度というのは第二のセーフティーネットとしての側面、もちろんその第二のセーフティーネットなわけですけれども、そういった側面から見る必要があると述べましたけれども、ここにお示ししたのは、二十六ページにお示ししたのは厚生労働省が示すような各セーフティーネットの関係なんですね。
 これを見ると、求職者支援制度というのは第二層の一部としてあるわけなんですが、ここで私が思うところは、第一の層においては雇用保険という一つの制度で一枚のセーフティーネットが張られていますと。二枚目の層に関しては、まあ言ってみればパッチワーク状になっていると。パッチワーク状になっていること自体は悪いことではないんですけれども、そうだとすると切れ目のないセーフティーネットになっている必要があるというふうに考えるべきだと思います。特に、この求職者支援制度というのは、職業訓練が必要だったならば職業訓練のニーズということに対しては応えていますけれども、就労支援全体の中でその職業訓練が必要か必要じゃないかによって制度が変わるというふうにも見ることができるわけです。
 同時に、この求職者支援制度、実は少し対象層がほかの制度と異なるんじゃないかというような指摘もございます。ここに、少し求職者支援制度のところを浮かせて描いているんですけれども、対象層としては実は第一・五層と呼べるくらいの位置にあるんじゃないか。ほかの制度はもう少し低いところに設定しているというようなことがあって、パッチワーク状になっていて、かつ段差があるような制度、あっ、ごめんなさい、第二のセーフティーネットになっているんじゃないかという問題意識があります。この辺りの、第二のセーフティーネットについてですね、この辺りの連携といったものが必要なのではないかと思っております。
 それから、職業訓練としてこういったもの、求職者支援制度見た場合によく、職業訓練に限らない話なんですけれども、職業訓練必要ですねと言うと、マスコミなんかでは現在の公共職業訓練のコースが人々のニーズに合っていないんだというようなことが言われたり批判がされたりします。確かに、アンケート調査などでは、訓練を受講しない理由として受講したい分野の職業訓練がないとの声もあるんですが、果たしてそれは本当に問題なのかというようなことがございます。
 これは、二十八ページになりますが、求職者支援訓練の各コースごとに、応募倍率、人気ということですけど、人気と就職率の関係を見たわけなんですが、例えば応募倍率、デザインコースでは非常に高いです。しかし、就職率それほどいいというわけではありません。それに対して、例えば慢性的な人手不足である介護福祉の分野、こういったコースに関しては、就職率は非常に高いんだけれども応募倍率は低いということです。
 ここから何が言えるかなというふうに考えたところ、例えば個々人のニーズに応じて訓練コースを拡充するだけでは社会経済にとって望ましい労働移動が起きるとは限らない可能性があるということです。
 それに関連して、ちょっと二十七ページに戻らせていただきたいんですけれども、労働移動先として我々が何か描く、職業訓練を通じて労働移動というものが生じて人々が労働移動するというと、何か成長産業に移っていくというようなイメージを抱きがち、まあまさにそれが理想なんですけれども、果たして、じゃ、成長産業って何だろうかという議論もあるかと思います。
 成長産業というものは、確かに付加価値あるいは売上げが伸びているといったことでは成長産業なのかもしれませんが、例えばそれが雇用吸収力がある産業なのかということ、こういったことについても、あるいは本当に安定的な雇用を提供できるのかといったことに関しても議論しなければいけないんではないかと思います。
 済みません、時間が過ぎているのでもうまとめさせていただきますが、今言ったように、やはり非正規雇用への支援というのがいまだ重要だというふうに考えております。その観点から第二のセーフティーネットという発想自体は非常に重要だというふうに考えるわけですけれども、現状である制度が機能しているかどうか、これについては非常にこれからも点検していく必要があるであろうというふうに考えるわけです。
 私の最後に述べさせていただきたいこととしては、やはり中間層のために切れ目のないセーフティーネットを構築していくことが重要であろうということです。
 以上となります。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 酒井正

speaker_id: 29034

日付: 2023-02-22

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済及び地方に関する調査会