田中紀子の発言 (厚生労働委員会)

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○田中参考人 一般社団法人ARTS代表の田中紀子です。
 ARTSは、薬物ほか依存症問題の啓発や社会提言を行い、依存症問題に苦しむ当事者や家族の方々の支援をしている団体です。
 私は、こういった場に立つことも二回目ですし、割といろいろなことに緊張しないタイプなんですけれども、今日は、本当に大きな悲しみというか、なかなかやはり現場の声は届かないんだなということと、本当に小さな、現場で困っている当事者や家族という立場の人間の意見はなかなか反映されないなという悲しみ、そして、でも、だからこそ、この機会を与えていただいて、その声を届けなきゃいけないという責任感で今ちょっと緊張しております。
 先生方のお手元に私どもの資料をお配りしております。どうかお手に取って御覧いただけたらというふうに思います。
    〔委員長退席、三谷委員長代理着席〕
 今日は、限られたお時間ですので、三つのポイントに絞ってお話しさせていただきたいと思います。
 まず第一に、偏見を生み出している我が国の薬物政策についてです。
 我が国の薬物問題は、刑罰中心の政策、間違った啓発の在り方、それに伴うメディアの過剰反応により、多くの誤解や偏見を生み出し、当事者や家族に苦しみを与えています。
 まずは、お手元の資料の図一を御覧ください。この図を見て、先生方、どう思われるでしょうか。これは、各自治体が薬物乱用防止キャンペーンの一環として子供たちに描かせ、賞を受賞した作品です。ここには、薬物問題に苦しむ当事者や家族に対する人権への配慮どころか、人間としてすら描かれていません。子供たちに長年こういう教育を続けた結果、大人になって審査員の立場になっても、このような啓発に何も疑問を持てないのです。
 なぜこのようなことが起こってしまっているのか。
 図二の厚労省の薬物乱用のパンフレットを御覧ください。驚くことに、麻薬・覚醒剤乱用防止運動のキャッチコピーは、「薬物の乱用は、あなたとあなたの周りの社会を壊します!」となっています。これでは、まるで薬物乱用者自身が社会の破壊者のようです。
 さらに、このパンフレットの六ページ目にはこんな記載がございます。図三を御覧ください。薬物乱用により凶悪な事件を起こしますとありますが、本当にそうでしょうか。
 警察庁が発表している年間の犯罪という統計をグラフにしてみました。図四を御覧ください。このように、実は、薬物の作用で起きている犯罪は、異常酩酊及び精神障害又はその疑い、パチンコ依存、ギャンブル依存と比較しても最も少なく、突出しているのは実はギャンブルによる犯罪です。ギャンブル依存とパチンコ依存を合わせると、どれだけ多くの犯罪が起きているかという数字がお分かりいただけるかと思います。
 では、犯罪の種別で動機を見ていくと、どうでしょうか。異常酩酊の方にはほかの精神障害も含まれておりますので、これを除き、ギャンブル及びパチンコ依存と薬物の作用で比較してみたいと思います。
 殺人、強盗、放火、強制性交等といった凶悪犯でも、ギャンブルとパチンコ依存の方が犯罪が多いのです。粗暴犯も同様です。窃盗犯や、詐欺や横領といった知能犯に至っては、比較にもならないほどです。
 ちなみに、これらの薬物の作用は、大麻だけでなく、覚醒剤ほかのハードドラッグや、処方薬や市販薬も含めた数字です。
 このように、薬物乱用者は、凶悪犯といういわれなき偏見、そういった啓発をされ、社会で居場所を奪われてきました。それは、アルコール、ギャンブルが、一部を除いて、手を出しただけでは犯罪にならないという違いがあるからです。
 では、法律に反して未成年者がアルコールやギャンブルに手を出した場合に、一々逮捕されているでしょうか。アルコールやギャンブルに手を出したという微罪で逮捕という処分が下れば余りにも失うものが大きい、それは誰でも理解できることです。だからこそ、これまで、そういった青少年には、生活習慣の見直しや、背景にある生きづらさ、又は家庭や学校という環境要因の見直しがなされてきました。
 大麻も全く同じです。アルコールやギャンブルでも、習慣から依存症になれば、精神に異常を来し、事件や事故が起こるのです。一度でも手を出せばリスクを背負うのは、大麻と全く変わりありません。
 にもかかわらず日本では、薬物乱用者に対し、刑罰を科し、懲らしめ、さらしものにし、社会の厄介者として人間扱いすらせず、再起すら許してきませんでした。これ以上、犯罪者というスティグマを増やすべきではありません。
 ちなみに、申し上げますが、私たちが求めている非犯罪化ということは、合法化とは全く別です。薬物全てを合法化しろなんということを求めているのではありません。そこのところ、誤解なきようお願いいたします。
 次に、世界の薬物政策はどうでしょうか。
 まず、アメリカですが、二〇二二年十月六日、バイデン大統領は、大麻の単純所持で有罪者全員に恩赦を与えました。日本と同じく刑罰で大麻を取り締まってきたアメリカの薬物対策に対して、アメリカの大麻に対するアプローチは失敗であり、余りにも多くの人の人生を狂わせてきました、大麻所持の犯罪歴は雇用や住宅、教育の機会にも無用な障害をもたらしている、この過ちを正すときが来たのですと述べました。
 また、二〇二三年六月二十三日、国連人権高等弁務官事務所は、薬物問題への刑罰は既に社会から疎外されている人々に汚名を着せます、薬物問題の犯罪化は医療サービスへのアクセスを深刻に妨げ、人権侵害をもたらしますと声明を発表しました。
 このように、世界では、薬物乱用者を犯罪者として汚名を着せ、懲らしめるのではなく、非犯罪化へとかじを切り、薬物を使わざるを得ない状況の人々を医療サービスへつなげる方向に進んでいます。
 こういうことを伝えると、先ほどの委員の発言にもありましたが、日本は海外ほど薬物問題はない、日本の政策こそ成功しているという声が上がりますが、本当にそうでしょうか。
 図九を御覧ください。確かに大麻の検挙数は増えていますが、だからといって、覚醒剤等のよりハードドラッグが増えているわけではありません。むしろ薬物事犯自体は減っています。これは、大麻はハードドラッグのゲートウェーという仮説を否定しております。
 そして、図十を御覧ください。これは、薬物依存症治療の第一人者である松本俊彦先生からお借りしてきたデータですが、二〇一四年に危険ドラッグが流行しましたが、取締りが強化されると、結局、合法薬物である処方薬や市販薬の乱用が増えました。薬物にもはやり廃りがあるのです。大麻の取締りが強化されれば、同様のことが起きるでしょう。
 そして、松本先生によれば、大麻の害よりも、処方薬、市販薬の方がよほど依存症は難治性になるとのことでした。大麻の捜査を強化すれば、大麻使用罪を作れば、難治性になっていく、処方薬や市販薬に流れていく青少年が増えていくことが懸念されます。
 つまり、海外と逮捕者数が違っていても、問題の本質は同じです。大切なのは、薬物乱用者に対する犯罪者というスティグマを軽減させ、早めに医療サービスへアクセスさせることです。
 先ほど委員たちの間でも、このことは皆さんおっしゃっておりました。最初はいいけれども、そのうちいろいろ重大な問題を引き起こす、そのとおりです。アルコールでもギャンブルでも何でもそうですが、早期に相談、早期治療が大切なんです。だからこそ、早期治療を実現するためには、相談したら逮捕されるかもしれない、そういう懸念があっては、誰が早期に相談ができるでしょうか。そこのところの弊害について、よくお考えいただきたいと思います。
 最後に、捜査機関と報道の在り方についてです。
 最も望むことは、捜査機関が大麻の個人使用のような微罪の逮捕者を、報道機関に個人情報を提供することをやめていただきたいということです。
 先日、大麻所持で逮捕された芸能人は、逮捕の前から自宅等を報道機関に張られていました。これは捜査機関と報道機関の情報漏えいと思われ、人権が侵害されています。
 また、日大の大麻所持事件では、僅か〇・〇一九グラムの大麻片を持っていただけで、連日繰り返し学生の実名報道がなされ、教育の機会も奪われました。
 一方、島根県警では、自宅で大麻を所持していたとして、県内の警察署勤務の男性巡査長を大麻取締法違反の疑いで書類送検し、懲戒免職処分にしましたが、県警は、証拠隠滅や逃亡のおそれがないなど総合的な判断として逮捕せず、プライバシー保護を理由に名前や勤務場所も公表しませんでした。
 私たちはこのことを責めているのではなく、全国的にこの島根県警の取組が広まってほしいと願っています。この事件は、所持量が少量だったこともあり、後に不起訴処分になっております。
 大麻を個人で使用、所持したという微罪でデジタルタトゥーが残り、若者の将来が奪われてしまうべきではありません。島根県警のように、現在でも実名公表を控える捜査機関も既にあります。報道の自由も大切ですが、この国の未来を考えれば、何よりも若者の再起に配慮することが優先すべきだと考えます。
 また、このような実名報道のおかげで、当事者だけではなく家族が職を奪われたこともございます。暴力団との関係を疑われると上司に暗に圧力をかけられ、退職を余儀なくされてしまいました。この会社は公共事業の入札を行っている会社でした。そのため、このようなことが起こってしまいました。
 また、大麻と覚醒剤の使用と所持で逮捕経験のある俳優の高知東生さんは、SNSで、事件から七年たった今も駐車場すら借りられないとおっしゃっています。こういった、逮捕の後、再起を目指す人たちのフォローが何もないまま、また更に刑罰を増やすことに私どもは大変心配しております。
 このように、困っている御家族まで社会から疎外し、薬物乱用者の再起を阻んでしまう、さらしもののような報道の在り方には問題があり、今回の改正では配慮を求めます。
 長年行われた「ダメ。ゼッタイ。」運動は、薬物が駄目なのではなく、薬物乱用者が駄目という烙印を押してきました。
 依存症者は、社会や他人の厳しさでは変われません。依存症の背景には、もう十分厳しい環境にさらされた経験があります。逆境体験があるんです。政治家の先生方、官僚の皆様、そして学者の先生やお医者様、立派な大学を卒業された皆様が頭で考えた政策だけでなく、社会から取り残された当事者や家族の声を取り入れた改正を望みます。大麻のあり方検討会では、薬物問題を抱えた家族はメンバーにすら入れていただくことができませんでした。メンバーの選定にも恣意的なものを感じています。
 どうか、大麻使用という微罪で、これ以上若者の未来を奪わないでください。問題を抱えた青少年、そして依存症者は、厳しさで変わるのではなく、社会の優しさと希望で変われるのです。
 以上です。(拍手)
    〔三谷委員長代理退席、委員長着席〕

発言情報

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発言者: 田中紀子

speaker_id: 17156

日付: 2023-11-10

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会