川崎政司の発言 (憲法審査会)

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○法制局長(川崎政司君) 参議院法制局長の川崎でございます。どうかよろしくお願いいたします。
 私の方からは、お手元の資料に基づき、参議院の選挙制度と最高裁判決につきまして、今般の令和五年十月十八日判決に焦点を当てつつ、選挙制度と最高裁判決の変遷、最高裁の解釈、考え方などについて御説明させていただきます。
 まず、参議院選挙制度に関する経緯と定数較差に係る主な最高裁判決の動向につきまして確認をしておきたいと思います。
 表紙をめくり、一、二ページを見開きで御覧ください。左が選挙制度、右が最高裁判決の経緯となっております。
 参議院の選挙制度については、定数二百五十人のうち、都道府県を単位とする地方区選挙が百五十人、全国を単位とする全国区選挙が百人という構成でスタートし、地方区選挙では、各選挙区の人口に比例する形で二人から八人の偶数の議員数が配分され、その最大較差は二・六二倍でした。
 参議院の選挙の在り方として当初から議論となっていたのが事実上の職能代表的な色彩を期待した全国区選挙であり、昭和五十七年に拘束名簿式比例代表選挙に改正され、さらに、平成十二年には非拘束名簿式に改正されております。
 他方、高度成長や産業構造の変化に伴う都市部への人口移動により、選挙区間の定数較差が次第に大きくなり、昭和三十年代後半以降、定数較差訴訟が裁判所に提起されるようになります。
 最高裁が投票価値の平等が憲法上の要請であるとの判断を最初に示したのは衆議院選挙に関する昭和五十一年判決であり、参議院選挙については昭和五十八年判決が最初となりますが、同判決では、国会の広い裁量を認め、最大較差五・二六倍を合憲と判断しました。ただ、その後も較差の拡大が続き、平成四年選挙での最大較差六・五九倍につき平成八年判決が違憲状態との判断を示しましたが、較差はそれに先立ち平成六年改正で既に四・八一倍に縮小しており、その後は最高裁の合憲判決が続きました。
 最高裁に変化が現れ始めましたのは平成十六年判決からであり、同判決は較差五・〇六倍を合憲としたものの、多数意見の中には厳しい見方も含まれていたことから、これを契機に、参議院では、超党派の協議機関を設けるなどして選挙制度改革の検討が継続的に行われるようになります。
 その後、平成十八年の四増四減の改正により最大較差は四・八四倍となりますが、最高裁は、次第に投票価値の平等の観点から実質的に厳格な評価を行う姿勢を強め、平成二十四年判決では従来の考え方を実質的に変更し、最大較差五・〇〇倍を違憲状態とし、その直後の平成二十四年改正で較差は四・七五倍とされたものの、平成二十六年も違憲状態判決でした。
 このような流れを受けて行われたのが平成二十七年改正であり、四県二合区を含む十増十減により最大較差は二・九七倍にまで縮小し、平成二十九年判決は、選挙時較差三・〇八倍とともに、これを合憲と判断しました。その後も、平成二十七年改正法の検討条項を踏まえ、選挙制度の見直しの検討が進められ、平成三十年改正では、定数が六増され、選挙区では定数二増により較差が二・九九倍にされるとともに、比例代表選挙では特定枠の制度が設けられ、これに対し、最高裁は令和二年判決で三・〇〇倍の較差を合憲と判断しております。
 参議院では、その後も参議院改革協議会や憲法審査会などで議論が行われましたが、改正のないまま令和四年選挙が最大較差三・〇三倍で実施されました。これに対し、令和五年判決は合憲と判断をしております。
 以上のように、投票価値の平等をめぐる国会と最高裁との間での相互作用とも言える状況は衆議院の小選挙区選挙でも生じてきており、最近では参議院については平成二十四年と二十六年の二回ほど、衆議院については平成二十三年、二十五年、二十七年の三回ほど違憲状態判決が示されたのを受け、最大較差がそれぞれ縮小されてきており、参議院については平成二十九年、令和二年、令和五年の三回、衆議院については平成三十年、令和五年の二回ほど合憲の判断が続いているところでございます。
 次に、最高裁が重視する投票価値の平等の意義、根拠等を三、四ページで確認をしておきますと、投票価値の平等は、近代民主主義国家における選挙原則の一つとされ、憲法にも取り入れられている選挙権平等の原則の歴史的発展とともに導き出されるようになったもので、選挙権の内容の平等として、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力においても平等であることを要求するものであり、その憲法上の根拠について、最高裁は憲法十四条一項を中心に十五条三項、四十四条ただし書などの規定を挙げております。
 もっとも、最高裁は、選挙制度の仕組みの決定において、投票価値の平等は、唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮できる他の政策目的ないし理由との関連で調和的に実現されるべきものであるとする一方、参議院選挙との関係では、投票価値の平等の要請の後退を認める理由は見出し難いとも述べており、これらの判示は令和五年判決でも維持されております。
 いずれにいたしましても、五、六ページの図表を御覧いただきたいと存じますが、さきに述べたような経緯をたどりまして、選挙区の最大較差は最近では三倍程度で推移しております。他方、較差が三倍を超える選挙区は神奈川、宮城、東京の三つに増えてきております。
 次に、七、八ページを御覧いただきたいと存じます。
 合区対象県で投票率の低下傾向、無効投票率の上昇傾向が続き、対象県の投票率が全国最下位となる例なども生じており、これに対し、右のページでございますが、地方六団体では合区解消を求める決議が度々行われております。
 それでは、参議院選挙と投票価値の平等をめぐり、最高裁の考え方はどのように変化してきているのでしょうか。
 この点については、九ページ以降でポイントを簡単にまとめております。
 参議院選挙にも投票価値の平等が要求されるとした昭和五十八年判決は、その一方で、都道府県単位とすることについても一定の理解を示し、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩や後退を免れない、較差の是正にもおのずから限度があるとしていました。
 これに対し、実質的にこの考え方を変更した平成二十四年判決は、従来からの基本的な判断枠組みは維持しつつも、長年にわたる制度と社会の状況の変化を考慮して、参議院選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難いとするとともに、都道府県を参議院の選挙区単位とする憲法上の要請はなく、投票価値の平等との関係からは都道府県単位といった仕組み自体を見直すことが必要としました。その判断の理由として、近年の衆参ねじれ現象の経験なども背景に、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限が与えられており、国政における参議院の役割が大きくなっているとの認識が示されております。
 この平成二十四年判決の考え方はその後も基本的に維持されており、平成二十九年判決では、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することは投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて否定されるものではないと言及しつつも、合区というこれまでにない手法の導入による較差是正を、平成二十四年、二十六年の判決の趣旨に沿ったものであり、また、平成二十七年改正法は更なる較差の是正を指向するものと評価しました。
 続いて、令和二年判決は、較差の更なる是正などの取組が平成三十年改正では大きな進展は見せていないものの、平成二十七年改正法の方向性を維持するよう配慮したものであり、選挙制度の改革の実現は漸進的にならざるを得ない面があるとして、立法府の較差是正を指向する姿勢は失われていないとしました。
 さて、今回の令和五年判決のポイントについては十一、十二ページにまとめております。
 まず、立法府における取組とその状況については、令和二年判決を引用し、今後も不断に人口変動が見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、再び拡大させずに持続していくための必要な方策等について議論し、取組を進めることが引き続き求められているとした上で、本件選挙までの間、各会派の間で一定の議論がされたものの、その実現に向けた具体的な検討が進展しているとも言い難いとの評価を示しております。
 ただ、その一方で、較差の状況については、平成二十七年改正から本件選挙までの約七年間、合区は維持され、選挙区間の最大較差は三倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるとも言えないとしております。
 また、選挙制度の仕組みを見直すに当たっての検討課題として、較差の更なる是正を図る観点から、都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策によって現行の選挙制度の仕組みを更に見直すことも考えられるとしつつ、合区対象となった四県で投票率の低下や無効投票率の上昇が続いていること等を勘案すると、有権者において、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考え方がなお強く、これが選挙に対する関心や投票行動に影響を与えていることがうかがわれると指摘します。そして、このような状況は、選挙の仕組みの見直しに当たり、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題があることを示唆するものであり、加えて、議員定数の見直しなどの方策を取ることにも様々な制約が想定されるとし、そうすると、立法府が較差是正に向けた取組を進めていくには、種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、広く国民の理解も得ていく必要があり、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれると述べております。
 そして、結論として、参議院の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で、較差の拡大の防止等にも配慮して四県二合区を含む本件定数配分規定を維持したという経緯に鑑みれば、較差の更なる是正とその持続のための具体的な方策を講じなかったことを考慮しても、本件選挙時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡が憲法の投票価値の平等の要求に反するものであったとは言えないとしております。
 最後に、最高裁は立法府への要請として、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題であり、立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、社会情勢の変化や課題等も踏まえながら、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められると述べています。
 なお、これに対し少数意見として、理由を異にする合憲の意見が一、違憲状態の意見が二、違憲の反対意見が一、付されております。
 十三と十四ページには、選挙制度に関する最高裁の判断枠組みと参議院の定数較差に関する最高裁の基本的な判断枠組みをまとめております。適宜御参照いただければ幸いでございます。
 駆け足の説明となり恐縮でございますが、私からは以上でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

発言情報

speech_id: 121214183X00120231115_005

発言者: 川崎政司

speaker_id: 5465

日付: 2023-11-15

院: 参議院

会議名: 憲法審査会