松岡俊文の発言 (経済産業委員会)

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○松岡参考人 松岡でございます。よろしくお願いいたします。
 地球温暖化対策といたしまして、今日はCCSの関連の議題でございますが、CO2の排出量を削減する方法として主に三つの方法が知られています。
 一つ目は省エネルギーです。二つ目は再生可能エネルギーの利用拡大、そして三つ目が、化石燃料の使用後に発生するCO2を大気中に放出せずに地下深くに貯留する技術です。この技術はCCSと呼ばれ、大量のCO2を直接的に削減できる有望な方法です。昨年十二月に開催されたCOP28でも、CCSは温暖化対策の選択肢の一つとして取り上げられました。
 このCCS技術は、CO2の大規模排出源においてCO2を回収し、貯留地点まで輸送し、そこで地下約千メートル以上の深い場所に貯留する技術全体を指すものです。この技術が世界的に認識されたのは、二〇〇五年にIPCCからCCSに関する特別報告書が出版されました。この中でCCSの具体的な成果例を示して詳しく解説された、これがきっかけであったというふうに思っています。
 このIPCCの報告書で紹介された代表的な事例が、実は、ノルウェーの石油会社が一九九六年から北海で始めたスライプナー・プロジェクトです。このプロジェクトは、天然ガスの採掘に伴って出てくるCO2を年間約百万トン回収し、地下約千メートルの砂岩層に貯留しています。現在まで、既に約三千万トン近くのCO2が安全に貯留され、事業は順調に継続中でございます。
 CCSを実現するには、CO2の回収、輸送、貯留という三つの段階で様々な技術が必要とされます。
 まず、CO2の回収に関しましては、アミン法と呼ばれる化学的な手法が主流ですが、これに関しては、三菱重工はこの分野で世界トップクラスの技術力を誇り、世界市場の約七〇%を占めています。
 CO2の輸送に関しては、パイプラインと船舶の二つの方法がありますが、アメリカでは既に全長八千キロを超えるCO2パイプラインネットワークが稼働しています。一方、CO2の船舶輸送に関しては、まだ技術開発の段階にありますが、日本ではNEDOの研究プロジェクトが遂行中でございます。
 CO2を地下に貯留する技術は、意外に長い歴史を持っております。一九七〇年代初めから、アメリカの石油会社は、生産が減退した油田に対してCO2を圧入して原油の回収率を高めるというCO2―EORという攻法を実用化してきました。現在では、これはCCUSの技術として広く認識されるようになっています。
 さて、このCCS技術を用いて、IEAは、二〇五〇年時点で年間三十六億トンから七十二億トンの削減を期待しています。これは世界の排出量の一〇%から二〇%に当たる量です。では、この量は現実的に実行可能な量であるかというのが問題になってきます。これに関しては、世界のCCS関係者は、世界が協力すれば十分この量を貯留できるというふうに考えております。
 仮に一か所で百万トンのCO2を圧入すると、三十六億トンの貯留には実は三千六百か所の圧入サイトが必要になります。一方、米国のメキシコ湾では、石油生産のためのプラットフォームは約四千か所あるというふうに言われています。そのため、石油の生産の代わりにCO2を始めれば、単純計算では十分貯留できると言えます。さらに、CCSの実施場所として期待されているノルウェー沖の北海、中東地域、アジア圏では、インドネシア、マレーシア、さらにオーストラリアなど、CCSの有力候補です。このように、IEAの目標値は技術論的に見れば十分達成可能な数字というふうに思われます。
 一方、国内ですけれども、現在約十一億トン程度のCO2が排出されております。経産省は、二〇五〇年時点でCCS量の目標値の目安として一・二億トンから二・四億トンを定めました。このため、国内のCCSの適地と考えられる場所に対して最新の地下探査手法を利用して調査が行われています。その結果、現在までに調査された場所では貯留可能量として約百六十億トンが推定されています。
 また、ここで注意が必要なんですが、この百六十億トンという数字は、日本中をくまなく調査した結果出てきた数字ではありません。まだ調査されていない地域は数多く残っており、今後とも調査が必要であるというふうに思います。その結果、この数字はもっと大きな数字になると考えられます。
 このように、国内においても、二〇五〇年断面で年間一・二億トンから二・四億トンのCCSを実施しようと思えば、貯留可能地域は存在しているというふうに言えると思います。
 次に、CCS事業の形態について一言意見を述べたいと思います。
 CCSの各々の要素技術は長い歴史を持っていますが、これらの技術を統合して、全体として一つの巨大なバリューチェーンをつくり上げるという意味では、今議論されているCCSは新しい技術体系と言ってよいでしょう。
 さらに、注目したいのは、現在、世界のCCSは新しい局面に入ってきたというふうに私は考えております。今までの技術開発のステージから、CCSが一つの新しい産業として成長していく、そういうステージに移りつつあります。世界で七十億トンものCO2を地下に貯留する事業は、自立した新しい産業に育て上げる必要があります。このため、各国は、その枠組みと同時に、産業の育成のために力を尽くしているというのが現状です。
 例えば、国際標準化機構、ISOではCCSに対して国際規格の作成を進めてきており、既に幾つかの規格が発行されています。さらに、欧米各国はCCS事業を進めるための法体系と技術基準などの整備を着々と進めています。我が国においても、今回の法案は、日本におけるCCSの産業化にとっては非常に重要なファーストステップというふうに考えております。
 一方、CCSは、コストが製品価格に反映されないという外部不経済です。これに対して、各国はいろいろな政策を駆使して、CCS産業の育成を進めております。
 有名なのは、アメリカの連邦政府がインフレ抑制法の中で採用している四十五Qと呼ばれる税額控除です。これは大変有名な政策です。この内容は、補助金政策であり、CCSを行うとCO2一トンに対して八十五ドルの税額控除が与えられます。
 一方、ヨーロッパでは、多くの国がカーボンプライシングを導入して、CCSの、排出に規制をかける政策を採用しています。しかしながら、CCSを事業として立ち上げるには初期投資が大きいため、資本調達など問題があり、規制のみではCCS産業は育ちません。
 ノルウェー政府は、石油会社三社、シェルとトタールとエクイノールという石油会社ですが、この三社が立ち上げたノーザンライツJVと呼ばれるCCS事業会社に対して多額の補助金をつけて、事業を立ち上げました。このCCS会社は、排出企業からCO2を受け取り、輸送、貯留を請け負う新しいビジネススタイルです。各国は、CCS産業を育てるため、補助金やカーボンプライシングなどの政策を駆使しているのが現状だと思われます。
 我が国において、今後どのような産業育成の政策が取られるか分かりませんが、世界のCCSの産業化に乗り遅れることは大変よくないことであるというふうに考えております。世界的に見たときに、我が国のポジションですが、日本でも世界に対して十分に競争力を持った企業群が成長し、国内産業として確立され、将来は世界に展開可能だというふうに考えています。
 日本は地質的に油田が少ないため、石油産業は大きな産業ではありません。しかしながら、CCS産業は、簡単に言えば、CO2の排出量が多く、地質学的には貯留適地となる堆積盆が存在し、技術力があれば事業を進められる事業形態です。
 先ほども言いましたが、三菱重工に代表されるように、エンジニアリング部門では世界に高い評価を受けています。また、輸送に使われるCO2特殊船などの造船技術力も高く、石油産業の技術者もそれなりに有しておりまして、貯留事業を十分できるというふうに考えています。
 我が国の石油産業が世界に比べて小さいからCCS産業は国内では育たないと考えるのは、大きな間違いであろうと思っております。CCS産業の育成で重要なのは、多種多様で大量のCO2の排出国であること、さらに技術力と巨大なバリューチェーンをまとめるアグリゲーターの存在であると思われます。特にアグリゲーター役としては、日本独特の業態である総合商社が持っているノウハウと新規産業をつくり上げる発想力は大変貴重であるというふうに感じています。
 以上のような背景の下で、我が国においてもCCSの技術開発を目的に実証試験が二か所で行われました。新潟県長岡市の岩野原で一万トンの貯留が行われ、北海道苫小牧市において三十万トンの実証試験が行われました。その結果、多くの科学的な知見が得られております。これらの中で特筆する必要があると思われるのは、リスク管理に関する知見です。
 CCSは今まで経験のない事業であるため、リスクに対する議論が必要になります。この問題を考えるには、まず地下の貯留層の状態をできるだけ正確に把握する必要があります。このため、石油業界で広く使われている三次元反射地震探査と呼ばれる手法を適用します。この手法を用いて、地下数千メートルまでの地下構造の可視化が可能になります。
 まず、この方法で、貯留層に適した地下構造を見つけると同時に、断層の場所も特定します。断層は貯留したCO2の漏えいの経路になるリスクがあると考えられるため、貯留サイトを選ぶときには慎重に進める必要があります。ただし、油田の場合には、貯留層に断層が存在する油田は数多く存在しており、断層の存在が直接的にCO2の漏えいのパスになるとは簡単には言い切れません。
 次に、取得された情報を基に地下の地質モデルを作ります。このモデルを使って、圧入したCO2が将来どのように移動するかのシミュレーションができます。圧入開始から数十年、さらに圧入が終わってから数百年後までの状況を予測し、最も安全で安心できる場所を貯留サイトとして選びます。
 さらに、CCS事業で特徴的なことは、貯留層サイトで常時モニタリングが実施されていることです。これは、地下にあるCO2の場所を把握して、管理しているということです。万一シミュレーション予測と観測されたCO2の分布が一致しないときは、地質モデルの修正が行われ、修正されたモデルを基に次の予測が行われます。このように、CO2は、圧入する前、圧入中、圧入後においても、次はどこに地下で移動するか、事前に把握され、管理されているというふうに言うことができます。
 また、圧入されたCO2の広がりは、実は思ったほど広くありません。苫小牧のときは、三十万トンですが、その広がりは一キロ程度です。また、スライプナー・プロジェクトでは、千二百万トン圧入した時点でのCO2の広がりは、一キロ掛ける三キロ程度でした。
 これらの苫小牧での実証試験の知見は、貯留層サイトの選択に重要な情報となっています。つまり、圧入後のCO2の広がりをきちんと予測できるということは、断層がCO2の漏えいのリスクの要因と考えられるのであれば、どの程度距離を離せばよいかといった情報を提供してくれるからです。
 一方、北海道苫小牧でのCO2実証試験において、胆振東部地震が起きた際にCO2圧入との関連性が指摘されるという出来事がありました。後ほど説明があるかもしれませんが、これを受けて、地震学者を含む専門家による詳しい調査が行われた結果、CO2の圧入によって貯留層の圧力は増加します、しかし、この地震が起きた震央での影響は、地球潮汐による圧力変化のざっと千分の一程度であるという結論が出されました。これは、胆振東部地震はCO2の貯留が誘発した地震ではないという結論です。このように、地震はCCS事業にとってしっかりと取り組むべき課題であります。
 最終的には、この地震はCCS事業に関して重要な知見を提供してくれています。CCSに関するISOの規定においても、貯留場所の選定において、地下の力学的な性状と断層に関する影響は十分注意するように記載されております。
 このように、事業を進める上で考えられるリスクに対して、常時モニタリングを通してリスクを正しくマネジメントするという基本姿勢の下で、我が国においても世界に誇れる技術革新が進んでいるというふうに考えています。
 最後に、これもCCSに特有な作業として、社会的受容性と呼ばれる問題があります。
 CCSの事業の実施には、三つのライセンス、許可を取る必要があるというふうに言われる場合があります。それは、最初は政策的許可、これは、開始予定の事業は政府が進めている政策に合致しているかどうか。次に法規制の許可、これは、CCS事業に対する各種の法律を正しく守って実施されているかどうか。さらに、三番目に社会からの許可、これは、事業を進める上で、関連する全てのステークホルダー、特にサイト周辺の住民からの賛成が得られているかどうかということです。特に最後の、サイト周辺の住民の賛成が得られないと、CCS事業を着手することは困難です。
 苫小牧の実証試験は、都市部近くでCCSが実証された世界でも大変珍しい例で、住民への情報公開の在り方など、多くの教訓を残しました。これは、貯留事業の担い手となる我が国の石油、天然ガス鉱業には地元の理解を得ながら進めるという文化が根づいているためというふうにも考えられます。
 現在、日本でもCCS事業に関する法整備が始まっていますが、CCSが温暖化対策の切り札となり、将来の有望産業に成長していくために、技術的な課題の克服とともに、社会の信頼を得ながら一歩一歩進めていくことが肝要であるというふうに考えます。日本が着実にCCS技術を育て、地球環境の解決と経済発展の両立に貢献できる日が訪れることを期待しております。
 最後に、一つだけコメントさせてもらえるならば、将来のCCS産業の育成には、新しい観点からの人材教育が必要というふうに思われます。政府としても力を注いでいただければありがたいと願っております。
 以上で、私からの説明を終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 松岡俊文

speaker_id: 3892

日付: 2024-03-27

院: 衆議院

会議名: 経済産業委員会