井上聡の発言 (財務金融委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○井上参考人 おはようございます。
 国会の敷地内に入るのは、中学生のときの修学旅行以来でございまして、大変緊張しております。いろいろとお作法も分かりませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。早速、現在法案が提出されております企業価値担保について、私の意見を申し述べます。
 まず、現状の課題についてです。
 資料の三ページを御覧ください。
 資金を借りようとする成長企業から見ますと、業容の拡大中は売上げよりも先に支出が増加しますので、資金需要は大きいと言えます。しかし、安定した換価価値を見込める不動産を持っていない場合には、資金需要に見合った融資を受けられないという課題があります。
 これに対して、成長企業に貸そうとする金融機関側からしますと、成長企業は業容拡大中でありますので、将来の収益性には期待できると言えます。しかし、事業の将来キャッシュフローを見込んで無担保で貸すにはリスクが大きいと感じるところです。
 次に、四ページは、成長企業と違って、成熟した企業についてです。
 日本にはオーナー経営者が高齢化した中小企業がたくさんありますが、そうした企業からしますと、成熟企業ですので事業収益は安定しています。しかし、家族が誰も経営を継がないような場合、従業員出身の役員、番頭さん役ですね、に新経営者になってもらいたいというわけです。しかし、オーナーでない役員に経営者保証を入れてもらうのは難しいものですから、何とかして、経営者保証なしで融資を継続してほしいという事情があります。
 これに対して、成熟した中小企業に貸している金融機関側からしますと、事業収益が安定しているとしても、オーナー経営者から非オーナーへの経営の引継ぎというのはビッグイベントになります。貸し手としては、そのようなビッグイベントに当たって、新たな担保を取らず、経営者保証も外して融資を継続するということには不安が残るということになります。
 次、五ページですが、これは中小企業融資とは異なって、比較的大規模なプロジェクトファイナンス、あるいはLBOファイナンスの調達側からの課題です。
 この手の大規模ファイナンスは、現在においても、個別資産の担保を積み上げて、ほぼ全資産を担保として行われております。ただ、個別資産担保の積み上げ方式による全資産担保というのは、一つ一つ契約を締結して対抗要件を備える必要があって、手間と費用がかかり、その負担の多くは債務者に帰せられるという問題があります。
 他方で、プロジェクトファイナンス、LBOファイナンスの金融機関側からしますと、この分野では、実務上、担保を実行する事態にはまずならないと言えますが、万が一のときに実行できるからこそ、交渉力を確保できるという面があります。しかし、通常、個別資産価値の総和よりも、事業価値、のれんなどを含む事業価値の方が大きい、生きている企業であれば普通はそうですので、個別資産担保をばらばらに実行しても、事業価値全体を実現できるかには疑問があり、その結果、万一、債務者に法的倒産手続が始まるというようなことになってしまうと、期待どおりの担保価値評価を受けられないおそれがあるという問題があります。
 こういった問題、課題に関して、六ページにありますように、比較的古くから、事業価値に着目した担保制度については検討されてきました。早いところでは、二〇〇〇年代初頭に金融法学会とか経産省の研究会などで検討がなされて、ここにあるように、成果が公表されております。
 ただ、その後、債権法改正という大きなイベントがあって、そちらにややシフトしたところもあって、やや検討がスローダウンしましたが、その後、二〇一八、一九年くらいからまた再び活発に議論がなされるようになり、ここにありますように、3以下、中小企業庁、金融庁、法制審、金融審といったところで事業価値に着目した担保制度の検討がなされておりまして、こういった形で検討結果が公表されています。
 私は、この4から7のそれぞれの委員あるいはメンバーとして議論に参加してまいりました。この最後に書いてある金融審議会、あるいはその上に書いてある法制審議会などの検討結果を受けて、今回法案として提出されたのが企業価値担保だと理解しております。
 それでは、その企業価値担保の利用価値ないし意義について、四点申し上げたいと思います。
 八ページにありますように、まず、何を担保に取っているのかということでございますが、これは総財産、それも将来取得する財産も含むということで、非常に包括的な担保ということになります。
 その一方で、債務者に広い処分権限が認められていますので、通常の事業過程で処分されたり消費されたりしたものがどんどん担保から外れていくということが認められています。
 それに加えて、この法案では、事業全体をまとめて換価処分するというような実行手続が整備されています。
 この三つの結果、担保権者というのは、全財産といっても事業活動の中で次々と入れ替わっていくものをつかまえているということであって、そうすると、個別資産価値の総和ではなくて、先ほど申し上げたように、それよりも大きな、のれんを含む企業価値を把握するというような設計になっているということです。
 したがって、この企業価値を守るということが担保権者の利益になるということになりますが、それとともに、企業価値を守ることが債務者の事業の継続にも役に立ち、労働者の雇用の維持にも資することになり、取引債権者の、取引相手を守るということにもなるわけでございまして、ここにこの担保の眼目があると理解しております。すなわち、利害関係人の間でウィン・ウィンの関係をつくるということになろうかと思います。
 二つ目。この担保は、担保権者に包括的な優先権を与えるというものでございます。ただ、それには二つの大きな穴が空いております。
 一つ目、企業価値担保の実行が開始されても、共益費用ですとか労働債権、こういったものは順次支払われていくことになります。また、裁判所の許可を得て商取引債権が取引相手に支払われるということになります。なぜ、担保権者を差しおいて、これらの無担保債権の方々に支払いがなされるのか。それは、その支払いによって企業価値が維持されるからということになっております。すなわち、この一つ目の穴というのが、先ほど申し上げたウィン・ウィンの関係をつくるために非常に重要な穴でございまして、包括的な担保に大きな一つの穴を空けているということになります。
 二つ目、企業価値担保の実行による事業譲渡代金のうち、全額が貸し手に行くのではなくて、一定額が債務者の清算手続又は破産手続を通じて残存する無担保債権者に支払われるという仕組みが導入されています。この二つ目の穴は、ただ、一旦事業譲渡をして、労働者の方も含めて譲渡先に移転してしまったときの代金、いわば空っぽになった債務者が受け取った代金をどう分けるかという話ですので、これは企業価値を向上させるというよりは、取り合い、すなわち担保権者と無担保債権者の間の取り合いの問題になります。ゼロサムの穴ということになります。
 ですので、私は個人的には、この穴を大きくし過ぎると、担保権の価値が失われ、貸せる金額が減ってしまうという問題があるので、私自身は、利害関係者の利害調整のためには、一つ目の穴に注目するのが大事であって、二つ目の穴を大きくしないことがむしろ重要ではないかと考えております。
 三つ目。九ページになります。対抗要件の具備については、債務者の商業登記簿への登記だけで足りるという非常に簡便かつ廉価な制度が想定されておりまして、不動産登記や特許登録などは要らないということになっています。
 ただ、私個人の意見としては、債務者が所有する不動産の不動産登記簿や債務者が保有する特許の特許登録原簿などを閲覧した人にもそれが企業価値担保を設定してある会社だということが分かるように、その権利者欄に債務者が企業価値担保設定済み会社であるよということを示すような、何か、アスタリスクとか米印とか、そういったフラッグを立てるような制度を、商業登記に連動させて自動的に付せられないかというふうに考えております。これは今回法案の中には入っておりませんし、私が考えていることではありますが、今後の課題として是非御検討いただければと思います。
 四つ目。債務者の経営権の確保。
 包括的な担保ではありますけれども、担保設定後も債務者の通常の事業運営には制約がないということになっておりまして、その点では、事業の経営の自由が通常の事業の範囲であれば確保されているということです。二つ目、経営者保証が原則禁止されるということで、首根っこを押さえられるということを回避できるような仕組みが導入されています。また、企業価値担保を設定したのに思ったほどお金を貸してくれないというような貸主との関係がある場合には、債務者に極度額設定請求権あるいは元本確定請求権というのが与えられておりまして、ほかの金融機関と交渉して後順位担保を設定してお金を借りる、あるいは、お金を借りて今の貸主にお金を返し、リファイナンスをして貸主を変えるというようなことができる仕組みを導入しているということになります。
 以上を踏まえまして、最後に、企業価値担保について、よくある疑問として、幾つか申し述べたいと思います。
 十一ページになりますが、一つ目。包括的な担保によって労働者の権利が害されるのではないかという点については、もう申し上げましたが、雇用契約上の雇用主の地位も担保の対象になる方が、労働者が事業から切り離されずに済むために、雇用がむしろ守られやすいのではないかと考えています。
 二つ目。担保権者が債務者企業の価値を根こそぎ把握してしまい、労働者、取引相手その他の一般債権者の利益が害されるのではないかという点については、申し上げたとおり、全資産が対象となっていても、優先性に穴を空ければよいのではないか。まさに二つの穴が空いているわけですが、先ほど申し上げたように、一つ目の穴が重要だと思います。
 三つ目。広範かつ強大な担保であって、担保権者が債務者に対して圧倒的な地位に立つことによって債務者の経営権が害されるのではないかという点については、確かに広範です、しかし、だから強大だとは限らない。すなわち、申し上げたとおり、債務者には通常の事業運営権限がそのまま残りますし、元本確定請求権あるいは極度額設定請求権といった対抗手段もあり、経営者保証が原則禁止されて、首根っこを押さえられにくい仕組みになっているということがございます。
 四つ目。これで本当にニューマネーが出るのか、添え担保にとどまってしまうのではないかという疑念については、これは取引銀行がニューマネーを出してくれなければ、これも申し上げましたように、他の貸し手に乗り換えるための対抗手段があるかどうかということがポイントになりますし、あとは、担保制度の外の問題ではございますけれども、金融機関同士できちんと公正な、適正な競争環境があるかどうかというのが非常に重要ではないかと考えております。
 次、十二ページを御覧ください。
 五つ目になりますが、不動産と異なって企業価値の評価は難しいので、なかなか使い勝手が悪いのではないかという疑問については、これは確かに、不動産に比べれば企業評価は難しいと思います。しかし、今問題にしているのは、不動産を持っていて、担保に入れられてお金をじゃんじゃん借りられる企業ではなくて、そういうものを持っていない成長企業、あるいは成熟企業、あるいはプロジェクトファイナンスなどで、どうお金を貸していくかということになりますので、そういうところとの関係でいえば、無担保融資と比べてそんなに難しい話ではないのではないか、MアンドAのときの企業評価と共通するのではないかというふうにも思います。
 六つ目。債務者破綻時には、その企業価値が失われて担保として機能しないのではないかという疑問、これについては、破綻時の債務者というのは、企業価値がゼロになったということではなくて、百残っているけれども借入金が百五十あるというような状態だと考えております。だとすれば、借入金を切り離して、この百の価値のある事業を生かしたまま百で売却して、その百を百五十の債権者で按分するのではなくて、担保権者が優先的にそこを取れるということであれば、やはりなお担保として機能する、意味がある担保になるのではないかと思います。
 最後、七つ目。企業価値担保の実行管財人は担保権者の利益のみを考慮するのではないかという点については、実行管財人は、法文上、全ての利害関係人に対し善管注意義務を負うということになっておりまして、実際にも、恐らく、私の想像では、現在、倒産実務を担っている弁護士などが管財人として実行を担うんだろうと思いますので、むしろ、債権者あるいは担保権者の思うとおりにはならない、適正な実行が裁判所の管理の下に行われる可能性がむしろ一般の担保と比べれば大きいのではないかというふうに考えております。
 私の意見は以上です。
 御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 121304376X02120240514_002

発言者: 井上聡

speaker_id: 3953

日付: 2024-05-14

院: 衆議院

会議名: 財務金融委員会