北村喜宣の発言 (環境委員会)

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○参考人(北村喜宣君) 上智大学法学部で環境法の研究教育をしております北村喜宣です。
 本法案の作成には全く関与はしてございませんけれども、環境法政策の観点から、八項目に関しまして所見を申し述べます。お手元の資料を御参照ください。
 まず一番目は、温室効果ガスの排出削減のための事業的措置の実現です。
 この法案の名称には、資源循環の促進とあります。資源循環、循環資源という文言を目的の位置付けとの関係で規定します法律といたしましては、そのほかにも、循環型社会形成推進基本法、プラスチック資源循環促進法、食品リサイクル法があります。本法案がこれらと決定的に異なるのは、温室効果ガスの排出の量の削減の効果が高い資源循環と第一条の目的に書かれておりますように、何のための法律なのかが明確になっていることです。気候危機に対応するための極めて実践的な法律と評価できます。
 従来、温室効果ガスの排出量削減に関しましては、東京都環境確保条例の下での温室効果ガス排出量削減措置のような先駆的な実体規制がありました。命令や刑罰までが規定されています。一方、国レベルでは手続規制が基本でした。すなわち、どこかに到達することというゴールの規制ではなく、何かをすることというプロセスの規制です。数次の改正を経験していますが、地球温暖化対策法は今なお手続規制です。
 本法案は、強制的に削減を義務付けるものではありません。再資源化のための廃棄物の収集、運搬及び処分の事業に注目し、そこで用いられる技術や設備の高度化の促進により廃棄物起因の温室効果ガス削減を企図するものです。二条二項にある再資源化の実施に伴う温室効果ガスの排出の量の削減の効果が増大することという部分には、パラダイム転換というのは大げさでありましょうが、従来の発想との違いを感じました。
 なお、この作業は行政が直営で実施するわけではありません。廃棄物の高度化、廃棄物の高度再資源化事業をする民間処理業者に温室効果ガス削減という国家的な観点から公共的ミッションを負ってもらうという戦略のようにも見えます。環境保護政策の立場から見ても極めて新しいアプローチであります。
 再資源化という文言については、個別リサイクル法がそれぞれの目的との関係で定義をしております。本法案はそれを総括する形で定義をした点でも注目されます。本来は循環基本法で定義されるべき内容でしょう。
 二番目は、土俵際に近づきつつある中でのできることの実現です。
 廃棄物処理起因の温室効果ガス排出は全体の二・八%です。僅かといえば僅かでありますが、感じますのは、温対法の二〇二一年改正により新たに規定された二条の二に盛り込まれた二〇五〇年までの脱炭素社会の実現という、この国始まって以来の最大の難事に廃棄物処理の分野から何とか寄与したいという悲壮なまでの強い意思です。
 温対法の下で作成されている地球温暖化対策計画は、二〇三〇年までに二〇一三年比で四六%の削減という目標を定めています。あと六年です。私たちはまさに土俵際に近づきつつあると言えるでしょう。
 この法案を拝見して、私自身は廃棄物の分野が先陣を切ったと感じました。この法案の問題意識がほかの産業分野にも伝播し、それぞれの分野において将来世代に持続可能な社会を引き渡すための踏み込んだ取組が法制化されることを期待するばかりです。
 三番目は、従来の法制度の踏襲とその効果です。
 この法案を見たときに環境法学者であればすぐ気が付くのは、情報に関しては温対法の温室効果ガス算定排出量報告制度、後述の特区的措置についてはプラ資源循環促進法の関係制度、そして高度再資源化事業施設については廃棄物処理法の生活環境影響調査制度を参考にした制度設計になっているという点です。
 ほかの法律の制度を移植したからといって、同様の効果を発揮するかどうかは不確実です。委員会審議の際には、これらの法律によるそれぞれの制度の効果を、環境省がどのようなエビデンスを基にしてどのように評価し、それらがどのような意味で本法案の目的実現にも資すると考えたのかについての議論がされることを期待しております。
 四番目は、伝統的な廃棄物処理規制に特区的制度を創設をしたことです。
 日本の廃棄物・リサイクル法制における根幹的な法律は何でしょうか。体系上は循環基本法でありますけれども、実務的には廃棄物処理法です。一九七〇年に制定された最古参のこの法律が、表現は不適切かもしれませんが、牢名主のようになっており、その後の個別法に対して陰に陽に影響を与えております。
 この法案に関しても同様の指摘ができます。高度技術を用いた再資源化事業について言えば、環境大臣が認定をすれば、業にせよ施設にせよ、本来は必要な自治体の長の許可が不要になります。その限りでは、一種の特区的措置が規定されています。廃棄物処理法の特例という見出しの十三条、十八条がそれであります。高度再資源化事業計画に定められる産業廃棄物処理施設を新設する場合には、都道府県知事ではなく、環境大臣の許可となります。
 対象となるものを一旦は廃棄物にしておいて、そこから抜き出すというような構成にしなければならないのかどうか、高度化技術によって再資源化が確実にできるならば、対象物は廃棄物というよりも原料です。
 聞きかじりで恐縮ですが、EUでは、副産物や不要物をまずは循環資源と捉えて再生利用を追求し、どうしようもないものを最終的に廃棄物とするようです。こうした発想によれば、さきに見た循環基本法の廃棄物等という用語も、循環資源等として再構成をする、そして等に廃棄物が含まれるというように逆転させて、個別法の制度設計をするべきではないかと考えます。
 五番目は、廃棄物処理業者の全体的底上げでなく、トップ層押し上げです。
 産業廃棄物処理業界には、自分たちに対する育成措置が十分ではないという不満が根強くあるように感じています。確かに、業界の全体底上げは適正な廃棄物にとっては重要です。しかし、産業廃棄物については何よりも排出業者に処理責任がある以上、適正処理が実現されるよう、その責任で業界の底上げをするべきです。中央政府がそのサポートを正面からするのは難しい面がありました。
 この点で、本法案による産業廃棄物処理業者のサポートは異なります。全体における寄与度は少ないかもしれませんが、何といっても国策である温室効果ガス削減のための措置です。設備投資への支援や、それを促進する税制優遇措置が講じられるようです。先駆的な取組へのインセンティブであり、トップランナーの質を更に押し上げるような仕掛けです。
 廃棄物処理業界全体から見れば、異次元の業者が出現することになりそうです。従来、産業廃棄物中間処理業者は、処理を幾ら受託しても、処理基準に従って適正処理をしている限り、それを理由に特段の規制を受けることはありませんでした。
 本法案に特徴的なのは、特定産業廃棄物処理業者というカテゴリーを設けて規制を掛けたことです。温対法の特定排出者に対する規制及びプラ資源循環促進法の特定プラスチック使用製品多量提供事業者に対する規制が合体され、流用されています。なかなか巧みな制度設計だと感じました。行政が基準を設けてその遵守を義務付けるという古典的アプローチではなく、大きな環境負荷を発生させる中間処理業者に対して判断の基準となるべき事項を提示し、差し当たりは自主的対応を求める、不十分な場合には最終的には命令、刑罰まで用意されています。
 一方、事業状況の報告を義務付け、その状況は公表されるのです。ESGファイナンスの中で非財務情報の開示が求められる中、特定産業廃棄物処分業者はもとより、そこに処理を委託している排出業者にとってこの情報開示の持つ意味は少なくないと思います。
 納得した活動ができるよう、判断の基準となるべき事項を定めるに当たっては処理業者の意見を丁寧に聴取する必要があります。
 六番目は、自治体の事務は増えないのかです。
 衆議院環境委員会において、本法案の実施に当たって都道府県なり市町村の事務は増えないのかという質疑がありました。自治体には新たな事務や負担を義務付けるものではないと答弁されました。
 既存の業者が認定高度再資源化事業者となる場合には、確かに従来からのお付き合いの延長線上にあるから、かもしれませんから、そのような整理も可能でありましょう。しかし、本法案の下での措置があるからこそ、単なる一般廃棄物処理業者や産業廃棄物処理業者でない対象に対する規制の実施をしなければならなくなるのでありますから、その分については明らかに新たな事務や負担が義務付けられます。何かあればサポートするとか、法案立案段階から情報提供してきたと言っていますが、それは議論のすり替えであります。そういう問題ではございません。
 あり得る整理は、確かに新たな事務や負担は発生するけれども、それは地方自治法二百六十三条の三第五項の適用を必要とするほどの重さではないというものでしょう。しかし、そうした解釈の手掛かりとなる規定は設けられておりません。
 高度再資源化事業計画に定められる産業廃棄物処理施設を新設する場合はどうでしょうか。確かに、設置許可については環境大臣が担当いたします。しかし、許可後の操業における規制には責任を持ちません。何といっても高度化、再資源化ですから、従来の施設に関する処理基準、施設基準とは相当異なるでしょう。
 従来から施設を持つ産業廃棄物処理業者が高度再資源化施設の許可を取る場合、全てを環境大臣の権限とすれば、知事と権限とのダブルトラックになりますから、制度設計上適切ではないのかもしれません。しかし、当該施設に関する事務は、確実に純増の事務です。
 七番目は、廃棄物処理施設設置に当たっての都道府県の独自規制の回避であります。
 高度再資源化事業計画に定められる廃棄物処理施設設置に当たっては、都道府県知事は許可権限を持ちません。現在、独立条例なり法律実施条例なりを制定し、施設設置に関して独自の規制をしている自治体がありますが、その対象から外れる結果になります。結果的にそうなっただけであり、知事飛ばしを狙ったわけではない、環境省はきっとそう答弁するでしょう。自治体へのインパクトはそれなりにありそうです。
 この法案それ自体が二〇五〇年カーボンニュートラルに向けての廃棄物処理事業の貢献という一種の国策的施策を定めています。したがって、国と自治体の適切な役割分担関係の観点からしても、国が責任を持って進めるということそれ自体は適切です。しかし、自治体内部に整備される以上、地域環境へのインパクトはあります。
 そこで、この施設を新たに条例の対象として捉え、環境大臣への許可申請に先立ち、事業者に対して関係住民への説明会の開催を義務付けるとか、意見書、見解書のやり取りを義務付けてその状況を報告させるというような措置を規定することは適法なのか、違法なのか。憲法九十四条は、法律の範囲内において条令が制定できると規定しますが、その下での環境省の解釈をこの委員会で確認なさるのもよろしかろうと思います。
 最後の八番目は、再生資源化の実現、実施の把握と情報提供です。
 本法案の目的の一つは、効率的な再資源化の実施です。ここで重要なのは、再資源化が最終目的ではないということです。再資源化は、廃棄物の全部又は一部を部品又は原材料、その他の製品の一部として利用することができる状態にすることですが、そうされたものが実際にどのように流通、利用されているのかが重要です。すなわち、中間処理施設での処理内容や再資源化されたものの生産量をどのようにして把握するかです。利用実態も重要です。対象となるものが産業廃棄物の場合、現行廃棄物処理法の下では排出者にマニフェストの利用が義務付けられております。現在はそこまでの把握はされていない状況にあります。電子マニフェストが前提になりますが、このデータを得られるような制度改正が適切です。再資源化実施状況報告制度はありますが、特定産業廃棄物処分業者に限定されますし、即時的でもございません。
 以上で陳述を終わります。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 北村喜宣

speaker_id: 8274

日付: 2024-05-07

院: 参議院

会議名: 環境委員会