川崎政司の発言 (憲法審査会)
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○法制局長(川崎政司君) 参議院法制局長の川崎でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私の方からは、お手元の資料に基づき、大規模災害等の緊急事態と緊急集会に関しまして、参議院緊急集会の趣旨、位置付け等について改めて確認した上で、緊急事態法制とそこでの緊急集会も含めた国会の関与、さらに大規模災害が発生した場合における災害対策基本法による災害緊急事態への対応の流れと緊急政令に関し参議院の緊急集会が開催される場合の流れを説明し、あわせて緊急集会に関する諸論点等にも言及させていただきます。
まず、参議院の緊急集会制度の趣旨、位置付け等につきまして確認させていただきたいと思います。
表紙をめくり、一ページを御覧ください。
憲法五十四条二項及び三項に規定されている参議院の緊急集会は、衆議院が解散され、衆議院総選挙後の特別会召集までの国会機能の停止期間中に緊急の案件が生じた場合において、これに国会の権能を代行させるため設けられたものです。その措置は臨時のものであり、次の国会で十日以内の衆議院の同意を要する暫定的なものとされております。
この点、旧帝国憲法には行政府による緊急勅令や緊急財政処分などの制度が設けられていましたが、現行憲法にはそのような規定はありません。
これに関連しまして、制憲時の帝国議会の審議において、政府は、民主政治を徹底させる見地から緊急措置に関する規定は憲法の中には多くは設けなかった、国会がいつでも開き得る態勢を備えていなければならないが、衆議院の解散後の七十日というのは開こうにも開けない状況になり、国会制度の趣旨を徹底して実行するための方法として参議院の緊急集会の制度を考えた、国民の代表である参議院の緊急集会という方法をもって予測すべからざる緊急の事態に対して暫定の措置をとり得る方途を規定したなどと説明しております。
二ページに参りますが、これまでに緊急集会が行われたのは昭和二十年代の二例であり、このうち、昭和二十七年八月の緊急集会は、衆議院総選挙と同時に行われる最高裁判所裁判官の国民審査の執行に必要な中央選挙管理会の委員の指名をしないまま衆議院が解散されたことから、中央選挙管理会委員とその予備員の指名のため行われたものです。また、昭和二十八年三月の緊急集会は、衆議院の解散により昭和二十八年度予算の年度内不成立が確実になったことから、暫定予算や法案の処理を行うため行われたものです。
二例とも衆議院の同意がなされておりますが、いずれも政治上の事情から予期せぬ衆議院の解散が行われたことによるものであり、緊急事態時のものではありません。
次に、三から四ページで緊急事態法制と緊急集会の位置付けなどについて見ておきたいと思います。
緊急事態の対応については、制憲時に政府から、行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくし、特殊の必要が起これば臨時国会を召集してこれに応ずる処置をする、衆議院解散中は参議院の緊急集会により暫定の処置をする、同時に他の一面において、実際の特殊な場合に応ずる具体的な必要な規定は、平素から濫用のおそれのなき姿において準備するように法律の規定を完備しておくことが適当である旨の考え方が示されております。
そして、実際に自然災害、感染症、武力攻撃、内乱、テロなどの緊急事態について、順次法律が整備され、これらに対処するため特別な権限や措置が規定されており、これに対し、国民の権利自由の制約となることなどから、あるいは国会による民主的統制を及ぼすため、参議院の緊急集会も含む国会の措置・承認、国会への報告など、国会の関与が規定されています。
これらのうち、四ページとなりますが、自然災害等への対応については、災害対策基本法が制定され、災害応急対策、災害復旧、災害緊急事態の布告・緊急政令等が規定されているほか、これを補うものとして、原子力災害特別措置法、災害救助法なども制定されています。
また、感染症への対応としては、感染症予防法、新型インフルエンザ等対策特別措置法、検疫法などが制定され、新型インフルエンザ等対策特別措置法では、新型インフルエンザ等緊急事態措置として緊急事態宣言、まん延防止措置、医療等提供確保措置、緊急政令等の国民生活・国民経済安定措置などが規定されております。
さらに、武力攻撃等への対応としては、武力攻撃事態等と存立危機事態への対処については事態対処法、武力攻撃の排除等については自衛隊法、武力攻撃により生ずる災害への対処については国民保護法、重要影響事態については重要影響事態安全確保法が規定しているほか、内乱・テロへの対応については警察法、自衛隊法、事態対処法、国民保護法などに規定が設けられています。
それらの中では、国会の事前又は事後の承認、国会への報告などが規定されているものが少なくなく、該当するものには青い星印、その中で緊急集会が規定されているものには赤い星印を付しており、緊急集会について規定する関係条文の概要については三ページの下段に挙げているところです。
そこで、これらを踏まえまして、五から六ページにおいて、大規模災害の発生した場合における災害対策基本法による対応と参議院の緊急集会について目を向けてみたいと思います。
まず五ページで、大規模災害が発生した場合に想定され得る災害対策基本法の災害緊急事態における対応の流れについて確認をしておきたいと思います。
非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、災害応急対策を推進し、国の経済の秩序を維持するなど、特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は閣議にかけて災害緊急事態の布告を発することができます。この布告を発したときは、緊急災害対策本部が設置され、対処基本方針が定められるとともに、消防法、医療法、墓地埋葬法などの特例の規定が適用されることになります。なお、災害緊急事態の布告に関しては、二十日以内に国会の承認が必要となり、国会閉会中又は衆議院解散中においては、その後召集される国会での承認を求めなければならないものとされています。
さらに、この災害緊急事態の布告下においては、国の経済秩序の維持及び公共の福祉の確保のため緊急の必要がある場合などにおいて、国会閉会中又は衆議院解散中、かつ、臨時会又は参議院の緊急集会のいとまがないときは、内閣は、物資の配給、譲渡の制限等、物価等の統制、金融モラトリアム、海外支援の受入れについて罰則を含み得る必要な措置を講じるため、緊急政令を制定することができます。
緊急政令を制定したときは、内閣は直ちに臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求め、措置をなお継続する場合には緊急政令に代わる法律の制定の措置を、緊急政令の廃止などその他の場合には緊急政令の承認を求めなければならないものとされています。
そして、それらの措置が講じられたり、緊急政令が廃止されたりすることなく、臨時会の開会から二十日の期間の経過ないしは緊急集会の開会から十日の期間の経過、あるいは臨時会の会期の終了ないし緊急集会の終了のいずれの早いときに緊急政令は失効することになります。
さて、これを前提に、六ページで、災害緊急事態において緊急政令が制定された場合の参議院の緊急集会の流れとともに、緊急集会をめぐる主な論点についても見ていきたいと思います。
この場合に、内閣によって緊急集会が求められるのは衆議院の解散中に緊急政令が制定された場合ということになりますが、そのほかに、衆議院議員の任期満了後に総選挙が行われることにより衆議院が不存在の場合に参議院の緊急集会を開くことは可能かということも論点となってきます。
この論点一については、衆議院議員の不存在という点において解散の場合と何ら径庭も認められない、任期満了後の衆議院の不存在の場合にも何らかの形で適用可能などとする肯定的な立場と、明文上認められないとする否定的な立場に分かれておりますが、最近の両院の憲法審査会での参考人の意見や議論を踏まえますと、可能とする立場が有力となりつつあるようにも見受けられます。
なお、それぞれの論点ごとの議論や学説の状況については七から十ページに示しております。それぞれの論点ごとに掲載箇所を示しておりますので適宜御参照くださいませ。
また、衆議院の解散中に緊急政令が制定された場合は緊急集会の求めは義務的となりますが、そもそも緊急集会の要件とされる国に緊急の必要があるときとしてどのような場合があるかということも問題となります。この点については関連論点として示しておりますが、この関連論点については、災害緊急事態等の緊急事態において衆議院解散中に国会の権能に属する案件などが生じた場合がこれに該当するほか、国に緊急の必要があるときについては、緊急事態の場合に限られず、憲法及び法律を施行する上で特別会の召集を待たずに措置しなければならない緊急の必要がある場合も含まれると解されているところです。
そこで、緊急政令が制定された後の参議院の緊急集会の流れを六ページで見てまいりますと、緊急集会を求める主体は内閣に限られており、内閣総理大臣から集会の期日を定め、案件を示して参議院議長に請求すべきものとされています。請求があった場合には、参議院議長から各参議院議員に通知がなされ、議員は指定された期日の午前十時に参議院に集会します。その本会議では、議長からの報告、院の構成の決定後、内閣から提出された案件の審議に入ることになりますが、その際には委員会に付託し、まずは委員会で審査が行われるのが一般的です。
緊急政令の制定については、緊急措置の継続の場合には緊急政令に代わる立法措置、それ以外の場合には緊急政令についての承認が案件となります。これらの法案ないし案件については内閣から提出されますが、このほか、必要に応じ災害対応のための法案や予算が提出されることも考えられます。
この場合に、論点二となりますが、参議院の審議の対象範囲や権能が問題となります。この点、内閣によって緊急の必要のある案件として提案される限り、法律の制定や予算の議決について別段の制限はないと解されておりますが、予算の範囲については特に本予算をめぐり議論がございます。
他方、参議院の緊急集会の権能は広く国会の権能に及ぶとされるものの、案件の性質から参議院の議決のみでは許されないものや緊急の必要性がないものは緊急集会の権能外と解されており、少なくとも内閣不信任決議や憲法改正の発議については緊急集会の権能は及ばないとすることで異論は見当たりません。
また、論点三にあるように、緊急集会で参議院議員が発議できる議案の範囲も問題となりますが、緊急集会では、議員は内閣総理大臣から緊急集会の請求の際に示された案件に関連あるものに限り議案を発議できるものとされており、この点については国会法百一条で規定されているところです。緊急集会における緊急性や緊急の案件の認定は、第一義的には内閣がその責任において行うとの考え方に基づくものとされております。
緊急集会には会期の観念はなく、緊急の案件が全て議決されたときに緊急集会は終わることになりますが、その際、議長はその終了を宣告いたします。
緊急集会において可決された案件については、公布を要するものは内閣を経由して公布奏上され、それ以外のものは内閣に送付されます。
衆議院が解散された場合には、衆議院議員の総選挙が行われることになりますが、憲法五十四条一項により、解散の日から四十日以内に総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に国会を召集しなければならないこととされています。したがって、これらを合わせた七十日については国会を開くことができない場合があり得ることとなり、その間は参議院の緊急集会で対応することとなります。
このことに関連して、論点四となりますが、仮に大規模な災害などにより衆議院の総選挙の実施が困難となっている場合に参議院の緊急集会による対応がいつまで可能なのかという問題があり、この点については基本的に総選挙を経て特別会の召集が可能となるまでの間とされておりますが、その期間をめぐっては、七十日を超えて実施できるとする立場、七十日を超えて実施できないとする立場などがあります。この点については、憲法との関係で、解散後四十日を超えて総選挙をすることも認められるのか、どのような場合が選挙困難事態に当たるのかなどの問題も絡んでくることになります。
いずれにいたしましても、衆議院の総選挙が行われると、その後三十日以内に特別会として次の国会が召集されることになります。特別会では、まず、院の構成を経て、内閣総理大臣の指名が行われます。そして、参議院の緊急集会においてとられた措置については、憲法五十四条三項の規定により、特別会開会後の十日以内に衆議院の同意を得なければその効力を失うこととされており、内閣から当該措置につき衆議院の同意を求めるの件が衆議院に提出されることとなります。なお、この特別会には、内閣から災害緊急事態の布告について承認を求める案件も提出されることとなります。
衆議院では、緊急集会での措置の同意案件の審査のために特別委員会を設けることが先例となっており、委員会の審査を経て本会議に諮られることになります。その場合に衆議院の同意があったときは、緊急集会でとられた措置は国会で議決された場合と同様の効力を有するものであることが確定いたします。他方、参議院の緊急集会でとられた措置について国会開会後十日以内に衆議院の同意が得られなかった場合には、当該措置は失効することになります。その場合の関連論点として、失効の効果の及ぶ範囲が問題となりますが、これについては、失効は将来に対するものであり、過去に遡及するものではないと解されているところでございます。
駆け足の説明となりましたが、私からは以上です。どうかよろしくお願い申し上げます。