工藤さほの発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(工藤さほ君) 本日は、障害児や医療的ケアが必要な子供たちを育てながら働く親たちの両立の問題についてお話しさせていただく機会を下さり、深く感謝申し上げます。
 この度、育児・介護休業法改正法案の中でも、特に働き手の個別の意向確認と配慮の義務化に関する改正点や、障害児や医療的ケア児を育てる親の短時間勤務や看護休暇などについて、子の年齢の制限を超えて対応することが望ましいとする指針が盛り込まれたことは心から有り難く思っております。
 子によって障害の特性や疾患の状況は様々です。生まれてすぐ長期間の入院が必要になる子もいれば、思春期に入ってから状態が悪化したり、進行性の難病や退行性の遺伝子疾患もあります。ですので、条文案にございますように、個別ニーズに合わせた支援につながる改正が重要です。
 これまでの育児・介護休業法は、健常児の育ちに合わせて、短時間勤務は三歳まで、子供が病気になったときの看護休暇は小学校に上がるまでなどとなっております。介護の方も、老いた親のみとりを前提とした設計で、短時間勤務は三年、休業は九十三日しかありませんので、私たちのように我が子が生涯にわたり養育が必要な終わりのない育児をしている親たちにはこれではとても足りません。
 親亡き後の子の経済的な蓄えも考えて働く必要がある私たちにとって、就労を継続できるかどうかは死活問題です。しかし、知恵を絞って働き続けながらも、現行の支援制度を使い果たし失業していった人、今にも失業しそうな人、この改正法案の施行を一縷の望みにして休職に入った人もおります。改正法案の早期の成立、施行に対する私たちの期待は極めて大きく、一刻を争う問題です。
 障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会は、二〇一六年十一月に朝日新聞社内の親たち八人で発足しました。当時、私の勤め先でもある朝日新聞社では、小学三年生までしか短時間勤務を取得することができませんでした。重度の知的障害のある自閉症の娘を育てる私は、娘を学校に送迎する必要があるため、小学四年生以降も引き続き短時間勤務をできるようにする必要がありました。娘の知能水準は二歳程度です。名のれませんし、字も読めません。一人で登校もできません。私の死後も自立のできない娘の生涯賃金を稼ぐためにも、働き続けられるかどうかは私にとっては生きるか死ぬかの問題でした。
 当時八人で発足した親の会は、勤め先の労働組合を通じて会社側と協議した結果、子の年齢で区切らず、子の状態に応じて臨機応変に何度でも短時間勤務を使うことができる障害児育児支援制度の導入を実現しました。二〇一七年度に創設されたこの制度を娘が小学六年生になるまで利用できたことで私は育児と就労の両立がかない、今の我が家の暮らしがあります。
 同じような悩みを抱える家族は社外にもたくさんおり、現在、親の会は、マスコミ各社のほかに、メーカー、建設、金融、コンサル、教育、医療、公務員など様々な分野で働く三百五十人以上の親たちが職種や地域を超えてつながり、支え合っています。私たちの子供は、発達障害や重度心身障害、視覚障害、聴覚障害、ダウン症、小児がん、脳性麻痺、知的障害や難病など様々です。乳幼児から成人したお子さんまで、年齢層も幅広いです。
 今や、共働き世帯が七割以上を占め、夫婦で稼ぎを持ち寄り家計をどうにか回している世帯が一般的です。ところが、昭和女子大学現代ビジネス研究所の美浦幸子研究員の調査によると、都立特別支援学校に通う子の母親の四四%は未就労で、平均世帯収入の半数以上が五百五十万円未満とのことでした。児童のいる世帯の平均所得は七百四十五万円以上で、全世帯平均所得も五百五十万円を上回ります。
 仏教大学の田中智子教授らの二〇二二年の調査によると、京都市に住む知的障害児者や医療的ケア児者を育てる三十から五十代の母親のうち、フルタイムで働いている人は一割弱です。全国の同世代の有配偶女性の就労率が七割を超えているのに比べ、極めて低い水準です。
 私たちのような親が子を養うために働き続けようとすると、幾重もの壁が行く手を立ちはだかります。そもそも出産後、子の特性で母子分離不安が強かったり医療的ケアが必要でまだ保育園に預けられる段階ではなく、育児休業期間が過ぎてしまい離職を余儀なくされる親が相当います。何とか育休から復職できても、受け入れてもらえる保育園がないという壁、受け入れられてもらっても子の体力や保育士の人手不足などの問題で短時間しか預けられないこともよくあります。医療的ケアが必要なお子さんの場合、保育園の看護師がお休みの日は登園できません。
 次に、小学校の壁です。特別支援学校には全国どこにも学童保育がありません。そのため、放課後等デイサービスに通いますが、満室のことも多く、毎日通えるとは限りません。放デイの一義的な目的は療育ですので、預かり時間も短く、夏休みでも半日というところもございますし、一般的には午前十時から午後三時、四時までというところが多いです。
 私たちには、付添い登校や、高等部に入ると付添い実習のように、親の同伴が求められる機会もたくさんあります。一部の企業では慣らし保育休暇という制度があり、子供が保育園に入園してからの数日間お休みを取ることもできますが、これでは全く足りません。スクールバスに乗せてもらえないケースや公共交通機関を利用することが厳しいお子さんもいます。
 こうした幾つもの壁を乗り越えても、更に立ちはだかるのが十八歳の壁と言われる卒後の問題です。
 ほとんどの障害児は高等教育を受ける機会がありません。高等部の先の専攻科を置く学校が全国に十校も満たないからです。ただでさえゆっくり育つ子の教育の機会が保障されていないというのは大きな問題です。
 学校を卒業すると、子の居場所は更に狭まります。放課後等デイサービスに相当する場所がなくなるため、障害が重い子ほど過ごす場所は少なくなります。日中に通う作業所は午前十時前後から午後三時過ぎまでというところが多く、原則、親が送迎することになります。そのため、子が学校を卒業する時期にいよいよ仕事との両立が難しくなり、離職する親が少なくないのです。この問題はまだまだ社会に知られておらず、理解されていないと感じています。健常児の育児と違い、学校の卒業がおめでとうとならない親がたくさんいます。この現実を是非御理解いただき、十八歳の壁を崩す対策を早急に講じていただくことを切にお願いいたします。
 娘が特別支援学校高等部に在籍する私が置かれている状況をお話しします。
 私が住む自治体では、現行制度では、親が就労証明書を出せば、子が学校に通っている間は放デイや自宅への送迎を移動支援のヘルパーさんにお願いすることができます。しかし、学校を卒業すると、移動支援は週末のお出かけなどの余暇活動にしか利用できません。午後三時過ぎのお迎えは家族がする必要に迫られます。そのため、私は娘が小学六年生のときにようやくフルタイムの仕事に戻ることができましたが、娘が卒業する数年後は再び短時間勤務に戻るのが仕事と育児を両立できる唯一の道かと思います。でも、その道が残されている私は幸せで、恵まれている方なのです。
 この春、特別支援学校高等部を卒業したお子さんが生活介護に通うことになった方のケースでは、三時半に終わる生活介護の送迎を親がしなくてはならず、今ある育児・介護支援制度を使い果たし、十数年勤めた仕事を辞めざるを得なくなりました。再就職先もなかなか見付からないそうです。
 そのほか、親の会のメンバーのケースを幾つか御紹介いたします。
 シングルマザーとして働いているメンバーは、知的障害の八歳の子の体力を考えて放課後のお預かりを午後四時三十分までにして短時間勤務で働いていますが、あと数年で制限が切れてしまうため、短時間勤務の利用の延長を求めて会社と交渉中です。重度の医療的ケア児を育てている家族のケースですと、学校や登下校などの付添いが求められ、両親共に失業してしまうケースも珍しくありません。正社員の父親と派遣社員の母親の双方が現行制度で利用できる育児・介護支援制度を使い果たし、失業し、登下校の送迎や介護の合間にアルバイトをしたり、個人事業主としてホームページの作成をしたりして、何とか生計を維持している人もいました。収入が途絶え、貯金を切り崩して暮らしている家族もあります。
 改正法案が成立し、施行されれば、私たちは会社に個別に困り事を相談し、柔軟に制度を利用して働き続けることができるようになります。経済的基盤が安定すれば、将来を悲観することなく希望を持って家族を養うことができます。対価を払って外部からの支援を受けるという選択肢も増えます。そうすれば、兄弟児によるヤングケアラーの問題の解決にもつながります。
 障害児や医療的ケア児の中には、寝たきりではないけれど常時見守りが必要なお子さんもいます。本来は育児支援制度を利用したいところでも、年五日付与される介護休暇を使えることが有り難いという御家族も少なくありません。介護の制度を利用するためには要介護の基準を満たす必要がありますが、高齢者を基準にした現行の要介護基準とは別に、障害児や医療的ケア児のための新たな要介護基準の作成も喫緊の課題だと考えております。離職を余儀なくされた個人事業主や非正規雇用の親も含め、安心して子を養える包括的支援の整備も望みます。
 日々の暮らしに精いっぱいで声を上げる余力もない私たちのような親の多くは、その実情を社会に知られることもなく数々の困難に耐えて生きています。理解のある上司に恵まれたから、たまたま実家が近くの親の支援を受けることができたからといった運や縁に左右されることなく、私たちが安心して働き、子を育てていくことができる社会を築いていただくことは、多様性を認め合う風通しの良い誰にとっても暮らしやすい社会をつくることにつながると信じています。
 今回の法改正はその大きな一歩であり、私たちにとって生きていくための心のよりどころです。そして、社会を更に良くしていくためのステップになると切に念じております。どうか皆様、お力添えのほどよろしくお願い申し上げます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 工藤さほ

speaker_id: 13952

日付: 2024-05-21

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会