勢一智子の発言 (行政監視委員会)
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○参考人(勢一智子君) 本日は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私からは、計画策定をめぐる動向を素材にお話しさせていただきます。
地方に求められる計画策定は最近議論になっておりまして、当委員会では既に調査研究を重ねておられると聞き及んでおります。釈迦に説法の部分につきましては御容赦いただければと思います。
計画策定をめぐる議論の前提には、人口減少の進行があります。こちら立法府では、地方公共団体に計画策定を義務付ける際、どの団体を想定して議論をなさっておられるでしょうか。法令上は、都道府県、政令指定都市、市町村などと規定されますけれども、実際には非常に多様です。例えば、政令市は、二十のうち人口三百八十万人の横浜市がある一方で、半数近くが百万人を下回ります。都道府県では、百万人を下回るのが十県あります。市町村は更に多様です。地方公共団体は、人口だけでも大きく異なる上、人口減少による影響の現れ方は多様で、さらに面積、自然環境、社会状況、歴史背景などを含めると一層多様になります。
人口減少の進行に伴い地域の多様性が増す中、多くの団体で人材や財源などの地域資源が制約される厳しい現状が顕在化しています。地方公共団体の多様化は全国画一的な政策展開の難易度を上げます。その象徴的な分野が計画策定です。全団体に一律に計画策定を求める意義が問われるわけです。
地方に対する計画策定規定はここ十年で一・五倍に増加しております。人口減少による資源制約の中で、地方分権改革の地方提案において負担問題が提起されました。この負担は、特に小規模団体で深刻です。
法の求める計画策定は、国の計画に基づき、都道府県計画が策定され、さらにその下で市町村計画が策定される三層構造が採用される場合が多いです。計画策定を担当する部署から見ますと、上位計画ほど職員数が多い、組織が大きいという逆三角形の構造が見て取れます。そうすると、国は府省の局が、都道府県では部が受け持つんですけれども、市では課になり、町村の場合には係の数人の職員が複数の計画を担当しなければならない状況にもなるわけです。これも計画策定をめぐる大きな問題です。
なぜこれほど計画が地域の負担になっているのか。行政計画という手法の変遷にも理由があります。
行政計画は、従前は行政組織が自らの業務管理に用いる手法でしたけれども、現代行政では計画行政の標準化が見られます。行政計画は政策実施の設計図となり、その策定は、政策目標の具体化、実施の手順と優先順位、後続の個別施策の取捨選択、行政資源の配分を決定する過程になります。策定された計画は政策内容と実施体制を可視化するものであって、法の要請への回答と社会への説明責任を果たします。複雑な行政課題に対峙して、限られた社会資源の管理、配分を図るために、政策の形成、実施における計画の有用性は高く、現代行政のあらゆる分野は多数の計画により構成されています。必然的に計画の総数が増加いたします。
総合的な行政ニーズの下、行政計画は多機能になっています。例えば、長期的な政策方針を提示したり、政策に関わる関係者の体制確保や行政サービスの需要供給調整を担ったり、都市計画など空間利用を誘導するものもあります。多くの計画が複数の機能を備えるのが一般的で、その背景には現代の政策の難易度が上がっているという状況があります。例えば、新たな行政課題が提起されるごとに政策形成の専門化が進み、そのために、専門人材の確保や多様な主体の協力体制が必須となる政策実施の高度化、計画策定を通じた政策対応の見える化も求められ、多数の多機能な計画行政への要請が地方公共団体にとって負担増につながっています。
また、計画行政の標準化を受けて、計画策定手続が充実されてきました。行政手続法に一般的な計画手続は規定されていません。しかし、行政計画の多くは市民参加や専門家の関与を含む一定の手続を経て策定されることが通常です。その理由は、行政計画は政策の方向性や内容を形作るものであって、国民や企業等に大きな影響をもたらす場合が多いということにあります。そのため、策定過程で科学的知見や利害関係者の意見を取り入れ、社会の多様な人々の声を反映させて、社会全体にとって望ましい計画に仕上げる作業が必要になります。
そうした計画策定の要請は住民に身近な行政を担う地方レベルで一層強く、実務的整備が進み、国よりも手厚い手続が先行しています。例えば、審議会や協議会、説明会やパブリックコメントは一般化しておりますし、議会の議決を経るという場合もあります。また、計画策定後はPDCAサイクルの下で進捗管理も求められます。つまり、計画の社会化に伴い、計画策定過程の透明性確保と民主的な策定手続が求められたという経緯があります。
このように、行政計画は、当初は行政内部のツールでしたが、現代では社会に共通する多機能かつ重厚な手法です。それゆえに、計画手続の充実が負担増の要因の一つになっています。
以上、簡単に行政計画の現状について触れましたが、問題状況への対応として、昨年度末にナビゲーションガイドが示されました。これは、地方分権改革として内閣府が受け付けている地方からの提案を通じて明らかになった問題と改善方策を受けたもので、府省に対して計画体系の再検討を求める内容です。
ナビゲーションガイドの求める原則は、地域の自主性、自立性に基づく計画策定であって、各地域の特性と状況に応じて地域が計画を活用していくことを可能にする、各地域の多様性を受容する計画体系への転換を目指しています。これにより、地域目線による計画体系の再構築が可能になります。
例えば、関連する複数の計画を一体的に策定したり、総合計画への統合、複数の地方公共団体による共同策定などが選択できます。内閣府の調査では、既存計画のうち総合計画への統合が可能であると府省が回答したものは、都道府県では六割強、市町村計画では五割強に上り、有力な選択肢です。
さらに、自らは計画を策定せずに上位計画に基づき計画的に施策を実施することもできます。ここで重要であるのは、計画体系の再構築が地方の負担軽減にとどまらず、政策の効果的な実施にも寄与する点です。
イメージしていただくために具体例を御紹介します。例えば、地球温暖化対策推進法、気候変動適応法、生物多様性基本法の三つの法律があります。それぞれ国の計画があり、地方計画の策定を都道府県と市町村に求めています。法律に従えば三つの計画を策定するということになりますが、地域にとっては相互に密接に関連する政策です。
二〇五〇年カーボンニュートラル目標を達成するためには地域脱炭素は不可欠で、再生可能エネルギーの導入拡大が求められます。他方で、風力発電や太陽光発電の新設のために森林を切り開くと、災害リスクが高まり、地域のレジリエンスが失われ、気候変動適応の障害になります。生物多様性保全についても国際的目標があり、二〇三〇年までに陸域、海域のそれぞれ三〇%を保護区とするサーティー・バイ・サーティーを日本も掲げています。その実現には、各地域での自然環境の保護が欠かせません。
このように、各法律の目標はトレードオフ関係にあるため、本来は相互に調整して一体的に政策を展開する必要があります。さらに、自然生態系や再生可能エネルギーの適地が行政区画を越えてつながっていることを踏まえると、複数団体による共同策定も政策上有効です。
このように、地域目線から計画の再構築は可能になりつつありますが、既存の法制度を前提にした対応ではなお限界があります。社会が目まぐるしく変化していく中で、計画体系の在り方を持続可能なものに法的に再設計をする作業も必要です。
求められるのは、立法時におけるコントロールです。行政計画が人口減少社会においても現場の負担を軽減しつつ政策の効果を発揮するために、法律の制定、改正時に検討が求められる視点を幾つか御紹介させていただきます。
一つは、法制度間の整合、協調を図ることです。現在の法政策は分野横断的に展開することが必須です。法律では、その所管による府省の縦割りの影響が強く、その弊害の解消が求められます。地方現場の目線からは、地域の状況に応じて計画を統合したり共同策定する柔軟な計画行政が必要で、そのためには各計画を定める法律間の整合が前提となります。
二つに、DX標準行政への適合です。人口減少社会ではデジタルが資源制約を超える有効な方策で、計画に関してもDX時代に沿う体制や手続に変更していかなければいけません。従前は計画でなければできなかったことが今では情報連携で足りるというような場合もあります。
三つとして、計画利用に関する費用対効果、パフォーマンスを評価した上で法定するか否かを検討するという必要があります。いわゆるコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスと言われる視点でありまして、資源制約の下で真に必要な計画に限り策定を求める法の判断が重要です。計画行政とは計画的に行政を行うことであって、計画策定ではありません。計画以外の方法でも政策は十分に実施可能であって、より効果的な手法を選択すべきです。
四つに、サンセット方式による計画規定の見直しも肝要です。
最新の政策課題であっても五年もたてば古くなり、次の新たな課題が提起されます。行政資源は有限ですから、その時々の優先度の高い課題に投入しなければいけません。既に役割を終えている計画は適宜廃止して、そのマンパワーは次の新たな課題に向けるということが建設的です。それにより、国も地方も含めた行政の効率化、職員の負担軽減による働き方改革にも寄与します。
今回は計画策定をめぐる動向を御紹介いたしましたが、計画に関して提起された課題は行政一般に通底いたします。人口減少社会では、個性豊かな地域がそれぞれの特性に応じて行政を進めることが地域の持続可能性を担保します。計画行政においても、地域の自由度を上げて、真に必要な計画を地域が選び活用していく、そのためには各地の個性を尊重する法制度が必要です。
御清聴ありがとうございました。