竹下珠路の発言 (北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会)
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○参考人(竹下珠路君) 本日は、この場をおつくりいただきまして、本当に、発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私の妹、古川了子は、一九七三年七月七日に、十八歳のとき、千葉県市原市の家から突然姿を消しました。素直で明るく、誰にでも好かれる優しい妹でした。それから既に五十一年の年月が流れてしまいました。
待ちわびた母は、今から十四年前の二〇一〇年に九十四歳で他界しましたが、認知症も進んでいた中で、了子のことは最後まで気に掛かっていたようで、北朝鮮にいることが分かっているのに、どうして国は了子たちを取り戻せないのでしょうね、取り返す気がないのかしらと寂しそうにつぶやいていました。命を懸けた精いっぱいの抗議の言葉だと私は思っています。
北朝鮮で工作員教育を受けていた安明進氏が、私の妹にとてもよく似た女性を北朝鮮の九一五病院で見かけ、声を掛けたと証言してからも、既に二十七年がたっています。
私と母は、二〇〇五年四月に日本政府を相手に古川了子の拉致認定を求める行政訴訟を起こしました。多くの特定失踪者の御家族代表としてチャンピオン訴訟でした。安明進氏も法廷で証言台に立ってくださいました。二年後に、内閣府拉致対策本部の当時の調整室長が法廷で誠意を持って対応する旨の声明文を読み上げ、私と母は裁判を取り下げました。認定という名を取るよりも、救出という実を取りたいと思ったからです。当時、日本国民がこれほど切望している被害者奪還に日本政府は必ず動くと期待したのです。しかし、それから十七年経過した今も状況は全く変わりません。
妹のほかにも、北朝鮮での目撃証言や写真、情況証拠などから明らかに拉致だと思われる方々もたくさんいますが、政府は、二〇〇五年に田中実さん、二〇〇六年に松本京子さんを認定しただけで、その後、誰一人として認定していません。どちらも私の裁判中の出来事でした。
今日時点で、日本の警察は、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者を八百七十一名と発表しています。この中には、民間の特定失踪者問題調査会の言う特定失踪者約四百七十名、そのうち、拉致濃厚七十七名、警察断定二名、拉致確実五名も含まれています。また、国連の北朝鮮人権調査委員会、COIでは、二〇一三年から一四年にかけて北朝鮮の人権問題について調査した結果、少なくとも百人以上の日本人が拉致された可能性があると報告しています。
皆様も御承知のとおり、二〇一四年五月に北朝鮮との間で交わされたストックホルム合意の文書の中で、調査の対象として、拉致被害者と、太平洋戦争当時の未帰還者とその遺骨、帰国事業で北朝鮮に渡った日本人妻、そしてその他の行方不明者と、四分野に明確に分けられていました。私たちの家族は北朝鮮による拉致疑惑の失踪者だと思っていたところが、日本政府は拉致とは別のその他の行方不明者という範疇に入れていたことを知りました。日本政府は拉致被害を矮小化していると感じました。
近年になって、当時、北朝鮮から田中実さんと金田龍光さんの生存が知らされ、帰してもよいという旨の提案があったにもかかわらず、日本政府はこれを断ったという情報を得ました。これで拉致問題は終わりだという北朝鮮の言葉に、日本政府は二人の情報を受け取ることを拒否したと。
あれから十年たってみて、全く状況が変わらない。これは、この現実を考えたとき、そのときの判断は本当に正しかったのか、疑問に思います。国家間の交渉とはいえ、お二人を十年以上も放置している政府の責任は重いと思います。もしこれが横田めぐみさんや有本恵子さんだったら日本政府は同じ対応をしていたでしょうか。田中実さんと金田龍光さんは既に七十歳半ばになっており、もしこの間に命が絶えてしまったら誰が責任を取れるのでしょうか。命の重みは皆同じです。
今年の二月に、国連の北朝鮮人権調査委員会、COIの報告から十年というシンポジウムで、当時の委員長、マイケル・カービー氏にお目にかかる機会を得ました。そして、私は日本の拉致問題の現実をお話ししました。今皆様のお手元にある失踪年代のグラフと失踪時の年齢、そして現在の年齢グラフをお示ししながらお話ししたところ、この話は初めて聞いたと言われました。北朝鮮による人権問題をあれほど調べ上げ、日本にも聞き取りに来られたカービー氏の言葉だったので、私の方が驚きました。
確かに、このグラフは、二〇一七年に特定失踪者家族会ができてから、日本の警察がホームページに氏名を公開している拉致の可能性を排除できない行方不明者と、特定失踪者問題調査会のホームページに載せてある公開者を調べ上げて私たちがデータ化したものなので、このように国内の皆様に宣伝しても、他の機関では発表していないので、私たちはこれを国際社会に届けるすべをまた持っていませんでした。そこで、国連人権高等弁務官事務所のアドバイスを受け、特定失踪者家族会では、国連の北朝鮮人権調査委員会に働きかけを行う予定で準備しています。横田さんたち家族会の皆さんとは異なるアプローチで、様々な国際社会に協力を仰ぎたいと思っています。
五人の被害者が帰国できてから、二〇〇二年、拉致被害者支援法が制定され、二〇〇三年に施行されました。議員の先生方には十分御承知のとおり、この法律は、帰国した拉致被害者の生活を支援することを目的にした法律です。
第二条には、被害者とは北朝鮮当局によって拉致された日本国民として内閣総理大臣が認定した者とあります。その認定の基準等については明確ではありません。
第三条には、国は安否が確認されていない被害者及び配偶者等の帰国又は入国のために最大限の努力をすると書いてありますが、この被害者というのは政府が認定した人ですか。金田さんや田中さんはまさに該当しているのではありませんか。どのようにして被害者を把握し、安否確認をし、救出するのでしょうか。
ただ一つ申し上げられるのは、この法律は特定失踪者など拉致疑惑の失踪者を想定した法律ではないことです。
そして、拉致実行犯や協力者は一人も逮捕されていません。かつて、拉致実行犯の辛光洙が韓国で別件逮捕されましたが、日本は送還を求めずに、北朝鮮に送り返されてしまいました。既に彼の口から真実を聞くことはできません。
政府が拉致認定しなければ、拉致支援法の対象にもなりません。日本国籍がない人は、拉致されたと分かっていても政府認定がなされず、拉致支援法の対象にもなりません。金田さんや高兄弟はその例です。北朝鮮で亡くなった人たちはどうなりますか。本人はもとより、その家族も人権を侵害され続けています。半世紀も人権を侵害され続けた本人や家族はただの泣き寝入りですか、拉致被害者であるという証拠もされずに。
最後に、立法府である国会議員の先生方にお願いです。
拉致や強制失踪に対応して抑止もできる法律を作ってください。特定失踪者家族が納得できる法律を作ってください。今や、北朝鮮のみならず、諸外国から情報、技術、人などを狙ったスパイ活動や強制失踪の危険性が今まで以上に高まっていることは国際情勢を見ても明らかです。
北朝鮮政府に被害者の一括帰国を求めるのは当然ですが、それでも、被害者の三〇%が八十歳を超えており、命が差し迫っている多くの被害者たちがいます。被害者の命があるうちに、取り戻せるところから取り戻してください。よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。