大沢真理の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(大沢真理君) 大沢でございます。
本日は、このような機会を頂戴し、関係の皆様に感謝申し上げる次第です。
私の資料を手に取っていただきますと、最初の二枚は備考となっておりまして、これからテクニカルターム、専門用語がたくさん出てまいりますので、最初にそこをまとめておいたというものでございます。
ただ、スライド二の一行目、OECD統計のURL書いてありますが、現在OECDはこのサイトの移動を進めておりまして、三月末にはここが使えなくなるということで、恐縮ではございますが、お知らせをいたします。
それから、スライドの二枚目ですね。日本の貧困の特徴として、所得再分配のビフォー、アフターの近似値を見ようとした場合に、日本ではアフターの方が貧困率が高いような人口区分が出てまいります。つまり、簡単に言うと、日本では政府の所得再分配が貧困をかえって深めていると。これは諸外国に例を見ない事態でございます。相対的貧困率という指標には限界の御指摘もございますけれども、一応、私の考え方はそこに書き留めておきました。
いよいよ本題に入らせていただきます。
今日のテーマは、ボトムアップこそが成長戦略でも要であるというポイントでございます。
これは、EUや国際機関での近年の問題意識でもございます。EUを見ますと、二〇一三年に社会的投資パッケージを発表しておりますが、そこでは成長戦略と福祉国家の現代化戦略は一体のものとして推進されようとしております。よく社会的投資といいますと、旧来のような既に貧困に陥った人に対して救済をする、補償と言ったりします、よりも投資、将来に向けて人々をリスクに備えさせる、その力を付けさせると、そういうシフトなんだというふうに言われがちですけれども、EUの欧州委員会文書等を見る限り、一体になっております。同時に、ジェンダー平等の次元が非常に重視をされております。当然ながら貧困者の多数は女性ですので、そこを見逃してはいないということです。
こうした取組は二〇一三年に始まったわけではもちろんなく、遡って九七年のアムステル条約以来、EUの主要目標の一つでございます。
象徴的なのは、パッケージのうち子供への投資、これは勧告になっておりますが、その付録には貧困や社会的排除と闘い不平等を縮減するための三十二もの指標を掲げております。同時に、就労貧困、働いているのに貧困から逃れられないと、これが現役層の貧困者の三分の一を占めると注意喚起しております。
これらのパッケージでは、子供、現役層が重視をされておりますが、それはヨーロッパの事情があるということを御理解いただきたいと思います。EU加盟諸国では、バルト三国を除きまして、高齢者の貧困はかなり低いレベルに抑えられております。その反面で、子供の貧困率は高い国が見られる、こういうところからこのパッケージが構成されております。
これらの戦略、パッケージからは、その背骨としてボトムアップの経済学が読み取れます。それをOECDやIMFも共有しております。この背骨がないと、成長戦略としても分配戦略としても成功を見込めない、そういう問題意識があるわけでございます。
次のスライドは、低所得層の置き去りが経済成長を損なうというOECDのパンフレットなんですけれども、そこにある印象的な図でございます。
所得分布のボトム四〇%の人々を底上げすれば人的資本投資が増進をする、それが成長に資するということで、逆に、この間のOECD諸国では、幾つかの国を例外としまして、オレンジ色の部分、下に突き出ております、これが、不平等が増大したあるいは固定化している結果として成長力がそがれている部分が下に突き出たオレンジの部分でございます。
格差といいましても、不平等といいましても、肝腎なのは低中所得層であると。それは、単に経済成長のためだけではなく、民主主義を擁護、発展させるためにも重要だと考えられております。
OECDは二〇一九年に、アンダープレッシャーと、中間層が圧縮されている、圧迫されているという報告書を出しております。ここで中間層と呼ばれているのは中位可処分所得の七五%から二〇〇%の層です。この層こそが包摂的な経済成長にとって重要であり、他者への信頼や、民主主義の制度、典型的には議会制度でありますが、司法やそういったものへの制度の信頼にとっても重要だということです。
この中間層が、所得シェアは低下し、それからトップ一〇%に置いていかれている。それから、中間層の生活費用というのは一般物価よりも早く上昇している。この公正を、これを是正し公正を進める主要な手段としては、税、公的給付、特に資産所得やキャピタルゲイン、相続に対する課税を強めることがこのレポートで推奨されております。
他方、IMFのワーキングペーパーやスタッフノートを見ますと、五分位の所得シェアは、トップ二〇%、一番豊かな二〇%で上昇しても成長率は下がる、利得はトリクルダウンしないという警告が書かれております。反面で、ボトム二〇%で所得シェアが上昇すると、成長率は上昇するという分析結果になっております。
そして、所得不平等の上昇、特にボトムが置いていかれる中では、他人への信頼が低下をすると。この他者への信頼のレベル、日本はOECD諸国の中でも低い方でございます。これが低下すると、取引費用が上昇してしまい、イノベーションが阻害されるため、信頼は経済成長にとっても重要な要素であると、IMFは指摘、OECDは指摘をしております。実は、この信頼というのは災害レジリエンスとも関連をしている、そういう研究がございます。
日本の状況でございますが、日本では、マクロでもミクロでも所得、賃金が伸びない。これは首藤公述人のお話にもるるございましたので、詳しくは説明をいたしません。左側が一人当たり実質GDP、右側が実質の平均年収の推移でございます。
次のグラフを見ていただきますと、これは、全人口の相対的貧困率の推移をG5プラススウェーデン、韓国で見たものでございます。
日本については二系列を取り上げておりますが、OECDに報告されているのは、日本1の方、国民生活基礎調査の方でございます。もう一つの系列、消費実態調査、これは国民生活基礎調査よりも低くなるわけでございますけれども、直近においてはこの二つの系列の指標ギャップが縮小してきております。
日本1では、最近微減はしておりますが、表示国で最悪になってしまった。見逃せないのは、年齢別で、日本の十八歳から二十五歳の若年層、この貧困率がOECD全体で七番目に高いということです。若者の貧困は未婚率の上昇につながり、これが少子化、人口減少の主要な要因であるということは政府のるる白書等でも指摘をされております。
次に、貧困率だけ見ていても、その貧困者とされる人々の生活の実質は分からないという御意見あろうかと思いますので、この図の四を作成してみました。G5と韓国について、等価可処分所得の中央値、この中央値を挟んで七五%から二〇〇%がOECDが注目をしている中間所得層でございます。これを名目値の購買力平価でドルに換算したのがこのグラフでございます。
日本では、中間所得、この半分が貧困基準ですので、ずり落ちている、表示国で最低になってございます。下がったのは日本だけですけれども、普通、貧困基準下がりますと貧困率は低下するんですけれども、日本での低下は僅かです。日本円で見ますと、九七年がピークでございまして、以降下がり続けてきたと。つまり、日本の貧困層の所得というのはこれらの諸国の中で最低であるということに御留意いただきたいと思います。
次のグラフは、所得階層、所得格差に関するグラフで、トップ一〇%とボトム一〇%の所得比の推移を見ております。一応貧富の格差を示す指数とお考えいただきたいと思います。G5とスウェーデンの中で、日本の所得格差はアメリカに次いで大きい。それから上昇ぎみであるところも懸念されます。
次は、これ最後に、どうしたらいいんだろうかと、この状況を。日本で貧困、格差をいかに削減するかという方法に関してでございます。
まず申し上げたいのは、年金額に最低保障が必要だという点でございます。
この円グラフは、都立大学、東京都立大学の阿部彩さんの研究成果からお借りをしておりますけれども、年齢階層、性別で分けて貧困者は誰かというのを見ますと、オレンジの二四・五%、これが女性六十五歳以上です。つまり、日本の貧困者の四分の一は高齢女性であると。高齢男性も一三・四%ですから、なかなかの比率を占めております。もし年金額に最低保障があれば、このオレンジと濃い緑の部分は消えてなくなると。一気に日本の貧困率というのは下がるわけでございます。
先ほど申し上げましたように、高齢者の貧困率が現役世代より低い国はOECDの多数を占めます。年取ると年金暮らしになるので貧困になるのは仕方がないというのは全くの俗説であって、日本ではそうなっているかもしれないけれども、OECDの多数の国ではそうではないということでございます。
次に、現役層と子供の貧困に対してどうすべきかと。
御承知の持続可能な開発目標、SDGの目標八のうちターゲット五番目、これはディーセントワークと同一価値労働同一賃金を加盟国に求めています。日本もこれに同意をしているわけでございます。それを、全ての老若男女、全ての労働者に対してディーセントワークと同一価値労働同一賃金を実現するようにということです。同一価値労働同一賃金というのは、正規、非正規を問わず、労働者全員の担当する仕事を構成する職務を分析いたします。職務の四つの面、知識・技能、責任、負担、労働環境でそれぞれ点を付けて合計し、仕事の価値を割り出します。そして、価値に見合う賃金を実現しようとする、これが同一価値労働同一賃金の原則でございます。
先ほど首藤公述人がおっしゃいました正規、非正規のあるいは雇用形態にある格差の解消について、この同一価値労働同一賃金こそが鍵と考えられているわけです。日本では、正社員は職能給で非正規は職務給なんだから、この格差の解消は非常に難しいと言われてきたんですけれども、最近の研究によれば、そうでもないということも分かっております。
三番目に、金融所得、相続への課税強化をする必要があります。これもOECDのレポートの中に入っている点でございます。日本では、所得税制の所得控除を税額控除に転換をする、できれば給付付きとする。給付付きでなくても、税額控除に転換するだけで税制全体としての累進度はかなり高めることができるという実証分析もございます。
最後に、住宅給付を導入し、児童手当や児童扶養手当を統合して拡充するといった施策が望まれます。
ヨーロッパのことばかり引き合いに出しましたけれども、韓国では非常に政策展開が急でございまして、ゼロから五歳児への無償保育は朴槿恵政権で、それから公的扶助を統合給付から個別給付に改正するという改革も行われました。そして、文在寅政権では失業扶助制度と。失業保険というのは、ある期間が来たら尽きてしまいます。それを超えて、その期間を超えて失業し続ける人に対して、一般の公的扶助ではなく失業扶助制度と。ヨーロッパではこの制度を持っている国が多いわけですが、そういうものが新設されておりまして、そういった改革が急ピッチでお隣の国では進んでいるということを申し上げまして、私からの報告といたします。
どうも御清聴ありがとうございました。