本田悠介の発言 (外交・安全保障に関する調査会)

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○参考人(本田悠介君) ありがとうございます。ただいま御紹介にあずかりました神戸大学の本田でございます。国際法を専門にしております。
 二十分と時間が限られておりますので、早速配付いたしました報告資料に従って報告、意見陳述をさせていただきます。適宜、冊子になっております事前に配付させていただきました資料も御参照ください。
 本日の報告内容ですが、海面上昇が日本の領海基線に与える法的影響ということで報告させていただきます。
 中身については、まず、日本の基線をめぐる現状について簡単に説明をいたします。次いで、この問題に関連する国連海洋法条約の規定を概観し、その上で、海面上昇をめぐる現行の国際法規則、その解釈とかですね、また、これをめぐる国際的な議論状況について解説させていただきます。最後に、日本の取組の在り方について、現状どういったことを日本が取っているのか、こういったことについて私見を述べさせていただきます。
 配付いたしましたスライドの二ページ目を御覧ください。
 四方を海に囲まれた我が国は、有人、無人合わせて一万四千百二十五の島で構成され、約三万五千二百七十八キロメートルという長大な海岸線を有する海洋国家であります。これらの海岸線や島々は、そこから派生する権利や権原、これケンバラといいますが、権原を支える重要な役割を担っており、とりわけ四百七十三あると言われている日本の管轄海域の外縁、外側ですね、これを根拠付ける離島である国境離島の重要性は改めて指摘するまでもありません。しかしながら、その海洋権原を根拠付ける海岸線や離島は不変というわけではなく、今回のテーマになっております海面上昇その他の危険に常にさらされております。
 近年の日本の領海基線の地理的変化について若干説明いたしますと、記憶に新しいものでありますと、二〇一九年九月には北海道の猿払村の沖合約五百メートルに位置している国境離島であるエサンベ鼻北小島の消失が確認されております。ただし、近傍に代替となる基線があったため、領海面積への影響はほぼないとされております。それでも、水没によって領海を持つことができる低潮高地でもなかったということから、日本は基線を引き直すということを判断いたしました。
 エサンベ鼻北小島の消失の原因は現在特定されていないというか公表されておりませんが、これが海面上昇に直接起因するのか、それとも単純に流氷とか波浪の影響、あとこれも海面上昇の影響があるかもしれませんが、これは不明ですが、いずれにせよ、事実として日本は一つの島の消失を経験しております。
 そして、日本においても海面上昇の影響は明白となっている以上、遠からず、又は既に、直接又は間接的な影響で島や海岸が消失する可能性があります。
 それでは、海面上昇は国際法秩序にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。次のスライドを御覧ください。
 海面上昇がもたらす法的な問題としては、本日のテーマからはこの二点を挙げさせていただきます。
 一つ目は、海面上昇に伴い、島や沿岸域、海岸線ですね、これらが水没したとしても、従来の領海基線の地位を維持することができるのかということです。現行国際法上、基線を現時点の線として固定するということが認められているのか、それとも、海域の物理的な実態、現実に即して基線を引き直さなければいけないのか、こういうことです。
 また、海洋法上の論点としては二つ目に挙げられる、水没した地形の法的地位、また基線を固定できるのかということですが、それとの関連で、海面上昇の影響から島や海岸を守るための措置、仮にこれが固定できないというふうになった場合には物理的な島や海岸守る必要がありますが、その場合、どのような措置がとることができるのかということであります。
 法的観点から見た海面上昇ですが、法的な意味合いとしては、国連海洋法条約第五条等に言及されている低潮線、英語で言うとローウオーターライン又はローウオータータイドとなりますが、これが物理的な実態として現在の位置よりも高くなる、すなわち基線が陸側に後退するということを意味します。その場合、基線とその外縁の両方が同様に移動することから、理論的には領海等の範囲、つまり面積、これ自体が変化することはありません。単純に陸側に移動するというだけであります。その可視化、イメージについては、次のスライドに載せているとおりであります。
 しかしながら、海域に地理的に固定されている漁場とか海底資源等ですね、その管轄水域の中に固定されているものに関しては、基線の移動に連動して移動するわけではないので、沖合の島がもし低潮線等が上昇することで干潮時にしか水面に出ない低潮高地になった場合、又は完全に水没してしまった場合には、それらの資源を失うということもあり得ます。
 次に、めくっていただいて、五、六ページを御覧ください。
 先ほど言及したエサンベ鼻北小島の状況でありますが、海面上昇又は実態として海洋地形が水没するということになれば、先ほども申し上げたとおり、海洋権原、そういった領海とかそこに賦存する資源等を所有しているというふうな、その根拠を失うことを意味します。ここに挙げているとおり、エサンベ鼻北小島は島でも低潮高地でもないということから、その権原を失ったということになります。
 また、あくまでも例えでありますが、六ページ目、現在、海面上昇に、危機にさらされているというわけではありませんが、一つの例として、長崎県の男女群島、女島から約一海里、約二キロ先に位置する鮫瀬というところがありますが、これが海面上昇によって仮に水没してしまった場合、その場合は、日本は七十八平方キロメートルのEEZ、排他的経済水域を失うと、そのような政府試算が出ております。
 鮫瀬を含め、日本は領海や排他的経済水域等の外縁を根拠付ける低潮線を保全するため、二〇一〇年に国内法である低潮線保全法を成立させ、その施行令において、緯度、経度によってこの低潮線保全区域というものを百八十五か所指定しており、その保全活動を行っております。しかしながら、この低潮線保全法の制度は、低潮線を後退させるような海底の掘削、土砂採取等の人為的な行為を規制するものであって、海面上昇に直接対応するものではございません。
 次に、七ページ目、次のページを御覧ください。
 先ほど説明いたしました二点の国際法上の論点でありますが、もう少し具体的に海洋法上の論点として説明したいと思います。
 一つ目ですが、海面上昇に伴い島や沿岸域が水没したとしても従来の基線の地位を維持できるのかという問いに関してですが、つまり、島や海岸等が完全に水没してしまった場合、その海洋地形やそこに設定されていた基線は、ではどのように扱えばいいのかということであります。
 国連海洋法条約上、この問題について直接に言及する条文というものはございません。しかしながら、国連海洋法条約が制定された経緯やそこにおける議論等の一般的な理解からすると、基線というものは海洋の実態に合わせて設定される、したがって海洋の実態に即して移動するということが想定されており、したがって完全に水没した場合は、その地形は基線の基点として使用ができないというのが通説でございます。これは、国際法上の基本的な原則である陸が海を支配すると、陸に海洋というものがくっついてくるという原則から導き出されるものであり、あくまでも原則であります。
 また、通説と先ほど言いましたが、通説イコール現在最も支持されているというわけではございません。あくまでも伝統的な通説、解釈ということでございます。この場合、論点としては、基線を更新する必要があるのか、又は義務としてそういうことをする必要があるのかということでございます。この点をめぐっては、ある、ないというふうな対立が現在もあります。
 今し方申し上げましたとおり、通説の解釈からは、海洋権原を守るためには陸域の水没を防がなければならないということが合理的な選択となります。しかしながら、問題は、そのような措置が国連海洋法条約において、基線等の海洋権原の取得の条件である自然に形成された陸地であること、これに抵触するかどうかという問題がございます。この点、国家は歴史的に海岸線の浸食を防ぐため埋立てや護岸工事といったことを実施してきているということからも、国際法上も基線の基点となる島や海岸線、これを人工的に保全するということは完全に認められているということが通説、この場合は多数説となっております。
 他方で、それが大規模に及ぶ場合、人の手を加えないと維持できないほどまで悪化してしまったという場合であれば、自然として成立するということが満たせないということから、島の場合は人工島に変移するということを主張している有力な学説等もございます。
 御存じのとおり、沖ノ鳥島の法的地位については、我が国が島であると主張しているにもかかわらず、特定の論者又は国から排他的経済水域や大陸棚を持てない岩であるというふうな主張がありますが、その理由としては、大規模な現在のような護岸工事のようなものをしなければ維持できないということであれば、もはや自然に形成されたという要件を満たせないということを説明するものもあります。
 しかしながら、先ほど申し上げました多数説、肯定説に基づく有力な反論としては、そのような法措置は新しく海洋権原を創設する、つまり、ないものを新しくつくるというものではなく、現在あるものを維持すると、その保全するためのものであって、国際法上、ないものをつくるわけではないのだから、国際法上の地位を変更するものではないということで、問題がないんだというふうな主張があります。
 これを裏付けるものとして、二〇一六年のフィリピンと中国との間の南シナ海仲裁判断においては、関連する裁判所の言及としては、海洋地形の法的地位の決定に関しては、たとえ大規模な改変が行われたとしても、その場合は大規模な人工の改変に先立つ自然の状況、つまり原初の状態ですね、これに基づき判断するということであって、たとえ工事をしたとしても、それが低潮高地が島になる又は人工島によって島をつくるということにはならないということが指摘されております。この点は、もう少し後ほど説明させていただきます。
 下の八ページに移ります。
 これまで説明してきたように、海面上昇は基線の法的地位、これに大きな影響を及ぼします。したがって、国家の海洋権原、権原に直接問題、直接関連します。では、その基線、ベースラインというものはどのように国際法上位置付けられているのでしょうか。
 国際法上、一九三〇年のハーグ国際法典編さん会議というものがありますが、ここで初めて基線の法的地位というものが国際的に国際連盟の下で議論がされました。結局のところ、このハーグ法典化会議においては条約というものは作成されませんでしたが、その際の議論においては、基線というものは全ての海岸線において低潮線から設定されると、低潮線に基づいて設定される、その低潮線は沿岸国の公式海図に表示されたものとするという理解が形成されております。
 その後、一九八二年の国連海洋法条約において、通常基線と直線基線というものが、という基線の設定方式が採用されております。このほかにも、我が国には適用されませんが、群島基線というものがあります。今日、各国はこの国連海洋法条約の方式に基づいた基線を設定しております。で、その国連海洋法条約第五条がどのように定めているかというと、通常基線に関しては、領海の幅を測定するための通常の基線は沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線と定められており、直線基線の場合は、海岸線が著しく屈曲しているか又は海岸に沿って至近の距離に一連の島がある場合において、例外的に適当な点を結ぶ、直線的な線を結ぶことが認められております。
 今回は、通常基線に焦点を当てて意見陳述をさせていただきます。
 もう少し説明をしたいと思いますので、九ページ、御覧ください。
 その国連海洋法条約の規定ですが、先ほど申し上げました通常基線のこの条文、この解釈をめぐって、学説的にでありますが、二つの解釈が提唱されております。
 一つが、沿岸国が公式に承認した海図に描かれた低潮線が基線の低潮線である、基線の基準となるという解釈であります。これは、海図、したがってチャート、チャートに記載された基線が低潮線となると、低潮線が基線となるということであります。これに対して、実際の海岸に沿わなければならないということで、潮汐基準に基づいた沿岸の低潮線が法的な通常基線の基点となるというふうな主張もあります。これがアクチュアルベースラインということで、実際の状況に合わせて基線というものは変化するという指摘がございます。
 十ページですが、それでは、現実と海図との間に差がある場合はどのように解釈する必要があるのかということでございます。
 これに関して、伝統的な解釈としては、海図に即して記載されているのでそのままでよいのかということがございますが、これも別な解釈でありましたが、現実の、物理的な現実に合わせて基線を引き直す必要があるという指摘があります。しかしながら、これは国際法上、国連海洋法条約上の義務であるかといった場合には、そうではないというふうな主張の方が多くあります。なぜなら、国連海洋法条約は、直線基線や大陸棚といった特定の場合を除いて、国連等においてそういった範囲を寄託する、固定しているということを届け出る又は更新する義務というものが課されていないからとされております。
 それでは、現実と異なる低潮線が記載された海図をこのまま使用し続けてよいのかということでございますが、この場合、その差異、現実と海図との差異が微少である場合、要は法がこだわるほどまで変化がないのであれば問題がないというふうな主張が法的にはされております。
 しかしながら、先ほど申し上げた一九三〇年のハーグ法典化会議における議論、これは国際法の専門家や海図等に関する専門家の議論がされておりますが、そこにおいては、現実と著しく乖離する場合は、それは正しい海図とは言えないということで、領海の幅が変化した場合はそこにおける管轄権の行使等の問題になりますので、場合によっては関係する国から国際裁判として訴えられる可能性があると。しかしながら、そこまで国はしないだろうということから、問題がないというふうに指摘されております。
 では、その問題がないということですが、微少以上の差異がある場合はどうなるかということですが、これは、最近の国際法上の議論においては、実際の低潮線を代表しない、現実ではない海図の線ということで、それは、法的な擬制、フィクションですね、存在しないものをあるといって領土、領海の幅を保全、保護するということはできないということが国際法上の、国際法学上言われております。
 それでは、解釈論上からそうなるということですが、それでは国家としては領海の消失、島の消失を受け入れるしかないのかということですが、これに対して、やはり問題であるということから、現在の、十一ページにあるように、基線の移動又は固定をめぐる議論が国際法上も、国際的な議論も活発にされているということでございます。
 通説的には、先ほど申し上げたとおり、国連海洋法条約上は基線というものは現実に即して移動するということが基本的な立場となっております。他方で、現在の学説や国家実行からすると、多くの主張が、海面上昇への問題への対応としてはその移動説は好ましくないというふうに指摘されております。したがって、現在、急速に固定説というものが非常に支持を集めております。
 では、この固定説ですが、法的な擬制、フィクションによって基線、低潮線を守るということですが、どのような例があるかといいますと、既に太平洋島嶼国においては実例があります。
 一つが、マーシャル諸島又はキリバス等において、国内法によって、海図において基線の緯度、経度を指定し永久に固定するという措置がとられております。又は、太平洋島嶼フォーラムにおいて宣言されているように、多くの国、その代表が、基線及びその外縁の見直し、基線の更新を行わないという消極的な固定としての主張をしているものがあります。
 その固定説をめぐる支持が現在集められているということでございますが、固定説はどのような根拠で主張されているのかといいますと、十二ページに移ります。
 これに関しては、様々な説が提唱されております。そもそも、国家の裁量、国家は権利として基線を固定することができるんだという主張もあります。これは、国際法上、基線の設定というものは一方的行為として他国からの承認は必要ないということから、国際法上、そのような基線の固定ということが認められるというふうな主張もあります。
 これに対して、やはり確固としたものが必要ということで、新しく、固定を認める国連海洋法条約上の解釈やそのような立法、新しい条約を作るとか、新たな措置を必要、新たな措置が必要であるというような主張もございます。
 現在の国連における議論では、基本的に固定説を少なくとも否定するという主張はございません。ゼロです。また、欧米諸国においては、②の海面上昇に対応する解釈を広く認めるべきというふうな主張がされております。
 下に書いておりますとおり、国連の国際法委員会における暫定的な結論ですが、そこでは、法的安定性、予測性、また第三国との権利義務との関係から、現在の海洋権原、海洋権原というものは維持することが望ましいという結論になっております。
 次に移ってください。十三ページですが、しかしながら、固定説には様々な問題が指摘されております。
 一つ一つ説明すると時間が掛かりますので幾つかピックアップしますが、理論的な問題点でありますが、国連海洋法条約と整合しない基線を恒久的に固定するということになることから、管轄権の行使に関する問題が生じるのではないかというふうな指摘がされておりますし、一番下の方にありますが、潮汐サイクルのある時点で基線が水面上にあるということが前提とされているのが国連海洋法条約上の基本ルールであります。したがって、現実にそぐわない海面を維持すると、基線を維持するということになると、既存の海図が航行に危険を及ぼす可能性も指摘されております。
 時間が迫っておりますので、十五ページに移ってください。
 それでは、法的に固定することが難しいということであれば物理的に保護しなければならないということになりますが、それがどこまで認められるのかということでございますが、これは、沖ノ鳥島に関して様々な指摘がされております。現在、様々な護岸工事等がされておりますが、これに対して、自然に形成されたという要件を満たさなくなるのではないかというふうな指摘がされておりますが、これは、先ほども申し上げましたとおり、十六ページの一番下にありますように、大規模な人工的な改変を行う際のそれに先立つ自然状況で判断すべきということが指摘されております。また、現在、沖ノ鳥島の護岸工事等に関しては、サンゴ礁や土砂等の自然素材を利用しているということから、人工的な保護措置というものは大規模ではされておりません。
 十七ページ、十八ページに移ってください。最後に、海面上昇に対する日本の取組の在り方について若干まとめさせていただきます。
 現在の日本の立場ですが、従来、日本は領海法に基づいて領海の基線等を定めておりましたが、そこには基線を固定する又は移動するということは書かれておりません。しかしながら、昨年、太平洋島嶼国フォーラムの代表団との林外務大臣との会談や、岸田総理のインド世界問題評議会におけるスピーチ、また五月の自民党領土に関する特別委員会の提言等にあるとおり、日本が、方針としては、沿岸国の裁量で基線を固定できると、これを広く認めるべきだというふうな主張をしております。しかしながら、先ほど申し上げたとおり、基線の固定説に関しては解釈論的な観点からすると様々な注意が必要になります。
 そこで、十八ページ、まとめに移りますが、私見としては、現行の国連海洋法条約の解釈上は、一度設定した基線を維持するということは一応可能ではございます。これは、先ほども申し上げたとおり、基線を逐次更新する義務というものがないということから、消極的な意味において可能となります。しかしながら、それが実際の海岸の状況と物理的な実態が著しく乖離するということになった場合は、様々な問題、又は合法性、正当性等が他国から問われる可能性があります。したがって、④にありますとおり、最も現実かつ法的に整合的な選択肢としては、やはり何らかの合意形成をする必要があるということでございます。国連総会の決議等を通じた解釈合意等の採択等が一つの手段としてはあり得るのではないでしょうか。
 いずれにいたしましても、既存の国連海洋法条約上では、の解釈では、海面上昇への問題に一〇〇%対応するということは不可能でございます。したがって、政策論的な立場としては、現在の解釈を超える、そのような提言をすることも重要であるというふうに考えます。
 以上、意見陳述をさせていただきます。

発言情報

speech_id: 121315362X00520240515_005

発言者: 本田悠介

speaker_id: 18423

日付: 2024-05-15

院: 参議院

会議名: 外交・安全保障に関する調査会