山口慎太郎の発言 (国民生活・経済及び地方に関する調査会)

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○参考人(山口慎太郎君) 東京大学の山口です。よろしくお願いいたします。
 私からは、男性の育休取得について、主に諸外国の事例についてお話をしていきたいと思います。
 二ページ目を御覧ください。
 今日お話しさせていただくポイントとして三つ考えております。
 一つ目は、まず最初に、海外と比べた日本の男性育休にまつわる状況というのを御理解いただきたいと思います。
 その上で、男性が育休を取得することによって家族であるとか本人にとってどういういい影響があるのか。これまでに、ヨーロッパなどでは男性の育休取得は既に進んでいることもありまして、どういった効果があるのかということについて社会科学分野で実証研究が進んでおりますので、その結果について御紹介し、恐らく日本でも今後男性育休取得が進めば同様の効果が期待できるのではないかというお話をしていきたいと思います。
 そして最後に、現在、日本の男性の育休取得状況はかなり低いものになっているんですが、こういった状況をどのように変えていくことができるのか。海外も最初から今のように男性の育休取得率が八割、九割という世界だったわけではありません。かつてはやはり三%とか五%とか、そういう時期から始まって現在のような高い男性の育休取得率に至っているわけです。そのプロセスの中に日本にとっても学べる点があるのではないかというふうに考えています。
 では、中身を一つずつ見ていきましょう。
 三ページを御覧ください。
 皆様、この辺の数字は御存じかもしれませんが、日本の男性育休取得率というのは、傾向で見るとここ数年急速に右肩上がりになっていて、期待できる部分というのは間違いなくあるんですが、その水準で見ると一四%ほどであり、女性と比べるとかなりはっきり少ないわけですし、海外と比べても水準としては少なくなっています。
 四ページ目を御覧ください。
 男性の育休の取得率について、先進国について入手可能な国についてお示ししております。全ての国について入手可能ということではないんですが、この御覧いただいているように、多くの大陸ヨーロッパの国々においては七割から九割程度の育休取得率に男性でもなっているわけです。ここでは、イタリア、オーストラリアといった国々ではやや低い三割程度の水準になっているんですが、日本はその半分程度の一四%ということで、先進国の中では最低水準であるということは否めないわけです。
 この背景にどういう事情があるのだろうかというふうに考えていくと、多くの方は、真っ先に、北欧は福祉国家なので育休制度が充実しているんじゃないか、日本はそうでないから制度が余り充実していないんじゃないのかなと考えられる方が多いんですが、実は、実際にはその逆のことが起こっているというのを示しているのが五ページ目のグラフです。
 育休制度の良しあしを国際的に比較する際には、まずはどれだけ育休期間を、育休を取ることができるのかという期間による基準というのが一つあるわけです。その上で、期間中にどれぐらい給付金という形でお金をもらえるのかという、この組合せで順位を付けていくというのが一般的に行われる国際比較の方法です。男性の育休取得についてここでは考えたいわけですから、男性だけに割り当てられた育休取得期間というのをここのグラフではお示ししています。
 これで見ていただくと、上の方にあるアメリカはゼロということですし、先ほどの北欧の国々、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーといった国々でも九から十五週、OECD平均で見ても十週程度ということで、それほど長くはないわけです。一方、グラフ下の方、赤で示している棒グラフなんですが、日本は丸一年父親も育休を取得することができて、制度という形で見ると、ほかのヨーロッパの先進国よりもはるかに優れた制度を私たちは持っているということになります。ちなみに、韓国の方が五十四週で長いんですが、育休期間中にもらえるお金の量で考えると日本の方が手厚いということで、ユニセフは、日本の男性向けの育休制度は世界最高であるにもかかわらず、取得状況は世界最低水準であるということを指摘しています。
 後ほど、何で男性の育休取得、日本で進まないかという点についてはお話ししたいと思いますが、一旦、次の話題で、六ページ目から始まるところで、男性育休は本人にも家族にもプラスの影響があるという様々な社会科学の研究結果を御紹介したいと思います。
 七ページ目には、まず、カナダのケベック州で行われた育休改革の事例を御紹介したいと思います。
 カナダのケベック州では、二〇〇六年から、男性のみが取ることのできる育休の期間というのを五週間導入して、同時に、利用資格の緩和など様々な形で男も育休を取れるようにという改革が行われました。その結果というのは非常に目覚ましいものがありまして、下半分に示しているように、まず育休、男性の育休取得率が二一から七五%ということで大幅に上がりました。期間についても、二週間が平均だったのが五週間に延びたわけです。ここまでは予想される改革の成果であったわけです。成功は成功なんだけれど、驚きというものはなかったんですね。
 ところが、この追跡調査の驚くべき結果というのは、育休が取り終わって三年たってからの男性の子育て時間、家事時間というのが九十分から百十分、一日当たり、七十から八十五分ということで、二割程度増えているということが分かったわけです。つまり、育休、男性が五週間平均で取るようになる、まあ一か月ちょっとですね、それほど長くないんだけれど、このたった一か月というのが三年後のライフスタイルに大きな影響を与えるということを示しているわけです。ちなみに、同様の結果はスペインからも報告されています。
 したがいまして、男性の育休というのは短いから余り意味ないんじゃないか、育児のまね事なんじゃないかというふうに否定的な見方をされている方もいらっしゃるかもしれないのですが、実は、そのたった一か月なんだけど、男の人生変えるぐらいのインパクトがあるものだということは御理解いただきたいと思います。
 続いて、八ページを御覧ください。
 じゃ、何でたかだか一か月の育休が三年後の育児時間に影響するのか。その背後にあるのは最近の脳科学で解明されてきています。オキシトシンと呼ばれる脳内ホルモンがあります。雑誌、新聞なんかでは愛情ホルモンという名前で紹介されていることが多いんですが、これが脳内で分泌されることによって子供をかわいいと思えるようになるということが言われています。そして、このオキシトシンという物質は、母親、女性については出産ですとか授乳といったプロセスの中で自然と分泌される、ある意味女性は、母親になると生物学的に自然な形で子供をかわいいと思う傾向があるということが言えるわけです。
 じゃ、男は、どんなに子育て熱心な人であったとしても、出産もしないし授乳もしないからオキシトシンがないんじゃないか、もしそうだとしたら、子供かわいいと思うのは例外的な人だけで、普通の男は子供かわいいなんてなかなか感じられないんじゃないかというような話になってしまうかもしれないんですが、実は最近の科学研究で、男であっても、子供とスキンシップを持つこと、具体的にはおむつ替えてあげるとかだっこしてあげるとか、そういった当たり前の親として行うことですね、こういったことをするとオキシトシンが出てきて子供がかわいく感じられるようになると。子供かわいくなると、頼まれなくとも、当然、子供のお世話もっとしてあげたくなるわけです。そうすると、もっともっとオキシトシンが出てくる。オキシトシンがもっと出てくると、もっと子育てに時間を使いたくなると。こういった非常にポジティブなサイクルが動き始めて、三年後の家事、育児時間の延長ということにつながっているわけです。
 最初は、男性はなかなか子供のかわいさというのは分からない方というのも正直多いんじゃないかなというふうに思います。私自身も、実際に子供を持つまで、子供を持つことがどういうことか分からなかったし、子供かわいいというのは感覚的にはありませんでした。同様のことは私の友人でも言う者は少なくありません。
 そして、私は、半ば責任感のようなものから、取りあえずもう自分の子供なんだから自分で面倒見てやらなきゃいけないよねという、かわいいから面倒を見るのではなくて、義務感、責任感から、まずおむつ替えよう、だっこしよう、何か話しかけてあげようというようなことから始まりました。やっているうちにかわいさが分かるようになって、もう誰に頼まれなくとも子供と一緒にいる時間を増やしたいなというふうに感じたものです。
 したがって、男性が育休を取ることを推進することによって、まずは子育てのスタートダッシュ、ブートキャンプのようなものを始めて、始めてしまえばもう子供のかわいさというのは多くの男性でも感じられるようになるものなので、ここに男性の育休を推進する大きな価値というのがあるというふうに考えています。
 そしてさらに、育休には望ましい効果というのはまだまだございまして、九ページ目を御覧ください。
 育休取得で子供の偏差値、学力も上がるというようなこともノルウェーの研究から報告されています。男性、父親が育休を取ることで子供との関係が良くなって、子供の発達が安定してくるわけですね。結果的に、十六歳時点で偏差値が一向上したと。決して大きな数字ではありませんが、子供の発達にとってプラスであるということが分かることはかなり喜ばしいことかなというふうに思っています。
 また、夫婦仲にも好ましい影響があることが報告されています。十ページ目を御覧ください。
 夫婦仲、どう測るのかというのはなかなか難しいものではあるんですが、ここでは、この研究者たちは一つの目安として離婚率というのを指標に取っています。夫婦仲が良ければ離婚率は低めになるだろうというような考え方が背後にあるわけです。
 こちらで御紹介したい研究というのはアイスランドのもので、アイスランドにおいても父親向けに大きな育休改革を行いました。結果、男性が育休取るようになったと。と同時に、出産五年後の離婚率が二三から一七%に下がりました。さらに、出産十年後で見ても、長期的に離婚率が三三から二九%に下がることが報告されました。
 どうしてこういった変化が起こるのかということについては、十一ページ目に著者らの見解をまとめてあります。
 そもそも子供というのは、日本語では子はかすがいという言い方をするんですが、実は、世界的には、日本も含めてなんですが、子供が生まれた直後というのは離婚率が大幅に上がることが知られています。夫婦仲が急激に不安定になるんですね。
 その背景には、これまで夫婦だけでお金も時間も使えていたんだけれど、今度は急に子供中心の生活になってしまうということで、結婚に対する満足感が急激に低下するわけです。その上、日本でよく言うようにワンオペ育児ということになってしまえば、妻の側からすれば相当な不満もたまってしまうわけです。そこが男性が育休取ることによって、子育て初期の大変な状況というのを夫婦協力して乗り切ることによって、夫婦で抱えがちな問題、葛藤というのを抑えることができるのではないかということが言われています。
 そして、気になる所得への影響ですが、十二ページ目を御覧ください。
 男性については、所得は二%減っているということがノルウェー、スウェーデンの研究から報告されています。そして、この減少というのは子供が五歳になっても消えない効果なので、長期的な効果があるということが分かっています。
 これだけ聞くと、二%は小さいかもしれないけれど非常にマイナスの影響があるのではないかというふうに感じられるかもしれないんですが、この何で二%減ったのかという部分について掘り下げてみると、要は子育てや家事を重視するようなライフスタイルに移ったのではないかということが指摘されています。
 例えば、それまでは残業していて残業代が家計に入ってきたのが、ちょっと子供、子育てに時間を使うようになったので残業を少し減らすと、二%分、その分所得が減った。数字で捉えることはできないんですが、その分、子供と過ごす時間が増えて、本人の満足度、幸福感というのが上がったのであれば、お金と引換えにして大きなものを得ているというふうに言えるかもしれません。
 また、こちらはカナダの研究なんですが、家計全体、夫婦の所得を合算した場合には、ひょっとしたらマイナスというのはほとんどない、むしろプラスであるかもしれないことが指摘されています。
 どういうことかというと、父親が家の中で家事、育児の責任をより多く担うようになることで、妻は家庭内の責任が軽くなるわけですね。そうなると、外で仕事で活躍できるようになり、結果、妻の方の所得が上がって夫の所得の減少というのを打ち消すことができるかもしれないと。カナダのケースでは、母親のフルタイム就業率が五%ポイント上がったことが指摘されています。
 では、続いて、最後のトピックで、どうすれば増える、男性育休ということなんですが、十四ページ目を御覧ください。
 先ほど、日本の男性の育休取得状況が余り伸びていないということについては、制度のせいではないんだよというお話をしました。アンケートなんかで見ていくと、なぜ取らないのですかということを聞くと、ここに挙げているような三つが必ず理由として挙がってきます。昇進などキャリアに悪い影響、同僚や上司の目が気になる、仕事が忙しい。こういった理由を目にすると、まあ、やっぱりなと感じられるかもしれませんし、日本的だなというふうに思われるかもしれません。これらが示しているのは、制度ではなくて、まず職場にやはり最大の問題があるという指摘なんですね。
 それと同時に、海外の取得事例を掘り下げてみると、実はこれ、日本特有でも何でもなくて、今、育休取得率、男性で八割、九割という北欧でも、こういった理由で育休を取らない男性というのがかなりいたわけです。ところが、育休取得を推進していく中でこうした懸念というのが消えていって、今のような状況になるわけです。
 そのプロセスを詳しく見た研究によると、十五ページにあるような結果が報告されています。
 ここでは、育休は伝染するということでまとめさせていただいているんですが、考え方としては、周りの誰かが育休を取るとほかの誰かが育休をぐっと取りやすくなるということがあって、どんどんどんどん育休取得の連鎖が、輪が広がっていくんですね。
 具体的な数字としては、職場の同僚あるいは血のつながった実の兄弟が育休を取ると、じゃ、自分も取ってみようかなということで、育休取得率が一一から一五%ポイント上がることが報告されています。そして、驚くべきところは、子供を持たれる方で部下を持つ方も多いんですが、上司が育休を取ると、もうその職場においては男も育休を取ることは問題ないんだよと強烈なメッセージになるんですね。結果、同僚同士の影響の二・五倍という非常に大きな影響を持っているわけです。したがって、日本においても、誰かが育休を取るということは次の誰かが育休を取ることの手助けにつながっているんですね。
 十六ページを御覧ください。
 こちらのチャートでは、北欧において育休取得が増えていったメカニズムに、背後に何があったかを示しています。
 まず最初に、職場で誰かが勇気を持って育休を取得するわけです。まだ誰も職場で取っていないんだけれど、誰か取らないとまず始まらないわけですね。この部分を例えば制度的に助けてやることはできるのではないかというふうに考えています。後ほどお話しします。
 その結果、誰かが育休を取って、育休取った結果、問題なかったなというのが同僚が見て、周りが確認すると、じゃ、自分も取ってみようかなということでまた後に続く人が取る。さらに、その後に続く人も育休を取るようになっていって、育休取得というのが社会の中で当たり前のものに最終的にはなっていくということが報告されています。
 十七ページを御覧ください。
 では、日本でどのように育休取得を男性の間で広めていくかということについて、簡単なアイデアを三つまとめています。
 そもそも当然のことなんですが、第一に、育休取得したからといって不利に扱わない。職場で昇進させないですとか仕事から干してしまうといったことは、当然違法でもありますし、行わないようにしなければならないと。
 その上で、最初に職場で勇気ある父親というのが出てこなければいけないわけです。これについては、給付金の引上げということで経済的なインセンティブを提供することも制度としては良いと思いますし、会社の中で表彰する、あるいは何かの報奨金を付けるというのもアイデアになると思います。
 その上で、社内で、社内の誰々は育休取ったんだけれど、その後、プライベートも仕事も充実していますよといったことをどんどん広めていくことが肝腎かなというふうに考えています。
 では、最後に、十八ページを御覧いただいて、私からの報告をまとめさせていただきたいと思います。
 主に三点ございます。
 一つ目、日本の育休制度は世界最高だけれども、取得率が著しく低いと。主な障壁は職場にあるので、これからは、経済界に対する働きかけ、経済界が変わっていかなければいけない、働き方改革というのが必要だということを指摘しておきたいと思います。
 二つ目、男性の育休取得というのは本人と家族に大きくプラスの影響があります。たかが一か月というふうに思われるかもしれませんが、大変大きなインパクトがあります。私の個人的な意見ではあるんですが、男性の育休取得推進というのは最も効果を過小評価されている政策、施策の一つではないかというふうに考えています。
 そして最後に、男性の育休取得というのは伝染するのだと。誰かが周りの地域なり職場なりで先陣を切って育休を取ることは、後に続く人に対して道を開いていることにつながるということを指摘しておきたいと思います。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 山口慎太郎

speaker_id: 27771

日付: 2024-02-21

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済及び地方に関する調査会