松尾豊の発言 (内閣委員会)
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○松尾参考人 東京大学の松尾と申します。
AI戦略会議において座長を務めさせていただいております。
本日は、本法案に関しまして、1、AIの利活用及び開発力の強化、2、人材育成の重要性、3、イノベーションの促進とリスク対応の両立の三点について、意見を述べさせていただきます。
それに先立ちまして、今現在の日本を取り巻くAIの状況についてお話ししたいと思います。
二〇二二年十一月に出たチャットGPT以降、世界は生成AIをめぐって大きく変化しています。オープンAIは次々と新しいサービスを出し、GAFAMと呼ばれるグーグルなどの米国企業は生成AIに多額の投資をしています。中国でも、最近ディープシークと呼ばれるサービスが注目を集めましたが、アリババ、テンセントなどの企業も非常に高い技術力を持っています。生成AIの開発にはGPUという半導体が不可欠ですが、これを提供するエヌビディアは世界一の時価総額となりました。
一方で、日本は、デジタル分野でここ二十年、後塵を拝してきました。皆様がお使いのスマホ、検索サービス、Eコマース、会議アプリなど、多くのものが海外製です。そうした海外の企業がAIに巨額の投資をしていますから、日本はAIの分野においても非常に苦しい状況にあります。まず普通にやって勝てない状況にあると思っていただいてよいと思います。日本のデジタル赤字が大きく膨らんでいることは皆様もよく御存じのところかと思います。
そういった状況の中で、これまでのAIに関しての国の動きはどうか。チャットGPTが出て以降の日本の国としての動きは、私はほぼ満点と言ってもいいと思います。
といいますのも、インターネットが伸びてきたとき、ソーシャルメディアが伸びてきたとき、あるいはスマホが出てきたとき、いずれも日本は数年遅れでした。イノベーションが起きていることにすら気づかず、気づいたときには既に世界で勝負は終わっていた、その市場に参入するチャンスすらなかったというような状況でした。ところが、今回、生成AIに関しては、世界と同時に驚き、そして、各国政府よりむしろ早く着実に対応しているとさえ言えます。
とはいえ、大前提として、デジタルの分野は圧倒的な実力差、投資規模の差があります。これを将棋に例えますと、将棋の形勢としては劣勢、敗勢ながら、最もよい手、最善手を指し続けている、それによって形勢は悪いながらもチャンスは残っていると言えると思っています。
具体的に言いますと、まず、二〇二三年から経済産業省が主体となって、必要な半導体、GPUを大幅に確保、増強しました。これは生成AIの開発において欠かせないもので、これがないと戦いに参戦すらできません。私の研究室でもこのGPUが増強されたおかげで研究を進めることができていますし、また、スタートアップでも思い切った開発を進めることができるようになっています。
次に、開発者の育成をしてきました。経済産業省のGENIACというプロジェクトでは、日本全国から優秀な開発者を募り、支援をしています。日本語に特化したもの、あるいは特定の分野に特化したものに関しては、海外の生成AIの性能を超えるような例も出始めています。
また、こういった最先端の分野では本当に珍しいと思いますが、日本が存在感を持って国際的な議論をリードしています。総務省を中心に、広島AIプロセスの立ち上げ、そこから五十五か国・地域に広げた広島AIプロセスフレンズグループの展開を行っています。また、世界で三番目という速さで、AIセーフティ・インスティテュートという安全性に関する組織が昨年二月に立ち上がりました。
このように、日本の国としての動きは素早く、また最善の手を続けており、ここまでは満点と言ってもよい内容だと思います。
肝腎なのは、ここからどうするかです。
一つはAIの利活用を進めていくことです。日本は経済規模がそこそこ大きいにもかかわらず、デジタルやAIがこれまで一向に進んできませんでしたから、伸び代という面ではかなりあります。
例えば、高齢化に伴う医療費の増加は国全体の喫緊の課題ですが、これまで医療分野ではデジタルの活用は残念ながらほとんど進んできませんでした。ところが、生成AIを活用することで、データを統合する、医師のサポートをする、あるいは医療事務を効率化することなどができるかもしれません。そうすると、医療分野全体が大きく効率化し、生産性が上がるはずです。また、事務作業に関して言えば、行政も大きく効率化することができるでしょう。結果的に市民サービスの向上につながります。
最近では、生成AIはロボットの分野にも使われるようになってきています。汎用型のロボットが洗濯物を畳んだり、机を片づけたりすることができるようになってきました。ロボットの頭脳、AIの部分が大きく進展しているからです。こうしたロボットの技術を日本でも開発していけば、介護、物流、建築、農業、防災などの各分野に役立てることができます。
そして、もう一つ重要なことは、こうした活用のための技術自体を日本でつくるということです。海外のサービスを活用するだけではデジタル赤字がますます拡大します。AIを日本の中で開発するための開発力の強化についても、政策として取り組んでいくことが重要です。
今、私の研究室ではAI人材の育成をしています。年々、多くの方がAIの講義を受講してくださっており、昨年度は二万七千人が受講しました。広く学生全般に開放しているのですが、東京大学以外の大学生も多く、また、高校、中学からの受講生も増えています。日本中の学生がAIを勉強し始めています。
若者がAIを勉強すること、あるいは社会人がリスキリングとしてAIを勉強することで、日本全体がAIを活用する、開発をする土壌がつくられていきます。これを加速するためには、全国の大学や高専などが中心となってAIの教育を更に強化すべきです。
また、地域で学んだ人材が、地域の企業のAI活用、AI開発を助ける、そして、スタートアップをつくって大きくなり上場する、こういったことが増えてくれば、地域経済、日本経済全体が活性化してくると思います。
同時に、こうしたAI人材の育成は日本にとどまりません。東南アジアやアフリカなどの国でも同じようなことが必要とされています。これまで築いてきた広島AIプロセスの基盤を生かしながら、日本がグローバルサウスでのAI人材の育成にしっかり協力することで、世界でもリーダーシップを強めていくことができると考えます。
さて、そうした中で、今回のAI法案になります。本法案は、二〇二四年七月以降、AI制度研究会を七回開催し、研究者や事業者等のヒアリングを含む議論に加え、パブリックコメントを経て作成された中間取りまとめの内容を受けて、AIに特化した日本初の法案として、二〇二五年二月二十八日に石破内閣で閣議決定されました。
総理あるいは担当の城内大臣から、イノベーション促進とリスク対応の両立を図り、世界で最もAIを開発、活用しやすい国を目指すと説明されていますが、この意味について少し解説したいと思います。
日本において、AIの進展が様々な社会課題を解決し、経済を成長させる大きな機会であるというのはこれまでにお話ししてきたとおりです。
しかしながら、生成AIの急激な進展に不安を感じている方もおられます。自分の仕事がなくなるのではないか、自分の作った作品が学習に使われているのではないか、AIが様々な犯罪に使われる可能性があるのではないかといったことです。こうした不安、リスクにきちんと対応する必要があります。
これまで、大ざっぱに言って、ヨーロッパはリスク対応を重視し、AIに関して強い規制を取る、米国はイノベーションを重視した方針、こういうふうにされてきました。つまり、リスク対応とイノベーションの促進はトレードオフだということです。どちらかを上げれば、どちらかが犠牲になるということです。
しかし、研究会の議論の中で明らかになってきたことは、これはトレードオフではない、つまり、きちんとしたリスク対応を取ることでイノベーションが進むのではないか、リスク対応とイノベーションの促進を両立させることができるのではないかということです。
御存じのとおり、日本では新しい技術を使って新しいことをやろうとしても、前例がないのでやめておきなさいと言われます。しかし、リスクに対してしっかり対応されていれば、かえって新しいことに取り組む人も増えます。
リスク対応とイノベーション促進はトレードオフではない、両立するのだということが、我々の中間取りまとめの重要なメッセージであり、それが法案にも生かされていると思います。
もう一つ重要なことは、これだけ早い進展をするAIにおいて、今見えているリスクだけがリスクではないということです。
生成AIの画像の生成能力が飛躍的に上がったからこそ、ディープフェイクというリスクが新たに出現しました。この先も技術の進化によって新たなリスクが現れてくるでしょう。
そうしたときに、特定のリスクにだけ対応した法律を作っても不十分です。したがって、どのようなリスクがあるのかの情報収集をし、必要に応じて調査をする、関係の法律で対応すべきときはそれを素早く的確に行うということが必要になります。
今回の法案は、ハードローでありながら、ソフトロー的な柔軟性を持つ、AIの性質を踏まえた規制の在り方として世界の中でも大変に先進的な法案であると考えます。
本日の御説明は以上となりますが、今回の法案によって、リスクにきちんと対応しながら、AIの開発、活用が進むことで、様々な社会課題が解決され、日本の経済が発展する、また生産性が上がり、人々が生き生きと働くことのできる社会になることを期待しております。
以上です。(拍手)