樋口亮介の発言 (法務委員会)

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○樋口参考人 御紹介にあずかりました樋口亮介と申します。
 本日は、このような場で意見陳述を行う機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
 私は大学で刑法を教えておりまして、先般の法制審議会にて幹事として参加し、実体法の観点から発言させていただきました。
 本日は、法案に賛成の立場から、新設される罪のうち二つについて意見を述べさせていただきます。
 まず、電磁的記録文書等偽造等罪につきまして、直接のきっかけは、令状の電子化に関連して、電子令状の偽造に対応する必要があるとの問題意識でした。
 従来の令状は紙媒体であったところ、電磁的記録の令状を認めると、その行使の際には令状データをタブレット等で名宛て人に表示するという形態が生じます。この形態を念頭に、電磁的記録としての令状として表示されるデータの外観を備えるようなデータを権限のない者が作成し、行使した場合に、適切な罰則を新設する必要があるのではないかという議論が進められました。
 もっとも、このような問題意識のみでは、電磁的記録形態の令状の偽造への対応が必要であるとしても、電磁記録文書等の偽造を一般に処罰するのは過度に広範ではないか、例えば、軽犯罪法一条十五号の定める官公職の詐称等の罪を拡張すれば足りるのではないか、このような疑問も生じるところでございます。
 しかし、現在ではスマートフォンが普及し、行為者がスマートフォンの画面に、作成権限がないのに作成されたデータを表示するといった事案も想定されるという形で、データとしての令状の表示という事案を超える当罰性が指摘できるところです。データを小型の電子機器で持ち歩き、その画面上に表示するというのは新たな現象であり、このような現象への対応が必要であり、立法事実は令状データの偽造に限られないと言えます。
 もっとも、電磁的記録文書等偽造等罪の構成要件は、行為者自身が所持するデータ表示媒体の画面を相手方に示す事案だけに限られるわけではありません。行為者が送信するデータについて、受領者が所持する媒体で表示して閲覧する場合であっても適用可能である点で、必要性、相当性がなお問題になります。
 例えば、私人が公務所の公式のSNSアカウントを乗っ取り、当該アカウントから公式の発表であると誤信させるようなデータを入力、送信し、閲覧者がその内容を読む場合、公電磁的記録文書等偽造及び偽造公電磁的記録文書等行使罪が成立すると思われるのです。ほかにも、権利義務又は事実証明に関するものに限定されるものの、私電磁的記録文書等偽造・行使罪が新設されますので、私人のメールアドレスを乗っ取って送信する、SNSアカウントを乗っ取って送信する事案も処罰対象になり得ます。
 さらには、アカウントの乗っ取りがない場合であっても、データの発信主体が著名人と誤信させるに足りる外観を備えたデータの作成、受領者への発信行為について、権利義務又は事実証明に関するものと言えれば、偽造・行使罪が成立するように思われます。
 これらの現象は、電磁記録文書等偽造等罪新設の議論の直接のきっかけであるところの令状データの偽造という現象とはかなり異なっているのは確かです。また、アカウントの乗っ取りという現象は以前から存在したわけですが、これについては不正アクセス禁止法による対応がなされています。ほかにも、著名人の発信の偽装は、それが財産の詐取に結びつくものであれば、刑法上の詐欺罪による対応が可能でしょう。
 しかし、不正アクセス禁止法も詐欺罪も、データの発信主体を偽るようなデータの作成及び発信行為それ自体を処罰するものではありません。データの偽造及び偽造データの行使は、インターネット社会では以前から存在したのでしょうが、近時、その問題性が強く認識されていることは明らかです。
 刑事罰の新設は、犯罪化することが要請されるような社会的現象の存在という立法事実が重要であると考えます。電磁記録文書等偽造等罪の新設は、刑事手続のIT化の一環として導入される電子令状の偽造という局面、スマートフォン等によるデータの持ち歩きと画面への表示が可能になったことから画面に表示させるデータの偽造という局面への対応、これらが立法事実になります。
 しかし、それと同時に、データの発信主体を偽るデータの作成と発信というネット上の現象についても、アカウントの乗っ取りや詐欺といった対応を超えた対応の必要性が意識されるようになっていることもまた立法事実と見れば、その必要性は明らかでしょう。
 そして、電磁的記録文書等偽造等罪という罪は、従前の文書偽造罪について蓄積されている判例を参照できるという点で、相当な立法との評価が可能です。
 文書偽造罪の成立範囲については様々な議論が存在し、その限界線が一義的に明確とまで評することは困難であるのが実情とは思われるのですが、これは法律の解釈論の性質によるものであり、文書偽造罪固有の欠点というものではございません。
 第二点、電磁的記録提供命令については、刑事訴訟法上の観点が重要ですが、間接罰及び両罰規定が法案になっておりますので、実体法の観点から、多少意見を述べさせていただきます。
 間接罰の一般論として申し上げますと、一定の政策目的を達成するための義務づけについて、その履行を強力に担保することが必要であり、また、罰則を設けてもその弊害が許容範囲に収まるという意味での相当性が認められるかが問題になります。
 電磁記録提供命令に罰則を設ける立法事実については、捜査の実情を知らない研究者が何かを申し上げることは容易ではありませんが、クラウドの利用が一般化した現在の社会生活への対応として、データ提出に非協力的な事業者に強制する必要性、及びデータを保護する暗号技術の著しい向上による捜査の困難状況への対応の必要性は認められるように感じられます。
 また、相当性については、電磁記録提供命令の濫用にわたらない制度になっているとの刑事訴訟法上の評価によって基本的に基礎づけられると言えます。
 実体法的観点から独自の相当性の評価に関する視点としては、被疑者、被告人を名宛て人にする義務履行の罰則による強制の当否という問題があります。
 例えば、刑法典上の証拠偽造罪は犯人自身は主体にならないところ、学説では、犯人が自らの犯罪の証拠を隠滅することはやむを得ないとの発想があり、期待可能性がないと表現されているところです。この期待可能性の議論を被疑者、被告人を名宛て人とする電磁的記録提供命令に及ぼしますと、自らの犯罪の証拠を開示させることにつながる点で期待可能性が認められないとの議論が問題になり得ます。
 しかし、例えば、特殊詐欺の被害金を隠匿するマネーロンダリングについては詐欺の犯人も処罰するとの立法がなされていることから明らかなのですが、期待可能性という視点をどこまで重視するかは立法政策に依存します。被疑者、被告人を名宛て人とする制度導入の必要性が高い場合、期待可能性の視点を後退させることも立法として可能と言うべきでしょう。
 両罰規定について、一般論として言いますと、事業に関連して生じる違法行為について、事業者の刑事責任を問うことが必要、相当である場合に導入されるべきものです。
 電磁記録提供命令について申し上げますと、データを保管する事業者の内部の従業員が個人の判断で命令に応じないとの意思決定をすることは通常考え難いように思われ、データ提供命令に応じない事業者自体の刑事責任を問うことが必要と考えられます。両罰規定を導入する場合、電磁記録提供命令の不履行の意思決定に関与した代表者、従業員等といった自然人と法人事業主に刑事罰が科されることになりますが、これは組織体による違法行為への対応として一般的なものであり、相当でないと評価されるものではありません。
 私からの意見陳述は以上になります。御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 樋口亮介

speaker_id: 4389

日付: 2025-04-04

院: 衆議院

会議名: 法務委員会