次原悦子の発言 (法務委員会)
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○次原参考人 おはようございます。
冗舌な竹田先生の発言の後では非常にやりづらいものがございますけれども、おつき合いくださいませ。
経団連審議員会副議長並びにダイバーシティ推進委員長を務めさせていただいております、サニーサイドアップグループの次原悦子でございます。
昨年六月に、前経団連会長であります十倉会長の方から、ダイバーシティーの第一歩としまして、選択的夫婦別姓の実現を政府に提言をし、取組を進めてまいりました。本日は、貴重な機会を頂戴いたしましたので、経団連からの考えを述べさせてください。
企業にとって、ダイバーシティーはイノベーションの源泉であり、持続可能な成長のためには欠かせないものでございます。特に、人口の半分を占め、消費購買決定の約七割にも関与しております女性の活躍というのは、企業の成長そのものと深く関わっておりまして、経団連としても長きにわたり真摯に取り組んでまいりました。
しかし、企業の努力だけでは乗り越えられない壁も存在いたします。その一つが、現行の夫婦同姓制度です。
提言に先立ち経団連が実施した調査によりますと、九一%の企業が旧姓の通称使用を認めている一方で、税や社会保障の手続や、結婚や離婚などのプライバシーに関わる情報管理におきましては、企業としても大きな負担が生じているという声が寄せられております。さらに、女性役員の八八%が、通称使用が可能であっても何かしらの不便や不利益があると回答しております。
私自身が、ビジネス上使い続けてきた名前と戸籍名が違うという、それによる不都合、不利益を長年感じた経験を持つ一人でございます。少しだけ、ここで個人的なお話をさせてください。
私は、十七歳でこの会社を設立しました。そのときに、両親とは異なる母方の祖母の姓、次原を名のることにしました。祖母は、二十六歳から戦争未亡人で、三人の娘を女手一つで育ててくれた人です。たった一枚の写真でしか知ることはないのですが、三十歳という若さで戦死した祖父の名前が祖母で途絶えてしまうという、そんなことに何とも言えない寂しさを感じまして、祖父母の姓、次原、この名前で仕事人生を歩むことを決意しました。
その名前とともに仕事に没頭し、時を重ね、二〇〇八年、会社がいざ上場するというときに、申請は戸籍名しか認められないという制度の壁に直面いたしました。結婚により改姓していた私は、次原悦子の名前では上場ができなかったのです。結論から言いますと、私はこのタイミングで離婚を選びました。
その後に通称の併記が認められるようにはなりましたが、旧姓の括弧書きや戸籍姓を注釈で記載されるといったもので、生来の名前を単独で使えるものではございません。銀行口座、パスポート、航空券、セキュリティーチェック、通称名を選んだ人にとっての不便というのは、一つ一つがとても小さくて、不都合は自分たちが選んだ問題なのだから仕方がないことなのだと多くの女性たちが諦めてきたと思います。
しかし、この数年で、まさに先生方の御尽力で通称使用は大幅に拡大されました。これは感謝しかございません。ただ、私自身も、経団連の会員企業の女性たちと交流を重ね、ミッションで共に海外渡航する中で、今でも幾つもの小さな不便に直面している女性たちが実は多くいるのだという、その現実を知りました。このことは決して個人の問題にとどまることではなく、企業活動にも少なくとも影響を及ぼす構造的な課題であると、経団連としても考え始めたのです。
通称というのは法的な氏名ではございませんので、税、社会保障といった行政手続や海外でのビジネスなど、多くの場面で旧姓の単独使用は認められておりません。また、仮に旧姓の通称使用が法定されたとしても、一人に対し戸籍姓と通称姓の二つの法的な姓が誕生することは新たな混乱を招きます。とりわけ海外では、セキュリティーの厳しい現代、身分を証明するのはパスポートというのは基本でございますので、全ての国でダブルネームという存在の意味を理解していただくのは極めて困難です。
そして、何よりも不便の解消だけでは解決できないことがございます。氏名は、自分自身を表すものです。その名前で私たちは生きています。そこに思いのある人にとっては、姓が変わってしまうということによるアイデンティティーの喪失感を拭うことはできません。
通称使用の拡大と選択的夫婦別姓は、二者択一の問題ではございません。通称使用の拡大では解決できない課題やその思いがあるということを是非とも御理解いただきたいと思います。
これを解決するためには、一九九六年の法制審答申は、現在におきましても社会の実情を踏まえた極めて妥当な内容であると経団連は考えております。戸籍制度の崩壊を懸念する声もありますが、この案であれば、いずれも夫婦が同一戸籍内に在籍することを前提としておりまして、制度の根幹やその機能、重要性を揺るがすものではないと理解しております。
他方、旧姓に法的根拠を与えるという案についてですが、ダブルネームの回避のために、旧姓使用の届出をした人は戸籍上の姓は公的に使用できなくなる、もしそういうことであれば、そもそもの戸籍制度の存在意義が薄れてしまうのではないかなと思います。
家族の一体感が薄れてしまうという声もありますが、現に、離婚や再婚、国際結婚等により親と姓が異なる子供は珍しくなく、それによって愛情やきずなが失われることではありません。私は、離婚を経験し、二人の子供がおりますが、姓が違っております。ただ、その異なる姓について違和感を告げられたことは一度もございません。女系家族ですから、家族旅行も家族全員名字が違うというのも何回もございますが、これは当たり前のことです。
とにかく、家族の在り方というのは様々です。家族というのは、姓に規定されるものではなく、それぞれの背景と尊重の下で築かれるものでございます。選択的夫婦別姓を望む方には、それぞれに異なる事情や思いがあります。事業継承、アイデンティティー、尊厳、中には姓名判断の画数、そんなこともございます。その理由は本当に様々です。でも、そのどれもが人生を真剣に生きる人たちの大切な選択なのです。
好きな人と同じ名字になりたい、通称使用で十分という方もたくさんいらっしゃいます。その方の方がとても多いと思います。私たちが求めているのは、あくまでも選択の自由です。誰かの価値観を押しつけるのではなく、全ての人の価値観がひとしく尊重される社会をつくるための制度改革です。
最後に、改めて言わせてください。
名前とは、性別にかかわらず、その人の人格そのものでございます。とりわけ職業人にとりましては、これまで積み重ねてきたキャリアや信用、人脈と密接に結びついております。希望すれば生来の姓を維持できる、そんな制度を設けることは、自分らしく誰もが生きていくための大切な選択肢なんだろうと思います。価値観の押しつけではなく、多様な価値観を受け止める制度へと進化させることは私たちの世代の責務なのだと思います。
どうか、党派を超えた建設的な議論が重ねられ、前向きな結論に至ることを、経済界の立場より心より願っております。
以上です。清聴ありがとうございました。(拍手)