内藤忍の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(内藤忍君) おはようございます。労働政策研究副主任研究員の内藤忍と申します。
今日は、貴重な場で意見陳述の機会を賜りまして、ありがとうございます。
私は、労働法分野で、主に仕事上のハラスメントの防止策についての研究を進めてきた者でございます。ハラスメント関係では、これまで過去に、厚労省でパワハラ関係の複数の会議の委員を務めてきたほか、二〇二一年度から自治労のカスハラのマニュアル作成に関わりまして、その後、二〇二三年度からは東京都のカスハラ条例の検討部会の委員などを務めております。
さて、今回は労働施策総合推進法等の改正法案ということで、幾つかの改正点が含まれていますが、今日は時間の制約上、私からは主に現行のハラスメント法制の課題について意見を述べさせていただきたいと思います。
最初に、残念なことをお伝えしなければなりません。それは、今日の準備のために現行のハラスメント法制を見て意見を述べるべき項目を書き出してみますと、それは二〇一九年の前回のハラスメントの法改正時に衆議院厚労委員会で参考人としてお話しした項目とほぼ同じでした。六年もたったのに指摘する内容もほとんど変わっておりません。今のままのハラスメント法制、若しくは改正するにしてもこのように余りにも時間が掛かる法改正のスピードでは、ハラスメントや、その被害の深刻さに対する無理解からくる不適切な対応や、二次被害に苦しむ人は減りません。
そして、適切な救済制度がない日本において、多くのハラスメント被害者が泣き寝入りを強いられています。被害者は我慢し続けるので、結果、心身に影響を及ぼすことも多く、今、中井参考人からもお話ありましたが、人材の流出にもつながるということで、企業のリスクにもなり得る問題です。
今回、カスハラ、求職者等へのセクハラへの対策として提案されたのは、これまでも日本のハラスメントの法規制の中心であった事業主の措置義務という形です。これらについて、指針で事業主は取り組むことが望ましいとされている現段階からすれば、事業主の義務化自体は良い方向と考え、私は賛成いたします。
しかし、そもそも現行のハラスメントの措置義務には、履行率が低いという問題点があります。現在、ハラスメント指針で義務化されている十項目の措置のうち全義務を履行している事業主の割合はといえば、セクハラの場合は、措置は、三十人以上の規模の企業で四八・三%が全て取り組んでいるであり、つまり、四五・九%が一部取り組んでいない取組がある、五・八%が取り組んでいないと回答しています。パワハラもほぼ同様の割合です。
つまり、現在、過半数の企業が義務違反の状態にあるというわけです。セクハラの場合、二〇〇七年に均等法の措置義務が施行されて十八年もたちます。それなのに、半数以上の事業主が法を守れていないのです。これが日本のハラスメントの中心的な規制なのにです。
事業主がハラスメントを予防したり対応したりすることはハラスメントをなくしていく上で大切なことなので、この措置義務という手法がハラスメント法の中に取り込まれることは評価すべきです。
仕事の世界における暴力とハラスメントに関するILO百九十号条約でも、使用者に防止措置を求める法整備は求められています。だとすれば、措置義務という手法を取ると同時にこの措置義務の取組率を高める仕組みも考えなければ、実効性は低いものとなってしまい、ハラスメントは減らないでしょう。
本法案の措置義務化も、これまでのハラスメントと横並びに法律に盛り込むことだけが目標化してしまっていなかったでしょうか。措置を遵守しない場合、法に基づき、行政は事業主に対し是正指導することができますが、不遵守に対する罰則はなく、唯一の制裁と言える企業名の公表制度でも、ハラスメントの措置義務違反で企業名が公表されたことはありません。その理由は、指導されれば是正する事業主がほとんどだからですが、企業名公表規定が措置義務履行を促進するよう、より機能する方向で運用の在り方についての検討を進めるべきと考えます。
なお、前回、二〇一九年の法改正時の参議院の附帯決議で、指導に従わない場合の企業名公表の効果的な運用方法について検討を行うことと、既に政府に注文が付いていたことを付言しておきます。
法が求めている措置に関する別の問題点としては、それらの義務が必ずしもハラスメント防止や解決に有効なものとなっているわけではないということです。国は、均等法や労働施策総合推進法で事業主にハラスメントの相談窓口の設置、周知を義務付けていますが、実際に相談するハラスメント被害者は非常に少ないのです。
厚労省調査では、例えばセクハラでは、社内の相談窓口への相談は被害者の二・八%、被害者のです。人事等の社内の相談部署にも三・八%の被害者しか相談していません。職場でセクハラを受けて、何もしなかった、つまり我慢している人が含まれますが、と回答した人は五一・七%と、事後の対応としては最も多いままです。
つまり、法は相談窓口の設置と周知を求めていますが、ただ形ばかり窓口を設置、周知しても、利用されない、実効的でないということです。ハラスメント対策として事業主に措置を課すということであれば、どのような取組をどう取り組めば社内風土が変わって、ハラスメントを実際に防止できたり、当事者が納得できる解決が得られたりするのかをきちんと検証した上で企業に義務化する必要があると考えます。
次に、救済です。前回、こちらの参議院の附帯決議でも、ハラスメント被害の救済状況について民間、地方公務員の両方について調査をし、実効性ある救済手段の在り方について検討することとされましたが、私が知る限り、実効性ある救済手段の在り方の検討はなされていないと思います。
民間労働者はハラスメントの紛争解決のため労働局を使用することができるわけですけれども、セクハラの相談は七千四百十四件ありますけれども、紛争解決の援助申立ては九十件、調停は七十六件と、紛争解決、救済に至るケースというのは非常に少ないです。裁判や労働審判を利用するのは非常に大変ですので、行政の紛争解決が利用しやすいようにしなければならないというふうに思っています。
先ほど述べたILO百九十号条約では、加盟国は暴力やハラスメントが生じた場合に適切かつ効果的な救済、安全かつ公正で効果的な報告並びに紛争解決のための制度等を利用できることを確保する措置をとると加盟国に求めています。しかし、現在の日本の労働局の紛争解決の特徴の一つは互譲性とうたわれ、当事者同士が譲り合う、歩み寄りによる紛争の現実的な解決を図るというふうに書かれています。
ハラスメントはあってはならないもの、この社会からなくすべきものとして法制化を進めていると思いますけれども、いざハラスメント事案が起きた際の解決において被害者が譲らなければならない制度が適切なものなのか、ILOの言う適切かつ効果的な救済なのかは検討が必要だと思います。
地方公務員の救済についてです。
今年度行われた総務省が行った地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況に関する調査によれば、ハラスメントについて第三者による紛争解決援助として人事委員会、公平委員会への苦情相談が可能な旨の周知を行っている市区町村は約七割のみでした。つまり三割はやっていません。
しかし、同じく二〇二四年度に行った別の地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査では、地方公共団体の職員に聞くと、パワハラもセクハラも二、三割しか周知されていないと回答しています。同調査でセクハラ被害を受けて人事委員会、公平委員会に相談、通報したと回答した人は、被害者のうち〇・〇%でした。パワハラ被害では〇・二%でした。つまり、地方公共団体側の回答と異なり、制度の周知も二、三割にしか届いておらず、制度は被害者に全く使われていません。
地方公務もハラスメントの措置義務の対象でありますけれども、第三者による紛争解決制度である労働局の相談、紛争解決制度については地方公務員は適用除外されています。したがって、この人事委員会、公平委員会が使いやすいものでなければならないのではないでしょうか。
地方公務員にとって第三者による救済制度が保障されていない状態です。国が批准を目指すILO条約に言う適切かつ効果的な救済をどう地方公務員にも保障するか、課題であると思います。
ハラスメントの抑止の観点から、本法案で提案されている規範意識を醸成するための国の啓発活動といったものにとどまらず、法が明確にハラスメントを禁止することを併せて検討すべきだと考えます。
なお、ハラスメントの禁止規定については、海外の多くの国で禁止されており、ILO百九十号条約でも法律で禁じることが盛り込まれております。さらに、国連の女性差別撤廃委員会は、複数回にわたり日本政府に対し禁止規定の導入を勧告していることも併せて付言しておきます。
二次被害対策についてです。
禁止規定がないことも関連しますが、ハラスメント、特に性被害であるところのセクハラの深刻さを軽視することや無理解につながっている可能性があります。前回法改正時に附帯決議に入っていたように、政府の宿題だったと思われますが、検討は進んでおりません。
「#私が退職した本当の理由」というものを御存じでしょうか。このハッシュタグの名前が表すように、多くの人は本当の理由を、ハラスメントを受けても本当の理由を告げずに去っています。先ほど中井参考人からもそのようなお話がありましたけれども、告げずに去っています。その理由は、相談担当者とか周囲の人の無理解に傷ついて、本当の退職理由を言えずに辞めているということです。こういうハッシュタグが数か月前にはやって、テレビ番組でも取り上げられたところです。
第三者からのセクハラ対策についてです。
今回、カスタマーハラスメントについてが本法案の中で措置義務化盛り込まれていますけれども、第三者からのセクシュアルなハラスメントについては均等法、男女雇用機会均等法で既に措置義務の対象となっております。これについては、セクハラ的カスハラについては既に措置義務なのに知られていないという側面があります。
フジテレビのような事案が起きた場合に、均等法では、事業主は相談に迅速かつ適切に応じ、事実確認しなければなりません。これをしない場合には行政指導の対象になるはずです。そして、相手方に調査への協力を求めたり、調査の結果次第では取引の中止等、自社の社員を守るための何らかの対応をしなければならないことになっています。
しかし、フジテレビほどの大企業でもこれが知られていなかったのではないでしょうか。今回のカスハラとともに、セクハラ、第三者からのセクハラについても措置義務の対象に既になっていることについて広めていただいた方がいいのではないでしょうか。
最後に、求職者等へのハラスメントについてです。
性別、性的指向、性自認、ジェンダーアイデンティティー等の属性に関するハラスメントも、労働者から求職者等に対して起きています。前回法改正時にパワハラにこれらの属性に関するハラスメントは類型化されております。指針や通達に記載されております。
パワハラに類型化されたこれらのハラスメントは、求職者等に対してあっていいというわけではありません。今回、セクハラが対応されるということですが、セクハラだけではなく、あらゆるハラスメントについても対応される必要があるというふうに考えます。
以上です。