広田照幸の発言 (文教科学委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(広田照幸君) 日本大学の広田です。
 私の専門は教育社会学ですが、ここ数年は教員の長時間勤務の問題を実証的に研究してきています。
 今回の給特法改正案については私は大きな不満を持ってきておりましたが、衆議院の方で修正案と附帯決議が出され、ある程度良くなったと思います。しかし、それでも不満はあるし、長時間勤務問題の解決に向けてもっと前に進めてほしいこともあります。
 ここでは、手短に三つのお話をした上で、今回の法案に関して三つのお願いをしたいと思います。
 まず、資料二ページの表になりますけれども、私のお話の一つ目、一つ目は、教員の仕事の絶対量が多いので、働き方改革を徹底して進めていっても問題は解決しないということです。
 この表は、文科省が行った二〇二二年の勤務実態調査のデータを加工してみたものです。平日の小学校教員は平均して一日六百四十五分、中学校教員は六百六十一分働いています。法定労働時間は四百六十五分ですので、小学校の教員は一日百八十分、中学校教員は百九十六分、時間外労働をやっていることになります。
 小学校、中学校のそれぞれの列一の部分は、指導に関わりの薄い仕事を半減させてみたものです。列二、列三は、それに加えて、部活指導や集団指導、学校行事などを半減させてみた場合の数字になります。しかし、それらを徹底して半減したその列三でも、小学校は五百十七分、中学校は五百五分にとどまり、法定労働時間の四百六十五分に収まりません。つまり、授業以外の業務を仮に半減していったとしても、今の教員の労働時間は法定労働時間をあふれてしまうぐらいなんです。それぐらい仕事の量が多いのだということです。どこかの方面の方が言っていらっしゃるような、既に十分に定員付けてあるというような状況では全然ないわけですね。
 そこで、列四の一、列四の二のように、教員の授業担当こま数、担当時間を減らしてようやく法定労働時間に収まる、そういう状況なんですよ。だから、結局のところ、長時間勤務の抜本的な解決のためには、教員の定数をしっかり増やすことで教員一人一人の持ちこま数を削減することしかないというのが私たちの考察の結論です。
 今回の法案では、衆議院での修正案第三条で、教育職員一人当たりの担当する授業時数を削減すること、それから義務教育法に規定する教職員定数の標準を改定することが盛り込まれました。これは大いに歓迎します。参議院では更に一歩進めて、教員定数の増員に向けた具体的な足場をつくっていってほしいと思います。
 さて、二つ目のお話です。今回の法案の目玉は、教職調整額を段階的に一〇%に引き上げるという点だと思います。長時間勤務で苦労している教員に報いようとする策なので、それはそれで歓迎いたしますが、私はここで、本来はそれでは足りないということを申し上げたいと思います。
 配付資料の二ページの下のところになりますが、給特法成立時の教職調整額四%という数字は、当時行われた教員勤務実態調査を基に、月平均八時間分の超過勤務という数字をベースに設定されました。月八時間で四%ですから、私も皆さんも中学校で勉強した比例式を使えば一〇%の場合も計算できるわけですね。八対四はX対十です。Xは二十です。つまり、一〇%の教職調整額は二十時間分だということになります。
 今回の法案では、時間外在校等時間を平均三十時間程度に削減することを目標とされています。もうお分かりですよね。月三十時間を達成したとしても、十時間分はお金が足りないわけです。今回の法案でつくられるのは制度的なピンはねだという声を現場の先生から聞いたことがあります。
 ちょっと歴史の話をすると、一九七一年に給特法が作られるときには文部省と人事院の間でやり取りがあって労働基準法の適用外になったわけですけれども、そこでは労基法に代えてという考え方が確かにありました。だから、勤務実態のデータから四%という数字が設定される形になったわけですね。ところが、今回の給特法の改正をめぐる議論の中では、この労基法に代わる措置が必要だという考え方が消え去っている、その点が大きな問題だと思います。
 いずれ将来には公立学校教員に残業代を支払う仕組みになってほしいと私は思いますが、現時点では少なくとも一〇%の教職調整額は、今の勤務実態に照らした場合にはもちろんのこと、月三十時間まで時間外在校等時間を削減できたとしても、それでもまだ十分な調整額ではないということを確認していただきたいと思います。
 もしも教職調整額一〇%という枠組みでやっていくのであれば、三十時間という数字を掲げておいて定数の改善と補助スタッフの増員というのを抽象的に並べるだけではなくて、平均で月二十時間を超える超過勤務をなくすための定数改善等が必要であるといったことを是非明確にしてほしいと思います。
 三つ目のお話として、今急速に進んでいる少子化のインパクトについてお話をしたいと思います。
 少子化が進む中で、三ページのグラフになりますけれども、少子化が進んでいる中で、少子化自体は大変な問題だけど、子供の数が減ったら学校の先生は楽になるんじゃないかというのんきな話があります。本当にそうなのかということですね。少子化の中での教員定数の改善の問題をどう考えたらいいかについてこれまで十分に研究がなされてきていなかったので、私たちの研究グループが研究やりました。
 公立小学校の場合、資料の三ページ目の図になります。図の下部分の棒グラフの部分が公立小学校に在学する子供の数の現状と将来推計になります。国立社会保障・人口問題研究所の出生低位推計の数値を基にして作成しました。この推計を見ると、子供の数、学齢児童の数は、二〇二三年から十年ぐらいは在学する小学生が急減して、その後も緩やかに減少を続けていくという、これがこれからの子供の数になります。
 さて、そこで、図の真ん中の折れ線グラフ、これが現状の教員定数の決め方を続けた場合の小学校の教員数の変化になります。教員の定数は、御存じのとおり、国が定める基礎定数と国と地方での加配定数で決まっていますが、私たちの研究グループでは、現在の義務標準法の教員定数の算出方法に沿って少子化に伴う学校数、学級数の変化を試算して、そこに現在の加配定数を割り付けるというやり方で将来の教員の定数の変化を試算しました。この真ん中の折れ線グラフですね、これが現状のままでいくとこうなるという話ですが。これを見てもらうと分かるように、小学生が急減するに伴って、小学校教員の定数は急減していきます。二〇二三年度に約四十三万人の教員定数は、二〇四三年度には約三十二万人、六三年度には約二十五万人になります。
 だから、子供の数が減ったら学校は楽になるんだろうじゃなくて、教員の定数も減っていくので学校の先生は楽にならないということです。つまり、教員の定数を改善しないで、少子化に伴う教員の定数の自然減に任せておけば、今のような長時間勤務が蔓延した学校はもう将来そのままになってしまうということです。
 ここまで三つのお話をしました。
 第一に、教員の仕事の絶対量が多いので、働き方改革を徹底して進めていっても問題解決しない。第二に、一〇%の教職調整額では、月三十時間まで時間外在校等時間を削減できたとしても、それでもまだ十分ではない。第三には、少子化が進んでいっても、放っておくと教員定数も減ってしまうので学校に余裕は生まれないというお話をしました。結局のところ、小中学校の教員の長時間勤務問題を解決するためには思い切った教員の増員が必要だということです。
 さて、そこで、皆さん、給特法改正案に関わって、皆様方に三つのお願いをしたいと思います。最初の二つは、衆議院で修正案の中の義務標準法の中の教職員定数の標準を改定することと書いていただいたことに関して、更にもっと明確に具体的な方向を示していただきたいということです。
 第一に、義務標準法の中には教員定数を定める様々な規定がありますから、特にその中の第七条一項一号の乗ずる数を改定するべきであるということを明確に示してほしいということです。
 この乗ずる数は、一九九三年に小幅の引上げがなされた後、三十年以上改善されていません。各学校の学級数別に設定されたこの乗ずる数というのは、教員の基礎定数を算出する上で特に大きなボリュームになります。教員定数の思い切った改善をやるためには、ここが本丸になります。だから、それを法案の中で明確に示してほしいということです。
 先ほどの三ページの図の一番上に黒い太い折れ線グラフがあります。これは、義務標準法の乗ずる数を十年かけて、段階的に今の一・五倍にしてみたシミュレーションです。一番上の黒い部分ですね。
 教員数は二〇三四年まで増加しますが、二〇四三年度には約四十三万人、六三年度には約三十四万人というふうになります。この場合は、最初の十年間で学校には余裕が生まれ、教員の長時間勤務は解決します。また、授業を担当しない空きこまが増えるので、授業準備や職能開発ももっと可能になります。教育の質の改善も期待できるわけです。
 文部科学省は、この二十年ほどは加配定数を少しずつ積み上げる形で教員の定数改善を進めてきましたが、それではもう増員の量も限定的で、しかも長期的な見通しが立ちません。義務標準法の乗ずる数を引き上げるというのが安定的な教員の増やし方だと言えます。
 二つ目のお願いは、現在の教員数を基本的に今後十年ないし十五年維持するといった点を掲げていただけないかということです。
 先ほどの図では、真ん中の折れ線のように、少子化が進んでいっても放っておくと教員定数は減ってしまうというお話をしましたが、逆に、少子化は、ピンチはチャンスだと考えることもできます。子供が減っていく局面だからこそ、新規の大幅な予算増を伴わなくても学校を良くすることができるという、そういうふうに考えてみたらどうでしょうか。
 私はちょっと欲張りなので、この図では、上の折れ線グラフ、太いやつは、少し、十年かけて一・五倍ということで、ちょっと定数を増えるような数字にしてみましたけれども、別に、例えば十五年かけて、十五年ですね、かけて今の一・五倍にするとかというふうにすれば、新規の予算を必要と、これまでの予算の額を継続していくことでフラットな形で教員数がキープされて、学校に余裕が生まれていくというようなことですね。
 教員定数の改善をめぐる今までの議論では、先生を思い切って増やすと巨額の予算が必要になるから、財源どうするんだと言われてきたわけですね。実際、一気に増やそうとすると一・五兆円ぐらい掛かったりするというですね。しかしながら、少子化ですから、一定期間トータルの教員数を減らさなければ、新規予算を必要とせず、おのずと学校は良くなるわけです。だから、教員定数は少子化による自然減には委ねないとか、あるいは、今後十五年間は教員の総数を維持するとか、そういう基本姿勢を法案の中で打ち出していただければ、教員定数の改善の具体的な議論が前に進むと思います。
 三つ目のお願いですが、文部科学省が教職員定数改善計画を作れと言ってほしいということですね。
 今の法案では、業務の削減に関わって教育委員会が業務量の管理等の計画を策定することになっていますが、文部科学省の側では、教員の増員を計画するというふうなことが書き込まれていないんですね。各自治体で独自に教員を増やすというのは財政的な限界がありますから、義務標準法の見直しを含めて、文部科学省が教員定数の見直しを計画的に進めていくことが必要です。教職員定数を国レベルで改善する立案、実施は、二〇〇五年度に終了した第七次の教職員定数改善計画の終了を最後に途絶えてしまっています。だから、地方レベルでも教員定数の変動が見通せないから、長期的な教員採用政策を立てることができないんですね。
 今や教育の個別化とかICT化の流れを受けて、新しい次元で国としての条件整備の考え方をリニューアルしていかないといけない時代に来ているんだと思います。昭和の時代に必要な条件整備の基準の考え方から、令和の学校に必要な条件整備の基準に転換させてほしい。そこで、義務標準法の標準の改定のため、文部科学省は教職員定数改善計画を作るといったことを法案に明記していただければと思います。
 私の話は以上です。どうもありがとうございました。

発言情報

speech_id: 121715104X00920250527_007

発言者: 広田照幸

speaker_id: 11612

日付: 2025-05-27

院: 参議院

会議名: 文教科学委員会