立山良司の発言 (外交・安全保障に関する調査会)
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○参考人(立山良司君) 立山でございます。どうぞよろしくお願いします。
私は、中東の現代政治、特にイスラエルとパレスチナ問題を専門にしております。
御承知のとおり、一昨年十月七日にハマスが大規模なイスラエルへの越境攻撃を行って、それ以降、ガザはずっと戦闘状態が続いておりました。加えて、レバノンのシーア派組織ヒズボラがイスラエルへ攻撃をする、あるいはイスラエルとイランの間での応酬がある。加えて、直接は関係ないんですけれども、連鎖的にシリアのアサド政権が崩壊して新しい暫定政権ができてまだ二か月程度という状態にあります。そういう中でトランプ政権が発足をいたしました。トランプ政権にとっては、中東というのはかなり大きな政策課題になるだろうと思います。
二十分という時間でございますので、今日は私は、そのガザの状況、それからイラン、特にイランの核開発をめぐる状況、それに全体、中東全体をどういうふうに考えればいいのかという点をお話をさせていただきたいと思います。
まず、十五か月ガザでは戦闘が続いたわけですけれども、先月一月十五日にイスラエルとハマスの間で停戦の合意がなされ、一月十九日に停戦が発効し、停戦期間が始まりました。
その停戦の合意の内容は、三ページ目、最後のページに骨子を書いておりますが、三段階から載っておりまして、第一段階、四十二日が一月十九日からスタートしたわけでございます。それで、この間、イスラエルは、イスラエル、ハマス双方が戦闘をやめる。それで、イスラエル軍は人口密集地から撤退する。人質はこの四十二日間に三十三人を段階的に解放する。他方、イスラエルの方は拘留しているパレスチナ人を段階的にやはり釈放する。で、大規模な人道支援、援助を開始するということになっております。さらには、第二段階に向けての交渉を行うことになっております。
その後、第二段階が四十二日間、さらには第三段階と続くわけですけれども、この数日ニュースでも流れておりますけれども、この月曜日、十日にハマスが、今週の土曜日、二月十五日に予定されております三人の人質の解放を実施しないかもしれないという声明を出しました。それは、イスラエルが人道支援物資の搬入を阻害している及びパレスチナ住民に対して銃撃をしている、現にパレスチナ住民がイスラエル軍によって三人銃撃されて死ぬという事件が日曜日に起きていますので、こういう事態を捉えたことだろうと思います。
それで、予定どおりに進むのかという問題が浮上してきたんですけれども、トランプ大統領が、その直後に、今週の土曜日、さっき申し上げた二月十五日の正午までに、この正午が、何で正午が出てきたのかよく分からないんですけれども、正午までに三人の人質じゃなくて全人質を解放しろと、そうでなければ大変な目に遭う、地獄の蓋が開くというような表現をしまして、今のところ、それに対してハマスがまた強く反発をする。他方、イスラエルの方は、三人ではなくて全人質の解放という新しい要求を掲げる形になりまして、どうなるか今のところよく分からない状態であります。
いずれにしましても、これまで、資料の(1)のところにございますけれども、人質は十六人、これとは別枠で、別枠というのは三十三人という第一段階の中の十六人が解放され、加えてタイ人五人が解放されております。他方、パレスチナ人の拘束者は七百六十六人が解放されております。
イスラエルは人口密集地から撤退しておりまして、これも末尾に地図がございますが、ガザの周辺地域にイスラエル軍は撤退をしておりまして、人口密集地といいますか、まあガザは元々狭いところです、人口密集地がほとんどなんですけれども、周辺地域にイスラエル軍は撤退を完了したという状況になっております。
あと、住民も北の方から南の方に逃げたりしている人たちが多数いるわけですけれども、それなりの数が南から北に戻ったりというようなこともあり、人道支援物資の搬入も行われていたという状況の中で、先ほど申し上げたように、この数日間、二月十五日の人質解放をめぐって状況がよく分からなくなってしまったということです。
あと、第二段階の交渉も、本来であれば二月三日にスタートしているはずなんですけれども、今のところスタートしていない模様です。模様と申しますのは、裏で交渉をしているのかもしれませんけれども、正式には交渉はスタートしていないということです。
一昨年の十月七日から十五か月以上の戦闘が続いていたわけで、この今申し上げたような合意の内容というのは、昨年の五月に、五月末にバイデン大統領が提示した提案、停戦合意案とほとんど一緒なわけです。それがやっとこの一月になって合意に達したのはなぜかということですけど、イスラエル側からすると、人質の命が、かなり亡くなっている人も多いだろうという推測を含め、推定を含めてですね、命の危険が迫っている。それから、いつまでたってもハマスはやはり抗戦をやめない。それから、ハマスがその第一段階でイスラエル軍の完全撤退といったようなそれまでの条件を緩めた。それから、イスラエルもまた戦争長期化によって社会的、経済的な負担が増えている。さらには、その就任直前でしたけれども、トランプさんからの圧力があったというようなことだと思いますし、ハマスの方も、イスラエルは現実には攻撃をやめない。それで、相当数の幹部が殺されておりますので、ハマスの組織の存続自体が危ぶまれる、さらには非常に苦しい状況にあるガザのパレスチナ住民のハマス批判が起きるおそれがある、あるいは実際に起きております。
それから、連帯を表明して一緒にイスラエル攻撃をしていたイランとかヒズボラが弱体化してしまった。それに、後でまた申し上げますけれども、戦後にハマスが、まあ戦後というのはかぎ括弧付きですが、あくまでも、戦後にハマスが関与する可能性があるということです。
で、今後の課題ですけれども、もちろんこれはその停戦が維持できるかどうか、さらには第二段階に進むことができるのかということです。
イスラエルの連立政権の中には強硬派が、そのハマス解決まで戦闘を続けるべきで、もし第二段階にそのまま行ってしまえば連立から抜けるということを言っております。連立から抜けた場合、ネタニヤフ政権は過半数割れになってしまうという状態になっております。
でも一方で、今まで十六人解放されたわけで、イスラエル国内では全員解放を目指してもっと停戦を続けるべきだという意見も続いておりますし、あと、トランプ大統領が何を考えているかよく分かりませんけれども、少なくともこの合意が成立した段階では、トランプ、まだそのときは大統領に就任していませんけれども、トランプさんからの圧力があったということは間違いないようです。
今後の大きな問題は、そのトランプ、トランプじゃない、ガザをどうするのかということです。
ここにも書いてありますとおり、例えば瓦れきが五千万トン以上出ていると推定をされています。これは東日本大震災のときの瓦れき三千万トンをはるかに超える量であり、加えて、ガザというのは東京二十三区の中と比べて面積が僅か六〇%程度しかありません。ですから、非常に狭い範囲に膨大な量の瓦れきがあって、まさに瓦れきの山と化しているという状態であるわけです。
そういう中で、その人道、緊急人道支援をやり、さらには将来に向けて復旧復興をやっていく、そのためにはどういう統治形態があり得るのか、誰がどういう形でガザの秩序を維持していくのかということが必要なわけです。よく言われるのは、今、西岸の一部を統治しておりますパレスチナ自治政府がございますが、そのパレスチナ自治政府がガザでかつては統治をしていたんですけれども、その後ハマスの実効支配になり、しかし、今回の状況によって、またパレスチナ自治政府の統治を再開するという考え方もございます。ただし、イスラエルはそのパレスチナ自治政府の統治を認めないと言っております。じゃ、どうするんだというと、具体的な案はございません。
そうした中で、またトランプ大統領が、ガザを中東のリビエラにするという、私から見ると荒唐無稽なとしか思いようがない、それは、国際法上も、国際人道法上も全く許せないことですし、加えて、そのパレスチナのガザの二百二十万人ぐらいの住民がいますが、彼らはガザの中に必死に食らい付いて住んでいるわけで、その人たちを、どういう形でするか分かりませんが、もし強制的にするとすれば、これは完全に国際法違反ですけれども、ヨルダンなりエジプトに移送する、あるいは追放をして、そこでガザをすばらしいリビエラにするというようなことは荒唐無稽としか思えないわけです。
もう一つの問題点は、ハマスを完全に排除できるのかということです。
この十五か月間、ハマスは非常に厳しい状況に置かれ、組織的にも大打撃を受けております。しかし、支援物資が届き始めた、停戦が始まってから。動画を見ていますと、ハマスの警察官がすっと出てきて、交通整理なんかをやっているわけですね。それは、その十月七日の大規模攻撃の以前までハマスは実効支配をガザでしていて、約五万人の行政スタッフ、教育とか医療とか、様々な行政サービスを担う職員を抱えていたわけです。ですから、その人たちがまた出てきている。それは全員がハマスということではなくて、ハマスに関係している人、あるいは生活をするためにそういう行政に携わっている人がいると思うんですけれども、そういうハマスの存在をどうするのかということで、また御質問があればお答えしたいと思いますけれども、そのハマス抜きのガザというのはもう考えられないわけです。
日本を含め、ハマスが実効支配をし始めた二〇〇六年以降、ハマスはテロ組織だから接触をしないというノーコンタクトポリシーというのを取ってきましたが、実際にはいるわけですから、その人とコンタクト、その組織、実効支配をしている組織にコンタクトしないまま支援をすることも復興、復旧復興を図ることも不可能なわけです。そこをどうするのかということはもっと真剣に考えるべきかと私は思っております。
次に、イランの核開発問題に進みます。
イランは、もう新聞等でもマスメディアでも書かれておりますとおり、この半年ぐらいの間に大きく弱体化しました。弱体化の要因は二つあります。一つは、アサド政権、シリアのアサド政権が崩壊し、ヒズボラが弱体化したということで、イランからイラク、シリアを抜けてレバノンまで結んでいく、戦闘員あるいは武器をイランからレバノンまで送っていた回廊がほとんど使えなくなってしまいました。閉じた状態になっております。ですから、イランは、イランの外側、イランより前の方で、前方で防衛をするという戦略を取ってきた、前方防衛戦略を持っていたんですけれども、その前方防衛戦略は今ほとんど破綻してしまったと言っていいわけです。いわゆる抵抗の枢軸というのがいなくなってしまったということです。それに、もう一つは、イスラエルは昨年の四月と十月にイランを攻撃をしておりますが、この攻撃の結果、イランの防空システムがほとんど機能しなくなってしまったと言われております。アメリカの政府高官は、イランの防空システムは今や丸裸だと表したほどでございます。
そういう状況の中で、イランは、二〇二一年、二二年頃から、そのウラン濃縮のスピードを加速化させております。現在、濃縮、六〇%の濃縮ウランは、昨年十月のIAEAの推定では百八十二・三キログラムとされていて、これは、更に濃縮を、九〇%まで濃縮をしていけば四発分の原子爆弾、核兵器を造れる量だと言われております。
また、イラン国内で核抑止力に対する議論が出ております。イランは、最高指導者のハメネイ師が二〇〇〇年代の初めにイスラム・シーア派の教令という、法学上、イスラム法学上の裁定を出しておりまして、核兵器を持たないというふうに宣言をしております。それを理由として、イランは、我々の核開発はあくまでも平和利用であるということを主張し続けてきたわけですけれども、先ほど申し上げたように、そのイランの前方戦略、前方防衛戦略あるいは防空システムがほとんど機能しなくなったという事態を踏まえまして、イランの国内で核抑止力をもっと見直すべきではないかという議論が出ております。すぐに核兵器を持てということではありませんけれども、全く核兵器化の選択肢をなくすことは良くないのではないかという議論も出てきております。
加えて、イランは、そのIAEAなんかも指摘しておりますけれども、核兵器の起爆装置の研究などをしている、あるいは開発をしているという疑いを払拭できない状態になっております。
まあ、トランプ大統領はイランとディールをして戦争は好まないということを言っていますけれども、どうやって何を、何と何をディールするのかというのは全く見えてこないわけです。制裁解除すれば、イランは、核兵器開発は、核開発をスピードダウンするということがディールになれば可能かと思うんですけれども、核開発全てをやめろ、あるいはミサイル開発を全部やめろ、あるいはテロ支援を全部やめろというようなことがディールの中に入ってくるとすれば、ディールは成立しない可能性が高いわけです。
他方で、イスラエルは、イランの抑止力が非常に弱体化したことをもってカッツ国防相が脅威を取り除く最大のチャンスと言っておりますが、イランに対するイスラエルの攻撃というのも、距離が片道で二千キロぐらいあって、地下に核開発施設があるという状態を見て考えますと、軍事的行動ができるのかというと、疑問がなきにしもあらずという状況です。
もう時間が間もなく迫っておりますので、最後に、中東の問題について三ページの一から六まで書いておりますが、なぜ中東がこれだけ不安定要因があるのかというと、一番の要因は、恐らく国家として凝集性が非常に欠けている。それはなぜかといいますと、長い間植民地支配で、人工的につくられた国家であり、国内に様々な民族、様々な宗教、宗派を抱えている、ですから、その国のあるべき姿が国民の間で完全に共有されたものがない。
一番分かりやすいのは、世俗的な国家にするべきか、もう完全にイスラム教の教えに従った国家にするべきか、その間にはまたいろんな取組方があり得るわけです。そうすると、同じ例えばイスラム主義といっても意見が異なってくる。いわんや、民族が違う、宗教が違うともっと異なってくるということで、国家としての収れんがない、あるいは一体性がない。そのことが、それでも力を、政権を維持しなければいけませんから、強権的な政権になっていく、反対意見は述べさせない、民主主義は育たない、あるいは国境を人、物、金がどんどん移動するという状態になっている。で、パレスチナ問題もあるというようなことかと思います。
今後、今申し上げたガザ、イランの核問題、それにシリアの移行政権とかレバノンの問題もございます。日本は中東にまだ石油を、九〇%以上の原油を依存をしております。そういう中で日本がどうする、何をしていくのか。もちろんガザへの支援等を行っていくべきだと思いますが、やはり一番重要なことは、繰り返し日本も外交政策の根幹として据えている一つである法に基づく秩序、法の支配、これをどう実現していくのか。余りにも法の支配が、あるいは法に基づく秩序が行われていないのが今の中東、特に最もひどい例がガザかと思うんですけれども、そういう中で日本がどういうふうに声を上げていくというのかということが一番重要かと思います。
時間が参りましたので、これで終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。