高見具広の発言 (国民生活・経済及び地方に関する調査会)
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○参考人(高見具広君) 独立行政法人労働政策研究・研修機構の高見と申します。
本日は、意見陳述の機会をいただき、誠にありがとうございます。
お配りした資料に沿って御説明いたします。
早速二ページ目を御覧ください。
御承知のところと存じますが、働き方改革関連法が二〇一八年に成立し、二〇一九年四月より施行されております。同法によって労働時間関連の法政策は大きく変化しました。
一番のポイントは時間外労働の上限規制です。二〇二四年には、建設事業、自動車運転業務、医師といった適用猶予事業、業務にも上限規制が適用されました。
長時間労働是正などの働き方改革が求められる社会的背景については様々ございます。
まずは、後ほどお示ししますが、過労死等の労災認定事案が今日でも多くを数えております。過重労働の是正が喫緊の課題です。
また、少子高齢化などを背景に生産年齢人口は減少しております。人手不足の中で多様な人材が活躍できるよう、働き方を見直す必要があります。
関連して、この少子化を食い止めるためにも、家庭生活の時間を確保することが重要です。仕事と生活の両立、ワーク・ライフ・バランスのために働き方を見直すことが必要です。
さらには、日本は諸外国に比べてホワイトカラーの生産性が低いと言われてきました。その背景として長時間労働が指摘されてきました。こうしたことも残業削減などの働き方改革が求められるゆえんとなっております。
では、労働時間は近年どのような状況にあるのでしょうか。
三ページ目を御覧ください。
公的統計を基に平均年間労働時間を見ますと、まず、長期的な減少傾向が目に付きます。近年の労働時間についても減少傾向にあることが確認されます。この間、企業において残業削減が進んできたところがあると考えられます。
ただ、急いで付け加えたいことは、平均労働時間の長期的な減少傾向には短時間労働のパートタイムの増加等も関係します。必ずしも正社員の労働時間が減ったことを意味するわけではありません。また、近年の労働時間の減少には、二〇二〇年以降のコロナ禍の影響も排除できません。実際、統計を見ますと、労働時間長い労働者は一定程度残存しております。長時間労働は依然として重大な問題と考えます。
本日の発表の前半では、仕事と生活の両立、特に、生活といっても、命、健康に関わる長時間労働、過重労働の問題にフォーカスを当てます。その上で、本日後半に申し上げたいことは、家庭生活や余暇を含め、仕事と生活の両立を実現するためには労働時間の長さだけに目を奪われては足りないということです。具体的には、就業時間帯や通勤時間など、様々な観点から今日の働き方の課題を洗い出すことが重要と考えます。後ほど改めて御説明いたします。
では、四ページを御覧ください。
まず、前半のテーマとして、過重労働の状況、課題について御説明いたします。
過労死等、脳・心臓疾患、精神障害の労災認定件数は、近年も多くを数えております。特に、精神障害の労災請求、認定件数は増加が著しいことが示されています。
この労災認定基準というのは、近年改正を重ねております。例えば、脳・心臓疾患の労災認定基準においては、時間外労働に加えて、拘束時間や休日のない連続勤務、不規則な勤務、交代制勤務、深夜勤務、勤務間インターバルといった勤務状況など、負荷要因を総合的に評価するということが明確化されました。精神障害の労災認定基準では、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントなどが心理的負荷を伴う出来事として負荷評価されるようになりました。
労災認定された事案の状況は様々です。事案の示す過重労働の状況をよく踏まえて過重労働の防止策を考案することが重要と考えます。この点、私が行ってまいりました過労死等の労災認定事案の研究を基に事案状況を少しお示しします。
五ページにお進みください。
長時間労働が関わる過労死等の事案について勤務状況を分析しました。事案では、頻繁な深夜労働、連続勤務、勤務間インターバルが短いといった休憩時間や休息時間や休日が取れない過酷な労働状況が確認されました。
こうした長時間労働の背景は、業務負荷が関係します。例えば、人手不足や繁忙期に伴って膨大な業務量が課されていたケースがありました。そのほか、小売や飲食店といった業態的に長い労働時間や顧客都合によるタイトなスケジュールで休めなかった事案、専門性、個別性の高い業務特性のため一人で抱え込んでしまった事案、あるいは店長といった業務責任者のため休めなかったケースなどが確認されました。
こうした事案では、業務負担の重さに加えて事業場における労働時間管理の問題もありました。例えば、自己申告制といった形を取る中で労働時間の把握が不十分な事案があります。その一形態として、過少申告の慣行があった事案もあります。また、管理職や店長、専門職の、専門性の高い業務において労働実態の把握がおろそかであったというケースもあります。また、出勤簿の押印によって出勤有無の確認しか行われていなかったような事案も労働時間の把握が不十分と言えると思います。さらには、タイムカードなどで客観的に始業・終業時刻の把握がされていた事案も含めて、打刻なしの残業とか申請のない休日出勤、あるいは持ち帰り残業といった形で、事業場が十分把握しない形で過重労働に陥っていたケースもありました。
こうした過重労働をいかになくしていくか、そういう方策が今問われていると考えます。
次、六ページにお進みください。
ここで、過労死等の事案から離れまして、残業削減などを目的として現在企業で行われている働き方改革の状況、課題を見てまいりましょう。
二〇二〇年にフルタイム労働者を対象に行ったアンケート調査を基にすれば、労働時間関連の取組として企業が多く行っているものは、ノー残業デー、あるいは年次有給休暇、年休ですね、の取得促進であります。ほかにも、長時間労働の者に注意を促すですとか、声を掛けて退勤を促すなどの取組も見られました。こうした労働時間管理の取組と並行して、業務遂行の方法の見直しというのも行われております。例えば、ペーパーワークの削減、会議の見直し、テレワーク、業務配分のむらをなくす、進捗管理や情報共有などの取組が行われています。
このように、近年、企業においては労働時間管理や業務遂行方法の見直しが行われています。
反面、残業削減の取組を進める中で、職場管理の課題も見えてきております。
七ページを御覧ください。
企業の部長、課長級の管理職者にヒアリング調査を行いました。その結果から幾つかの事例を御紹介します。
一番のポイントとしまして、管理職の負荷の増大が課題になっております。課長、部長相当の管理職はプレーイングマネジャーである場合が多いのが背景にあります。プレーイングマネジャーとは、部門の業務管理、部下管理といったマネジメント業務をこなしながら、同時に自分も顧客を持っているなどのプレーヤーであるという状態をいいます。
こうしたプレーイングマネジャーである管理職において、残業削減、会社の取組が負荷の増大になっている場合があります。負荷の一つは、時間管理が厳格化することに伴って部下管理の負担が増えるということがあります。もう一つは、部下の一般社員の残業時間に制限が課された中で、その上司である管理職が言わば仕事を肩代わりしているということによって負担が生じているということがあります。そのほか、職場では、人材育成の時間が取れなくなっている例や、持ち帰り残業として残業の実態が見えなくなっているという例などが聞かれます。
ここで申し上げたいのは、働き方改革という政策の方向性に問題があるというものではありません。そうではなくて、こうした事例ではその運用に大きな問題があります。働き方改革の基本は、社員誰もが働きやすい環境をつくって生産性を高めることだったはずです。その原点に立ち返って職場の課題を克服する必要があるというふうに考えます。
次に、八ページを御覧ください。
ここから後半の話題に移ります。少し話題が変わります。本日の後半では、家庭生活や余暇を含めた仕事と生活の両立の実現の観点から、長時間労働に限らず今日の働き方にどのような課題があるのかというのを考えてまいります。
表は、有業者の平日の生活時間配分を男女別に示したものです。日本は、仕事や家事が忙しくて余暇の時間が極めて短いというふうに言われてきました。社会生活基本調査という国の生活時間統計を見ますと、男女差が大きいことが示されています。つまり、男性では仕事、女性では家事や育児といった時間が長いということが分かります。
国際比較に基づいても、日本は、男性では仕事の時間、女性では家事関連の時間が長いということ、またフルタイム雇用者の余暇時間が短いということが指摘されます。生活時間配分から見て、日本は時間的ゆとりが課題があるということが言えると思います。
ここで、仕事と生活の両立というのを阻害するものは長時間労働だけではありません。
次の九ページを御覧ください。
生活時間の阻害を考えるに当たっては、まず、就業時間帯が重要です。例えば、夕方以降まで仕事に時間が掛かりますと、家族と一緒に夕飯を食べれる機会が減ります。また、子育てを考えてみますと、食事、お風呂、寝かし付けといった、それに適した時間があります。帰宅時刻がそれにマッチしなければ、当然のことながら、家事、育児参加が大きく制約されるということになります。
ここで、就業時間帯というのは職業によって異なる部分があります。例えば、二十二時から五時といった深夜勤務ですね、深夜勤務が多いのは、この図の六を見ますと、警備、保安、配送、輸送、機械運転、こういうふうな職業に偏っているというところがあります。
これに対して、十八時から二十二時と、夕方以降の勤務というものを見ますと、もう少し幅広い職業にあるということが分かります。具体的には、管理職ですね、管理的職業ですとか、販売職ですとか専門職などにも頻繁にあるということが示されています。これは、残業が日常的にあるということを考えれば、決して不思議なことではありません。当たり前のように残業があるわけですけれども、このように夕方以降に残業があれば、当然帰宅時刻が遅くなります。
日本の正社員の帰宅時刻を見ますと、男性が十九時台半ば、女性も十九時近くになります。これは、欧米諸国に比べて遅いということが知られています。この仕事と生活の両立と、生活時間の確保に当たって、時間帯はやっぱり無視できないポイントというふうに考えます。
ここで、日本の帰宅時刻の遅さには通勤時間の長さというのも大いに関わります。
十ページを御覧ください。
通勤時間は、言うまでもなく、地域差が大きな現象です。端的に述べるならば、長時間通勤の問題は東京圏などの大都市部の問題と言うことができます。そして、通勤時間が長いと、当然、生活時間、休息時間を制約してきます。
ここでは、ちょっと分かりにくいグラフかもしれませんが、通勤時間と睡眠時間について、都道府県別の平均値を算出して、その二つの関係を図に示しました。御覧いただきますと分かるとおり、右下ですね、神奈川、埼玉、東京、千葉といった東京圏の通勤時間が際立って長くて、近畿圏や中京圏の通勤時間も比較的長いということが分かります。そして、通勤時間が長い県ほど睡眠時間が短いという関係にあるということも明瞭に示されております。
これ、通勤時間どうするかということですが、人々の居住地選択の自由というのがありますので、社会政策や企業の雇用管理でどうにかできるという部分は少ないかもしれません。しかし、現状、労働者にとっては生活時間、休息時間の制約に関わる問題となっているということが分かります。これは認識する必要があるというふうに考えます。
ここで、こうした生活時間、休息時間の確保に当たって、テレワークの活用というのは一つの方策となり得ると思います。
十一ページを御覧ください。
十一ページ、テレワークですが、主に在宅勤務ですが、仕事と生活の両立にプラスとなる働き方として注目されております。
考えてみますと、テレワークは、コロナ禍で非常に拡大したわけですけれども、コロナ禍以前から政策的に推進されてきました。しかし、私どもも調査いたしましたが、余り普及しておりませんでした。それが、二〇二〇年以降のコロナ禍で、感染対策としてテレワークが急拡大しました。現在、ポストコロナという局面においてテレワークがどの程度定着するのかというものが注視されるところと存じます。
当然のことながら、テレワークはどのような仕事でも同じように可能な働き方ではありません。コロナ禍においても、地域や業種、職種によってテレワーク実施率に大きな違いがあるということが様々な調査研究で示されました。
今後、テレワークという働き方を選択肢として定着させていくためには、克服すべき課題が幾つかあると思います。一つは、一番大事なことではあると思いますが、テレワークでいかに生産性を保つかということだと思います。そのためには、テレワークで業務を進める際の課題、いろいろコロナ禍で見えてきたところもありますが、それに一つ一つ対処していく必要があるというふうに考えます。
次に、十二ページを御覧ください。
テレワークを行うことで労働者の生活配分がどう変わるのかを見てみたいと思います。ここでは、テレワーカーと通勤勤務者の生活時間配分について男女別に比較した研究を御紹介します。
これを御覧いただきますと、男女とも、テレワーカーほど家事、育児、あるいは余暇、睡眠時間が長いということが示されております。これは、当然のことながら、テレワークで通勤時間が削減されるということによるものだと考えられますが、このように、テレワークは生活時間配分にゆとりをもたらすプラスの効果があるというふうに示唆されます。
ただし、注意しなきゃいけない点もあります。テレワーク、在宅勤務の場合によく言われることですが、仕事と生活の境界が曖昧になりやすいということが言われます。これは、ともすると、仕事と生活をミックスさせやすいんですが、仕事から心理的に解放されにくい状況になってしまう場合もあります。こうなると、仕事と生活の両立という観点からは全く望ましくない、望ましい状態ではないということが言えると思います。
ここまでの発表をまとめます。十三ページを御覧ください。
本日の前半では、仕事と生活の両立と、特に、働く者の健康に関わる過重労働の現状と企業の残業削減策の状況、課題を見てまいりました。
過重労働はいまだなくなっておりません。長時間労働、過重労働の背景には、業務量やタイトなスケジュールといった業務負荷や事業場の労働時間管理の問題がありました。また、御覧いただきましたように、残業削減策が進んでいる企業でも幾つかの課題が見えてきております。その代表的なものが管理職の負担です。こうした課題にいかに対処していくかということが今求められていると考えます。
本日の後半では、生活時間、健康確保のための働き方の課題として、労働時間の長さ以外にも、就業時間帯や通勤時間の問題があるということをお示ししました。この点、在宅勤務などのテレワークは両立のための有効な手だてです。ただ、先ほど申し上げたとおり、仕事と生活の両立の観点からは注意すべき点もあります。
テレワークに限らず、情報通信技術、ICTの発展の中、働く時間、場所を柔軟に選択できる余地が拡大しております。しかし、曜日や時間を問わず、例えば業務連絡が頻繁にあると、生活や健康というのは容易に阻害されてしまいます。つながらない権利という言葉もありますが、業務時間外の連絡について社内ルールを作るなど、働く者の生活や健康を守る取組が必要と考えるところです。
総じて、日本社会はこれまで長時間労働を評価する、あるいは是認するというところがございました。社会構造や人々の意識が変化する中で、長時間労働を前提としない働き方に向けて社会や企業の意識変革が必要と考えます。
以上で発表を終わります。御清聴、誠にありがとうございました。