遠藤久夫の発言 (厚生労働委員会)
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○遠藤参考人 学習院大学の遠藤でございます。
本日は、発言の機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。
私自身は医療経済学を専門にしておりまして、社会保障審議会医療部会の部会長をやっております関係上、この医療提供体制の見直しについて議論の取りまとめを担っている立場でございます。また、昨年は新たな地域医療構想に関する検討会が開かれており、その座長も務めました。本日は、そのような視点からお話をさせていただこうと思います。
社会保障審議会医療部会は昨年十二月に「二〇四〇年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」を取りまとめましたので、まず、その議論の趣旨、主要な問題意識について述べたいと思います。
今回の議論の背景は、言うまでもなく、生産年齢の人口の減少と高齢者の増加による医療ニーズの変化、この二つが非常に大きな背景になっております。
今後の人口動態は、特に医療と介護の両方のニーズを持つ八十五歳以上の人口が全国的に増加をし、高齢者向けの医療需要、特に中程度の疾患による入院や在宅医療のニーズの増加が見込まれております。
ただし、地域ごとに事情は異なっておりまして、今後も、大都市部分では高齢者の人口は増加しますが、過疎地域では高齢者人口も減少し、地域全体の人口が減少するという状況でございます。求められる医療提供体制は全国一律のものとはならないので、地域の状況や患者数に応じた、地域の需要に相応した効率的な医療提供体制を整備することが必要となっております。
また、近年の情報技術の発達は目覚ましく、医療分野でも、電子カルテシステムが五割以上の医療機関に普及し、マイナンバーカードによる医療機関への受診が広がっておりますので、患者や医療従事者の更なる利便性の向上と医療情報の安全性の向上などの取組を一層進める必要があると考えております。
本日は、時間が限られておりますので、地域医療構想と医師偏在対策についてお話をさせていただきたいと思います。
地域医療構想は、人口動態の変化に応じて、医療提供体制を適正な姿に変えていく試みであります。通常の市場経済であれば、環境変化に応じて、サービスの提供主体が自律的に変化をします。また、計画経済であれば、政府が提供体制をコントロールすることができます。しかし、我が国の医療や介護は市場経済と計画経済の中間的な性格を持つため、提供体制を環境に適応させるためには、政府は一定の介入を行いつつも、当事者間の調整に委ねなければなりません。
地域医療構想は二〇一四年に改正された医療法で創設された仕組みであり、これは二〇二五年の医療提供体制、特に病床の在り方を主眼にした内容となっております。
具体的には、まず、各種データを活用して地域の医療の需給状況を可視化することにより、地域の状況と将来のあるべき姿を提示します。その実現に向けて、地域ごとに協議の場を設定し、関係者間であるべき姿に近づけるための協議が行われます。加えて、インセンティブと規制的手法を組み合わせて医療提供体制の改変をサポートいたします。また、自治体の役割の強化を行い、同時に、国が行うべき仕事と自治体が行うべき仕事を明確にいたします。
今回の医療法に基づく新たな地域医療構想がこれまでと大きく異なるのは、構想の対象が、これまでの病院病床だけではなく、外来医療や在宅医療、また介護との連携へと対象範囲が非常に広がったことでございます。従来から、医療では病院完結型医療から地域完結型医療へと言われ、介護では地域包括ケアシステムと言われてきた、このような視点で構想も進めていくということになるわけであります。
これまでも、病診連携、医療・介護連携などを推進させる様々な施策が取られてきましたが、この新たな地域医療構想では、これらの機能を考慮しつつ、二〇四〇年頃の数量的な目標が示され、それに近づけていこうという試みで、医療提供体制の改変を大きく加速させる重要なものだと認識しております。
一方で、構想の範囲が大きく拡大し、しかも、入院と在宅など代替関係にあるもの、あるいは在宅と介護など補完関係にあるものといった複雑な関係も見られますので、病床にのみ着目をしていたこれまでより格段と難しいものになるのではないかという気持ちもしております。いわば、これまでは一次方程式を解けばよかったものが、連立方程式を解くようなものになっていくというふうにも考えます。これまでの地域医療構想でもそうでしたが、今後、構想を進めながら、いろいろな課題にぶつかり、様々な考え方や手法が出てくるのではないかと考えております。
また、これまでの地域医療構想の経験から、幾つかの変更が行われております。例えば、これまでの地域医療構想では回復期機能としていたものを、入院当初からリハビリや栄養管理などを行って退院後を見据えた医療を行うことが重要だ、そういう視点から、高齢者などの急性期患者への医療提供機能を追加いたしまして、包括期機能と名称を変更しております。また、病院の特性を明確にする意味で、従来の病床機能報告に加え、医療機関機能の報告も求めることとしております。
この法律案が成立した暁には、都道府県、医療関係者、その他様々な地域の関係者が将来の理想的な地域の医療提供体制を話し合い、国は、財政的な支援はもちろん、ナショナルデータベースを活用するなどデータ分析、提供して、それを通じてしっかりとバックアップをし、各地域で着実に取組が進むことを期待したいと思っております。
次に、医師偏在対策について述べたいと思います。
医師偏在対策は、古くて新しい課題です。医師の偏在により保険あってサービスなしという状況は、公的医療保険制度の根幹を揺るがしかねません。そこで、一九七〇年代の一県一医大構想を始め、多様な政策が取られてきました。基本的人権の視点から医師を強制的に配置することは難しいので、インセンティブと規制的手段を駆使してまいりました。
現在、医師偏在対策としては複数の政策をパッケージとして推進することが検討されておりますが、その中の幾つかが今回の医療法案にあるわけでございます。
医学部の定員増により、医師数はここ十年で四万人増加して、約三十四万人となっております。医師の需給見通しでは、全国ベースでは二〇二九年頃に均衡するという推計もあるため、これからは、医師の総数の確保から医師偏在地域の解消にシフトする必要があります。
そこで、早急に医師確保を要する地域を一定の基準で重点医師偏在対策支援区域として設定をして、この区域の医師不足対策を重点的に行うという考えが盛り込まれております。
医師偏在対策は、インセンティブと規制が考えられます。インセンティブとしては、重点医師偏在対策支援区域において、診療所の医師の承継あるいは開業を支援する、医師派遣に関する手当増額を図る事業を創設するなど、そのような対応を考えているわけであります。
一方、規制的手法としては、外来医師の多数区域に新規開業を希望する医師に対しては一定の制約を課すことや、医師少数区域での勤務経験を管理要件とする医療機関を拡大することなどがあります。もっとも、後者につきましては、病院関係者からは、今どき院長になりたいという若い医師は少ないから、医師偏在対策として有効なのかという疑問も呈されておるわけであります。
また、医学部の地域枠などの取組で若手の医師の地域偏在は縮小してきているのですが、全年齢の医師で見ると地域偏在は縮小しているとは言えず、中堅、シニア世代を対象とする取組が課題となっております。中堅、シニア世代が地域で働く上で必要とされる総合的な診療能力について学び直すためのリカレント教育の進展なども意見の一致を見ているところであります。
医師偏在対策は、いろいろな要因が背景にありますので、様々な施策や事業を総合的に実施する必要があると考えております。
以上で私からの意見陳述とさせていただきます。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)