階猛の発言 (憲法審査会)
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○階委員 中道改革連合の階猛です。
本審査会では、このところ、緊急時の議員任期延長のイメージ案を中心に議論が進んでいます。その眼目は、いついかなるときも国会機能を維持することであると承知しています。
しかし、國重筆頭も指摘しているとおり、国会機能の維持については、発生確率が極めて低い緊急事態のみを想定するのではなくて、通常事態も想定して議論を深めるべきです。
この議論の必要性と重要性は、過去一年の国会の動きを見ても明らかです。昨年は、物価高が進む中で実質四か月も臨時国会が開かれず、自民党は党内政局に明け暮れていました。また今年は、任期を二年八か月も残して通常国会の冒頭に衆議院が解散され、真冬の厳しい天候の中、八百億円以上の巨額の経費と関係者の膨大な労力を費やして総選挙が執行されました。結果、本予算の審議入りが二月末と例年より一か月も遅れ、イラン情勢への対応も後手に回りました。この一年、国会は十分に機能したとは言えません。
このような国民の生活にとって望ましくない国会の空転を避け、国会の機能を十分に発揮するため、通常時の臨時国会の召集期限の設定や解散権の行使の制限については、緊急時の議員任期延長とセットで検討するべきです。
私からは、そのうち解散権の制限について議論を深めるべく、制限を要する四つの根拠と、考え得る三つの制限の方向性を述べたいと思います。
根拠その一。解散は首相の専権事項というちまたに流布する言説と憲法の明文規定との間には大きな乖離があること。
解散は首相の専権事項という言説は、一九八〇年代から新聞等で見られるようになりました。ここから、解散について首相はうそをついていいとか、首相は最も効果があるときに解散してもいいというナラティブが生まれたようです。
しかしながら、憲法の明文規定を素直に読む限り、首相はもちろん、内閣の解散権すら明らかにされていません。六十九条は、不信任案の可決等があった場合につき、内閣は衆議院が解散されない限り総辞職しなければならないとし、解散権の所在を定めてはいません。また七条は、衆議院を解散することを天皇の国事行為としており、内閣にはその際の助言と承認権限を与えたにすぎません。
いついかなるときでも国会機能を維持したいのであれば、解散は首相の専権事項と強弁し、いついかなるときでも解散権を行使できるようにするのは矛盾です。この矛盾を解消するためにも、内閣の解散権を制限するための法規範を憲法又は法律に明記する必要があります。
根拠その二。解散権の濫用に対し、司法による事後的な是正が期待できないこと。
一九六〇年の苫米地事件最高裁判決は、衆議院の解散は極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であると述べ、違憲審査権を放棄しました。以降、裁判によって解散が無効になるという社会的、政治的混乱を恐れることなく、自由かつ大胆に解散権が行使されるようになりました。その分、解散権の濫用、乱発で国会機能が停止する危険が高まっています。
解散権の濫用に対する司法の事後的な是正ができない以上、裁判で争いようのない解散権の行使に関する明確なルールを憲法や法律で定め、解散権の濫用を牽制ないし抑止するべきです。
根拠その三。主要国においても、首相の解散権を制約する例が多いこと。
立命館大学法学部の小堀教授によれば、二〇二一年時点で、コスタリカを除くOECD加盟の三十七か国中、解散権がない国が米国など七か国、解散を制限する国がドイツなど十か国、残りの二十か国は大統領や首相に解散権限があるものの、制度として定着しているのは日本を含め僅か四か国にすぎません。民意で選ばれた議員の身分を尊重し国会を機能させる考え方が世界の主流であるということを指摘しておきます。
根拠その四。公平、適正な選挙を担保する規定がないこと。
さきの総選挙は、解散から投票まで、戦後最短の十六日間しかありませんでした。これでは、候補者は十分な選挙準備ができず、有権者も、十分な判断材料を得て熟慮の末に投票先を選ぶことは困難です。憲法五十四条一項は、解散から四十日以内の総選挙実施を定めますが、解散から投票まで最低何日の間隔を置くかについて定めがありません。公平、適正な選挙運動を担保するという意味で極めて不都合です。
また、議員任期延長のイメージ案では、選挙困難事態の事前承認のため、解散で全国に散らばった前の衆議院議員を国会に召集することになっています。さきの総選挙のように解散直後に総選挙が始まる場合、それが実務上可能なのか疑問です。緊急時の国会機能の維持という見地からも、解散から投票までの期間は一定程度間隔を空けるべきです。
以上を考慮しつつ、解散権の制限の方向性につき幾つかの案を述べます。
方向性その一。憲法上、衆院解散の場合を極力限定する。
衆議院の解散中に緊急事態が起き国会が機能しないリスクを問題視するならば、そもそも衆議院が解散されるケースをできるだけ少なくするべきです。そこで、例えば、憲法に明文がある内閣不信任案可決等の場合に解散を限定する方向性があり得ます。
これに対し、国政の重要問題につき民意を問うという解散の民主的機能を重視する立場から批判が想定されます。
国会機能の維持と直接民主主義の両立を図る解決策として、国民の代表から成る国会が必要と判断した場合、特別多数の賛成によって自律的解散をできるようにしたり、憲法改正案以外の重要問題の賛否を問う一般的国民投票の制度を設けたりすることも考えられます。
方向性その二。憲法上、内閣が解散権を有することを前提に、行使できる場合を限定列挙する。
解散権の濫用、乱発を防ぐ上で一定の効果は期待できますが、司法府の事後的是正が期待できない以上、究極的にはやった者勝ちとなってしまい、国会機能の維持がないがしろにされる危険があることに留意が必要です。
方向性その三。法律上、内閣から国会への解散事由の事前説明義務と解散日から投票日までの最短期間の定めを置くこと。
解散権の濫用、乱発を防ぐ上である程度の効果が期待できるとともに、公平、適正な選挙の実現にも資するものです。なお、この案は他の案と併存可能です。
以上で解散権の制限につき発言を終わりますが、本審査会で議論が深まることを期待して、私の発言を終わります。