外交・安全保障に関する調査会

2025-02-19 参議院 全90発言

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会議録情報#0
令和七年二月十九日(水曜日)
   午後一時開会
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  出席者は左のとおり。
    会 長         猪口 邦子君
    理 事
                朝日健太郎君
                越智 俊之君
                吉川ゆうみ君
                高木 真理君
                高橋 光男君
                串田 誠一君
                浜口  誠君
                岩渕  友君
    委 員
                赤松  健君
                生稲 晃子君
                上野 通子君
                こやり隆史君
                永井  学君
                比嘉奈津美君
                松川 るい君
                森 まさこ君
                古賀 之士君
                塩村あやか君
                杉尾 秀哉君
                広田  一君
                塩田 博昭君
                梅村みずほ君
                伊波 洋一君
                齊藤健一郎君
   事務局側
       第一特別調査室
       長        有安 洋樹君
   参考人
       防衛大学校人文
       社会科学群教授  広瀬 佳一君
       東京大学先端科
       学技術研究セン
       ター准教授    小泉  悠君
       早稲田大学法学
       学術院教授    酒井 啓亘君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○外交・安全保障に関する調査
 (「21世紀の戦争と平和と解決力~新国際秩序構築~」のうち、「ウクライナ戦争をめぐる現状と諸課題」について)
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猪口邦子#1
○会長(猪口邦子君) ただいまから外交・安全保障に関する調査会を開会いたします。
 外交・安全保障に関する調査を議題といたします。
 本日は、「21世紀の戦争と平和と解決力~新国際秩序構築~」のうち、「ウクライナ戦争をめぐる現状と諸課題」について三名の参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。
 御出席いただいております参考人は、防衛大学校人文社会科学群教授広瀬佳一君、東京大学先端科学技術研究センター准教授小泉悠君及び早稲田大学法学学術院教授酒井啓亘君でございます。
 この際、参考人の皆様に一言御挨拶申し上げます。
 本日は、御多忙のところ御出席いただき、誠にありがとうございます。
 皆様から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 次に、議事の進め方について申し上げます。
 まず、広瀬参考人、小泉参考人、酒井参考人の順にお一人二十分程度で御意見をお述べいただき、その後、午後四時頃までをめどに質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。
 また、御発言の際は、挙手をしていただき、その都度、会長の許可を得ることとなっておりますので、御承知おきください。
 なお、御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず広瀬参考人からお願いいたします。広瀬参考人。
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広瀬佳一#2
○参考人(広瀬佳一君) それでは、私の方から、現在のロシア・ウクライナ戦争におけるNATOの役割と停戦の行方、まさに今、現在進行形で動いているわけですけれども、この問題について、私の専門であるNATOの観点から見るとどのような意義があるのか、そして停戦の行方はどのように考えられるのか、最後に東アジアにとってどのような影響があるのかということについて申し述べさせていただきたいと思います。
 なお、私の報告はあくまで公開情報に基づく一研究者としての私見ですので、何ら所属組織とは関係ないということを最初に申し述べさせていただきたいと思います。
 まず最初に、このNATOという問題ですけれども、これ、実は、昨年総理がアジア版NATOということを言い出してえらく脚光を浴びてしまって、一体どういうことなんだろうというふうなお気持ちが皆さんの中にもおありになるんではないかと思いますけれども、このNATOというものが、アジア版NATOという議論のときに、とかくその抑止と防衛とか核共有とかそういったところに議論が集まりがちで、批判的に見られることが多かったというふうにも思っているわけですけれども、実はNATOというのはかなり冷戦後に変容しておりまして、いわゆる一般的な同盟というような言葉では言い表せないほどの形となっています。その辺をまず最初にちょっと簡単に御紹介したいと思います。
 冷戦期は、間違いなくNATOというのは、この北大西洋条約第五条が、これが集団防衛を規定しておりますけれども、この機能によってそのいわゆる冷たい平和というものを支える基盤であったわけですが、冷戦が終わり、ソ連が崩壊し、ワルシャワ条約機構が解体しますと、機能の拡大を開始いたします。それはどういうことかというと、集団防衛に加えて、危機管理、そして協調的安全保障という、この三つを主任務だというふうにNATO自身も自称するようになります。
 危機管理というのは、例えば九〇年代のボスニア紛争とかコソボ紛争、あるいは二〇〇一年から続いたアフガニスタン戦争、あるいはリビアの空爆といったような事案にNATOが加盟国ではないのに関わるということを行いました。これは、場合によっては国連安保理の決議があったり、ない場合でもNATO自体としての決議があったりして行ったものであります。
 それから、協調的安全保障というのは、NATO加盟国が、それ以外の国とその加盟国の間で壁ができないように、中東の国々とか広くアジアの国々とパートナーシップを行うということを制度化したものでありまして、実は東方拡大というのもこの協調的安全保障、協調的安全保障というのはそもそも敵を想定しない安全保障の考え方なんですね。だから、敵ではなくて同じ価値を持っている国の共同体を拡大するという観点からこの東方拡大も始められたわけであります。
 この三つの機能を持っているNATOというのが、九〇年代から二〇〇〇年代、二〇一〇年代前半ぐらいまでの協調的な国際秩序というものを支えてきた。そういう意味で、私は、これはNATOによる平和という側面があったんではないかというふうに考えています。
 この状況が一変するのがロシア・ウクライナ戦争であります。この戦争によって再び権威主義体制がルールに基づく秩序というものを脅かしているわけですから、NATOも当然、集団防衛にと重心をシフトいたします。例えば、ロシアに近いバルト三国やポーランドの防衛体制を強化するとか、あるいは各国の防衛支出をもっと増やそうと。
 これは、トランプ第一次政権のときにも大きく話題になりましたけど、元々は、二〇〇二年ぐらいに、NATOが広く拡大するときに、防衛費が余りにも違い過ぎるのはフェアではないという考え方、これは別にトランプさんに限らず多くのアメリカ人が持っている考え方ですけど、それで大体二〇〇二年ぐらいに当時のNATO加盟国の防衛費をざっと並べてみて中央値を取ったんですね。それが大体二%だったんですよ、GDP比二%。だから、このGDP比二%というのを取りあえずの目標にしようというふうに決めて、それが今独り歩きしてGDP比二%ということになっておりまして、一応去年までにみんなでその合意しようねということでやってきたわけですが、去年の段階でNATOの三十二か国のうち二十四か国が達成しております。
 まだ依然として達成していない国もありますが、もはやトランプ政権、第二次政権ができますと、この二%では足りないという議論が主流になりつつあって、今年の夏にハーグで行われるNATOの首脳会議では三%かそれ以上を今ルッテ事務総長は提案すると言われておりまして、これに対して、つい先月の世界経済フォーラムでトランプさんは、五%にしろと、こういうことを言い出して、アメリカすら五%達成していないわけですけど、そういうことを言い出しておりまして、この数字がちょっと独り歩きしている現象がありまして、でも、これは日本にとってもただ事ではなくて、もしNATOが本当に今年の六月に三%あるいはそれ以上というふうにしてしまうと、日本にもその議論の影響は出る可能性はあるということであります。
 二〇二二年、戦争が始まってすぐにNATOは戦略概念というのを発表しまして、そこで初めてやっぱりロシアは脅威だということを明確に規定しますし、ここで初めてNATOは中国にも規定したんです、中国も挑戦だと。これはチャレンジという言い方で、スレットとはちょっと違うんですけど、やっぱり警戒すべき挑戦であるということを言い出しましたし、これまたNATOの公文書で初めてインド太平洋という言葉、これが使われるんですね。これは、故安倍総理が、インド太平洋の安全を、開かれた、広く開かれた秩序としてのインド太平洋ということをおっしゃって、それが一つのきっかけになって広がった概念ですけど、NATOもそれを使うようになり、このインド太平洋の問題というのは欧州大西洋に直接影響を及ぼすんだという認識を持ったことによって、ロシア・ウクライナ戦争の持っているグローバル性というのが浮かび上がってくるわけであります。
 そのような形で、NATOは同盟としても加盟国としてもこのウクライナの支援に非常に尽力を注いだわけですが、二年以上たった今、もう三年たっていますか、NATOにとっていろんな課題が出てきております。これを次に紹介したいと思います。
 一つは、東方拡大、これをめぐる問題です。これは、よく言われるように、ウクライナをNATOに入れておけば戦争は起きなかったんじゃないかという議論がよくあるんですけれども、この議論の原点になっているのが、二〇〇八年、今から二十年近く前ですけど、ブカレストというところで行われた首脳宣言で、ここでNATOは、ウクライナとジョージアは将来加盟国となるだろうとはっきりと書いてしまったんですね。これが政策的に良かったかどうかというのはちょっと議論が分かれるところですけど、これにプーチン大統領は強く反発して、同じ年にジョージア紛争を開始しましたし、今回のウクライナ侵攻の背景の一つにもこのNATOがウクライナを入れるという問題があるというふうに言われています。
 で、戦争始まったので、やっぱりこれ入れなきゃいけないんじゃないかという議論が次に出てきて、それでどうしたかというと、NATOがなかなか決断できないわけです。例えば、二〇二三年のビリニュスの首脳会議では、条件が整い、全加盟国が一致した場合にはすぐ入れようと言っているんですけど、これなかなか全加盟国一致しないものですから、これは余り意味なかったわけです。去年にまた批判があって、もっとはっきりと入れるという方向を出そうと、それによってロシアを抑止しようというふうな議論があったんですけど、でも、そこでも文言としては、加盟への不可逆的な道を引き続き支援するという、何だかよく分からないお役所的な言葉で、これは何なんだろうと。加盟に実は、言葉は、レトリックを変えていますけど、実は一歩も進んでいないんですね。つまり、NATOはこのように、結果的にそのレトリックをいじるだけで、偽りの約束を連発しているということが言えます。やっぱりコンセンサスが得られないわけですよ。NATOの意思決定はコンセンサスなので、一国でも反対すると駄目なわけです。
 この結果どういうことになったかというと、ウクライナ側に対しては何かすぐ入れるんじゃないかという期待値を上げてしまっている。だから、ゼレンスキー大統領は盛んに、唯一の安全の保証はNATOだということを盛んに言って、もうすぐにでも入るという、そういう勢いの発言が連発されています。他方、ロシアに対しては、いや、これ本当に入るんではないかと、曖昧な形ですけど入るんではないかと思わせることによって、むしろNATOの拡大こそがこの戦争の元凶なんだというプーチン大統領の論理に正当性を与えてしまっている面もあるんじゃないかというふうに思います。
 それから、武器支援ですね。これ一生懸命やっているんですけど、この武器支援にはかなり実は格差があります。
 図の一を御覧ください。
 これは、戦争が始まって以来昨年の十月三十一日までのデータなんですけど、これを集めたものです。図の一です、二国間軍事支援の状況。これを見るとすぐお分かりになると思うのは、やっぱりアメリカが突出しているわけですね。アメリカ一国で六百億ユーロぐらい出していて、その他のヨーロッパ全部合わせてもそれより少ないわけです。
 個別国家見ると、一番多いのはドイツですけど、たかだか百億ユーロちょっとなんですね。政治的にいろんな発言をするフランスとかイタリアはドイツの三分の一でしかなかったり、イタリアに至ってはドイツの八分の一の十億ユーロですので、何とこの表に入っていないんですね。
 こんなふうに、ドイツとフランスはヨーロッパの中心でありながら軍事支援についてははるかに少ないということが分かって、やっぱり軍事支援というものがウクライナ戦争の推移に影響をするという点から見ると、アメリカ依存という構造は余り変わっていない。ヨーロッパが自立性ということを盛んに政治家が主張しますけれども、かなりそれは現実とレトリックにギャップがあるということであります。
 それからもう一つ、世論を見ていただきたいんですけれども、まずアメリカですが、図の二を御覧ください。
 これは、アメリカにおいて、ウクライナ支援は多過ぎるのか、トゥーマッチなのか、アバウトライト、ちょうどいいのか、あるいはノットイナフ、不十分なのかということを聞いた質問で、これ世論調査行われたのはつい先月、今月ですね、三日に行われています。
 これも一目瞭然なのは、もう多過ぎるというのが三〇%で一番多くて、それが不十分だというのが二二%になっていまして、党派別に見るともっとはっきりしまして、やっぱりリパブリカンですね、共和党系の人たちはもう四七%が支援は多過ぎるということを言っているわけで、このように、アメリカ国民全体としても支援に対して批判的であり、特に今のトランプ政権を支える共和党の人たちはかなり批判的であるということがここからも浮かんできます。
 ヨーロッパについても、いろんな世論調査があるんですけど、一つだけ御紹介させてください。それは図の三です。
 これちょっと面白い調査で、ヨーロッパはいろんな調査があるんですけど、これは面白い調査で、何が面白いかというと、これ去年行われたんですけど、もしアメリカの新大統領が、これはトランプさんのことです、もしアメリカの新大統領がウクライナ支援を劇的に減らした場合にヨーロッパはどうすべきかという質問なんですね。青が支援を増やしてウクライナが戦闘を継続できるように頑張るべきだというんですね。それに対して、ピンクはアメリカに倣って支援を減らそうと、それで和平を促そうという、こういう数字なんです。
 これを見るとちょっと驚くんですけど、ヨーロッパの政治指導者はウクライナを支援しなきゃいけないということを盛んに言うんだけど、世論では一番多いのは、アメリカに倣って支援を削減し交渉を促そうというような、これが三三%で一番多いということが分かります。国による差も結構ありますけれども、でも、全体的にアベレージでいうと三三%ですから、そこが一番多いというのがこの世論の割と冷めた部分で、これがいわゆる支援疲れとも言われますし、あるいは厭戦機運とも言われますけれども、そういう雰囲気がもう既に昨年ぐらいから漂っているということであります。
 そういう状況を背景に、次に、じゃ、停戦の話を少ししてみたいと思います、今ちょうど話題になっておりますので。
 停戦可能な条件というのを考えると、これ、今ちょうど戦死者も、もう死傷者含めると百万人突破していますし、トランプ政権できたということで停戦何とかしようという話がありますが、ポイントは三つありまして、一つはどのような停戦ラインを推進するのか。これ、言ってみれば公正さの問題です。明らかに侵略者がいて、そして明らかに被害者がいるわけですけど、それでどういうふうに線を引くのかという問題。二番目が、将来誰が再びロシアの攻撃を行われないように安全を保証するのか。これ、持続的な平和を誰がどうつくるかという問題です。三番目は、ウクライナをヨーロッパの中でどう位置付けるかという問題ですね、これが三番目。
 こういう話をめぐって、これまでいろんな学者さんとかが、政治家含めていろんなプランが出ていて、例えば、ここにある平和の公式、西ドイツモデル、フィンランドモデル、プーチンの要求、そしてトランプ政権の現在の構想とあるわけですけれども、それぞれ簡単に申し上げますと、まず平和の公式というのは、これは元々ゼレンスキー大統領が唱えたことで、要するに、ロシア軍の撤退とか戦犯の訴追とか原発の安全保障なんかを言った上で、独立時の国境、つまりクリミア半島も含めて全部返せという要求であります。停戦後の安全の保証はNATOがこれを保証する、だからNATOに入るということですね。停戦後にはEUにも入って、ヨーロッパに復帰するということであります。
 しかし、このゼレンスキーさんの考え方は、欧米もこれを基本的に、国際法的にも合致しているわけなので支持していたんですけれども、ゼレンスキーさん自身が、トランプ大統領の当選によって見通しが非常に厳しいということを悟って、十二月にこれを断念するということを正式に言っています。
 二番目のが西ドイツモデルと言われているやつで、これは要するに西ドイツ、西ドイツって、一九五五年に東独と分かれたときに、西ドイツの部分はNATOに入ると、西ドイツは東独を併合しようとして武力を使うことをしないという、武力不行使の宣言をするという前提の下にNATOに入って、つまり西ドイツの領域だけNATOに入ったわけです。それで、ECとともに経済的発展を遂げて、やがて三十五年後に東ドイツを取り戻しました。こういう形ですね。
 だから、今のロシア・ウクライナ戦争に例えて言うならば、現時点での前線で一旦停戦を協定し、国境線変更をめぐる武力不行使宣言を出して、その上でロシア支配地以外のウクライナでNATOに入ると、そして復興に努力し、EUに入るという、こういう考え方です。ゼレンスキーは、今この考え方にゼレンスキー大統領さんも近いということが言えます。
 三番目は、フィンランドモデルといいまして、これも一部の学者が追求しているものですけど、フィンランドは元々、ソ連との二度の戦争の末に領土を一〇%割譲させられ、かつ、中立を明記した当時のソ連との相互援助条約を締結させられ、そして独立をいたしました。現状に合わせて言うと、ロシアと停戦だけじゃなくて、NATO加盟もしないで中立を宣言すると、で、やがてはEUに入るというようなパターンになるかと思いますが。
 ただ、ここで一つ考えてほしいのは、戦後のフィンランドというのは東欧、ポーランドやチェコやハンガリーが歩んだ道を歩んでいなかったということであります。フィンランドは非常に豊かな国になって、つまりソ連ブロックとは違う豊かな国になれたわけです。それは、政治的にはソ連のお情けにすがっているんじゃないかと言われることもありましたけれども、でも、違う道をたどったことで成功したと。つまり、言ってみれば小国の英知とリアリズム的な冷徹さ、こういうものがあったのではないかと。この場合、リーダーシップの問題も非常に大きいと思います。
 プーチンが、プーチン大統領が要求しているのは、御存じのように、クリミアとか南部・東部四州全域のロシア併合であって、かつ、NATO加盟なんかとんでもないということで、絶対駄目、断念しろと。停戦後の安全の保証は、ちょっとこれよく分からないところもあるんですけど、一応P5、国連の安保理ですね、常任理事国P5プラス、例えばトルコとかドイツが加わるというようなことを、少なくとも二二年の和平交渉のときには言っていました。
 そして、プーチン大統領が最近言っているのは、ゼレンスキー大統領の選挙すべきであると。つまり、大統領のもう正統性がないんだということを言って、これは恐らく政権交代というのをインプリケーションとして持っているのではないかというふうに思います。
 こうした中でトランプ政権が何を考えているかというところなんですけど、これは、トランプ政権もいろんなアクターがいて、いろんなメディアで紹介されていて、それぞれがお互いにちょっと矛盾したりするものですから分かりにくいんですけれども、でも、何か最大公約数的なものを見ると、まず第一に、停戦後の領土はやっぱりどうやら現時点での前線であろうかということです。じゃ、誰がその保証をするのかというと、これよく分からないんですね。これ直接引用したんですけど、ケロッグさんの、ケロッグ特使ですか、ウクライナ特使の論文があって、それに書いてあったことなんですけど、直接引用したんですけど、要するに包括的で検証可能な取決めというので、何かよく分からないですね、こういうものです。それから、停戦後はどうかというと、NATOは絶対駄目ということです。ただ、EUはいいというような発言もあるので、EUはオーケー。停戦監視はヨーロッパ中心でやればいいよ、ただし米軍は絶対参加しないということですから、その意味では朝鮮半島モデルにもなっていないんですよ。
 朝鮮半島モデルという場合には、これ米軍が参加するということが前提ですから、そういうふうにもなっていないということでありまして、このようにトランプ構想は、被害者と侵略者を同等に扱っているという点で公正さについて少し問題があるのと、持続可能な平和になるかというところも何かよく分からないところがあります。
 他方、ヨーロッパは、公正さを非常に重視しているのは分かるんですけれども、現実可能なプランBというのがないわけですね。その中で、西ドイツモデルというのは、公正さに若干の問題はあっても一つの可能性として、これが失われた機会になっていくんじゃないかという気がしております。これはあくまで個人的見解です。
 最後、もう時間もありませんので、最後に日本にとっての課題ということを少しだけ申し上げたいと思いますが、今日ウクライナで起きていることは明日東アジアで起きるかもしれない、これは岸田前総理がおっしゃって、この言葉は結構世界に広がって、ストルテンベルグ事務総長もこれを好んで引用しております。NATOの演説なんかでも好んで引用しています。つまり、ルールに基づく国際秩序を脅かす事態への危機感をヨーロッパで共有するという視点になるわけですね。
 このことは、私たち日本のウクライナ支援を考える際の重要な指標になるような気がします。つまり、日本がウクライナ支援においてどのようなリスクとコストを掛けるべきなのかということを考えるときに、それは、東アジアに危機が起きたときに、いかなるリスクやコストを欧米に、価値観を同じくする欧米に期待するのかというところで決まってくる、あるいはそういうことも考えなきゃいけないんではないかということであります。
 現在、日本を取り巻く安全保障枠組みとしましては、そこの表の二に書きましたように、日米安保というのがこれ集団防衛で一番中核にあるわけですけれども、そのほか、最近はミニラテラルといいまして、共通の価値と共通の能力を持つ少数の国々との共同訓練などを行って、柔軟で適応力のある協力をしようと、そして安定化を図るという意味でミニラテラルというのが、はやりかもしれませんけど、ANZUSとかAUKUSとかクアッドとかスクアッドとかというのがいろいろ出てきて、ミニラテラルな協力をするということが一つの方向性として出てきて、アメリカもこれを部分的には推進しているということがあります。
 最後に、このハイブリッド協力ということで挙げたのが日・NATO協力でありまして、今のような背景の下にこれからのアジアの安全保障を考える場合に、やっぱりこの日・NATO協力というのを、これまで私が申し述べたヨーロッパにおけるNATOによる平和ということを考える上で、日・NATO協力というのは一つのヒントになるんではないかということで、最後に取り上げさせていただきました。
 日・NATO協力、言うまでもなく日本とNATOが協力するわけですけど、これ、元々は、ナイン・イレブンの後、テロをめぐって日本とNATOが海洋安全保障とかサイバーとかで協力できるんじゃないかということで始まったものであって、日本がサイバー協力で自衛官が派遣されたり、あるいはNATO本部に自衛官が派遣されたりということで始まって、少しずつ今協力していまして、これがロシア・ウクライナ戦争で一気に花開いたと言うとあれですけど、一気に協力が拡大されました。
 皆さんも御承知のように、二〇二二年から、日本の総理は二二年、二三年、二四年と毎年のNATO首脳会議にも参加していますし、それから、IP4というんですけど、このNATOのIP4、インド・パシフィック4ですね、インド・パシフィック4として、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれNATOとの個別適合化パートナーシップ計画というのを調印して、ここに書いてあるサイバー、テロ、安保、宇宙安保、偽情報対策、新興破壊技術などの分野で協力関係を行っているということがありまして、意義は二つです。一つは、多機能なNATOのような同盟と協力すること自体が抑止力の強化になると。もう一つは、マルチなんですけど、このIP4のようにミニラテラルな協力が進むという、そういう可能性を内包している、そういう意味でハイブリッドだというふうに思うわけです。
 ですから、もうこれで最後にしますけれども、アジア版NATOっていきなり何か抑止と防衛に話を進めるんではなくて、まず実務的なこの日・NATO協力、あるいは日本のIP4協力というものを推進し、それによって協力領域を拡大し深化させ、その下でルールに基づく国際秩序を支えるアジアの安全保障、アジア版安全保障協力というものになっていく、もしかしたらそれが日米安保を強化することになるんではないかというふうに考えておりますので、これを最後に一応報告をやめさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
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猪口邦子#3
○会長(猪口邦子君) ありがとうございました。
 次に、小泉参考人にお願いいたします。小泉参考人。
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小泉悠#4
○参考人(小泉悠君) ありがとうございます。小泉でございます。よろしくお願いいたします。
 私の資料は、このパワポの二枚ずつ印刷したやつです。
 私は、多分今日はロシア側の視点からというところを期待されているのかなとも思ったんですが、スライドを作っているうちにだんだん軍事屋、安保屋としての側面の方が強く出てきてしまって、何かそういう観点からお話を申し上げたいなと思っています。
 まず、軍事面から、この戦争、もう丸三年やっている戦争なわけですけれども、私から見たこの戦争は、やはりまず巨大戦争であるということです。
 私、どちらかというと広瀬先生の学生ぐらいの世代に恐らく当たるんですけど、私が修士課程で安全保障論とか勉強したときというのは、こういう戦争というのは蓋然性は極めて低いんだと言われていたわけですね。それよりも、テロであり、気候変動であり、パンデミックであり、食料安全保障であり、又は不拡散でありと、そういうことを考えるのが現実的な安全保障研究であるという空気が四半世紀前は非常に強くあったわけです。ところが、それから四半世紀たって蓋開けてみると、今ロシアとウクライナがやっているこの三年間の戦争というのは極めて古典的な国家間戦争です。
 幾つか数字はここに挙げていますけど、やっぱり何となく私が学生のときに聞いていたのと話が違うという感じがするわけですね。特に、年間今一千万発ロシア軍が大砲を撃つわけです。陸自の備蓄弾薬が恐らく二十五万発前後ではないかと言われていますから、ロシア軍のペースで撃っていくと、陸自の弾薬庫は一週間強で空になるわけですね。でも、そのペースでロシア軍三年間撃ち続けているんですよ。ということは、ロシア軍が持っているその備蓄のすさまじさであるとか、それから戦車ですね、年間千五百両強、ロシア軍は戦車を喪失しています。陸自の機甲科が毎年五個ずつなくなっていくというペースですね。
 でも、なくならないというのは何なのかというと、ロシアのその軍需産業の生産能力の大きさもあるんですけど、めくっていただくとこういう写真が出てまいりますが、これロシアの戦車保管基地の模様です。日本の自衛隊は装備が古くなりますと基本的に用途廃止してスクラップにしちゃうわけですが、ロシア人は捨てないんですね。こういうふうにシベリアとか極東の基地に戦車を取っておいて、これはその中でも比較的状態がいいものです。この戦車の間にパイプが通っていますけど、ここに不活性ガスを流していて、これを戦車の車内に流し込むことで中の機器が劣化しないようにしているんですね。それを一年に一回ぐらい訓練のときに動かしてみせると。大体そのときの軍管区の司令官とかその地域の知事とかが来て、あっ、ちゃんと動いたね、良かったねという訓練をするんですね。
 その次めくってもらいますと、まさにその基地がこの何年間か、この三年間の戦争、これですね、衛星画像が写っているやつですね、この何年間かの戦争で、この基地から実際にこの装備品が取り出されて戦場に送り込まれているということを衛星画像で示しています。
 この上の方にあるのは、ブリヤート共和国、モンゴルの上のところですね、にあるロシア軍最大の戦車保管基地のそのほんのごく一部を写したものですけど、ほとんど予備の戦車がもうなくなっちゃっているということが見て取れようかと思います。これは、一番即応状態が高い、状態がいいやつだからですね、すぐにどんどん出して使われてしまって、もうこれは戦争の最初の年のうちにほとんどなくなっちゃいました。
 一方、下の方の衛星画像はもうちょっと雑な感じに置いてありますけど、恐らくこれはもっとずっと状態が悪い、野ざらしの予備戦車です。でも、これもやはりどんどん取り出されていることが分かりますよね。数も減っていますし、わだちがいっぱい付いていて、実際トラクターで引っ張っていっているんだろうということが分かります。これはもう、私もこういうところを実際に見たことあるんですけど、本当にもうさびさびになっちゃってひどい状態なので、これはもう工場に持っていって全部ばらして、オーバーホールして、ニコイチとかサンコイチしなければ使えないはずです。
 だから、それができるだけの能力がロシアの軍需産業にはあるんですよね。日本でいうと、恐らく戦車のオーバーホールができる工場というのは相模原と、あと千歳にある戦車のメンテセンターだと思うんですが、ロシアの場合、国営の戦車修理工場が工廠として八か所あります。プラス、ニジニタギルとオムスクにそれぞれ民間企業の大戦車工場が二つあります。
 こういうロシアの巨大な軍需産業というのは、でかいだけで全然もうからないということで、冷戦後は大変ばかにされていたわけですね。ストックホルム国際平和研究所が作る軍需産業ランキングとかで見ても、ロシアの軍需産業というのは、規模は大きい、売上高も結構大きい、輸出しているので、でもこれ利益率が著しく低いわけです。それはもうやたらでかくて非効率だからなんですよね。だから、ビジネスとしては完全に失敗であると言われてきたわけですが、これだけの巨大戦争になってみると、その非効率性というのは有事における兵器の生産能力であったり修理能力であったりするわけです。
 これにウクライナ側も何だかんだ三年間付き合えているというのは、NATOの支援があるというのはもちろんあるんですけど、ウクライナ自身が旧ソ連第二位の軍事大国であるということはやはり忘れてはいけないと思います。ウクライナの人たちと話をしてみると、西側の支援も大変有り難いんだけど、やっぱり我々自身のポテンシャルというものは結構でかいんだということを非常に強調するんですよね。だから、もちろん文句なく軍事大国であるロシア対旧ソ連の中では地域的軍事大国であるウクライナが、その持てるポテンシャルをほぼ全力で生かして三年間休まず殴り続けているという、こういう戦争がとうとう復活してきてしまったというところを我々は見ているんだと思います。
 もう一つは、やはり、ここに書いていますけど、核兵器の役割というのを、余りいいことではないと思うんですが、核兵器の役割というものを、何というんですかね、再確認させちゃった戦争なんだろうと思うんですよね。
 去年の広島原爆忌に、湯崎知事が安定・不安定パラドックスの話をされて、つまり、この安定・不安定パラドックスというものがあるがゆえに、結局核兵器は戦争を防げないではないかと、だから核抑止という考え方は破綻しているでしょうというふうに指摘をされたわけです。確かにその考え方は一理あって、核兵器は大国から小国への侵略を抑止しないんです。むしろ誘発してしまう可能性があるということが、六〇年代からスナイダーなんかは指摘してきたわけですね。ただ、恐らく大国はそのことは余り気にしていなくて、小国への侵略は誘発するかもしれないけど、大国間戦争は確かに防いでいるでしょうという理屈で、多分核抑止に依存し続けているわけです。
 ロシアは、この冷戦後三十年間、特に二〇〇〇年代後半以降なんですが、核戦略議論において強調してきたのが、この安定・不安定パラドックスを人為的に利用するんだということですね。戦略核戦力をしっかり持っていることによって、ロシアが少々暴れたところでアメリカが介入してこられるわけがないと。だから、そのことによって旧ソ連圏内で起こる紛争にロシアは介入していくことができるというふうに、この安定・不安定パラドックスを逆手に取るような考え方というのをしてきたわけです。
 であるからこそ、今回の戦争でもバイデン政権は、ロシアは本当にやるんじゃないかと、アメリカをおじけ付かせるためのデモンストレーション核使用、又はウクライナに停戦を強要するためのデモンストレーション核使用やるんじゃないかということをかなり心配してきたわけですよね。だから、アメリカの軍事援助にも相当いろんな制限掛かってしまっていたと。
 やはり、この戦争で改めて、核は恐ろしいからなくさなきゃいけないって我々日本人は思うんですけど、多分ロシアの中ではそういうふうに認識されていないと。やはり核というのは有効だというふうに思われていると思いますし、ちょっと今日は余り時間がないんですけれども、今ロシアの、何ていうんですかね、国内でちょっとヒステリー的な核議論が起こっていて、西側をおびえさせるために抑止では不十分なんだと、威嚇のための核使用というのがなければいけないんだみたいな、非常に嫌な議論が盛り上がってしまっているわけです。
 今停戦の議論が始まっていますが、恐らく今このトランプとプーチンが話し合おうとしている停戦というのは、とてもウクライナがのめない停戦である可能性が高いと思うんですね。停戦というよりも、ウクライナの降伏を米ロで無理やり一緒に押し付けちゃおうというような議論に見えるわけです。これも実際ウクライナ側からはそういう意見が出てくるわけですね。そうすると、どこかでロシアが停戦をネゴシエートするのではなくて強要するという考えになる可能性はあって、そのための停戦強要核使用というのはこの交渉が始まったフェーズだからこそ余計また心配しなければいけなくなっている部分があると思います。大気圏内でどかんとやるかどうかというのは私はいまだに極めて難しいと思っていますが、核実験再開はあるかもしれないですね。
 ロシアは、一九九〇年の十月だか十一月だかを最後に、三十五年間核実験をやっておりません。カザフスタンの核実験場ももう外国になっちゃったんで閉じていますけど、北極海のノバヤゼムリア島の核実験場はいまだに維持しています。国防省第十二総局の管轄下で核施設として稼働し続けています。去年の夏頃に幾つかの核実験用コードでちょっと怪しい動きがあったので、もしかすると核実験再開かもということを何人かの専門家たちは身構えたんですね。今もう冬で海が凍っちゃっていて資材搬入ができないので、しばらくやらないと思いますけど、この春以降とかに、ウクライナがあくまでもこの米ロの停戦に抵抗するんであると、何らかの脅しの目的の核実験みたいなことはあるかもしれないと思っています。
 あとは、もうちょっと今々のお話を申し上げたいんですが、こちらの現在の戦況に関する見方というところを御覧いただきますと、この戦況等につきましては日々メディアで報じられているとおりでございます。この一年間、一年強ですね、ロシアが戦場においては優勢を握り続けてきたと言っていいと思います。ウクライナ軍が反転攻勢に失敗して、代わりにロシアが攻勢に出ていると。ほぼあらゆる戦場においてロシアが勝っています。今年に入ってからだけでも幾つか都市や村落がロシア軍に陥落されていますし、今現在もまだロシア軍は前進を続けています。
 ウクライナとしては、特に政権側は、もう一回予備戦力をつくって、それで反転攻勢をもう一回やりたいという意図が恐らくあったと思うんですけど、今年の頭になってからついに予備旅団の編成を諦めて、前線の一番苦しい部隊に新兵を回すという方針に転換しています。だから、これは、もう少なくともしばらくの間は反転攻勢はできない、今ある戦線を支えることに全力を尽くすという方針になったと見ていいと思うんですね。
 ただ、この戦場の中における勝利をロシア軍は戦争そのものの勝利に結び付けられていないというのが私の考えです。これは、日中戦争のときの日本軍、ベトナム戦争のときのアメリカ軍、アフガニスタン戦争のときのソ連軍、みんなそうなんですよね。正規軍の方が強いに決まっているので必ず勝つんですけど、戦争そのものに勝てないと。ロシア軍とウクライナ軍の戦いは、これは正規軍同士の戦闘なんですが、ロシア軍が勝っているんだけど、それによってロシアの戦争目的をウクライナにのませるということがこれまでできていなかったわけですね。
 ロシアの戦争目的って何なのかと。いろんな見方があるんですけど、私に言わせれば割とそこははっきりしていて、開戦初日からプーチンはほぼ変わらず、ここに書いてある非ナチス化、非軍事化、中立化という、この三点セットは繰り返し言い続けているんですよ。このほかにいろんなことを言う場合もあるんですけど、軸としてはこの三点。
 非ナチス化というのは、ウクライナって別にナチスの国じゃないので、ナチスじゃない国に非ナチス化しろというのはちょっと禅問答めいているんですけど、二〇一四年のマイダン革命をロシアはアメリカに支援されたナチスによるクーデターというふうに位置付け続けてきたわけですね、過去十一年間。だから、非ナチス化というのは、そのマイダン革命以前に戻せと、大統領は親ロ派のヤヌコビッチで、憲法にはNATO加盟とは書いていなくて、世論調査を取ったら国民の半数以上がNATO加盟に反対と言っていたあの頃のウクライナに戻せという話だと思うんですね。
 ヤヌコビッチとかその他親ロ派の政治家たちの多くは失脚するか国外逃亡しているので、今更彼らを大統領の座に返り咲かせるというのは無理だと思いますけれども、でも、やっぱりロシアとアメリカは、大統領選実施という形で、少なくとも今のゼレンシキーは降ろせという話をしているわけですね。ゼレンシキー降ろしだけだったら別に私はウクライナ耐えると思いますけど、そこでロシアが選挙介入して親ロ派候補を立てるとかという話になると、これは相当内政が混乱するだろうと。
 あとは、もう非軍事化に関しては、もう二二年の当初のイスタンブールでの和平交渉から変わらず要求し続けています。最初はプーチンはある程度の非軍事化と言っていたんですね。それに基づいてイスタンブール交渉前にロシアが突き付けてきた文書を見ると、二十万人以上いたウクライナ軍を五万人まで削減せよというのが当時の要求でした。なおかつ、五万人中将校を一千五百人までにせよというふうに当時は要求しています。だから、五万人の軍事組織を千五百人の将校で回すのもそもそも厳しいですし、もっと言うと、これは何かあってもそれ以上兵力を増やせないわけですね、指揮官の上限が千五百人しかいないと。なので、当時のウクライナ側は、いや、我々はイスラエルやスイスのような動員予備力が大変大きな軍隊を持つんだというふうに反発していましたけれども、多分、ロシアの目的は、軍事的に無力な状態にウクライナを追い込むということだと思います。
 さらに、昨年六月十四日にプーチンが外務省で行った演説では、この非軍事化条項からある程度のが取れました。だから、完全な非軍事化を求めるというふうに言っているように見えちゃうわけですね。
 あとは、中立化。これはNATO非加盟以外の要素も含むと思います。これも、イスタンブール交渉前にロシアが出した要求文書の中では、この中立化条項というのは第一条に入っているんですけど、この中立化条項で言っているのは、NATO非加盟だけではなくて、ロシアに対するあらゆる国際訴訟を取り下げよ、それからその全部の制裁を解除せよということが入っています。だから、ロシアに逆らわない国であるということ全体を中立化と言っていると思います。
 なので、これまでは、戦場で幾ら勝っても、さすがにウクライナにこんな条件をのますことができなかったという意味で、やっぱり戦術的優勢を戦略的優勢に結び付けられていなかっただろうと思うんですね。ただ、トランプ政権ができて、まだちょっと判断は尚早かもしれませんが、やはりロシアの要求を相当程度のむことで戦争を終わらせるという方針であるように見えるんですね、トランプ政権は。そうしてみると、これはウクライナ側から見てみると、停戦というよりも降伏を強要されているというふうに恐らく見えるのでしょうし、ロシアから見ると、これは極めて好都合なアメリカが現れたというふうに見えているんじゃないかと思います。
 最後、日本についての含意ということで、幾つかちゃちゃっとお話を申し上げたいと思いますけれども、まず、純粋に軍事的な側面からいうと、やっぱり、今我々が見ているのは二十一世紀型の一個の戦争の形なんですよね。これが全ての解であるとは思いませんけれども、今現実に我々が見ているウクライナでの戦争の在り方というのをちゃんと取り入れて、我々の安全保障政策をアップデートしていかないと、結局抑止の信憑性が保たれないだろうというのが私の大きな懸念点です。
 恐らく、日本が最初に直面するのは海空正面なので、陸の戦争であるウクライナ戦争とは直接結び付きはしないはずです。でも、じゃ、例えば、仮に今の陸上自衛隊ってあのドローンがあふれているウクライナの戦場で戦えるんだろうかと考えてみると、失礼ながら難しいんじゃないかと思うんですよね。朝鮮人民軍もできなかったわけですよ。朝鮮人民軍は最初の二週間で三分の一が死傷したわけですね。ただ、ウクライナ軍の評価だと、彼らは適応は早かったとは言っています。だから、北朝鮮はこのウクライナの戦場で貴重な戦訓積んじゃったんですよね。我々としてもやっぱり、こういう現代型の戦争の現実を、そういう戦争をしたくはないんだけれども、本当になったらどうなるんだということはまず真摯に学ばなきゃいけないだろうと。
 もう一個は、結局、ロシアの核の力が最後までやはり西側がウクライナを支え切ることを妨げてきて、今まさにアメリカの政権交代によって米ロが一緒になってウクライナに降伏を強要しているというふうに若干オーバーに言えば見えるんですよね。つまり、安定・不安定のパラドックスというのが極めて悪い形で働いている。まあ元々安定・不安定パラドックスはいいものじゃないんですけど。
 じゃ、今我々の安全保障にこれを当てはめた場合どうかというと、やはり中国の核戦力が非常に速いペースで増えているということが私は気になります。アメリカの国防総省の議会向け報告は、二年連続で中国の核弾頭が百発ずつ増えているという見方を示していますよね。これは、どうもやはり中国が高速増殖炉の運転に成功しているらしいということを裏付けるものでもあると思います。今、オペレーショナルなやつが六百発だと言っているわけですね。このままでいくと、二〇三〇年までに千発に達するだろうと。つまり、現状の米ロの戦略核戦力の三分の二ぐらいまでは中国は達すると。このペースが落ちないのであれば、二〇三〇年代半ばには、二大核超大国米ロ、三位中国だったのが、米中ロが対等の核超大国になるという未来がそろそろ見えてくるわけですよね。
 そのときに、やはり台湾有事なんかに際して中国が、このロシアがやったように安定・不安定パラドックスの人為的な利用というのを図る可能性はあるんじゃないかと私はやはり思います。じゃ、この安定・不安定パラドックスを引き起こさないためには、やはり米中間、米ロ間、中ロ間のその戦略的な核抑止はああいった軍事超大国がやるとして、この域内における侵略の阻止、あるいはその侵略の策源をたたける能力ぐらいは日本が持っておく、あるいは周りの国々で協力して持っておくということをやらないと、やっぱりこれ抑止の信憑性に著しい疑問を投げかけるんじゃないかというふうに思っています。
 済みません、そろそろ時間ですね。
 最後に、じゃロシアについて、最後のページで申し上げたいんですけど、こういう状況でロシアとどう向き合うかって本当に難しいと思うんですよ。私もロシア住んでいましたし、友人もいっぱいいますし、何なら奥さんもロシア人なので、ロシアを憎みたくはないし、無駄にロシアと争ってもしようがないとも当然思うわけですね。
 ただ、じゃ、ここで、まあまあ安いガスも買えるんだし、北方領土問題もあるんだしということでロシアに甘く出るということが、私はやはり長期的に日本の国益になるとは到底思えません。それは、この前のページでも書いていますけど、結局、日本がこの弱肉強食みたいな世界で生きていける軍事大国になれる見込みというのは余り高くないと思うんですね。なおかつ、余り望ましいとも私は思っていませんし、しかも、それは究極的には日本核武装を意味したりもするわけで、なおさら日本人としては余り賛成したくないんですよ。
 だから、何とかこの国際秩序を維持しなければいけないというのが日本の安全保障にとっては重要であるとするならば、やはりここでその秩序を今全力でぶち壊しにかかっているロシア側に対して甘い顔はすべきではない。少なくとも今この戦争の落とし前が付くまではロシアに対する制裁解除すべきではないと思いますし、あとは、これ、アメリカの中でもケロッグ特使なんかは中ロ分断を図るんだということを言っていますけど、中ロ分断が生半可なことでできないということは我が国の安倍政権の対ロ外交が証明していると思うんですね。安倍さんがいろんなことに果敢にチャレンジされた結果の一つのその負の知見として、これはきちんと生かさなければいけないと思うんですよ。
 済みません、もうやめますけど、この下に写っている衛星画像二枚、これ、ロシアのチュコトカというカムチャツカよりもっと上のところの北極圏の飛行場なんですけど、ここに去年の夏に中国の飛行機が入っていたということを我々が見付けた衛星画像です。最初、輸送機かなと思ったんですけど、よくよく見ると後ろの方にちょろっと空中給油ポットが付いているので、これ空中給油機なんですよね。恐らく、この写真が撮られたのと同じ日に中ロの爆撃機が北極圏で合同パトロールをしているんですが、そのサポートのために入ってきた給油機なんだろうと思います。
 だから、もう中ロの軍事的接近ってここまで来ていて、これを生半可なことで引っぺがそうとしても、恐らくそれは逆に足下見られるだけなんですよね。それよりは、やはり軍事的現実として注視するという方が、私のような安全保障屋からすると現実的な対ロ・アプローチになるだろうというふうに思います。
 済みません、若干時間を過ぎました。以上にします。
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猪口邦子#5
○会長(猪口邦子君) ありがとうございました。
 では次に、酒井参考人にお願いいたします。酒井参考人。
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酒井啓亘#6
○参考人(酒井啓亘君) 御紹介いただきました早稲田大学の酒井啓亘と申します。このような機会を与えていただき、感謝申し上げます。
 ここでは、ロシア・ウクライナ戦争に係る国際法上の論点について概括的に確認するとともに、こうした状況が現代の国際法秩序にいかなる影響をもたらし得るか、そして、それが、それに対して我が国がいかに対応すべきかについて私見を申し上げたいというふうに思います。
 ロシアがウクライナに対して行った軍事活動に関する国際法上の評価については既に多くの論考が公にされておりまして、そのほとんどはロシアの行動が国際法上違法であるということで一致しています。ここで改めて詳述する必要はないと考えますので、ごく簡単に内容を確認しておくだけにいたします。
 二〇二二年二月二十四日に開始されたロシアによる特別軍事作戦というのは、実際にはロシア軍がウクライナ領域に侵攻し、ウクライナの主権や領土保全を侵害する違法な武力行使であるということは明らかでありました。国連総会も、その後、三月二日に、この軍事活動がロシア連邦によるウクライナへの侵略であり、国連憲章二条四項に規定される武力行使禁止原則に違反する行為であるとして、ロシアを非難する決議を採択しています。
 この点での国際法上の評価は多くの識者も一致しています。ロシア政府でさえ、この軍事活動が国際法上違法であるということを前提として、例えば、国連憲章五十一条に基づき、個別的自衛権や集団的自衛権などを援用して、その違法性を阻却する事由に該当することを主張しているわけです。しかし、そうした違法性阻却事由もそれぞれの要件を充足するものとは言えず、その主張が妥当であると言うことは困難であると言わざるを得ません。
 ここで重要なのは、国際法上の評価というのはそれぞれの個別の行為ごとに行われなければならず、ならないということでありまして、ロシアによるウクライナ侵攻の背景にどのような政治的背景があるにせよ、その軍事活動自体を国際法上の関連規則に照らして法的に評価しなければならないということだろうと国際法の観点からは思うわけであります。
 次に、ロシア・ウクライナ戦争における国際人道法の適用についてもお話をしたいと思います。
 二ページのレジュメでいうと下になりますけれども、国際人道法規則というのは武力紛争法とも呼ばれ、武力紛争中において適用される武力規制に関する国際法規則に該当します。
 この国際人道法規則の特徴の一つは、武力紛争が発生したその端緒となる武力行使が国際法上合法か否かにかかわらず、その結果として生じた武力紛争の当事国間では国際人道法は平等に適用されるということが重要とされています。したがって、ロシアによる最初の武力行使が国際法上違法であるとしても、まあ違法だと考えられますが、それによって生じたこの戦争という武力紛争の中では、その当事国であるロシアもウクライナも共に国際人道法規則を遵守しなければならないということになっています。これが平等適用と、国際人道法の平等適用と呼ばれるものであります。
 国際人道法は、戦闘員と文民を区別し、軍事目標と民用物を区別することを大前提としています。そして、文民や民用物に対する攻撃を禁止するというのがルールであります。したがって、都市全体への無差別砲撃や、病院、学校への攻撃、文民の過度な損害を伴う攻撃などが禁止されることになります。また、捕虜の虐待禁止も国際人道法の重要な規則の一つです。こうした規則は、一九四九年のジュネーブ諸条約や一九七七年のジュネーブ諸条約第一追加議定書などに明文化されており、その締約国となっているロシアにも、そしてウクライナにも適用されて、それぞれの活動につき条約違反が問われています。
 なお、この戦争では、ドローンなどAIも駆使した敵対行為やデジタル空間を通じたサイバー攻撃が頻繁に行われたことでも注目されており、この点での国際人道法規則の充実が焦眉の課題というふうになっています。
 こうした国際人道法違反については、ジュネーブ諸条約やその追加議定書の重大な違反とされた場合に条約締約国の国内裁判所でその問題が裁かれるということになりますし、戦争犯罪などについては、国際刑事裁判所、ICCが裁判権を有する場合にその行為者を裁くことができるというふうに考えられています。
 この戦争では、二〇一四年以降のウクライナ国内での事件について、ウクライナ自身がICC、国際刑事裁判所の裁判管轄権を受諾する宣言を行っていますので、ロシアの軍事活動についてICCの検察官の捜査が及ぶということになります。実際にも、二〇二四年三月十七日には、プーチン大統領に対して児童の強制移動などの容疑で戦争犯罪についての逮捕状が発出されています。しかし、その身柄を強制的に確保する手段が残念ながらICCにはありません。結局のところ、容疑者は自国国内で通常どおりの活動を行うことができてしまうという結果になっています。
 こうしたロシアの違法行為に対して、ウクライナが国際法に基づいて行った対応と、これに対する国際社会の支援について次に申し上げたいと、確認したいというふうに思います。三ページの真ん中以下ということになります。
 ここでは、二つに、今申し上げたように、ウクライナの行為と、それから国際社会の支援というふうに、二つに分けて考えたいというふうに思います。
 まず、当然のことではありますが、ロシアによる直接の侵略行為に対するウクライナの対応というのがあります。
 自国の領域内に外国軍隊が侵入し武力行使を行った場合には、一九七四年に国連総会決議として採択された侵略の決議、侵略の定義に関する決議があり、その第三条によれば侵略行為に該当するというふうに考えられます。侵略行為は、単なる武力の行使にとどまらず、武力行使の最も重大な形態となる武力攻撃を伴うものと考えられます。
 先ほども申し上げましたとおり、国連憲章五十一条によると、相手国からの武力攻撃が発生した場合に個別的自衛権を発動することができるというふうにされておりますので、本件についても、ウクライナが個別的自衛権を行使してロシアの侵略行為に対抗することが可能というふうに法的には考えられています。実際にそのような主張が行われているわけです。
 また、ウクライナは、自衛権の行使と並行して、国際司法裁判所、ICJにロシアを相手取って提訴しています。国際裁判では、両当事者の、紛争当事者両方の同意があって初めて裁判を行うことができるというふうにされています。この点が国内裁判とは違うわけですけれども、本件では、ロシアもウクライナもジェノサイド条約という条約の締約国になっていて、その裁判条項を利用してウクライナが国際司法裁判所に紛争を付託したと、一方的に付託したということになっています。
 これまでICJは、暫定措置命令、それから訴訟参加命令、そして先決的抗弁判決がそれぞれ下されています。この点については、また御質問があればお答えしたいというふうに思います。
 また、国際社会からは、特に欧米諸国を中心として軍事的支援、それから経済的支援、それから、この紛争に非常に顕著で特異な特徴を持つわけですけれども、先ほど申し上げたウクライナによるICJへの一方的付託に対して、それを側面から支援する行動が欧米諸国を中心に行われているということもあります。これは、四ページの上のところに書きましたけれども、法律的紛争が国際司法裁判所で解決されるというために、ウクライナを支援するために欧米諸国が中心となって訴訟参加を行うというようなことが行われているわけです。この点についても、もし御質問があれば改めてお答えをしたいというふうに思います。
 この戦争が国際法秩序にもたらす影響について少し申し上げておきたいというふうに思います。
 そのためには、国際社会における国際法の位置付けを理解しておくことが必要だろうというふうに考えられます。
 基本的に、国際法は国際社会における主要なアクターである主権国家の合意によって形成されます。そして、その内容に同意した同じ主権国家によって履行を実施されるところにその最大の特徴があるわけです。つまり、国際法というのは、主権国家が自らのためにその内容を形成し、そして自らのためにその内容を実施するというものなわけです。自ら作って、自らそれを実施するということなわけですね。
 このため、往々にして国際法というのは、国内社会における集権的な強制執行機関がない国際社会において、主権国家により自由に破られるもの、遵守されなくても当然のものというふうに考えられがちであります。しかし、国家というのは、自己の利益、それが短期的か、あるいは中長期的かにもよりますけれども、いずれにしても、自国の利益に適合する場合には、そしてその限りにおいて主権国家はその国際法規則を遵守する、そしてそれが主権国家により国際法が遵守される実効性の根拠というふうにされてきたわけであります。
 しかし、現在は、それとは異なる契機が国際社会において出現しているということにも留意しなければなりません。二十世紀初めくらいから現在に至るまで、国際社会が成熟していくにつれて、主権国家の国益とは区別される国際社会そのものについての法益も認識され、それを保護するための国際法規則も発展していく過程にあるからであります。
 そして、その過程において、国際法秩序には、国家間の合意による逸脱を許さない法原則、いわゆる強行規範というものが登場いたしました。また、主権国家が条約締約国など特定の国家に対して負う義務だけではなく、国際社会全体に対して負う義務、すなわち対世的義務というものも認識されるようになってきたわけであります。中でも、侵略の禁止というのは先ほど申し上げた強行規範の一例とされていて、関係国の合意、条約などでは逸脱できない最重要の規範の一つというふうに考えられているわけです。
 今回のロシアによるウクライナへの軍事活動は、国際法の発展を目に見える形で発展させてきたこの強行規範というものをないがしろにするという結果になっています。この点は少なくとも次の二つの点に留意しなければならないであろうというふうに考えられます。
 第一に、ロシア自身も、自らに適用される武力行使禁止原則あるいは領土保全原則、侵略の禁止といった国際法上の基本原則の存在とその適用自体は否定していないということであります。すなわち、ロシアの軍事活動は強行規範に違反する行為ですが、ロシア自身も、侵略の禁止や武力行使禁止原則といった国際法規則を否定したわけではなく、その存在を肯定した上で、個別的、集団的自衛権の行使など違法性阻却事由で自らの行為の正当化を図っている、この点は重要かと思われます。
 しかし、第二に、特に国家の安全保障が関係する場合、こうした国際社会全体の利益とそれを保護するための諸規則が容易に軽視されやすいという状況が生じることは否めません。
 侵略行為による領域の取得、すなわち武力による併合は国際法上禁止されており、国際社会はその法的効果を否定するためにその状況を承認してはならないというルールを作っています。すなわち、強行規範の重大な違反の効果を考えた場合、侵略行為を行ったロシアにウクライナの領域を移転させるということは国際法上禁止されているということなのですが、この点が果たして法の予定するような形で実現する現実世界となっているかということが現在問題となっており、現代国際法が直面する困難の一つというふうになっているわけであります。
 こうしたロシア・ウクライナ戦争の現状を踏まえた上で、国際法の観点から指摘できる今後の課題や問題について二点申し上げたいというふうに思います。
 五ページ目の三のところに入りますが、第一に、戦争終結に向けた交渉の結果として、違法な手段によって行われた領域の取得が可能とされることを国際法に照らしてどのように考えるかということであります。
 トランプ政権となり、アメリカとロシアの間で和平交渉あるいは停戦交渉が行われる報道がありますけれども、ここでは二点だけ指摘しておきたいというふうに思います。一つは、紛争当事者の一方であるウクライナがその過程に正式には関与しない可能性があるということです。もう一つは、和平交渉あるいは停戦交渉の対象として、かつてウクライナの領土であった地域の一部がロシアの違法な武力行使、侵略行為によってロシアに移転されること、その事態の効果であります。
 前者のウクライナの立場については、ウクライナ政府の意図に反する和平案あるいは停戦案がアメリカとロシアの間で仮に合意され、それをウクライナに押し付けて和平合意、停戦合意が締結されざるを得なくなるという事態も想定されます。それは、ウクライナ政府、あるいはウクライナという国家の意思に反して、強制により条約の締結を求められるということにもなりかねません。このことは、ウクライナの代表に対する強制であれば、ウィーン条約法条約という国際法規則の中でも五十一条に規定されている国の代表者に対する強制に該当するおそれが出てきますし、ウクライナが合意内容を受諾しなければロシアが軍事活動を継続する、あるいは核を使うというような威嚇を行うということで、これも条約法条約五十二条に言う武力による威嚇又は武力の行使による国に対する強制に当てはまるかもしれません。
 いずれにおいても、こうした事項に該当するのだとすれば、問題となる条約あるいは合意の無効原因事由となり得ます。すなわち、和平合意、停戦合意を法的拘束力ある条約として確定しようとしても、それが無効となる可能性があるということであります。
 さらに、移転の対象となる領域に居住するウクライナ人民の意図にも考慮がなされなければなりません。ウクライナ人民の真正な意思を確認する必要があり、これをないがしろにすればウクライナ人民の自決権の侵害につながるおそれも出てきます。
 もう一つのロシアによる侵略行為を通じた領域の取得が正当化されるかどうかという点でありますが、これは、さきに述べたとおり、侵略の禁止という強行規範に違反するロシアの軍事活動の結果、すなわち武力による領域の取得というのは国際社会全体に対する義務に違反する行為ということになりますし、国際社会を構成する主権国家はその法的効果を承認しない法的義務を負うというふうにされています。そうだとすると、仮に紛争当事者であるウクライナがそうした領域移転を条件としてのんで和平合意、停戦合意を受け入れたとしても、国際社会としてはそれを認めてはならないということにもなりかねません。
 もし、関係当事者のみで領域移転が受諾され、これに対して他の諸国から唱えられる異議が受け入れられないとすると、これまで現代国際法において発展してきた強行規範概念とその違反行為の法的効果に対する重大な疑念というものが生じることになるわけであります。
 こうした状況において、我が国が領域移転を含む和平合意、停戦合意の締結に賛意を表明するということは、外交上の選択肢としてはもちろんあり得ます。無辜の人民を救うために、無辜の人命を救うために早急に戦闘を停止し和平を達成するという平和を重視する方針を採用し、結果として、そのためにはこれまで国際法で考えられてきた概念やその効果に一定の修正を迫るという行動となることも、これはアメリカとの関係を重視する我が国の外交上の立場からは十分に理解できるところではあります。
 しかし、他方において、そのことにより我が国が、国際法に対する姿勢について、そして国際社会における法の支配に対する自らの役割について、かなりの失望と信頼感の喪失を国際社会から受ける覚悟を引き受けなければなりません。そして、それに見合う外交上の成果をまた求めなければならないという、極めて困難な課題が残されることになるでしょう。
 今後の課題としての第二点として、アメリカによるICCへの制裁措置にいかに対応するかということがあります。これもウクライナを除くアメリカとロシア主導の和平、停戦交渉への対応と同種の問題を含むものではないかというふうに考えられます。
 すなわち、ICCの捜査に協力する個人などに対して制裁措置を科すというアメリカの方針に対して、ICC規程加盟七十九の国・地域がこれに反対する共同声明を明らかにしました。我が国はこの共同声明には距離を置きましたが、それは赤根智子ICC所長の安全を考えたものというふうに言われています。ただ、これにはアメリカへの配慮も排除されないように思われますし、このことは、国際社会における法の支配を体現している機関の一つであるICCとその制度に対する最大の貢献国である我が国が、現実にはその保護の立場に立たないということを意味します。
 アメリカとの協調関係により獲得される外交上、安全保障上の利益はもちろん重要ですけれども、まさにルールに基づく国際秩序、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序と、それに由来する国際社会全体の利益を犠牲にするということになれば、我が国の中長期的な利益が損なわれないことにならないかどうか、国際社会におけるそのプレゼンスを損なうものとはならないかということをきちんと吟味しなければならないように思われます。
 以上のように、ロシア・ウクライナ戦争の国際法上の評価というのは、大国による国際法の軽視にその原因の一端があるとも言え、その結果として国際社会における国際法の役割への不信感が醸成しているということになっています。
 そこで、最後に、そうした現在の状況を踏まえて、より一般的に現代国際法の発展に向けての日本の貢献について触れておきたいというふうに思います。
 ここでは、国際規則の形成と、国際法規則の形成と、その実施の二つの側面に分けて説明いたします。
 まず、我が国の外交には、国際法規則の形成に積極的に参加し、国際社会におけるルールの明確化に寄与することが求められます。国際法規則の形成には、自国の国益の増進を図るという観点が不可欠であり、もちろんそれが当然ではありますが、そのほかに国際社会全体の法益を発展、強化させるための手段の実施に積極的に協力、貢献することもまた重要であります。これには、ジェノサイド条約や各種人権条約の個人通報制度を規定した議定書など重要な国際条約への加入も課題ですが、多数国間条約の成立に向けた交渉への参加とその最終的な批准、加入のほか、慣習国際法規則の形成の端緒となる各種国際機構の活動に積極的に参加することが含まれます。
 また、我が国は、ルールに基づく国際秩序や法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を掲げて、これを推進する立場である以上、そこで想定される法やルールが国際社会全体にとってできる限り納得のいく内容を有するように努力することも求められます。
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猪口邦子#7
○会長(猪口邦子君) 酒井参考人、恐縮でございますが、時間の関係もございますので、御意見おまとめください。
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酒井啓亘#8
○参考人(酒井啓亘君) 分かりました。申し訳ありません。
 では最後に、ごく簡単に一点だけ、じゃ、申し上げます。
 せっかくですので、この立法府である国会についても、国際法規則の形成への理解を深めていただきたく希望します。国内立法は、国際社会においては我が国の国家機関の行為でありますし、国家実行の表れとみなされるからであります。
 既に安全保障の分野では、安全保障法制に係る国内法の整備が行われています。さらに、最近では能動的サイバー防御に関する新法の制定と関連法令の改正が予定に上がっていると伺っています。国際社会において依然として不明確なサイバー活動の規制の問題について、立法府が国内立法を通じて国際社会における国際法制度の整備に関する議論をリードする契機を生み出すことにもなり、その後の外交交渉を有利に進めることも考えられます。立法府もまた、我が国の国家実行という形で国際法規則の形成に寄与し得るということを御確認いただければと思います。
 私の意見はこれまでです。申し訳ありません、時間を超過して、申し訳ございませんでした。以上です。
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猪口邦子#9
○会長(猪口邦子君) ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 本日の質疑はあらかじめ質疑者を定めずに行います。
 まず、大会派順に各会派一名ずつ指名させていただき、その後は、会派にかかわらず御発言いただけるよう整理してまいりたいと存じます。
 なお、質疑及び答弁は着席のままで結構でございます。
 また、質疑者には、その都度答弁者を明示していただくとともに、できるだけ多くの委員が発言の機会を得られますよう、答弁を含めた時間がお一人十分以内となるよう御協力をお願いいたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
 それでは、永井学君。
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永井学#10
○永井学君 自由民主党の永井学です。
 今日は、お三人の参考人の皆様方、本当に貴重なお話ありがとうございました。まさに今動いているこのウクライナとロシアの戦争について、本当に分かりやすく、いろいろな方面からお話を伺うことができました。二〇二二年の二月二十四日にスタートしたこのロシアとウクライナの戦争ですけれども、来週の月曜日でいよいよ三年がたつということで、長期化している中で、本当に今日いろいろなお話を伺えて、大変勉強になりました。
 そんな中で、お伺いをしたいんですが、まず最初に広瀬参考人と小泉参考人にお話を伺いたいというふうに思います。
 先ほど、小泉先生のお話の中にもちらっと出てきましたけれども、ロシアと北朝鮮との軍事的関係の強化が東アジア情勢に与える影響についてちょっとお伺いしたいと思います。
 ロシアは北朝鮮と有事の際に軍事的支援を提供することを定めた包括的戦略パートナーシップ条約を昨年の六月に締結をして、同年十二月には同条約が発効しました。そうした中で、昨年十月以降、北朝鮮の部隊がロシア西部のクルスク州に配置されて、ウクライナとの戦闘に参加をしております。
 ウクライナ戦争を通じロシアと北朝鮮の軍事的な結び付きが強まる中、北朝鮮がロシアから核や弾道ミサイルの高度化、軍事偵察衛星に関わる支援を受け、日米韓に対して一層挑発的な行動を取った場合、朝鮮半島情勢の緊迫化をもたらしかねないと思います。さらに、そうした状況がいわゆる台湾有事と連動した場合には、東アジア全体の安全保障情勢は極めて深刻な状況に陥りかねないと思いますが、そうした事態を防ぐために日本はどのような方策を取るべきか、お二人に伺いたいと思います。
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広瀬佳一#11
○参考人(広瀬佳一君) 御質問ありがとうございます。
 この北朝鮮の問題というのは、例えば今日お話ししたNATOのこれまでの政策の深化とか、そういう中で必ずしも予期されていなかった問題でして、例えばNATOが戦略概念を改定したときにも、そこで記されていたインド太平洋への関心、あるいはインド太平洋の問題が欧州大西洋に非常に重要な意味があるというのは、あくまでも、これは明記はしていませんけれども、中国であります。特に、北極海が温暖化によって通りやすくなることによって、中国が北極海からヨーロッパにも進出をしてくる可能性があるとか、そういった問題で中国に対する注意というのは向けられていたわけですが、必ずしも、北朝鮮が今回のように派遣したことについて、NATOが、それ自体が注意をしていたとは思えませんけれども、でも、考えてみると、そうした、仮に動機が中国であったにしても、NATOがインド太平洋とのグローバルな安全保障の連関というものに気付いたということは、その上に立って北朝鮮の問題に対処できるということもあって、これはある意味で整合性がある問題だと思いますし、特に、先ほど申し上げましたように、このIP4という枠組みは日本と韓国とオーストラリアとニュージーランドですから、これは期せずして韓国を巻き込んでいるわけですので、そういう意味で、もちろん日米安保を中心にミサイル防衛とかには対応していくんでしょうけれども、やはり韓国を含めた日本がNATOと協力をすることによって一定の北朝鮮に対する抑止力を発揮するという意味もありますので、この発展は決して日本にとって不適切でも何でもなくて、むしろ前向きに捉えるべきではないかなというふうに思います。
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小泉悠#12
○参考人(小泉悠君) どうもありがとうございます。
 まず、そもそも北が今ロシアに対して一番大きな貢献ができている分野は何かというと、人間と弾だと思うんですよね。さっきロシア軍が年間一千万発撃つというお話を申し上げましたけど、北朝鮮、去年一年間で六百万発ぐらいの弾をロシア軍に供与したと言われています。二〇二三年には五百万発弱だったと言われています。それから、ロシア軍の火力の実は半分から六割ぐらいって北朝鮮由来なんですよね、今や。だから、北朝鮮がこの巨大な軍事工業力を持っていて、それでロシアを支えているというところにこの取引が生まれちゃっている余地があるわけです。
 やっぱりいろんな穴が空いていて、北朝鮮に本来渡るべきじゃないものが渡ってしまっていたということを反省しなければいけないと思いますし、他方で、完全に日本だけで封じ込め切ることも絶対できないわけですよね。ですから、さっき広瀬先生がおっしゃった韓国との協力というのも、広く網を掛けるような協力をアジア全体でやっていけないのかと。これは、更に言うと、ヨーロッパの工業国家とも連携しなければできないわけです。工作機械であるとか、それを動かしているソフトウェアであるとか、そのメンテナンス用部品であるとかですね。
 今直接的に問題になっているのは、ロシアに対する工作機械の流出がまだ止まっていないということなんですよね。これ、フィナンシャル・タイムズの調査報道を読んでいると、日本からはほぼ止まっているんだけど、やっぱり韓国、台湾からかなり漏れちゃっている部分があるであるとか。で、恐らく同じことが北朝鮮に対しても起こっているはずなんですよね。又は、それぞれで取り締まっているんだけどちゃんとうまく連携できていないであるとか、ちょっとこの辺私は専門外ですが、そういったところで私たちができることというか改善できることがもっとあるんじゃないかなと。
 なおかつ、恐らくこれは法制度とかの問題にかなり絡んでくるので、本当に立法府の先生方に是非是非御協力をいただきたいところだと思います。
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永井学#13
○永井学君 ありがとうございました。
 それでは、あと一問、酒井参考人にお伺いをしたいと思います。
 若干、先ほどの御説明の、何かちょっと本当に総括的というか、またダブるような部分があると思うんですけれども、お伺いしたいと思います。
 ウクライナ戦争において、ロシアはウクライナの主権と領土一体性を侵害し、武力不行使原則に違反するとともに、ブチャでの虐殺を始め様々な国際人道法違反を行っております。国連憲章の下、国際の平和と安全の維持に主要な責任を負う常任理事国の一つであるロシアによるそれらの行為は、国際秩序の根幹を揺るがすものであると考えます。
 こうしたロシアに対し、国際法は一見無力に見えますが、法の支配を重視する日本を始め、国際社会の多くの国々は、国連のみならず、G7といった多国間枠組みなどを通じて、ロシアによる国際法違反を非難し続けています。また、ロシア自身、これまで自ら国際法に違反しているとは言っておらず、法理上は認め難いものの、自衛権等によって自らの行為を正当化しようと試みています。
 そこで、改めて、ウクライナ戦争において国際法が果たしている役割や意義、この戦争を踏まえた国際法秩序の在り方と国際社会における法の支配の強化に向けて日本が今後果たすべき取組について再度お伺いをしたいと思います。
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酒井啓亘#14
○参考人(酒井啓亘君) ありがとうございます。
 大変重要な質問であり、難しい質問だというふうに思っております。
 国際法は、少し説明を補足させていただくと、大きく二層構造になっているというふうに言ってもいいんだと思うんですね。つまり、歴史的に言えば、伝統的に国家間での活動を規律してきた、その領土保全原則だとか、あるいは主権平等原則だとかといったような国家間、主権国家が従来遵守してきたものと、これに対してもう一つが、現代国際法において新たに国際社会の法益を中心として組み立ててきた、人権問題だとか環境問題だとか、あるいは人道法の問題だとかというような形での法規則というのがあると。で、日本が果たすべき役割というのは、もちろん両方の法規則を発展、それからそれを実施するというところに注力すべきというふうに思います。ただ、それはあくまでもバランスよく行われなければならないんだろうというふうに思いますね。
 今回のロシア・ウクライナ戦争の一つの教訓というのは、まだ終わってないですけれども、教訓めいたものを申し上げれば、先ほどおっしゃったように、ロシア自身はその伝統的な国際法規則を破るつもりはないということは再三再四言っているわけです。これはほかの主権国家も同様だろうというふうに思うんですね。むしろ新たに展開している現代的な国際法規則というものをいかに発展させていくかというところが焦点だろうというふうに思います。
 ただ、こういった新しい規則というのは、一直線に目的が達成できるように作られていくわけではなくて、紆余曲折、場合によっては後戻りしながら徐々に進んでいくものだろうというふうに思うわけです。今回の戦争で仮に後退すると、その新しい規則が仮に後退するものだとしても、行く行くは前進するように働きかけていくと。その意味で、日本が多数国間の枠組みにおいてロシアの行為を非難し続けるというのは決して無駄ではないというふうに考えています。
 お答えになっているかどうか分かりませんけれども、そのとおり考えます。
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永井学#15
○永井学君 ありがとうございます。
 以上です。
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猪口邦子#16
○会長(猪口邦子君) それでは、杉尾秀哉君。
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杉尾秀哉#17
○杉尾秀哉君 立憲民主党の杉尾と申します。
 三人の先生方、本当に貴重な御意見ありがとうございました。
 今、ちょうど渦中ですので、なかなかはっきりしたことを言いにくいとは思うんですけれども、非常にシンプルな質問です。
 米ロの高官が接触をして、トランプ政権、人によって言うことが全然違うみたいですけれども、今月の下旬にも首脳会談が行われるという中で、この米ロ交渉がうまくいくか否か、それについてお三方の見通しをできるだけコンパクトにまず教えていただきましょう。酒井先生から。
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酒井啓亘#18
○参考人(酒井啓亘君) 御質問ありがとうございます。
 私は政治学は大変疎いもので、国際法学の観点からということになりますので、確固たることは申し上げられません。
 ただ、トランプ政権、第一次のときもそうだったんですけれども、やっぱりアメリカ・ファーストの姿勢が強くて、その限りでやっぱりロシアとの交渉というのを行っていくんだろうというふうに思います。その意味で、成功するかどうかというのは、極めてバイの関係で行われることになるんだろうと思って、マルチの視点というのはそれほどないのかな。仮にロシアとの間で交渉がうまくいったとして、それが国際社会に向けてどういうメッセージを持つのかというのはまた別問題だろうというふうに、素人ながらの見立てで考えております。
 申し訳ありませんが、私からは以上でございます。
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杉尾秀哉#19
○杉尾秀哉君 小泉参考人もお願いいたします。
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小泉悠#20
○参考人(小泉悠君) ロシア側を見ている人間からすると、今トランプが言っていることってほぼロシアの主張を丸のみしているんですよね。
 まず、ロシアの交渉開始条件というのが、占領、併合を宣言した四州の行政境界線からのウクライナ軍撤退とNATO不加盟、これで交渉のテーブルには着くという言い方なんですよ。トランプ政権はその二つの点について、現実的ではない、あるいは困難であるという言葉でロシア側の言い分を認めているように見えますし、さらに、その先の和平交渉そのものの条件である中の非ナチス化、政権交代については、ウクライナは戦時下であっても大統領選すべきじゃないか、民主主義国なんだからということで認めているように見える。だから、米ロ間は交渉ができるというか、トランプがもうロシアの言い分をどんどんのんでいっているように見えるんですよね。だから、米ロ交渉はできるんでしょうと。というか、ロシアに丸め込まれちゃうんでしょうと私は思っています。
 ただ、これはウクライナでの戦争の問題なので、米ロが幾ら勝手に握ってもウクライナが同意しなければこれ停戦まとまらないですから、米ロ交渉はできるんだろうけど、停戦そのものはできるんだろうかというところに関しては極めて疑問であると思っています。
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杉尾秀哉#21
○杉尾秀哉君 広瀬参考人に同じ質問伺いますが、加えて、広瀬参考人には、先ほど、今のお話もそうだったんですけれども、小泉参考人がおっしゃっていた、事実上トランプがロシアの要求を相当のむことで戦争を終わらせようとしているんじゃないかと、これについての見解も含めてお答えいただけますでしょうか。
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広瀬佳一#22
○参考人(広瀬佳一君) 分かりました。
 もちろん現在進行形ですので、あくまで私見として申し上げますけれども、こういう大きな戦争が起きたときに、やはりこれは今私はパラダイムシフトになっていると思うんですね。もう冷戦後の多国間協調というのが終わりつつあって、やっぱり大国間のパワーポリティクスというのが物を言う時代になっていると。これってやっぱり第二次世界大戦の後にちょっと似ているわけですよ。第二次世界大戦のときだって、結局、小国の問題、東ヨーロッパの問題、いろいろな問題がありましたけど、決めたのはスターリンとルーズベルトなわけですね。ですから、そういうそのパターンがもう一回繰り返されるんじゃないかという危惧を持っていて、その意味では、今トランプさんとそれからプーチンさんがまとめようとしていることというのは、まとまる可能性というのは枠組みとしてはあると思います。
 それを補強するのは、残念なことに肝腎のヨーロッパに代案がないということです。ヨーロッパはそれこそ、何というんですかね、口だけ大将みたいになっていて、いろいろ倫理的に正しいことをおっしゃるんだけれども、その裏打ちとなる手段を持っていないがゆえに、結局最終的にはそれはウクライナが決めることと投げてしまうので、そこで結局は、ヨーロッパとして現実的代案を出せないこと、プランBを出せないことがなおさら米ロで一旦は方向性決まってしまうんじゃないかということ、そういう予測、そういうやや悲しい予測というのを私は印象付けられているなというふうに思います。
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杉尾秀哉#23
○杉尾秀哉君 今、広瀬参考人がおっしゃったように、こういう交渉というのはそのゲームプレーヤーが多ければ多いほどまとまらないので、アメリカ、それからロシア、プーチンにしてみれば、双方やっぱりなるべく少ないプレーヤーで決めた方が話がまとまりやすいということだと思うんですが、そこで、今、広瀬参考人が触れられました第二次大戦という話で、最近ロシアなんかでヤルタ二・〇という言葉が言われているというふうに聞いています。あのときはイギリスのチャーチル首相がいたわけですね。そこにアメリカのルーズベルトとそれからロシアのスターリンと、ソ連のスターリンということだったですけれども、その三人目のプレーヤーがもしいるとすれば、ある人に言わせれば中国の習近平がそれを狙っているんじゃないかと、しかもその和平後のウクライナへの例えばPKOの参加とかいうふうな形でですね。そういうふうな解説もありますけれども、このヤルタ二・〇というものに対して、小泉参考人、よくロシアの国内事情をお分かりだと思いますので、どういう議論になっていて、実際にこういうことになるのかどうなのか、その見通しというか、お聞かせいただければ有り難いと思います。
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小泉悠#24
○参考人(小泉悠君) ヤルタ二・〇という言葉は多分にはやり言葉ではありますけれども、要するに、冷戦後にロシアが言ってきた多極世界という話がいよいよ実現しつつあるという手応えは持っていると思うんですね。ただ、多極世界というのは、要するに、アメリカ中心世界を解体して何か別の世界をつくるということなんですよ。それ自体はとてもいい話だと思うんですけど、その多極世界というのは、無極世界とはロシアは言わないんですよね。幾つかの極、グレートパワー、ロシア語で言えばデルジャーヴァがいて、それがそれぞれの地域を取り仕切る、その地域を取り仕切っている極同士はけんかしないという世界なので、どちらかというとこれは勢力圏分割構想みたいなものに近かったわけです。少なくともプーチン政権下ではそういう話にどんどん変わっていってしまったと。
 今、そのヤルタ二・〇というのは、だから、結局、その勢力圏分割をするメンバーを変えて同じようなことをしましょうと、さっき広瀬先生がおっしゃった第二次世界大戦後の勢力圏分割をもう一回やりましょうというふうにロシア側からは見えているんだろうと思います。そのときに、当然のことながら、旧ソ連地域はロシアのものですよねと。
 あと、もう一個忘れてはいけないのは、二〇二一年の十二月にロシアは具体的な提案をNATO本部とアメリカ政府両方に対して送っていますよね。特に、あの中のアメリカ向け条約案の中では非常に具体的なことを言っていて、旧ソ連にはNATOを拡大しないと約束しろと言っているし、それから東ヨーロッパのNATO加盟国からは米軍を撤退させろと、合同軍事演習もするなと。つまり、東ヨーロッパは緩衝地帯にしろと、NATOは西ヨーロッパ以降でやりなさいという話なんですよね。そういうような形のヤルタ二・〇というのをロシアは多分構想しているだろうと思います。
 ただ、そこに中国が、当然もうアジアは中国のものでいいやってロシアは思っているわけですけど、今のウクライナ戦争そのものの具体的な停戦プロセスに中国が入ってきそうかというと、余りロシア語圏から見た情報の中ではそういう期待論というのはない気がしますね。
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杉尾秀哉#25
○杉尾秀哉君 最後に、酒井参考人に伺いたいんですが、これは仮の話の場合ですけれども、ロシアに有利な形で停戦、和平が実現した場合、先ほどちらっと先生触れられておられましたけれども、日本がどういう立場を取るべきなのかと、ここでアメリカを支持した場合は国際法の発展に対する後ろ向きの姿勢を示すことになるんじゃないかと、こういうことをおっしゃいました。
 それから、ICCの今回のそのアメリカの制裁に対する日本の、いわゆる共同声明に日本が加わらなかったという問題も含めて、今の日本のこうした姿勢について率直な参考人の御意見を聞かせていただければ有り難いんですけれども、こうあるべきではないかという視点でお願いします。
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酒井啓亘#26
○参考人(酒井啓亘君) ありがとうございます。
 難しいんですけれども、私自身の個人的な考え方を言うと、国際法というのは国際社会の構成員の協力の下に作られてきたものであって、どこまでそれが現状に合っているかどうかということを考えながら発展させていかなければならないだろうというふうに思っています。
 その限りで、日本が、行き過ぎた発展を国際法がしているということであれば、そこに、将来的にはその方向に持っていくべきだという姿勢は取りつつも、しかし現時点では、国際法は具体的な規則というのは外交に資するものではないという形で後ろ向きになるのも、これは国益の観点からは理解できるところではあります。
 要するに、バランスの問題だというふうには思っています。いかなる国益を日本が考えて国際法を守っていくのかという観点から、この部分はやはり全体のことを考えて、国際法のこの部分についてはちょっと付いていけないけれども、しかし、ほかの部分についてはどんどん促進していきたいというような考え方というものは成り立ち得るんじゃないかというふうには考えています。
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杉尾秀哉#27
○杉尾秀哉君 そういう戦略的な対応が必要だということで、了解いたしました。
 ありがとうございました。私からは以上です。
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猪口邦子#28
○会長(猪口邦子君) それでは、高橋光男君。
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高橋光男#29
○高橋光男君 ありがとうございます。公明党の高橋光男でございます。
 本日は、三人の参考人の皆様に、ウクライナ戦争の現状と諸課題という、まさに現在起こっている大変重要なテーマにつきまして、本当にそれぞれの御専門のお立場から示唆に富んだ御説明をいただき、ありがとうございます。
 まず、私は広瀬先生と小泉先生にお伺いしたいと思いますが、今のこの米ロの関与によるウクライナ戦争の停戦等の交渉について、どのような形でこれが実現するか、その可能性も含めて分かりませんけれども、その後の我が国日本のウクライナへの関与の在り方につきましてお伺いしたいと思います。小泉先生のレジュメ、最後ちょっと御説明もできなかった分もあろうかと思いますので、その辺りも教えていただければと思います。
 例えば、二国間でいえば、我が国に期待されているところとして、やはり復旧復興への貢献の在り方、また、マルチの部分でいきますと、これはもしかしたら酒井先生の領域かもしれませんけど、今この法の支配というものが大変危機にさらされている中で、いかに国際秩序をこれ回復していくのかということですね、それぞれのお立場から、やはり我が国がそうした課題に取り組むに当たって、やはりどのような制約があり、一方でどういう可能性、また国益上の意義があるか、どうお考えになられているかについて御説明をお願いします。
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