法務委員会

2025-05-08 参議院 全101発言

⚠️ 発言のコピー・転載時は出典元URL(kokkai.ndl.go.jpおよびkokkai-data.com)を必ず残してください。改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

会議録情報#0
令和七年五月八日(木曜日)
   午後一時開会
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         若松 謙維君
    理 事
                古庄 玄知君
                渡辺 猛之君
                田島麻衣子君
                矢倉 克夫君
                川合 孝典君
    委 員
                小川 克巳君
                岡田 直樹君
                片山さつき君
                山東 昭子君
                森 まさこ君
                山崎 正昭君
                打越さく良君
                福島みずほ君
                谷合 正明君
                嘉田由紀子君
                仁比 聡平君
                鈴木 宗男君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        武蔵 誠憲君
   参考人
       東京大学大学院
       法学政治学研究
       科教授      成瀬  剛君
       日本弁護士連合
       会刑事調査室室
       長        河津 博史君
       立命館大学大学
       院法務研究科教
       授        渕野 貴生君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(閣法第三〇号)(衆議院送付)
    ─────────────
この発言だけを見る →
若松謙維#1
○委員長(若松謙維君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、三名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、東京大学大学院法学政治学研究科教授成瀬剛君、日本弁護士連合会刑事調査室室長河津博史君及び立命館大学大学院法務研究科教授渕野貴生君でございます。
 この際、参考人の皆様に一言御挨拶申し上げます。
 本日は、御多忙のところ御出席いただき、誠にありがとうございます。
 皆様から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の進め方について申し上げます。
 まず、成瀬参考人、河津参考人、渕野参考人の順にお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 また、御発言の際は、挙手をしていただき、その都度、委員長の許可を得ることとなっておりますので、御承知おきください。
 なお、御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず成瀬参考人からお願いいたします。成瀬参考人。
この発言だけを見る →
成瀬剛#2
○参考人(成瀬剛君) 東京大学の成瀬剛と申します。
 本日は、参考人として意見を述べる機会を与えていただき、ありがとうございます。
 私は、刑事訴訟法の研究、教育に従事しており、今回の法律案に関しては、法制審議会刑事法部会において幹事として審議に加わりました。本日は、同部会における議論を踏まえ、本法案に賛成の立場から意見を述べさせていただきます。
 以下では、お配りした資料に沿ってお話をさせていただきます。
 初めに、本法案に対する総論的意見を申し上げます。
 一般に、刑事手続において情報通信技術を活用することは、刑事手続の円滑化、迅速化に資するとともに、刑事手続に関する国民の負担の軽減をもたらし得ると考えられます。もっとも、その活用方法によっては、刑事訴訟法に定められた各制度の趣旨や目的の実現が損なわれるおそれもあります。
 そのため、法制審議会刑事法部会においては、刑事訴訟法で定められた各制度の趣旨や目的といった基本的な問題に立ち返り、各制度の趣旨や目的をできるだけ損なわない形で、できることならその趣旨や目的をより良く実現する形で情報通信技術を活用するという観点から議論が重ねられました。その結果、技術的には可能な措置であっても、制度によっては非常に限られた場面でしか利用しないという結論になったものもあります。
 このような慎重な検討を経て策定された本法案は、刑事手続全般にわたり情報通信技術を適正な形で活用するものと評価することができ、全体として支持することができると考えています。
 以上が本法案に対する総論的意見ですが、本日は時間も限られておりますので、本法案の中で中心的な検討課題とされてきた電磁的記録提供命令の創設について、より立ち入って意見を申し上げたいと思います。
 以下では、委員の先生方の関心が高いと思われる捜査機関による電磁的記録提供命令を対象として検討してまいります。
 現行刑事訴訟法には、捜査機関が必要な電磁的記録を強制的に取得する方法として、当該電磁的記録が記録された記録媒体を対象とする差押えや記録命令付差押えという方法が規定されています。
 もっとも、これらの方法による場合には、捜査機関が被処分者の元に赴いて有体物である記録媒体を対面で差し押さえる必要があるため、捜査機関側、被処分者側の双方に相応の人的、物的負担が生じています。また、捜査に必要な電磁的記録がクラウドサーバーに保存されているなどの理由により、当該電磁的記録が記録されている記録媒体を特定することができず、記録媒体の差押えが困難となる事例や、記録命令付差押えを実施しようとしたところ、被処分者が記録命令に従わない意向を示すといった事例もあります。
 本法案は、このような現行法上の課題を解決するため、記録命令付差押えに代えて新たに電磁的記録提供命令を創設することとしています。
 電磁的記録提供命令とは、捜査機関が、裁判官の発する令状により、電磁的記録を保管する者等に対して、捜査に必要な電磁的記録を捜査機関の管理に係る記録媒体に記録又は移転させる方法により提供することを命じるものです。
 現行法上の差押えや記録命令付差押えが電磁的記録が記録された記録媒体を対象としているのと異なり、電磁的記録提供命令は電磁的記録そのものを対象としています。また、電磁的記録の提供方法として、捜査機関の管理に係る記録媒体に記録又は移転させる方法を取ることができます。さらに、捜査機関による被処分者への令状提示もオンラインで行うことができます。その結果、捜査機関は裁判官の発した電子令状をオンラインで被処分者に提示し、被処分者も同令状で特定された電磁的記録をオンラインで捜査機関側の記録媒体に記録又は移転すれば足りることとなり、捜査機関側、被処分者側双方の人的、物的負担が軽減されます。
 加えて、電磁的記録そのものを対象とする電磁的記録提供命令においては、当該電磁的記録が記録されている記録媒体を特定することは要求されない上、同命令に違反した場合には刑罰が科される可能性もあることから、捜査に協力的でない被処分者からも必要な電磁的記録を入手することができます。
 このように、電磁的記録提供命令は現行法上の課題を解決するものと言えますが、同命令はあくまでも処分の時点で既に存在する電磁的記録の保全に向けられたものであり、その点では現行法上の差押えや記録命令付差押えと何ら異なるところはありません。他方、処分の実施と並行して、言わばリアルタイムに発生する通信内容を継続的に保全する通信傍受とは処分の性質を異にすると言えます。
 なお、電磁的記録提供命令は捜査に必要な電磁的記録を保管する者に対して行うものですが、電磁的記録の移転の容易性に鑑みれば、捜査機関が我が国に所在する被処分者に対して電磁的記録の提供を命じた時点で当該電磁的記録が日本ではなく外国に所在する記録媒体に記録されているという事態も想定されます。その場合に、捜査機関が電磁的記録提供命令を執行することは当該外国の主権を侵害するのではないかという懸念もあり得るところですが、この場面で外国に所在する記録媒体から電磁的記録を入手するのは、捜査機関ではなく当該命令を受けた被処分者、すなわち我が国に所在する私人であるため、外国の主権を侵害するおそれはないと考えます。そもそもこの問題は現行法上の記録命令付差押えにも当てはまるものであり、従前からこのように理解されてきました。
 では、以上のような電磁的記録提供命令を創設することは、日本国憲法の下で許容されるでしょうか。
 同命令により提供を命じられる電磁的記録には様々なものがあり得ますが、それが通信内容や通信履歴に関するものである場合には、憲法二十一条二項が保障する通信の秘密との関係が問題となります。
 同条項が保障する通信の秘密は、憲法二十一条一項が保障する表現の自由に関連する面もあるものの、その主たる意義は、私生活、プライバシーの保護を通信の場面に及ぼす点にあるとされています。それゆえ、捜査機関が一定の条件の下で私人のプライバシーを制約することが許容されるのと同様に、通信の秘密を制約することも許容され得ると考えます。
 憲法三十五条一項は、その条件として、捜査機関が私人のプライバシーや通信の秘密といった重要な権利を実質的に制約する場合には、原則として裁判官による事前の令状審査を要求しています。
 さきに申し上げたとおり、捜査機関が電磁的記録提供命令を行う場合には事前に裁判官の発する令状を取得する必要があり、その令状に記載される提供されるべき電磁的記録は、裁判官が疎明資料に基づいて被疑事実に関連性を有すると判断した電磁的記録のみに限定されます。この点に鑑みると、本法案が創設する電磁的記録提供命令は、憲法三十五条一項が規定する令状主義の要請を満たすと同時に、捜査機関には被疑事実と関連性を有する電磁的記録の取得のみを認めるという意味で、私人のプライバシーや通信の秘密を不当に制約するものではないと言うことができます。
 もっとも、捜査機関が電磁的記録提供命令を被疑者に対して執行する場合には、被疑者にとって不利益な電磁的記録を自ら提供するよう罰則の担保の下で命じることになるため、憲法三十八条一項が保障する自己負罪拒否特権との関係についても整理しておく必要があります。
 ここで、憲法三十八条一項が強要を禁じる供述とは、口頭によるか文書によるかは問わないものの、言語を用いた観念の表出を指すと理解されています。そのため、被疑者に対し新たに観念を表出するよう強制するのでなければ、憲法三十八条一項には違反しないと考えられます。最高裁判所の判例も、酒気帯び運転の疑いがある者に対し呼気検査を実施することはその供述を得ようとするものではないから、検査を拒んだ者を処罰しても憲法三十八条一項に違反するものではないとしており、同様の理解に立っています。
 さきに申し上げたとおり、電磁的記録提供命令の対象は既に存在する電磁的記録ですから、その提供を罰則の担保の下で被疑者に命じたとしても、被疑者が観念した事柄を新たに表出すること、すなわち供述の強要には該当せず、自己負罪拒否特権を侵害することはないと言えます。
 本法案の下では、捜査機関が被疑者に対して暗号化されている電磁的記録のパスワードを解除した上で提供するよう命じることも想定されますが、この場合も、被疑者がやるべきことは既に存在する電磁的記録をパスワードが解除された状態で捜査機関側に提供することであって、パスワード自体を捜査機関に伝えることが要求されているわけではありませんので、やはり憲法三十八条一項には違反しないと考えられます。
 最後に、捜査機関が電磁的記録を取得した後の取扱いに関する二つの指摘について、現行法の基本的な考え方を踏まえつつ検討します。
 第一に、電磁的記録提供命令は記録の保管者に命じられるものであり、それを保管させている者、以下、便宜的に情報主体と呼びますが、その情報主体の知らないうちに記録が捜査機関に提供されてしまうことから、情報主体による不服申立ての機会を確保するため、処分がなされたことを情報主体に通知する旨の規定が必要との指摘がなされています。
 もっとも、現行法上の記録命令付差押えにおいてもそのような事態は生じ得るところ、情報主体に処分実施の事実を通知する旨の規定は置かれていません。つまり、現行刑事訴訟法は、被処分者のほかに当該処分に利害を有する者がいるとしても、その者に処分実施の事実を伝えることまではしないという考え方に立っており、本法案が情報主体に対して電磁的記録提供命令の実施を通知する旨の規定を設けていないこともこの考え方に沿うものと言えます。
 では、捜査機関が、裁判官の許可を受けて、被処分者に対し、みだりに電磁的記録提供命令を受けたことなどを漏らしてはならない旨の秘密保持を命じることにより、情報主体が処分実施の事実を知ることが現行法以上に困難になる場合でも許容されるでしょうか。
 電磁的記録提供命令は、捜査の初期段階でも用いられ得る処分であるところ、被処分者が命令を受けたことなどを被疑者等に伝えることにより、被疑者等が罪証隠滅行為に及ぶおそれがあることに鑑みれば、それを防止する観点から、被処分者に対し秘密保持を命じる必要がある事案も想定されます。
 本法案は、被処分者の行動の自由に対する制約を最小限にとどめるとともに、情報主体が処分実施の事実を知る機会を不当に制約しないようにするため、裁判官が秘密保持命令の必要性を事前に審査することとし、捜査機関は必要がなくなったときには秘密保持命令を取り消さなければならないとしています。加えて、衆議院の修正案により、秘密保持命令の期間が一年以内に限定されたことも考慮すれば、同命令を創設しても情報主体の地位を不当に害することはないと考えます。
 第二に、捜査機関が電磁的記録提供命令により取得した電磁的記録の保管や消去に関する規律を設けるべきとの指摘もあります。
 もっとも、現行の刑事訴訟法や刑事確定訴訟記録法によれば、警察が捜査の過程で取得した証拠は、検察官に送致され、検察官は当該証拠を適切に保管しながら捜査、公判を遂行し、判決確定後、必要な期間が経過したら廃棄するものとされています。
 このような現行法の基本的な考え方は、捜査機関が電磁的記録提供命令によって取得した電磁的記録にも応用可能ですので、同命令により取得した電磁的記録の保管、消去に特化した新たな規定を設けることが直ちに要請される状況にはありません。そもそも、保管、消去の在り方は、電磁的記録提供命令により取得した電磁的記録に限らず、捜査機関が取得した全ての証拠、電磁的記録について問題となるものですから、この問題を解決しようとするならば、刑事訴訟法の体系全体を踏まえた大掛かりな検討が必要になると考えています。
 以上で私の話を終わらせていただきます。御清聴くださり、ありがとうございました。
この発言だけを見る →
若松謙維#3
○委員長(若松謙維君) ありがとうございました。
 次に、河津参考人にお願いいたします。河津参考人。
この発言だけを見る →
河津博史#4
○参考人(河津博史君) 日本弁護士連合会刑事調査室室長の河津でございます。
 本日は、意見陳述の機会をいただき、感謝申し上げます。
 当連合会は、刑事手続のデジタル化には賛成しておりますが、本法律案は国民のプライバシーの権利や弁護人の援助を受ける権利を軽視し、バランスを欠いた内容であることから、修正を求めてまいりました。
 衆議院における修正により、電磁的記録提供命令や記録媒体の押収に当たり、デジタル社会において個人情報の保護がより重要になっていることに鑑み、できる限り被告事件又は被疑事件と関連性を有しない個人情報を取得することとならないよう、特に留意しなければならないとする附則四十条の規定が追加されました。
 事件と関連性を有しない情報を取得すべきでないことはもとより当然であり、あえてこのような明文規定が設けられた意義について、令状を審査する裁判官やこれを執行する捜査機関には重く受け止めていただく必要があると存じます。
 個人情報の保護が重要となっている近年においても、捜査機関が犯罪事実と関連しないプライバシー情報を収集し、それを利用して供述を迫るような取調べが行われています。また、現在の実務で発付されている捜索差押許可状では、差し押さえるべき物について、本件と関係あると思料される機器並びにこれらに関連する文書及び物件など、抽象的、包括的な記載が行われており、このような令状に基づいて、大量の電磁的記録媒体等の物品がその内容の確認もされることもなく包括的に差押えが行われています。
 そのような差押えの適法性が争われている国家賠償請求訴訟で、被告である国は、被疑事実そのものを解明するのみならず、その犯行に至る経緯、目的、動機、背景等を解明する必要があるから関連性を有すると主張し、さらに、関連性がないことが事後的に判明したとしても、当該差押えが刑訴法上違法になるものではないとも主張しています。あらゆる事件は国民の生活や企業の事業活動の中で起こりますから、関連性がこのようにルーズに解釈されるようでは、国民の生活や企業の事業に関するあらゆる電磁的記録が収集することができるものとなりかねません。
 令和五年の司法統計年報によると、差押え、記録命令付差押え、捜索状、検証許可状の発付件数は年間二十四万七千四百九十三件であるのに対し、却下件数は百三十八件にすぎません。この数値から、これまで厳格な令状審査が行われてきたと想像することは困難です。
 デジタル社会において国民のプライバシーの権利を守るためには、裁判所が特定の被疑事実と関連性の認められる電磁的記録を厳格に限定して令状を発付し、令状で許可された範囲を逸脱した執行を厳しくチェックする役割を果たすことが極めて重要です。このような裁判所の役割の重要性は、附則四十条の規定が設けられることを踏まえて再認識されるべきであると考えます。
 国民のプライバシーの権利を保護するためには、電磁的記録の収集の事前規制だけでは不十分であり、事後規制を適正に機能させることが必要です。
 クラウド事業者など他人から委託を受けて電磁的記録を保管する第三者から電磁的記録の提供を受けた場合、電磁的記録の保管を委託した本人の不服申立ての機会を保障するためには、本人への通知が行われることが必要です。
 プライバシー情報は、違法に収集され、保有されること自体が本人の権利を侵害するものですから、有体物を押収したときに所有者に通知が行われないこととは事情が異なります。本人への通知により捜査が妨げられる場合があるのであれば例外的に通知を遅らせることができる旨の規定を設ければよく、また、本人の所在が明らかでない場合には通知を要しないものとする規定を設ければよいのであり、通知制度を設けない合理的な理由は見当たりません。今申し上げたような規定は、いずれも通信傍受法には設けられています。
 不服申立てにより処分が取り消された場合に、電磁的記録を消去する仕組みも必要です。
 プライバシー情報は、違法に収集され、保有されること自体が権利を侵害するものである以上、違法な処分が取り消されたときに電磁的記録が消去されなければ、救済としての意味は乏しいものとなります。それだけでなく、捜査機関が違法に電磁的記録を収集しても消去の義務を負わないことは、事後規制としての意味を失わせ、違法な電磁的記録の収集を助長するおそれがあります。
 これまでの審議で、捜査や公判に必要なものとして作成、取得された書類は、捜査中から事件終結後に至るまで、刑事手続の適正かつ円滑な遂行のためにありのまま保管、保存されるべきものであるとの説明がなされてきたと承知しております。
 しかし、現行制度においても、証拠は還付されることによって事件の途中で保管、保存されなくなることがあります。留置の必要がない押収物を還付することは正当ですが、還付が不適正に行われたときに無罪証拠が隠されることが起こり得ます。村木厚子さんの事件でも、改ざんされたフロッピーディスクは弁護人に開示される前に還付されることによって隠されていました。
 証拠の不適正な管理により無罪証拠が隠されることは最近も繰り返されています。
 先月、令和七年四月十一日に、東京地方裁判所立川支部で無罪判決が言い渡されました。この事件では、目撃者とされた二名の証人の間でLINEのやり取りがされていました。判決は、このLINEの内容について、被告人が公訴事実記載のとおり暴行に及んだことを警察等に認めてもらうのに都合の良い話を作り出して共有したことも強く疑われると指摘しています。判決によると、このLINEのトーク履歴は、公判前整理手続中に弁護人が証拠開示を求めていたにもかかわらず、不存在を理由に開示されていなかったところ、証人尋問が行われた後にその存在が明らかになっています。このLINEトーク履歴の電磁的記録は、警察が収集し、パソコンに保管していたにもかかわらず、証拠として取り扱っていなかったことにより不存在とされていたと弁護人からは報告を受けております。
 このように、証拠がありのまま保管、保存されているとは限らないのが実務の現状です。刑事手続の適正が害されることのないようにするためには、捜査機関が収集した電磁的記録は全て証拠として適正に管理されるべきであり、恣意的に消去されることのないようにする必要があります。
 その一方で、違法に収集された電磁的記録については、捜査機関が保有する正当性がないのですから、裁判所の決定に基づいて消去されるようにすべきです。そうすることが現行制度の考え方と整合しないという御説明は、先ほど申し上げたような実務の実態とは合致しないものですし、既に通信傍受法には消去の規定が設けられています。
 捜査機関が大量の国民のプライバシー情報を含む電磁的記録を収集することは、現行刑事訴訟法が制定された当時には想定されていなかった事態です。有体物の押収を念頭に置いた現行法に消去の規定がないということは、刑事手続をデジタル化するに際して違法に収集された電磁的記録を消去する規定を設けない理由として合理的であるとは思われません。
 本法律案で創設される電磁的記録提供命令については、憲法三十八条一項が保障する自己負罪拒否特権と抵触するとの指摘があります。
 これに対し、法務省としては、電磁的記録提供命令は、既に存在している電磁的記録の提供を命ずるにとどまるものであって、供述を強要するものではないことから、自己負罪拒否特権と抵触するものではないとお考えであると承知しております。一旦この法務省の見解を前提とするとしても、電磁的記録の提供を強制することが供述の強要を伴う場合があり、その場合には自己負罪拒否特権への抵触が生じることについて注意を喚起させていただきたいと存じます。少し分かりにくい話になることを御容赦ください。
 犯罪の嫌疑を受けた国民には自らを防御する権利があり、自己に不利益な行動を強制されるべきではありませんが、憲法三十八条一項は、その中でも、自己に不利益な供述、すなわち頭の中にある観念を表出することを強要されない権利を特に強く保護する趣旨であると理解することができます。
 電磁的記録の提供は、観念の表出を伴うことなく行い得る場合もありますが、観念の表出を伴うこととなる場合もあります。例えば、命令に応じて電磁的記録の提出をすることが、自己に不利益な電磁的記録の存在を認識し、これを所持していたこと自体を外部に伝達することとなる場合です。被疑者は、自己に不利益な電磁的記録が存在し、これを所持していることについて供述を強要されない権利を有しています。そのような被疑者にその電磁的記録の提供を強制することは、電磁的記録の存在を認識し所持していることの供述を強要する意味を持ちます。このような理解は特段新しいものではなく、法制審議会の部会の部会長を務められた酒巻教授の「刑事訴訟法」の教科書にも、罰則付文書提出命令が供述の強要になり得ることが記述されています。
 また、提出を命じられた電磁的記録にアクセスし、又は暗号化された電磁的記録を復号化するために、記憶しているパスワードの入力を強制することも供述の強要となり得ます。記憶しているパスワードの入力は観念の表出にほかならないからです。
 法務省の見解は、既に存在する電磁的記録の提供を強制することは、それが供述証拠の性質を有するものであったとしても自己負罪拒否特権に抵触しないというものと理解しておりますが、これは、命令によって捜査機関が供述証拠を取得することに着目するのではなく、命令によって観念の表出を強制することとなるかどうかに着目するものです。そうであるならば、記憶しているパスワードという観念の表出を強制することは、そのパスワード自体を捜査機関が取得するかどうかにかかわらず、供述の強要に当たると理解しなければ一貫性を欠くように思われます。
 このように、電磁的記録の提供を強制することが供述の強要を伴うことになる場合も具体的に想定されます。このような場合において、電磁的記録の提供を命じられた者が自己に不利益な供述を強要されない権利を行使し、その結果、電磁的記録が提供されないときは、罰則規定の「正当な理由がなく、」の要件を欠くものとして処罰されないことが確認されるべきです。
 自己に不利益な供述を強要されない国民の権利が電磁的記録の提供が命じられる場面でなし崩し的に侵害されることはあってはなりません。当連合会は、電磁的記録の提供を命じるに当たり、この命令は供述を義務付けるものでない旨を教示しなければならないものとすることを求めております。
 最後に、いわゆるオンライン接見と電子データの授受について意見を申し上げます。
 国民は様々な立場で刑事手続に関与しますが、手続の公正さに最も深刻な利害関係を持つのは、被疑者、被告人の立場に置かれた場合です。そして、被疑者、被告人の立場に置かれた国民が自らを防御するためには、弁護人の援助を受ける権利が重要となります。
 本法律案が、書類の電子データ化、発受のオンライン化やビデオリンク方式による捜査、公判手続等を掲げながら、身柄を拘束された被疑者、被告人が弁護人との間でビデオリンク方式による接見をすることも、電子データ化された書類を授受し閲覧することもできるものとしていないのは、不公正であると言わざるを得ません。被告人は刑事訴訟の主体であり、刑事訴訟法上、検察官請求証拠に同意する権限を有しているのも被告人本人です。その本人が電子データで作成された証拠を授受し閲覧することができないというのは正常ではありません。
 接見及び書類の授受については、現行法上も、法令で逃亡や罪証の隠滅を防ぐため必要な措置を規定することができるとされていますから、これらの手続をデジタル化する場合においても必要な規定を設けることは可能です。仮に全国一律実施が困難であるとしても、施行日を相当程度先に設定し、それまでに段階的に設備の整備を進めることが考えられます。
 国民の権利を保護し、捜査を適正化する法整備は、これまで将来の課題として先送りが繰り返されてきました。しかし、本日提起させていただいた課題は国民の憲法上の権利に関わるものですので、少なくとも解決に向けた具体的な道筋を示していただくことをお願いして、私の意見陳述を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
この発言だけを見る →
若松謙維#5
○委員長(若松謙維君) ありがとうございました。
 次に、渕野参考人にお願いいたします。渕野参考人。
この発言だけを見る →
渕野貴生#6
○参考人(渕野貴生君) 立命館大学で刑事訴訟法を担当しております渕野でございます。
 本日は、貴重な機会をいただきまして、感謝をいたします。
 時間に限りがございますので、配付をいたしました資料に基づきまして、電磁的記録提供命令及びビデオリンク方式による証人尋問の拡大の二点を中心に、被疑者、被告人の適正手続保障の観点から法案には大きな問題があるということについて意見を述べさせていただきます。
 電磁的記録提供命令に関し、法案の第一の疑問点は、令状主義が要求する差押対象物の特定に当たる提供対象情報の特定が厳格に行われるのかという点です。有体物であれば一応物単位で特定することができるのに対して、情報は形あるものではないので、情報の切れ目をどこで区切るかが融通無碍になりやすく、その結果、令状が一般令状化し、包括的で無限定な差押えになりやすいという危険があります。
 この点、法務省の説明では、例えばメールの場合、対象者を特定した上で期間を限定することで提供対象情報の特定を図ることが想定されているようです。
 しかし、例えば、我々は現在、日常的に一日に数十件のメールのやり取りをしています。それぞれのメールは相手方も違えば用件も異なります。仮に被疑者がメールで犯罪に関する連絡をしていたとしても、該当期間の全てのメールが犯罪関連通信とは限りません。むしろ、犯罪とは全く無関係な私的なコミュニケーションと犯罪関連通信とが混在していると考えるのが自然です。
 ところが、期間で区切るという方法では、犯罪関連通信と純粋に私的な通信との区別が付きませんので、結局、純粋に私的な通信も含めて地引き網的な押収にならざるを得ないように思われます。しかも、捜査機関が主体となって差し押さえる場合には、捜査機関は、それまでに収集した捜査情報に照らして被疑事実との関連性を判断し、被疑事実に関連しないデータは除外することができるというフィクションが辛うじて成り立つかもしれませんが、提供命令を受ける保管者などは、捜査機関とは異なり、被疑事実との関連性の有無を判断するための背景情報を持っておりませんので、犯罪関連通信と純粋に私的な通信とを区別することは原理的にも不可能と思われます。
 したがって、提供命令では憲法三十五条が定める差押物の特定の要求を満たすことは本来的にできないのではないかとの疑問を拭えません。
 法案審議の過程で、法務省からは、電磁的記録提供命令の場合には、有体物に対する差押えとは異なり、その他本件に関連する一切の物件といういわゆる概括的記載は行わない旨の説明がされているということで、提供対象情報を特定するために一定の配慮は考えられているようです。
 しかし、概括的記載を行わないというだけでは、さきに指摘をしました情報の無限定性と私人が被疑事実関連情報を選別することの困難性という本命令の性質上の問題点は何ら解決されないように思われます。
 電磁的記録提供命令の第二の問題点は、被疑者に対して自己に不利益な情報の提供を命じ、命令違反に対して罰則を科すことが自己負罪拒否特権の侵害にならないかという点です。
 この点、自己負罪拒否特権の侵害には当たらない理由として、自己負罪拒否特権は不利益な内容の供述を新たに表出することを強要するのを禁ずるものであって、命令の前に既に存在している供述の提供を強要したとしても、それは不利益な内容が記載されている被疑者の日記を差し押さえるのと同じだと、したがって憲法三十八条一項の問題を生じさせるものではない旨の説明が行われています。
 しかし、この説明は自己負罪拒否特権の本質を捉え損ねているのではないかとの疑問があります。
 自己負罪拒否特権が憲法上の適正手続権として保障されなければならない根源的な理由は、それが自己防衛本能ともいうべき、人間のというよりも生物の本質に根差したものだからです。刑事手続において自己の犯罪を語るという行為は、自らの死や拘禁という自己に対する重大な不利益への直結を意味します。自分の自由や生命に重大な不利益が及ぶような行為を自らが行うことを生物が本能的に回避するのはごく自然なことです。
 確かに、犯罪を行った者が処罰されたり、あるいは不利益な証拠を他人が確保したりすることは、これは仕方がないことです。しかし、問題にしているのはそのことではなくて、自ら進んで死ね、自ら進んで自分の自由を束縛しろと迫ることです。自己を破壊するような行動を迫ることは人間の尊厳を踏みにじることになると思われます。
 以上のような自己負罪拒否特権に対する本質的な理解を踏まえるのであれば、特権侵害のポイントは自己に提出させるという点にこそあることが分かります。つまり、提供命令について日記を差し押さえる行為と同等であると説明することはミスリーディングであって、正しくは、日記を自ら提出させる行為と比較をしなければならないはずです。そして、罰則を付けることによって提出が法的に義務付けられ、強制させられるわけですから、法案は明らかに自己負罪拒否特権侵害に当たると考えます。
 次に、ビデオリンク方式による証人尋問について、まず根源的な問題点として、ビデオリンク証言等は証人審問権を侵害するおそれが強いということを確認しておきたいと思います。
 証人は被告人と物理的に対面せずに済むことによって真摯な証言を期待しにくくなりますし、被告人、弁護人も、裁判所も、証人の態度を観察して心証形成や反対尋問の手掛かりにすることができにくくなります。別空間で尋問を受けるということは、それだけで緊張感が薄れた状態で証言するということを許すことであり、証人にごまかしや言い逃れをする余裕を与えてしまいます。反対尋問の効果を著しくそぐおそれが強いビデオリンク証言は、証人審問権の侵害に直結しかねません。
 この点、法制審議会の委員、幹事及び法務省からは、弁護人が証人を見ながら尋問できるから証人審問権の侵害に当たらない旨の説明が繰り返されています。
 しかし、先ほど述べたとおり、証人審問権の本質はその点だけにあるのではありません。証人が被告人の目を見て証言をするという対面権保障の点がこれまでの議論ではすっぽりと抜け落ちているのではないかとの疑問が生じざるを得ないのです。
 第二に、ビデオリンク証人尋問に関して、法案が掲げている要件にも極めて大きな問題があります。
 まず、法案では、国外に所在する証人に対するビデオリンク方式による証人尋問は認められていません。これは、法制審議会等において、国外で偽証されると、偽証罪で起訴しても公判への出頭を確保できないし、偽証罪の犯罪事実を立証するための証拠も収集できないので、偽証罪による威嚇効果が働かず、事実認定を誤らせるおそれが強いとして導入に反対する意見が出されたためです。
 ところが、法案は一方で、被告人以外の者の供述を録取した電磁的記録等の証拠能力について提案をしております。そこでは、刑事訴訟法三百二十一条一項二号の検察官の面前について、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することのできる方法による場合を含むと規定されています。この提案は、要するに検察官がオンライン取調べで作成した二号書面にも伝聞例外を認めるという内容です。また、同三号でも電磁的記録が含まれることが提案されており、警察官がオンライン取調べで作成した三号書面にも伝聞例外を認める内容のように読めます。
 そして、重要であるのは、このオンライン取調べは、国内に所在する対象者に限定されないということです。つまり、法案では、国外所在証人については幅広く捜査機関によるオンライン取調べを行って供述調書を作成する一方、ビデオリンク方式証言については国内にいないという理由で拒絶をした上で、オンラインで作成した供述調書を供述不能による伝聞例外として提出することが予定されているのです。
 この点は、既に法制審議会において弁護士委員が、外国に所在するオンライン取調べをして作成した供述調書も偽証罪の威嚇効果は働かないし、信用性を評価する材料も収集できないから採用することに疑義が生じるはずだというふうに指摘をしていましたけれども、この指摘は完全に黙殺された格好になっています。
 さらに、刑事施設や少年院に収容されている証人のビデオリンク方式による証言は認めるべきではないと言えます。いろいろな限定要件が掛けられておりますけれども、被疑者の場合に法案が定める限定要件が厳格に守られることは期待できないと言わざるを得ません。しかも、被収容者は共犯者的立場の証人であることも少なくなく、一層対面での十分な反対尋問の機会を保障する必要性が高いにもかかわらず、法案ではその点に対する配慮も行われていません。逆に言えば、本要件は、共犯者的立場の証人の証言を切り崩されることを妨害する目的で検察官が悪用する危険を否定することができず、極めて問題が大きいと言わざるを得ません。
 最後に、今回の法案全体を通じた問題点を指摘したいと思います。
 本日私が指摘した問題点は、確かに今回の法案で初めて出現した問題ではありません。ビデオリンク方式の証人尋問は現在でも一定の要件の下で認められていますし、差押情報の特定性が弛緩するという問題も、現行法の刑訴法九十九条の二による記録命令付差押えにも同様に存在していたと言えます。そして、電磁的記録提供命令については、法案審議の中で再三、令状を発付する裁判官が特定性について厳格に審査するので被疑事実に関連しない情報が無限定的に収集されることにはならないと説明されています。
 しかし、私が最も問いたいのは、今回新たにビデオリンク方式での証人尋問の拡充や電磁的記録提供命令の新設を提案するに当たり、従来指摘されてきた理論的問題や令状実務の問題点についてきちんと検証した上で法案が提出されるに至ったのだろうかという点です。
 この点に関して、今回の法案では通信傍受の対象犯罪の拡大も提案されています。しかしながら、毎年国会に報告されている通信傍受の実施状況から算出をしていただければ分かるとおり、二〇〇二年以来、傍受令状が発付された事件において傍受された通話のうち無関係通話の比率は約八五%に達し、回数でいえば十九万回以上に及んでいます。逆に言えば、傍受令状に基づいて傍受された通信のうち犯罪関連通信は一五%にすぎません。
 これで果たして厳格な令状審査が行われていると言えるのか。少なくとも厳密な検証が必要なはずですけれども、今回の立法提案に際し、理論的問題点に際しても、令状実務の問題点についても、そのようなプロセスを経たとは言い難いように思います。
 法案全体に対する姿勢についてこのような根本的な疑問があることを指摘して、私の意見とさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
この発言だけを見る →
若松謙維#7
○委員長(若松謙維君) ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 なお、質疑及び答弁は着席のままで結構でございます。
 質疑のある方は順次御発言願います。
この発言だけを見る →
古庄玄知#8
○古庄玄知君 三人の参考人の先生方、本当にありがとうございました。
 自民党の古庄玄知です。
 この改正法案の二百十八条三項、電磁的記録を保管している人などに対して提出しなさいと、今度、提出したら提出したということを黙っておきなさいと、こういう条項があるんですが、この秘密保持義務というんですかね、何か聞いたことがあるなと思って思い出したら、刑法百三十四条ですかね、秘密漏せつ罪という、弁護士とか医者とか産婆さんとかが職務上知り得た秘密を外に漏らした場合、これは刑罰の対象になります。
 そこで、この刑法百三十四条の秘密漏せつ罪の違法性と、今回の電磁的情報を取り扱っている人がその情報を提供したときにそれを漏らした場合、どちらの方が違法性が高いというふうにお考えになるでしょうか。これ、三人の参考人の先生方の感覚でよろしいので、順番に一分以内にお答えください。
この発言だけを見る →
成瀬剛#9
○参考人(成瀬剛君) お答えいたします。
 刑法の百三十四条の秘密漏示罪は、医師や弁護士等に対して、私人がプライバシーに関わる情報を提供せざるを得ないような関係にあることを前提に、そのような職務にある者がクライアントから得た秘密を漏示してはならないという趣旨で定められているものです。
 これに対しまして、本法案に含まれている秘密保持命令というのは、当該電磁的記録提供命令に応じてデータを提供したという事実を情報主体に伝えることがその後の罪証隠滅等に及ばれるリスクがあると。すなわち、その命令を守らなかった場合に捜査妨害とかが発生するということを想定したものでありまして、そもそも守ろうとしている法益が異なるものだと理解しております。
 ですので、どちらが重くあるべきかというのは一概にはお答えできないというのが回答になります。
 以上です。
この発言だけを見る →
河津博史#10
○参考人(河津博史君) 今、成瀬参考人御指摘になったとおり、保護法益が異なりますので一概に比較することはできないのではないかと私も思います。
 ただ、弁護士としまして、やはりこの弁護士の守秘義務というのは非常に重いものがございますので、それよりも法定刑が、本法律案の秘密保持命令義務違反が重いということについては違和感もございます。
この発言だけを見る →
渕野貴生#11
○参考人(渕野貴生君) お二人の参考人がお答えいただいたところと重なりますけれども、その弁護士やお医者さんの守秘義務については、プライバシー、患者さんのプライバシーや依頼人のプライバシーを守らなくてはいけないという職務に対する信頼感、その職業に対する信頼感というものが保護法益になっているのに対して、今回の秘密保持命令は、司法作用に対する妨害という観点からの保護が求められているということですので、これ一概に比べることはできないというふうに考えますが、そもそもその罰則が付けられているということによる威嚇効果というものが、先ほど意見の中でもありましたけれども、様々な副作用を及ぼさないかということには注意が必要かと存じます。
この発言だけを見る →
古庄玄知#12
○古庄玄知君 これ、罰則の方を見てみると、秘密漏せつ罪ですか、漏示罪ですか、あれは六月以下の懲役で十万円以下の罰金、で、今回のその提供命令、秘密保持の罰則が一年以下の拘禁刑、それと三百万円以下の罰金、プラス両罰規定、法人も処罰しますよと、そういうふうな規定になっていて、かなり刑法百三十四条に比べて重いんじゃないかなというふうに刑罰の面から見ると思います。
 先ほど、成瀬参考人と渕野参考人、法益が違うということを言われました。河津参考人も同じようなあれだと思いますが、私が考えたのは、医者とか弁護士のその職業倫理に照らしたときに、やっぱりその倫理に反して自分を信頼して委ねてくれた人のその秘密を漏らすという方が、やはり違法性の点では重いんじゃないかなというふうに考えまして、であるにもかかわらず、今回の、捜査機関から情報を出せと言われて出したらおまえ処罰するよと言われた、そっちの方が圧倒的に刑罰が重い。
 どうしてそのように今回の方が刑罰を重くするようになったのかについて、法制審議会でその辺、刑法との比較において議論がされたのか、仮にされたとすれば、その点についてはどういうふうに克服したのか。その辺、法制審議会は成瀬参考人だけですかね。じゃ、成瀬参考人。
この発言だけを見る →
成瀬剛#13
○参考人(成瀬剛君) お答え申し上げます。
 私は刑事訴訟法を専攻しておりまして、刑法の分野については専門家ではないんですけれども、まず、法制審議会の刑事法部会におきましては、刑法を専攻する研究者の委員、幹事の方もいらっしゃって、この秘密保持命令に違反した場合の法定刑がどうあるべきかということについて慎重に議論が行われたということをまず報告させていただきます。
 その上で、この秘密保持命令に違反した場合がなぜ刑法の百三十四条の秘密漏示罪よりも法定刑が重くなっているのかという点について、私の考えを申し上げたいと思います。
 先ほどの意見表明の中でも申し上げたとおり、秘密保持命令というのは、情報主体に電磁的記録提供命令が発令されたことが伝わると、逃亡、罪証隠滅が生じるおそれが高いというふうにうかがわれる場合に、そのことを裁判官の事前の許可を得た上で発令するものでございます。
 そのような状況、かなり限られた状況でございますので、そのような状況におきまして事業者が情報主体に対してその秘密保持命令に反して当該命令、電磁的記録提供命令が発令されたことを告げた場合には、その逃亡、罪証隠滅という重大な事態が発生することが強く想定されるわけです。しかも、これは捜査の初期段階で使われることもあり得るわけですから、当該事件の真相解明が不可能になってしまうこともあり得るということになります。そのようなことを考えた場合に、まあ法益自体は異なるわけですけれども、今回定められている拘禁刑で一年以下というような形で法定刑を設定することは、私は合理性があるというふうに考えております。
 また、罰金額が三百万円以下になっているという点につきましても、今回対象になっているのは電磁的記録を保管している事業者等が念頭に置かれているものですので、刑法百三十四条の個人を対象とする刑罰と法人も念頭に置かれた上での罰金額というのは一概には比較はできないものというふうに考えておりまして、三百万円になっている点についても私は合理性があるというふうに考えております。
 以上です。
この発言だけを見る →
古庄玄知#14
○古庄玄知君 差押対象物件を第三者が所持していると、その物件を差押えに来ましたよといったときに、人からその物を預かっていて、いや、実はさっき警察が来て、あなたから預かっているものを持っていかれたんだよと。それによって、捜査の初期段階にそれによって捜査ができなくなるという場合もたくさんあるんじゃないかなと思うんですが、今までは差押えの場合はそういう口止めみたいなことはしていなかったのに、今回はそういう口止めみたいな条項を初めて作ったのはどういう意図なのか、その辺について、成瀬参考人、お願いします。
この発言だけを見る →
成瀬剛#15
○参考人(成瀬剛君) 先生が御指摘のとおり、現在の刑事訴訟法におきましては、捜索差押えを行った場合に、その被処分者が当該差押えがあったという事実を第三者に告げるということを止めるような規定というものはございません。ですので、現行法においては、捜査機関が捜索差押えを実施する場合には、そのような事態が発生し得るということも念頭に置いた上で、いつのタイミングでその強制捜査に着手するかということを考えているものというふうに理解しております。
 それに対しまして、今回の電磁的記録提供命令というのは、むしろその現場に対する捜索差押えを行うよりも更に前の段階で事前にある程度情報を把握しておきたいという場面でも用いられ得るものですから、そのような段階で情報主体に提供命令が発令されたことが伝わるという事態を避ける必要性がより高いというふうに考えられて、今回の電磁的記録提供命令に関しては秘密保持命令が設けられたというふうに私自身は理解しております。
この発言だけを見る →
古庄玄知#16
○古庄玄知君 今の成瀬参考人の御意見を聞いて、河津参考人と渕野参考人、どのようにお考えなのか、お考えを聞かせてください。
この発言だけを見る →
河津博史#17
○参考人(河津博史君) 電磁的記録提供命令によって電磁的記録の提供が行われた場合に、その事実を犯人に知らされることによって捜査の妨げになる場合があるという一般論の限度では理解できないわけではございません。
 ただ、今、古庄委員御指摘になったとおり、それは従来の捜査手法においても同じことは起こり得たはずであり、その電磁的記録提供命令というのが従来の捜査手法よりもより初期の段階でのみ用いられる捜査手法でないことも考えると、この制度に限って秘密保持命令を罰則付きで設ける合理性というのは必ずしも十分ではないのではないかと個人的には考えます。
この発言だけを見る →
渕野貴生#18
○参考人(渕野貴生君) 電磁的記録提供命令に対する罰則が罪証隠滅の防止のために必要だというのがその罰則を設ける根拠になっているわけですけれども、しかし、よく考えてみれば、通常の捜索差押えの場合も、それから今回の電磁的記録の提供命令の場合もそうですけれども、既にその提供をしたことによって、あるいは差押えをしたことによって、主たる証拠については捜査機関が確保しているはずなわけです。したがって、その残された部分について証拠隠滅、罪証隠滅の危険というものが具体的、現実的な危険として一体本当にどの程度あるのかということをやはり厳密に考えてみる必要があるように思われます。
 そうすると、これまでの通常の捜索差押えにおいては、残された証拠があり得るとしても、それが、第三者から被疑者等にその情報が伝わったとしても実効的な罪証隠滅につながるリスクというのがそこまで大きくないというふうに考えられていたのではないかというふうに法律の立て付けとして考えることができると。そうだとすると、電磁的記録提供命令についても同じことが言えて、必ずしもこの場合にだけ罰則を付けないと罪証隠滅の現実的なリスクを阻止できないということにはならないのではないかというふうに考えます。
この発言だけを見る →
古庄玄知#19
○古庄玄知君 時間が来ましたので、これで終わります。ありがとうございました。
この発言だけを見る →
田島麻衣子#20
○田島麻衣子君 ありがとうございます。立憲民主党の参議院議員の田島麻衣子と申します。
 本日は、三人の先生方、本当に大事なお話をありがとうございました。特に、はるばる遠方から来られた参考人の方もいらっしゃって、心から敬意と感謝を表したいと思います。
 私は、まず成瀬参考人に対して、通信の秘密について伺いたいんですが、先ほどお話の中で、憲法で保障される通信の秘密というのは令状主義による事前のチェックが入るので、これは不当に制約されるものではないというお話を伺ったと思うんですが、その後、河津参考人のお話にもありますとおり、令状が出た件数、二十五万件要請されたうちの却下された件数が百三十八件というふうにおっしゃっていて、私はこの分野の専門家ではないですけど、こんなにもほぼほぼ通ってしまうものなのかなと思いましたし、前回の参議院のこの委員会では、新人の裁判官の方が最初にやる仕事が令状を出すことなんだよとおっしゃっていた委員の方もいらして、実際に本当にこの令状主義が現場で実務として機能しているのかというのは私自身ももっと知りたいなと思う分野の一つではあるんですね。
 と同時に、今この法案で議論しているのは、パソコンや手帳等の有体物とは違いまして、もうクレジットカードの履歴から、それからクラウド上の動画のデータからアプリの使用履歴からICカードの購入の履歴まで全て対象になるもので、これまでのものよりも更に配慮というのがこの通信の秘密の関係では必要になってくるのではないのかなというふうに思うんです。
 こうした点に、本当に今、これ令状主義があるからこの通信の秘密というのは不当に制約されるものではないと本当に言い切れるのかどうか、再度参考人の方に伺いたいと思います。
この発言だけを見る →
成瀬剛#21
○参考人(成瀬剛君) お答え申し上げます。
 先ほど河津参考人の方から令状発付の件数あるいは令状却下件数について御紹介がありました。
 ただ、私の認識するところでは、そもそも捜査機関側が裁判所に令状を請求するかという時点で、相当内部的なチェックが行われた上で初めて裁判所に請求が行くというふうに理解をしております。さらに、裁判官が令状を発付するとしても、捜査機関が請求してきた内容どおりに発付しているというふうには必ずしも言えませんで、請求してきた内容の中でも、被疑事実との関連性が薄いと思われる場合には差し押さえるべきものから排除するなどの判断をした上で、厳格な審査をした上で令状を発付しているというのが実情であるというふうに私自身は認識しております。
 その上で、今回設けられる電磁的記録提供命令に関して、多様なデータが対象になり得るという御指摘がございました。その点はおっしゃるとおりなんですけれども、今回の電磁的記録提供命令についても、あくまでも問題となっている被疑事実について関連性が認められると判断されたデータのみが令状に記載されて発付されるということになりますので、多様なデータが同時に一回の令状で全て出されるというふうな運用にはならないだろうというふうに私自身は考えております。
 ただ、先生が御指摘のとおり、この令状審査というものが通信の秘密の制約を認める上で最も大事な事前の審査でございますので、今後も、裁判所におかれましては厳格な審査がなされていくことを一研究者として期待しているところであります。
 以上です。
この発言だけを見る →
田島麻衣子#22
○田島麻衣子君 ありがとうございました。
 もう一回成瀬参考人に伺いたいんですが、私は前回の参議院の委員会質疑で例を出したんですね。国会議員が選挙期間中に演説をしていて、やじを飛ばしていた一般の市民の方が警官止めようと入ったときに警官を傷つけてしまったという事例を出して、この事例では具体的に誰と誰との間の何が差押えの対象になるのかということを法務省に聞いたんです。答えられないんですよね。ICカードなのか、それともインターネットの履歴なのか、何なのか、いつからいつまでなのかということを答えられないんですよ。そのときに私は非常に不安感を覚えたんですよね。本当に個別具体的な事件が起こった場合に、きちんと被疑事件とは無関係な電磁的記録というのを明示した上で差押えというのは技術的に可能なんでしょうか。
この発言だけを見る →
成瀬剛#23
○参考人(成瀬剛君) 先生がさきの質疑においてそのような事例を出されて議論をされたというのは、議事録を事前に読んでまいりましたので、拝見しております。
 ただ、私自身も、今先生が出していただいた事例につきまして、具体的にどうなりますかというふうに聞かれましても、当該事件の事案とかあるいは証拠関係によってどのような電磁的記録が必要となるかは変わってまいりますので、一概に申し上げることは困難であるというふうに考えております。その点は御容赦いただければと思います。
 その上で、繰り返しになりますけれども、今回の電磁的記録提供命令というのは、裁判官が被疑事実に関連するものだけを提供させるべき電磁的記録として令状に書くものですから、様々なそのICカードの履歴だとかクレジットカードの履歴だとかが同時に被疑事実と関連するということが判断されるという事態は容易には想定しにくいのではないかなと。
 やはり、当該被疑事実との関係で何らかの、その今の事例でいいますと、当該現場まで被疑者がどのように来たのかということを真相解明の上で把握する必要があれば、そのICカードの利用履歴を日数を限った上で提供してもらうということになるでしょうし、当該事件が起こる前に第三者と何か通謀していたのではないかという疑いが出てきた場合に初めて、当該被疑者がスマートフォンで誰に電話をしていたのかということを、また日数を限った上で通信事業者に対して電磁的記録提供命令で提供していただくと、そのような形で使われることが想定されているというふうに理解しております。
この発言だけを見る →
田島麻衣子#24
○田島麻衣子君 ありがとうございます。非常に勉強になりました。
 もう一回、申し訳ない、成瀬参考人に伺いたいんですが、先生は法制審議会の刑事法部会で御議論されているということで、衆議院側でもこれは議論になったんですけれども、この刑事法部会の中にどれだけ通信の秘密の専門家がいらして、どこまで通信の秘密との関係は議論されているのか。実際にずっと出席されていたと思いますので、御所見を伺うことができたらと思います。
この発言だけを見る →
成瀬剛#25
○参考人(成瀬剛君) 通信の秘密というのは憲法上の規定でございますので、一番の専門家は恐らく憲法研究者なんだろうと思います。
 ただ、捜査機関が通信の秘密を制約して捜査を行うという自体は、今回の電磁的記録提供命令で初めて行われるものではありませんで、今日の議論でも出てまいりました通信傍受ですとか、あるいは記録命令付差押えでも通信の秘密を侵害することはあり得たわけです。ですので、刑事訴訟法、私を含めた刑事訴訟法の研究者というのは、この刑事捜査の場面でどのような要件の下に通信の秘密が制約され得るのかということについては日頃から研究を続けておりまして、その観点で申しますと、法制審に出ていた刑訴法の研究者は皆、この分野、刑事分野に限って言えば、通信の秘密についても十分な知見を持っており、かつ法制審でもその点を十分に意識した上で慎重に審議がされたというふうに認識しております。
この発言だけを見る →
田島麻衣子#26
○田島麻衣子君 ありがとうございます。
 次に、河津参考人に伺いたいと思います。
 河津参考人には、衆議院側の修正案に対する評価を伺いたいと思います。三つ出ていまして、秘密保持命令に一年を超えない期間の制限、それから附則に被疑事件とは関係のない個人情報は収集しないように留意する旨、それから身体的拘束を受けている被告人と弁護人の間における通話等を可能とするための運用上の措置等が衆議院側で修正案として提出されました。
 参考人はこの衆議院側の修正案をどのように評価されるか、御所見伺いたいと思います。
この発言だけを見る →
河津博史#27
○参考人(河津博史君) 秘密保持命令についても期間を明記したこと、それから電磁的記録の収集についてできる限り被疑事実、被告事件、被疑事件と関連性のないものを取得しないように特に留意すべきである点、これらについては、本日も資料として配付していただいておりますけれども、日本弁護士連合会が表明してきた意見書の内容を採用していただいたものであるというふうに理解をしております。
 その一方で、先ほど意見陳述の中でも申し上げましたが、国民のプライバシーを守るためにはこの事前規制だけでは不十分でして、事後規制を有効に機能させなければなりません。そのためには、この秘密保持命令以前の問題として、その情報主体である本人に自らの情報が取得されたことを通知する制度が必要ですし、不服申立てをしてこの処分が取り消されたときにその電磁的記録が消去されるという仕組みが必要であると考えております。この点が採用されていないことについては不十分であると考えております。
 オンライン接見についても、これも先ほど意見として申し上げましたが、本来、刑事訴訟法上の権利としてオンライン接見と電磁的記録の授受の権利が認められるべきです。それが認められていないという意味においてはこの修正案は不十分であると考えておりますけれども、何よりも、現に今身体を拘束されている被疑者、被告人が十分な弁護人の援助を受けることができるようにするために、このオンライン接見、事実上の外部交通の充実を図るという方向性を示した附則を設けていただいたことについては積極的に評価したいと思います。
この発言だけを見る →
田島麻衣子#28
○田島麻衣子君 ありがとうございます。非常に客観的な評価をいただきまして、引き続き、まだあと参議院側でも質疑続きますので、国会答弁、きちんと深めていきたいというふうに思います。
 次に、渕野参考人について伺いたいと思います。
 先ほどもるるお話が出ていますけれども、この電磁的記録提出命令によって差し押さえられた記録というのは消去されないということなんですよね。私もそれを問題として感じまして、さきの参議院の委員会でも随分取り上げたんですが、法務省は、これを消去しない理由として、国家賠償請求訴訟等が提起された場合を考えて消去しないんだということも言われていたんですが、この点について参考人はどのようにお考えになりますか。
この発言だけを見る →
渕野貴生#29
○参考人(渕野貴生君) 国家賠償請求等で使われる場合というのが実際にどの程度あるのかということがはっきりしないわけですけれども、問題の本質はやはりそこではないというふうに思います。情報が消去されないことによって、最もメジャーな使われ方、最も想定される使われ方というのは、他事件にその情報を流用して使うということが一番大きな問題を生じさせると思いますので、その国家賠償に使うかもしれないからというのは、その消去しないことによるメリットの、幾つかあるメリットの最も、何というんですか、最後の方のメリットを持ち出して、一番大きな問題点である他事件への流用であるとか、あるいは違法収集証拠であるにもかかわらずその当該事件でも使用するという一番肝腎な問題点を見過ごしているのではないかというふうに思います。
この発言だけを見る →
← 戻る